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2011~2012年冬 寅蔵、キケンな冬の乗り切り方

 2011年十二月


 先日七十七歳の誕生日を迎えた寅蔵。


 夏の間のビックリするほどの好調さはやや影をひそめ、だんだん、日中に寝ている時間が多くなってきた。

 山の畑まで歩いて行くことも近頃は全く無くなり、このままでは、今年初めのようにまた夢うつつな状態になって来るやもしれず、ヨシコはちょっと心配になっている。

 それでも、認知症についてはすっかり症状が改善されたようで、一日の言動については、ほとんど問題がない。

 右肩が痛いいたい、と言いながらも、少しは体を動かさねばという思いもあるらしく、洗い上がった洗濯物を干したり取り込んだり、雨戸を開け閉めしたり、時には茶碗まで洗ってくれることもある。

 

 と、まあほどほどに健全な生活を送っている寅蔵だったが、ヨシコには一つ、どげんかせんといかんと思っていることがあった。

 寅蔵、お風呂に入ろうとしない、という点。

 夜になると夕飯の後さっさと寝に入ってしまい、ヨシコや家族がいくら呼んでも誘っても

「風呂はいい」

 と断られてしまう。


 前回の認知症悪化の前に、お風呂でストマの掃除をして風呂場を何度も汚して文句を言われたのがいまだに心のどこかに記憶として残っているのか、デイサービスで何度もうるさくお風呂に入れと言われたのが嫌だったのか、とにかくお風呂に対しては拒否反応が大きい。

 それでも、ストマの掃除はほぼ毎日トイレで自分自身でできているので、とにかく、お風呂で温まってもらえればいいかな~と、ヨシコは色々考えてみたあげく……

 ふと、ひらめいた。

 日曜の朝のこと。起きようとしていた寅蔵に

「残り湯だけど、沸かし直すから今からひとりでお風呂入ってみる?」

 と聞いてみた。

 すると始めは

「いい。ストマは便所で洗うから」

 と言っていたものの

「その後で入れば? 体も温まるし。お父さん入ったあとは、もうお湯を落として風呂場掃除するだけだし」

 と促すと、

「そうだな~……入るか」

 との好反応。

 そして約十五分後、ちょうどトイレでストマの掃除も済んだ寅蔵、のんびりと朝風呂に浸かったのでありました。

 思った通り、夜のせわしない時間、他の家族に気兼ねしながらのお風呂が心苦しかったようすだった。

 冬休みにもなって、朝がややのんびりできる時期だし、朝風呂にはちょうどよいタイミングだったかもしれない。

 これでせめて二日に一回でも入るようになってくれれば、とヨシコおおいに期待する。

……とニマニマしていたヨシコ、風呂から出てきた寅蔵にこう言われた。

「さっぱりした~。けど、一週間に一度でいいから」

 そうですか。

 でもまあ、喜んで風呂に入っただけ良しとしよう、とヨシコはすぐに気持ちを切り替えた。



2012年一月・ここまでのまとめ


 ヨシコの父・寅蔵の『認知症』らしい症状が顕著になったのは、ちょうど昨年の今頃のことだった。

 症状が徐々に悪化し、外部の力も借りて何とか日々を送っていたヨシコたち家族だったが、なぜか夏をこえる頃から徐々に認知力が回復。

 

 そして現在の様子は、というと。

 言う事やる事は、年相応だがしっかりしているし、

 ストマの管理は、自分でできているし、

 車の運転は、すっかり諦めがついたし、

 薬は、自分でちゃんと飲めている。


 なぜ要介護3からここまで回復したか、と言われるとそれは、ホント、謎だった。


 家族とすったもんだの末、

『お互いにできないことはできないと割り切り、できることは負担にならない程度にやっていただき、失敗は責めない』

 という妥協点に何とか落ち着いたからだろうか?


 お風呂も、本人は遠慮して

「入らない」

 と言うので、気持ちに負担にならないように残り湯を朝沸かし直して声をかけたり、家族全員が入った後でタイミングよく声をかけたりするうちに、最低限度ではあるが、何とか風呂にも入るようになった。

 近頃では、朝のゴミ出し、茶碗洗い、洗濯物干し等けっこう進んでやってくれるのも助かるのでヨシコはさりげなく感謝を伝えるようにはしていた。


 まだまだ寒いので、一日の大半を布団にもぐっていて、あまり健康的ではないのだが、まあ、それなりに元気でいてくれればいいや、とヨシコは遠目から見守っていた。


 だが、やっぱり冬は、キケンがいっぱいであった……

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