第53話 文化祭③
今回の話と、次の話(もしくはその次の話)で、主人公の立ち位置とストーリーが少しずつ動いていきます。
それにしても本来なら、五十話ぐらいで一年生編を終わらせる予定だったのに、かなり長くなってしまいました。文化祭編が終わるとスピードをあげて二年生編へと行こうと思います。
「俺は昨日……どうなったんだ?」
「昨日、小夏さんと記念撮影をしようとしたあなたは、小夏さんを抱っこした瞬間に、立ったまま気絶したんですよ」
「そのまま、今朝までずっと気絶してたんだよ?」
文化祭三日目の朝の部室。
朝食を食べつつ、渚姉妹からの説明を受けて、ようやく昨日の顛末を理解した。ああ、なるほど。幸せ過ぎて昇天してしまったのか。納得。
「まったく。昨日は大変だったんですよ? 海斗くんが気絶したからちょっとした騒ぎになっちゃって」
「……理由を考えるのと着ぐるみを脱がせないようにするのが大変だった」
「最終的に<るかわくん>の特技の『木の真似』みたいなことをでっちあげるはめになっちゃったし」
「お店の方も大変だったんですから」
「……悪い」
くっ。まさか幼女を抱っこしたことで幸せ過ぎて昇天してしまうとは思わなかったぜ。着ぐるみ越しでもあの破壊力。もし直に触っていたかと思うと……恐ろ幸せだぜ。
「あとで正人に礼を言わなきゃな。あの完全聖遺物のチカラは本物だった。マジで幼女にモテモテだ」
「まずは外よりもそのゲスい考えを何とかした方がいいですよ?」
昨日は俺が抜けたせいでどうしても店の回りも鈍らざるを得なかったらしい。これは素直に反省である。なので、今日は昨日以上に頑張ろうと決めた。
……しかし、予想外の事態がおきた。
「あの~。昨日のニュースで見たんですけど、<るかわくん>ってここにいるんですか?」
「はい。いますよ」
「やったっ。写真、とってもいいですか?」
「……は、はい。構いませんよ」
きゃー。やったぁ。というBBAの声が聞こえてくる。そして俺は加奈からの要請を受けてクソ忙しい厨房から飛び出してきた。待ち構えていたのは女子高生(BBA)の三人組。きゃいきゃい騒ぎながら、今や<るかわくん>と化している俺に写真撮影を求めてくる。
昨日のニュースで、俺たちの店が取り上げられた。そして、るかわくん姿の俺も映っており、どうしてか分からないが人気が出てしまったらしい。なんでもアホ可愛いとか言われているようだ。おかげでこの店は更に繁盛してしまい、挙句の果てに写真撮影を求めてくる輩が出てくる始末である。こいつら表の張り紙が読めないのか。写真撮影禁止って書いてあるだろうが。
だが、加奈たちが次々と許可するもんだから大変だ。とはいえ、幼女が次々と写真撮影を求めてくるということは嬉しい誤算だったけどな!
「やあ」
俺がBBAとの吐き気のする写真撮影を終えて厨房に戻ろうとすると、不意に声をかけられた。そこにいたのは、国沼、正人の生徒会一年生コンビと、文化祭実行委員としての視察に来たであろう葉山。そして……、
「榎智夏……」
そういえば思い出したが、榎智夏は文化祭の警備に立候補したらしい。これを正人からきいた時は驚いたが……まあ、国沼がいるしな。どうせ一緒にいたかっただけだろう。と、思っていたのだが、正人が言うには榎智夏が一人で巡回予定表とにらめっこしながら学園内の巡回をしているのを目撃したというのだから尚更、驚きだ。
美羽が明らかに嫌悪感を隠すことのない視線を向ける。そんな視線に気が付いていないのか、榎智夏はそんな美羽の視線に気が付くこともなく、さっきからチラチラと国沼に視線を送ってアピールしている。無理すんなBBA。
「大盛況だね。凄いよ」
国沼は俺に気をつかってか、こそっと小声で話しかけてくる。
「まあ、B……女子達が客寄せパンダになってるからな。それでもこれは予想以上だけど」
「ははっ。確かに、みんな視線が釘づけにされてるね」
お前に釘づけにされている女性客もいるけどな。例えば隣にも一人。
国沼は興味深そうに店内を見渡したり、近くを通ったメイド服姿の美紗に視線を走らせたりしていた。
「つーか、お前らもうどれぐらい稼いだんだ?」
「わからん。一日が終わるとすぐに寝てるからなぁ……今朝になってシャワーを浴びると、もうすぐ準備に入るから」
「これはさぞかし儲かってそうだな」
そうだ。儲かっているのはいいことじゃないか。この文化祭が終われば、俺たちは大金持ちだ。これで前々から狙っていた幼女キャラの抱き枕が買える。……フヒッ。
