仲直り
要望があったのでセフィアとの仲直り話を
セフィアはサブでいいんじゃね? という方は読み飛ばしてもらい、今日二話目にいくと流されます(笑)
「……」
俺は放課後しばらく経った時間帯で、珍しく寮にいなかった。
いつもなら寮の部屋でのんびりしているか、冒険者として生活費を稼いでいるかなのだが、今日は別だ。
「……全く」
俺が寮近く、いつも早朝鍛練をしている森林の中にある開けた草むらでそよ風を浴びながら脚を伸ばして座っていると、頬を赤らめたセフィア先輩がわざとらしく溜め息をついて歩いてきた。
「……」
「……」
セフィア先輩はそのまま俺の方に歩いてきて、少し俺との距離で迷ったのか逡巡するような様を見せるが、後ろに手を着き脚を伸ばす俺と、手が触れ合わないような距離で同じような姿勢を取る。
「「……あの」」
数秒の気まずい沈黙が訪れたのでとりあえず当たり障りのない世間話から始めようかと思い口を開くと、セフィア先輩と重なってしまった。
「……す、すまない。先にいいぞ」
「……いや、別に大したことじゃないし、そっちからいいぞ」
セフィア先輩が慌てた様子で謝るのを見て慌てようとしていた俺の心が落ち着き、平静を装ってセフィア先輩から話すように言う。……どうせ下らない世間話だからな。
「……私も大したことではないのだが。空を眺めていたのか?」
セフィア先輩も世間話する気だったらしい。当たり障りのない質問だった。
「……ああ。ここ、日当たりの度合いとか風の心地良さとかがベストでさ。早朝鍛練の後寝転がったら寝坊したこともあるくらいなんだよ」
俺は再び空を仰ぎ、少し笑って言う。その後教室に行ったらカオスになってたんだったか。
「……確かに、心地良い」
セフィア先輩は手で髪を押さえるようにしてそよ風に目を細める。長い白のようなピンク色の髪が靡いて、かなり絵になる。
「……それで、ルクスは何を聞こうとしたのだ?」
しばらく風を感じた後、場が気まずくなる前にセフィア先輩から尋ねてきた。
「……ああ、別に。あの後アンナ先輩をどうしたんかなーっと思ってな」
俺はセフィア先輩から目を逸らすように前を向くと、言った。……クラス対抗戦が近いからさすがに暴力はないと思うが、どういう話し合いで解決したのか少し気にならないでもなかった。
「……アンナのことが気になるのか?」
セフィア先輩は少しムッとしたような顔で聞いてくる。
「……別にそういう訳じゃないけど」
「……ではどういう訳だ?」
そういう意図があった訳じゃないので否定すると、セフィア先輩は詰問するように聞いてくる。……どうって言われてもな。ちょっとした世間話程度に考えてただけだから、深い意味なんてないんだよな。
「……別に、セフィア先輩がどう説教をしたのかと思ってな」
俺は適当に答える。だが間違ってはいない。
「……そ、そうか」
セフィア先輩は何故か俺から視線を逸らして言い、
「……アンナだが、とりあえずシアと共同で企んでいたようだから、シアも呼び二人から説明を聞き、聞いた上で制裁を下したおいた」
溜め息をつきながらもどこか嬉しそうな顔で続けた。
だから少し遅かったのか。
俺はそれを聞いて納得がいった。俺がここに着いてから、説教をした程度ではない時間が流れていたからな。事情を聞いたその上で説教をしたならなるほど、と思える。
「……すまなかった。二人共悪気はないのだが、如何せん自分の魅力というモノを理解してなくてな。自分から行動すればどう周囲から思われるかを分かっていないのだ」
セフィア先輩は苦笑して言った。……いや、それはセフィア先輩も同じなんだけどな。
「……まあ確かに、三人共そうだからな」
俺は苦笑して、さり気なくセフィア先輩もそこへ入れておく。俺なりの優しさってヤツだ。セフィア先輩と初めて会った日、セフィア先輩は無防備にも下着を着けていなかった。……あれは男と接するには不適切というか何というかなので、あまりああいうことはしないように忠告しておかないといけない。
まあ、セフィア先輩がそれを告げてからは俺も半ば自棄になって強行したところがあるのであまり勧められたもんじゃないが。
