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BLOOD STAIN CHILD ~holy night~  作者: maria
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 熱狂のライブを終え、仄かなオレンジ色の光が宿り始めた客席に降り立つと、リョウはライブに訪れた顔馴染みの、「精鋭」と名付けた客たちと談笑を始めていた。

 「いや、今日もマジで最高でした。」精鋭の一人が、興奮に顔を赤らめながら言った。「マジでLast Rebellionは最強っすよ。いつかヴァッケンにでも出て世界中熱狂さして下さい!」

 「だよな! 日本代表として、外に出て行って欲しいっすよ!」

 「でも、正直、海外からのオファー、ないんすか?」

 「ねえんだよ。」リョウは苦笑を浮かべて言った。「もちっと努力しねえと、世界の壁は、厚いな。」

 「そっかあ。」精鋭たちは気難し気に腕組みをした。

 「でも、マジでもうすぐLast Rebellionは世界に出て行くと思うすよ。北欧のデスメタルバンドと聴き比べても、リョウさんの曲は遥か超えてると思いますし。」

 「ありがとな。まあ、これからも精進していくよ。現状維持っつうのは、ただの体たらくの異名だかんな。ステージに立たしてもらっている以上、成長、変化、これが必須だかんな。」

 「変化といやあリョウさん、『BLOOD STAIN CHILD』のソロ、ちょっと変えましたよね。」

 「ああ、わかった?」リョウは嬉し気にタオルで汗を拭う。

 「わかりますよ! 来た時『うおおお』、ってなりましたもん。でもミリアちゃんとは相変わらずばっちり合ってて、流石っすね。」

 ミリアはそう言われて嬉しくて敵わず、リョウの腕にぶら下がり、頻りに両足を跳ね上げる。

 「まあ、なあ。やっぱ兄妹だし……。」それに、親から受けた虐待の経験も同じであるし、とは口には出来ないが、それも大きいのであろうとリョウは常々思っていた。

 「それから、まいんちご飯も一緒だし。」ミリアはそう言ってたまらずリョウの腕に抱き付く。「おんなじの、食べてるから。」

 「相変わらず仲いいっすねえ。」精鋭が微笑まし気に二人を眺めた。

 「まるで恋人すよ、恋人。」

 ミリアは照れてリョウの腕に顔を押し付ける。

 「やっぱ恋人同士は、クリスマスも一緒すか。」言われて見れば、クリスマスまではあと半月足らずである。

 リョウは少々げんなりしながら、「まあ、そういうことに、なるな。」と呟く。毎年恒例なのである。

 「ミリアちゃん、良かったすね。何かプレゼントおねだりしてるんすか?」他愛のない会話をした、つもりであった。

 しかしリョウの顔が見る見る鬼のようなそれへと代わり、精鋭たちを片端から睨み付けたので、精鋭たちはごくりと生唾を呑み込んだ。ミリアはリョウの腕にしがみ付いているのでそれには気付かず、腕にぶら下がって両足を跳ね上げ始めた。

 「あのねえ、自転車なの。水色の、自転車。」そこまで言って、再び嬉しさに突き動かされ、たまらぬと言ったようにリョウの腕に顔を押し付けた。「そんでね、自転車乗って、美桜ちゃんと図書館と児童館行く約束してんの! 水色の自転車で。美桜ちゃんの自転車は、ピンクでねえ、ミリアは水色なの。」

 リョウは、威圧とも緊張感とも取れぬ眼差しをひたと精鋭たちに投げ掛け続けている。

 「サンタさんにお手紙書いてね。こないだ取りに来てくれたの。そしたらまた、『余裕だな』って言ったんだよねー、リョウ?」

 精鋭の一人がはっとなって、解したとばかりにリョウに小さく肯きかけた。「サンタさん、来てくれるといいすね。」過ちを犯してはいないはずだと思いつつ、しかし声は緊張に震えていた。

 「うん。」ミリアは頬を赤くして肯いた。

 そして精鋭たちはようやく合点がいったといように、それぞれ、口を半開きにするか、溜息を吐くか、小さく何度も肯くかの動作を取った。この瞬間ようやく、はっきりと、このデスメタルバンドのフロントマンが恐ろし気に睥睨していた訳を、解したのである。

 すなわちデスメタルバンドのギターを担当し、大の男たちを熱狂させているこの少女は、未だサンタクロースの存在を信じ、それはその保護者代わりのこの恐ろし気な風貌を持つデスメタルバンドのフロントマンの尽力の上に成り立っているということを。

 「サ、サンタ、さん。」久々に発音したそれを精鋭の一人は、恐れおののきながら言った。「来てくれるんすね。」

 「うん。いい子にしてると来てくれる。」

 精鋭たちはまさかデスメタルのライブに参戦し、そこで一少女のサンタクロースの夢を壊さぬよう気遣うことになるとは思わなかったが、最早こうなったら全力を尽くす以外にない。フロントマンを怒らせたら、後がない。

 「ミリアちゃんは凄ぇギター弾いて、俺らを幸せにしてくれてるから……、絶対プレゼント貰えるすよ。」

 ミリアは堪らずといったように再びリョウの腕にしがみ付いた。「でもね、ちょこっと心配してることがあってね、それはね、あのね、自転車って大きいでしょ、だから、ちゃんと持って来てくれるかなって……。あのサンタさんの袋に自転車ひとっつ入れたら、それでいっぱいになっちゃうでしょ。大丈夫かな。美桜ちゃんのもちゃあんと入れられるかな。」

 やけに話の内容が具体的になって来たので、精鋭たちにも絶対に墓穴を掘ってはならぬと緊張が走る。

 「……あ、ありゃあ、ドラえもんみたく、四次元ポケットみてえになってるんじゃねえすか。」

 精鋭たちがそれはいい考えだとばかりに、頻りに真剣に肯き合う。

 「そ、そうそう。だって、あん中に全世界の子どもたちへのプレゼントが、……入ってるんだから。きっと見た目以上に何でも入る、仕組みに……、」

 「そっか!」ミリアは素直に肯く。「じゃ、自転車入るね。」

 リョウはようやく安堵に鼻梁を緩め、さて、水色の自転車をそろそろ入手しに行かなくてはならぬと一人決意を固めた。何せ、ミリアが欲しているのである。欲しているということを、知ったからには何が何でもくれてやらなくてはならぬ。沸々とその目に闘志のようなものが燃え滾ってきたのを見て、精鋭たちは畏敬の念を覚えた。それは今し方覚えたばかりの、デスメタルバンドのフロントマンとしてではなく、子を持つ親としてのそれであった。

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