三日目も大繁盛している。
だが、相変わらず修羅場で、尚且つ俺の仕事が増えているもんだから余計に忙しくなっていた。それでも何とか店を必死にまわし、三日目も終了した。
四日目も同じく修羅場だった。だが、今日さえ乗り切れば明日はまだ楽が出来る。何故ならば、明日は美紗がコスプレコンテストに出ることになっているし、BBA共と俺はペアスタンプラリーに出なければならないことになっている。
最初は死ぬほど嫌だったわけだけど、でもこの修羅場から逃れられると考えれば割とアリなような気がしてきた。
だが、そんな四日目に事件が起きた。
朝の開店と同時にやはりというか何というか、客が流れ込んできた。割と味の面でも盛況らしく、リピーターがついていた。あと、BBA共の効果もあるのだろう。
だからこそ、というべきだろうか。
噂をききつけたのか、妙な客がやってきたのだ。
四日目の今日は雨宮小春(またの名をついんて~る)のステージがあり、大半の客がそちらにいって、校内が閑散としていた時を狙い澄ましたかのように。
そいつらは、チャラチャラした、趣味の悪いアクセサリーをつけた二人組だった。汚らしい金髪や茶髪の、明らかにガラの悪い二人組。
俺はたまたま写真撮影で店内にいたのだが、僅かに残っていた店内の客たちもヒソヒソと、怪訝な目をしてその二人組を見ている。そいつらは、ドカッと案内される前にてきとうな席を見つけて偉そうにそこに座り込むと、大声でわめき散らすようにぺちゃくちゃと喋りはじめたと思ったら、今度は下品な笑い声をあげている。そして注文はまだかと怒鳴り散らす有様だ。
「おいおい注文はまだかよ?」
「おっせーなぁ!」
「さっさとしろよ!」
ギャハハハハハ! と絵にかいたような悪人笑いをして、ドカドカと床を踏みつける。
嫌な予感がした俺は慌てて厨房に戻った。逃げるためではない。正人たちに迷惑をかけないように、しなければならないことがある。
☆
生徒会の見回りをしていた俺――篠原正人――と国沼は、毎日通っている、日本文化研究部の喫茶店に向かっていた。あそこは、今やこの文化祭の目玉になっていた。今は大人気トップアイドルがステージに立っている為、校内は閑散としているものの、そのステージが終わればすぐにまた繁盛することだろう。あの味にもリピーターがついていることだし。
「凄い盛り上がりだったよなぁ」
隣を歩く国沼が言う。
「まあ、そりゃ一年生の美少女トップ五が揃ってるんだからな。料理の味も良いし。それにニュースのおかげで加奈さんたちにファンが出来たみたいだし」
「ははっ。なるほどね。やっぱり凄いな。黒野は」
「なーに言ってんだ。あのロリコンも凄いがお前だって凄いじゃねーか。クラスの出し物、なかなか好評らしいじゃん」
そのクラスの出し物には俺も参加しているからわかる。軽く耳に入ってくる評判だけでも割と好意的なものが多い。しかも、企画のほとんどを、生徒会業務の合間を縫って国沼が行ったのだ。
「……俺は別に凄くなんかないさ」
だがそれでも、国沼は虚しそうな表情をして言う。
「……俺はただの臆病なんだよ。失敗することが怖くて、やれることしかやらない。自分の能力の中で出来ることしかやらないような」
俺には、いまいち国沼の言いたいことが何なのか、よく分からなかった。だが、それを気にする前に店の前が騒がしくなっていることに気が付いたのだ。人数が少ないのにも関わらず。しかもその店が、日本文化研究部ときたもんだ。
慌てて俺と国沼は部室へと急いだ。中に入ってみると、騒ぎがまた一段と大きくなっていた。
中に入ってみると、何やらトラブルがあったのかどうかは知らないが、ガラの悪い二人組に加奈さんたちが絡まれているように見える。ニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべて大声で叫んだりして、加奈さんたちを困らせていた。
先輩によると毎年、こういう輩は出てくるらしい。そういう時は教師に連絡するか、自警団に連絡することになっている。自警団は、毎年こういったトラブルが起きるので、体育会系の割と腕に自信のある(喧嘩や荒事を仲裁するという意味で)生徒たちを募って組織されたものだ。
実際に喧嘩にならないように、ボクシング部や柔道部などの生徒を中心に構成されている。
