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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第5章 新学期と文化祭
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第55話 文化祭④

次か、その次ぐらいで文化祭編は終了します。


その次は、二年生編ぐらいをやりたいですね。本来なら一年生編は50話ぐらいで終わらせる予定だったので……。


まあ、そう予定を立てていてもなかなか進まないのがこの作品なのですが。


 文化祭五日目。

 心なしか、客足が少し減っていたような気がした。とはいえ、それでも全体的に見れば割と客足としては多い方なのだが。加奈たちは「これぐらいの忙しさが丁度いいですよ」といって気楽に笑っていた。

 昨日の二人組に関しては、あの黒髪ロング先輩が連れて行ったあと、学園の外に放り出されたらしい。今度は警備も今まで以上に強化して、巡回ルートも変更したりするみたいだ。

 ただ、正人はどうやってあの二人組が入ってきたのかがずっと気にしていた。巡回メンバーには全員、ブラックリストを配布しておいたし、あの二人の顔もすぐに分かったはずなのにと。

 俺はというと、それはもう淡々と働いていた。今までと同じように、ただ淡々とメニューを作って、厨房をまわしていた。ただ、さすがに昨日の今日でメニューを運びに客たちのいるところまで出ていくようなことは出来なかった。加奈たちには「ヘタレ」と言われたけど、無理いうなよ……。

 そんなメンタル持ち合わせてねーよ。さすがにもうすこし心の準備ぐらいさせてくれよ。豆腐メンタルなんだよ。マジで。某氷川くんにつかまれようとしようものなら、一瞬にしてボロボロに崩れてしまうぐらいの豆腐メンタルなんだよ。某翔一くんみたいに、器用に繊細に扱ってもらわなきゃいけないぐらいの豆腐メンタルなんだよ。


「あ、あの……」


 不意に、テーブル席の方での会話が耳に入ってきた。丁度、店内が少し静かになってきた頃だった。我慢できないとばかりに、少し興奮気味に、それでも抑えながら、その、この学園の生徒(何年生かは知らない)がメニューを運んできた加奈に質問した。


「はい。なんですか?」

「このメニューを作ったのって……もしかして?」


 昨日まで……いや、一昨日までの俺ならここで加奈に注意を入れたことだろう。余計なことは言うなとか。でも、俺はそうしたい衝動を抑えて、ぐっと堪えた。

 恐らく、質問した生徒は、頻繁に接客に出ている五人から、誰がこの料理を作っているのかを疑問に思ったのだろう。昨日の騒動の時も、部室から出てくる俺をみたに違いない。それらを考慮して、本当に俺がこの部にいるのかを、質問しようとしているのだろう。


「はい。ここで出されているメニューは全部、海斗くんが作ったんですよ?」


 きっと、加奈は微笑んでいるのだろう。「は、はあ……」という呆気にとられたような生徒の声がきこえてきた。そして、また料理を一口食べて、「……美味しいです」と、まだ半ば信じられないような声がきこえてきた。

 少し、厨房を覗いてみると、さっきの生徒と同じように、まるで信じられないものでも見るかのような目で――一般客はともかく――学園の生徒は料理を眺めていた。だがしばらくすると、それを口にして、そのまま黙ってもぐもぐと食べ続けている。

 と、そんな店内の様子を見届けて、ふうっと安どのため息をついたところで。

 パタパタと恵が慌てて厨房に入ってきた。


「かいくん、かいくん」

「なんだよ」

「今こそチャンスだよ!」

「何が」

「ほら、マヨラーの人も言ってたでしょ。ピンチはチャンス!」


 そういうと、恵がぐいぐいと俺の腕を引っ張って――――あろうことか、店内へと引きずり込んだ。俺は心臓がいっきに飛び跳ねて、さあっ、と冷や汗が出てきた。やばい。店の中にいる客(主に生徒)がぎょっとした目で、そして怯えているような目で俺のことを見ている。


「ほら、かいくん。この人が、かいくんの作った料理を美味しいって言って食べてくれた人だよ。ちゃんと『ありがとぅー!』とか『きゃー! やったぁ、うれしいっ!』とか言わなきゃ!」


 俺は、一瞬の間に脳内で『ありがとぅー!』とか、『きゃー! やったぁ、うれしいっ!』と言っている自分を想像した。……眩暈がした。

 そもそもわざわざお礼を言っていたらキリがないだろうと思ったのだが、それでもこれは、俺がもう一歩を踏み出し、また、学園の生徒たちとの歩み寄りをさせてもらえるように、恵がくれたチャンスのような気がした。

 ……ええい、どうせ俺はコミュ障だ。これ以上、下がりはしない。あとは上げるだけだ。コミュ力みたいなのを。


「……ええと」

「は、はいっ」


 ギクッ! と目の前の生徒の動きが止まる。店内の生徒たちも固唾をのんで見守っていた。

 緊張する……。自業自得とはいえ、俺ってやつはどれだけ危険人物扱いされてるんだ。


「……あ、ありがとうございます」


 ごめんなさい。今の俺にはこれが精一杯です。

 チラっと、目の前の生徒の反応を見てみると、きょとんとした顔で「ど、どうも」と言った。

 お、おお……。加奈たちいがいの学園の生徒からまともな反応を返されたのは初めてかもしれない。さあ、さっさと厨房に戻って料理を作ろう。これ以上は俺の豆腐メンタルが不器用な某氷川くんによってぐずぐずのボドボドにされてしまう。豆腐はスプーンですくえばいいってもんじゃないんだよ。