「……うん? 今私を入れなかったか?」
俺が三人と言ったことを正確に読み取ってくれたセフィア先輩が首を傾げた。
「……だってそうだろ? 三人共、同じようなもんだ」
「……私は自分のことを理解していると思うのだが」
俺が言うと、セフィア先輩は心外だとばかりに眉を顰めた。
「……じゃあ問題だ。セフィア先輩が俺に二人きりで話したいと言った。話の内容は『気について』だったが、さて。周囲からはどう思われるだろう?」
非常に簡単な問題だ。チェイグ辺りなら俺が考えている答えよりもさらに模範解答らしい解答をしてくれることだろう。
「……そうだな。私とルクスの関係については気の師弟だから、そのように思われるのではないか?」
セフィア先輩は考え込むような顔をして言う。……やっぱ自覚ねえじゃん。
「……不正解。やっぱセフィア先輩も他二人と一緒だな。正解は、『……あの野郎、セフィア先輩の弱み握ってんじゃねえだろうな』だ」
「……そんな物騒な考えになるのか?」
「……ああ。セフィア先輩も、二年三大美女って呼ばれてるってことを理解した方がいいぞ。セフィア先輩は美人だ」
セフィア先輩が俺の答えに若干引くが、これは必要なことだ。
……ってか俺、何気に凄いこと言ってないか?
「……び、美人……」
美人と言われて照れていた。……確かにセフィア先輩はカッコいいと言われることが多そうだが、別に美人じゃないという訳ではない。どっちかと言われれば美人な方が勝るくらいだ。
「ああ、美人だ。しかも時々可愛いもんだから、尚更人気は高くなる」
「……か、可愛い」
セフィア先輩は遂にシューッと顔から煙が出る程真っ赤にして俯いてしまう。……何気に凄いことを言っている気が……いや、今はセフィア先輩に自覚してもらうことの方が先決だろう。
「ああ、可愛い。だからそれを自覚しなきゃいけないんだ。分かったか?」
「…………ああ」
俺がセフィア先輩に分かったか聞くと、セフィア先輩は真っ赤な顔で俯いて、消え入るような声だったが、ちゃんと頷いてくれた。……ふぅ。これで男子の前で無防備になるようなことはなくなるだろう。
「……ああ、それと」
「うん?」
俺が付け加えようとすると、セフィア先輩はまだ赤い顔を上げた。
「……悪かった」
「っ!」
俺は先に、頭を下げて謝る。このままだと流れて有耶無耶になってしまうような気がしたのもある。……その流れを作ったのは俺なんだが。
「……いや、その、えっと……私こそすまなかった!」
俺が謝ったことに驚き、先を越されてしまったというような表情でしどろもどろになりつつも慌てて頭を下げてくるセフィア先輩。
「「……」」
二人共頭を下げたまま沈黙の間が流れる。……ヤバいな。俺の予定では、謝るとセフィア先輩が「頭を上げてくれ」とかそういうことを言ってくれて次におそらくセフィア先輩が謝るだろうな、と漠然と思っていたんだが。
「「……あっ」」
そしてタイミングが掴めずに二人同時に頭を上げてしまって、二人同時に声を上げる。
「「……」」
俺はなんとなく視線を逸らして頭を掻き、セフィア先輩は落ち着かない様子で髪を撫でる。
「……ふふっ」
そうやってしばらく気を紛らわしていると、不意にセフィア先輩が微笑んだ。
「……全く、ルクスといるといつも調子が狂うな」
そう言いつつどこか嬉しそうだ。……それはこっちのセリフだってのに。
「……ま、魔力が重要視されてる世の中で、気ばっか使う剣士なんてそうそういないからな」
俺も笑って言う。
「……そうか。気が合うのだな」
セフィア先輩も微笑んだまま言う。
「……そうかもな」
「ふふっ。そうか。気が合うのか」
セフィア先輩は嬉しそうに微笑みつつ、
「……そうだ。今日ここに呼んだのは、もちろん謝りたいということもあったのだが」
ふと思い出したように言った。
「ん?」
俺が聞き返すと、セフィア先輩は最初ここに来た時より楽しそうな声音で話し始めた。
俺も、溜まっていた鬱憤のようなモヤモヤしたモノが晴れたように感じ、その後の会話も弾んでいた。