恐らく、あの二人組はニュースを見てここにやってきたのだろう。テレビで見た限りは女子しかいないし、それに何より全員可愛い。だが同時に華奢にも見えたのだろう。かっこうの獲物だと。
見たところ担任の先生もいないようだし、好き放題暴れられると踏んだのだろうか。
しかもあいつらは、生徒会と文化祭実行委員と教員が作成したブラックリストに載っている。去年も女子メンバーが多い出し物のところで好き放題に暴れて警察のお世話になったやつらだ。どこから侵入したのだろう。今年の巡回ルートは去年よりも複雑化して、尚且つ数も増やしたのに。いや、とにかく今年は去年よりも来場客が多い。そのせいで入口の生徒も一人一人の顔を確認しきれなかったのだろう。来年からは何らかの対策を取らなければならないようだ。
とにかく、生徒会役員として注意しておかなきゃならない。取り返しのつかないことになる前に。
ああ、もう。自分の不甲斐なさに今更腹が立ってきた。ただでさえ加奈さんは夏休み前にもトラブルに巻き込まれていたし、話を聞いていると、夏休みの海でも渚姉妹がああいう輩に絡まれた経験があるという。この部に関しては裏から色々と手回ししておくべきだった。そういった警戒を怠ってしまった。
「あの。他のお客様の迷惑になりますので、大声で騒ぐのはご遠慮願います」
自警団の本部に携帯で連絡を取る。会話が携帯越しにきこえてきたのか、学園のアイドル的な存在である加奈さんのピンチとききつけて、野郎共のテンションがえらいことになっていた。通話を終えると、そのまま携帯のビデオカメラ機能を起動させる。
加奈さんが注意するも、ニヤニヤと汚く笑うだけでチラリと周囲に視線を巡らせていた。邪魔をするやつがいないと考えたのか。それとも人が少ないことをよしと思ったのか、自分たちに怯えて下手にかかわってこないと思ったのか。
残念ながらその目測は当たっている。生徒会役員の俺たちはまだ動けない。何故なら、今はまだ店個人で注意するレベルで、下手に生徒会が関わって強引に退去させれば学園側に抗議がくる。そして、周囲の生徒たちは可哀相だなと思っていても動こうとしない。動いても自分が傷つくからだ。だからかわいそうだと心の中や口では言っていても、実際に動こうとはしない。
「ねぇねぇ。君たち、可愛いね。これからちょっとデートしない?」
「そういったことはお断りしております」
「そんなこと言わずにさぁ」
「……っ!」
この状況に気をよくしたのか、二人組が同時に動いた。一人は加奈さんの手を強引に掴み、もう一人は美紗さんの手を強引に掴んだ。しかも、空いた方の手で足や太ももなどを触ろうとしている。汚らしい表情を浮かべながら。加奈さんの体が硬直した。……たぶん、夏休み前の事件の時の事を体が思い出したのだろう。
「みさみさ、かなみん!」
あいつらはもう一線を越えた。ここからは生徒会が動かなきゃならない。もう言い訳はできない。ここまでの様子は既に記録した。証拠は残した。
――――だが、俺が動くまでもなかった。
「おい」
不機嫌そうな声が響き渡った。かと思うと、今度は水がぶちまけられたかのような音が。
一瞬。部室の中と周囲がシン……と静まり返った。二人組の髪からポタポタと水滴が落ちる。そんな二入組の傍には、あいつが……るかわくんの着ぐるみを脱ぎ去った海斗がいた。
手には水が入っていたであろうグラスを持っている。あの中にあったであろう水を、あの二人組の頭の上からぶちまけたのだ。
あのバカ……。こういう形で目立つことは避けたかったはずなのに。着ぐるみを着たままこういう場に首を突っ込んで、あまつさえあいつらを取り押さえたり殴り飛ばしてしまうと学園の立場が悪くなる。学園のマスコットキャラクターがそういったことをしてしまうと、学園側が一般の来場客に暴力を振るったことになる。そうなれば真実とは関係なく取材に来ているマスコミの餌食になる。それにあいつのことだから、生徒会にも迷惑がかかるとかつまんねーこと考えたりもしたんだろう。
あいつは今まで、出来るだけ周囲の生徒に自分を誤解させてきた。
そんなつもりはないくせに、明らかに周囲に敵意を振りまいて。
自分はろくでもないやつなのだとレッテルを張らせた。
入学当初は友達を作ろうとしていたけど、それも失敗に終わった。だがあいつは怖かったはずだ。友達を作ろうとしていたけど、本当は怖かったはずだ。
またいじめられたりしないだろうか?
