表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

2012年春~2013年冬 寅蔵、そしてヨシコは……

 2012年に入ってから春先にかけ、インフルエンザがきっかけで寝て過ごすことが多くなった寅蔵、寒さと病気とのダブルパンチで更に脱水症状も重なり、なかなか動けなくなって……

 

 ようやく、暖かく過ごしやすい季節となったものの、この春はどうもインフルエンザがしぶとく、四月になっても、ヨシコは今度は子どものインフルエンザにさんざん振り回されることになった。


 そして寅蔵の体調も、今一つぱっとしない感じだった。

 せん妄状態はあまり目立たなかったが、一旦衰えた体力はなかなか元には戻らず、寅蔵は以前にも増して寝て過ごすことが多くなった。


 夏になればまた、元気になるかもしれない……とのヨシコの願いもむなしく、この夏はまたとりわけ暑さがひときわ。

 やっぱり寝ている方がラクだから、と寅蔵はなかなか起きだしてはこない。


 そんな彼だが、『寝たきり』というわけでもなく、三度の食事、トイレ、たまに気が向いた時には風呂、その三大事業だけは何とか自力で行っていた。

 ただ、手足がうまく動かなくなっていたため、時々どうにもならなくなると、ヨシコが着替えを手伝っていた。

 その度に、寅蔵は

「ほんと……すまないねえ」

 とか、

「お世話んなります」

 とか、冗談とも本気ともつかぬ口調でヨシコにわびるのであった。

 こんな時はやはり、返しとしては「おとっつぁん、そいつぁ言わない約束でしょ」なのだろうか。

 やっぱり一言あると、ヨシコの方も「いえいえ」とちょっぴり優しくなってしまうのは確か。

 まあ、何かと口うるさいばあさんに対しては、相変わらず強い口調で「うるさい」とか言って怒るらしく、ばあさんは

「あたしゃ、親切で言ってんのに……おじいさんはすぐ怒鳴る!」

 といつもグチっていた。


 秋がいつの間にやら忍びより、そしてまた冬がやってくる。

 寅蔵は結局、この年はほとんど屋外の作業をやろうとはしなかった。

 とんでもないことを言い出したり、焦りで何かをしようとする、ということもめっきり減って、ただ、無口な寝太郎になっている。

 それでも、ご飯は美味しいらしく、食事の時間にはゆっくりと食卓にやって来て、まず隠してある子どものおやつや食パンなどから手をつけ、その後もまた通常の食事を美味そうに食べていた。



 寅蔵のことだけではなく、ばあさん、子どもたち、ていしゅを相手にドタバタとしているヨシコであったが……しかしこの2012年、実は、寅蔵に対する記憶がほぼ、欠落している。


 寅蔵が比較的静かな状態だった、というだけではない。

 ヨシコに何が?


 実はこの春、ヨシコは一大身辺整理と称し、私物の片付けを始めていた。

 その時出てきた大量のメモ帳やノート類、そこに綴られた断片やら記録やらを、パソコンのデータに残して整理しようと思い立ったのだった。

 寅蔵は外出がほぼできず、デイは相変わらず行きたがらないので常時見守りが必要だし(しかし認知症自体はほとんど症状が無くなっていた)、ばあちゃんは頭はしっかりしているが車椅子生活でやはり介護が必要、子どもらは少しずつ手がかからなくなってきたものの、それでも次男だけは日々の送迎が発生する……などの理由から、ヨシコはできるだけ家にいる必要があった。

 パソコンを使う作業ならば、家事や介護の合間にできそうだった。

 文章を整理したら次は何を整理しよう……アルバムとか、手紙も処分したいなあ……

 と、単純に考えていたヨシコの文書整理作業その後、なぜか創作の方向へとゆるやかに曲がって行き、そのうちオンラインでの文章公開となり、他ユーザーさんとの交流や意見交換となり……


 気づいた時には、ヨシコはオンライン創作の大湖沼地帯のど真ん中に首までどっぷり浸かっていたのであった。

すみません。ヨシコは「けっこうじゅうじつしたいちねんでした」と告白しておりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