「さあ、次はこっちだよ~」

「なん……だと……」


 どうやらテーブル席を一つずつ回されるらしい。まずい。このままでは殺される。

 結局、一つ一つのテーブル席をまわされて、一回ずつお礼させられた。お辞儀させられたともいう。俺には、恵がどこぞのヴォルなんちゃらお辞儀卿とかいう、例のあの人に見えた。

 例のあの人……いったい何リドルなんだ……。

 ちなみに、一般客からは微笑ましい笑みが漏れていた。きっと、俺がコミュ障の子供で、恵が、そんな子供をがんばってなおそうとする母親にでも見えたのだろう。死にたい。

 俺のメンタルHPがゴリゴリと削られたところで、また新たなるお客様がやってきた。正人と南美先輩、更にあの黒髪ロング先輩もいる。そして、その三人のあとに続く形で店内に入ってきた、どこか見覚えのある、帽子と眼鏡とマスクを装着した人物。


「よっ。席、空いてるか?」


 どうやら俺にきいているらしい。まあ、正人は前々からなんだかんだで関わってきていたし。今更だけど。


「ああ。ちょうど、客が何人か食べ終わって出て行ったところだ」

「そっか。じゃ、案内してくれ」


 言われた通り、空いたばかりの席に案内する。四人が席にちゃんとついたところで、帽子、眼鏡、マスクの三点セットをしていた人物がその素顔を露わにする。

 ざわっ、店内の空気が明らかに変わった。一般客も生徒も関係なく、その素顔を表した人物に驚いている。


「こんにちは。海斗先輩。また食べに来ちゃいました」


 にこっ、とさすがアイドルと言いたくなるようなスマイルを向けてきたのは、ついんて~ること、雨宮小春だった。


「な、なんでここに来てるんだ?」

「この前、ここで食べさせてもらった海斗先輩の料理が美味しかったので、生徒会の人に無理をいって連れてきてもらったんです。あ、私、今日の最後のステージにも出るんで、よかったら見に来てくださいね」


 再び、にっこりスマイル。これが営業用のスマイルなのかは知らないが、俺は雨宮小春の近くまで行こうとする生徒や一般客を手で制している正人を厨房まで引っ張っていった。


「おい、あれはどういうことだ」

「いやー、最初は無理いってお前が周囲の生徒と打ち解ける助けになればと思って、雨宮小春さんを連れてこうとしてたんだけどな? なんか、話してみたら向こうのほうがのってきちゃって。『もう一度、連れて行ってもらえるんですか? ありがとうございますっ!』みたな。どうやら割とお前の料理が気に入られたらしいぜ」

「な、なんだそりゃ……」


 がくっと俺は肩を落としながらも、今の『アイドル雨宮小春』を待たせるのは相手のスケジュール的にも、店の混乱的にもまずいと思い、急いでクレープを作った。オムライス以外だと、俺の中ではわりとこのクレープが気に入っている。

 南帆に無言で急かされて――どうやら俺が持っていかなければならないらしい――俺は混雑する雨宮小春のもとへと急いだ。正人たちが道をあけてくれていたおかげで、まあ割とスムーズに事は運んだ。


「お、お待たせしました」

「ありがとうございます」


 にっこりとスマイルを返された。そして、周囲の生徒がまたざわついている。今までの俺のイメージとはあまりにもかけ離れているからだろうか。それとも、雨宮小春と普通に(と言えば変だが)話をしているからだろうか。


「美味しいです。さすが、海斗先輩ですね」

「そりゃどうも……」


 疲れた……なんかもう、今の時点で、ここ五日間の中で一番疲れている。主に精神的な意味で。あまりにも精神が疲労していて、感覚が麻痺してきたせいだろうか。俺は思わず、思ったことを口にしてしまった。


「ていうか……なんで急に『先輩』なんて言ってるんだよ」

「それは、後になってのお楽しみです」


 そういって、雨宮小春はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。周囲のファンたちが(男女問わず)その表情にメロメロになっているのは知る由もない。

 また、帰る際に加奈たちと雨宮小春が何かの話をしていたが……今の俺にそこまでのことを気にかける余裕はなかった。


 この日は、なんというかいっぱいいっぱいだった。正直、まだ俺のことを怖がっているような生徒はたくさんいる。でも、それでも少しずつ……少しずつではあるが、加奈たちのおかげで割と噂やイメージとは違う印象を俺にもってくれた生徒も、少なからずいた。

 なんだかんだで、この学園では喧嘩とか、カツアゲみたいなそういった分かりやすい不良みたいな行為はしていないことが幸いしたのかもしれない。もともとするつもりもなかったけど。