また多くの人間から拒絶されたりしないだろうか?
だからこそ、あいつは必要最低限の人間とだけ関わってきた。日本文化研究部と俺たちだけというあまりにも少ないあいつの理解者。
あいつは自分が自ら張ったレッテルをはがそうとはしない。
だからこそ、あいつは学園では加奈さんたちとは無関係を装ってきた(それも加奈さんたちの手によって少し邪魔された部分もあるが)。
それは、加奈さんたちが大事だからだ。大切だからだ。普段こそは「BBA」だのなんだの言ってはいるが、なんだかんだで心の奥底では加奈さんたちのことを大切にしている。だが、自分という「厄介者」の存在と加奈さんたちが関わっていると周囲に知られれば、加奈さんたちも周囲の生徒たちから……少なくとも、好意的な目で見られはしないだろう。
現に、一度、夏休み前に海斗と出会ったばかりの加奈さんが海斗を昼食に誘った時や、親睦会の時などは、みんな表だって話さなかったが、俺の耳には少しではあるがあまり良い話とはいえないひそひそ話が入ってきた。大半は海斗が何か加奈さんたちの弱みを握っているとかそんなんだったけど、加奈さんたちに対しても不信感を露わにする話も入ってきた。
だけど海斗はそれを知っている。そして思い知った。自分が関われば周囲の人間がどういう目で見られるのか。
だからこそ、出来るだけ無関係を装う。
だからこそ、自分は厄介者に徹する。
理由は二つ。
人と関わるのが怖いから。そして、周りの人を大切に想っているから。
だからこそあいつは高校デビューに失敗した。
中学時代の経験が他者との関わりを、あいつも意識しないレベルの中で臆病にした。だからこそ、あいつは不良のレッテルを自らにはりつけた。そうすることで身を守るために。だが今度はそのレッテルのせいで、ようやくできた居場所の障害になってしまっている。解決するにはそのレッテルをひっぺがせばいい。けどあいつは、そのレッテルを剥がそうとしない。
だから人前でそう目立つことはしない。人前で本来の自分を見せようとしない。
だが……今は、そんなことも関係なく、ただ自分の大切な居場所を守るために、レッテルも何もかも関係なく、動こうとしている。こんな、他の生徒が見ているような場所で。今まで望まなかったようなシチュエーションで。
「ここは見た通りそういう店じゃねーだろ。さっさと失せろ」
「はぁ?」
「誰だお前?」
あの二人は当然のことながら海斗を知らない。何故なら、二人は割と遠くの場所から来た二人だからだ。ということは、ネームバリューで脅すことは出来ない。
とりあえず海斗は、二人を掴んでいる手を無理やり掴むと、そのまま捻るようにして加奈さんと美紗さんから手を引き離した。視線だけで「いけ」と二人を逃がすように促し、俺にも補助を頼んできた。
とりあえず俺は駆け出して、加奈さんと南帆さんをあの場から引き離す。周囲の生徒は唖然としてこの光景を見ていた。……そりゃそうか。今のだけ見れば明らかにあの黒野海斗が二人を助け出したということになる。
「無視してんじゃねぇ!」
去年と同じように、あの二人組が暴れだした。去年も、教師と自警団の生徒が来るまで暴れまわっていたようなやつらだ。取り押さえるのに苦労したとか言っていた。だが、海斗はパッと二人の手を離すと、二人組のめちゃくちゃに振り回した腕を簡単にかわしていく。
そして、軽く足を出して一人をひっかけて、床に転げさせた。いつもに比べて最小限の動きで済ませているのは店に被害を出さないためと、暴力沙汰にしないためだろう。自警団の場合もあくまでも名目は仲裁、および無力化だし。
「くっ、こいつ!」
「遅ぇな……姉ちゃんの方がもっと速いぜ」
「なにわけのわかんねぇこといってんだ!」
いつもみたいにこんなところで喧嘩をしてぶっ飛ばせばこの部のメンバーに責任がいくかもしれない。一般の生徒にはあまり知られていないことではあるが、書類上、海斗この部に在籍しているという事実がしっかりとある。