 そして、短いようで長かった、午前が終わった。

 今日はこれで店じまいだ。

 なぜならば、午後からコスプレコンテストにペアスタンプラリーがある。

 簡単に片づけをしてから、美紗は着替えがあるので、文化祭実行委員が用意した更衣室まで向かうことになる。俺たちは、コンテストが始まる時間まで部室で待つことにした。なぜか、一緒に更衣室まで行こうとしていた美羽を捕まえて。


「はぁ……なんか今日は、この学園に来てから一番疲れたかもしれん……」

「ふふっ。今まで逃げてきたツケを払わされてるだけじゃないですか」

「そうなんだけどさ」


 今日一日は、まさに「黒野海斗くんのコミュ障をなおそうキャンペーン」にしか思えなかった。

 と、そんな時だった。

 部室がノックされ、何やらガチャガチャと音が響いたかと思うと、鍵をかけていたはずのドアが開いた。


「やあ。失礼するよ」

「なんで鍵をあける事ができたんですか……」

「マスターキーを持っているからね」


 部室に入ってきたのは、黒髪ロング先輩こと、華城恋歌はなしろれんか先輩だった。


「華城先輩、どうしたんですか?」


 多少の面識はあるのか、知り合いに尋ねるようなトーンの美羽の問いに、華城先輩は部室の中をきょろきょろと見渡して、


「いや……美紗さんはいないのかな?」

「美紗に何か用ですか?」

「ああ。ちょっと、気になることがあってね。注意を呼びかけようとしたのだけれど……一歩遅かったか」

「あの、注意って? 美紗に何かあったのですか?」

「ん。いや、そうじゃない。……もしかしたらそうなのかもしれないが……なに、私のつまらない推測に過ぎないことなんだけどね。いないならいいんだ」


 それよりも、と華城先輩は話題を変えるかのように。


「君たちは確か、コンテストのあとのペアスタンプラリーに出るんだろう? 何やら面白いことを企んでいるそうじゃないか」


 にやり、と笑みを浮かべる華城先輩に、俺たちはギクッと身をすくませる。

 別に俺が考えたわけじゃないんだけど、このBBA共が考えたあの方法は、ぶっちゃけルールを無視したことだ。風紀委員の華城先輩にバレているのは(そもそもなぜバレたのか)……正直、まずい。


「ははっ。そう身構えるな。別に君たちをとっちめようなんて考えちゃいない。ただ、それに対して私から言えるとすれば……『学園長の許可はとってある』とでも言おうか」

「…………?」


 わけがわからない。だが、そんな俺たちの状態すらも計算ずくのように、華城先輩は更に説明を加える。


「学園側としては、我が校のマスコットキャラクターの良いパフォーマンスになるからね。それに、そういう意味ではこの部は、この文化祭でこの学園にかなり貢献してくれてたし、それくらいは目を瞑ろうということさ。それでは、私はここで失礼するとしよう」


 それだけ言い残して、華城先輩は部室から出て行ってしまった。結局、何がしたかったんだ。あの人は。ていうか……なんでバレてたんだ。俺たちの、というよりBBAたちのやろうとしていること。

 コンテスト開始時間になるにつれて、学内は騒がしくなってきた。

 ここで、俺は初めて、ゆっくりと学園内の様子をみることができた。学園祭は夜まで続く。まだ昼になったばかりの学園内は騒がしい。

 客の呼び込みをする模擬店や映画研究会。

 出張販売をしている生徒や、路上パフォーマンスをして客を賑わせている手品研究会の生徒。

 巡回警備をしている生徒会や文化祭実行委員、自警団や、巡回警備に立候補した生徒たちもいる。

 また、デートをしてるのか、手を繋ぎながら歩いている若いカップルや、家族連れ、模擬店で買った食べ物を持って友達とわいわい騒いでいる生徒もいる。

 高校生活の思い出づくりのために、みんな一生懸命、今という時間を楽しんでいる。


「いやぁ、青春してるねぇ」

「……みんな、楽しそう」

「そういえば、文化祭中にこうしてゆっくりとするのも初めてですね」

「あ、あそこ。生徒会のみなさんがいますよ。休憩中でしょうか」


 下の楽しそうに流れる時の流れとは隔離されたかのような静寂に包まれた部室の中に、俺たちはいた。

 確かに俺は今回の文化祭は殆どといっていいほど、ああやってみんなと一緒に文化祭を楽しめなかったのかもしれない。だけど、そんな俺たちの文化祭が楽しくなかったのかと言われれば、NOになる。

 こんなにも忙しくて、緊張して、疲れ果てて、――――とても楽しかった文化祭を、俺は知らない。

 店の厨房で修羅場って、毎日ヘトヘトになるまで働いたこの文化祭は、俺にとっての大切な思い出だ。


「…………」


 俺は思わず、「ありがとう」と言葉に出しそうになった。けど、それは今言うべき言葉じゃない。美紗がいて、みんな全員、この部のメンバーが誰一人欠けずに揃った場で言うべきなのだ。

 楽しい時が流れていく。

 時間がたち、いよいよ文化祭はメインイベントを三つ残し、クライマックスを迎えようとしていた。

 


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