自警団でもない海斗が暴力沙汰を行えば他の部員に迷惑がかかると思ったのだろう。……あのアホめ。俺がいるってことを忘れてんじゃねーよ。お前の弁護ぐらい、いくらでもしてやるだろうが。
いつもみたいに一気に殴り飛ばせないからか、海斗は軽く相手の攻撃をかわすだけに終始していた。と、思ったのは一瞬。相手の懐に飛び込んだ海斗は、一気に男を掴んで――――投げ飛ばした。
綺麗な背負い投げだった。恐らくあれも本人いわく、「姉ちゃん直伝」なのだろう。
「なっ……!?」
転がされていた男の上に、もう一人の男を投げ飛ばす。うぎゃっ、という小さい悲鳴があがった。
その場にいた誰もが、呆気にとられていた。そしてこのタイミングで、自警団の生徒がやってきた。まるでこの場の決着がついたのを見届けたようなタイミングだ。
「やあ、正人くん」
「華城先輩」
今回の文化祭において自警団のリーダーを務めてくれた、風紀委員に所属している二年の華城恋歌先輩が一番に到着した。長い黒髪を揺らしながら、つかつかと部室の中へと入ってきた。そして海斗の前に立ち、床に倒れ伏している二人組を一瞥し。
「このバカ共は君が片付けてくれたのだな。礼を言うよ。そして謝罪しよう。すまない」
「……別に。ただウゼエからぶっ飛ばしただけだ」
「ほう。『ぶっ飛ばした』。その割には随分と鮮やかに決めたな?」
「……何が言いたいんだよ」
この部とは無関係だということを主張する態度をとる海斗。それに対して華城先輩はクスッと笑う。
「君も大変だな。そしてバカだ。そこまで頑固にならずとも、君の美点を他の生徒にも見てもらったらどうだ? そうすることを、君の周囲の人たちも願っていると思うが」
「アンタ、何を言って……」
「っと、お喋りが過ぎたか。では、このバカ共は私が預かろう。またね」
華城先輩は二人を引っ掴むと、引きずるようにしてどこかに連れ去られていった。そのままどこかに引き渡すのだろう。
……にしても。
「さて、これからどうなることやら」
俺はぼーっとしたまま、隣に突っ立っている国沼に小声で話しかける。
「え? あ、うん」
国沼はハッとすると、苦笑を浮かべた。
俺は国沼が隠していることに気を配りつつ――――周囲を見渡す。今の状況を目撃していた生徒たちは唖然として、何が起こったのか正しく理解が追いついていない状態だった。
人が少なかったとはいえ、割とそれなりの数の生徒に今の一部始終を見られた。
明らかに今の光景は、「あの校内でも札付きの不良の黒野海斗が加奈さんたちを助けた」というものだったはずだ。
海斗はムスッとした表情のまま、部室を出ていった。出ていくときに生徒たちが海斗を避けるようになっていたが、だがその表情には戸惑いの色があった。
そして俺の頭の中には、華城先輩の言葉が蘇る。
――――……君も大変だな。そしてバカだ。そこまで頑固にならずとも、君の美点を他の生徒にも見てもらったらどうだ? そうすることを、君の周囲の人たちも願っていると思うが。
その言葉は、俺と葉山と、そして海斗を除いた文研部の部員、全員が言葉には出さずとも思っていたことだ。
これから海斗が学園の中でどんな立ち位置になっていくのか――――情報屋を自称する身として、そして、あいつの友人である俺からすれば、気になるところだ。
アルファポリス青春小説大賞にエントリー中。応援よろしくお願いします!
因みにかいくんの大切は恋愛感情とかではありません。
普通に友達として大切のレベルです。
現状、恋愛感情的な面では
合法ロリ>ヒロインズ。
なので、前の話に登場した
合法ロリポーター>ヒロインズ
です。
ぽっと出のキャラに負けるヒロインズェ……
この物語は今となってはヒロインズが主人公を攻略する物語になってるのでかいくんがデレるのは恐らくまだ先でしょう。




