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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第5章 新学期と文化祭
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第51話 文化祭①

 あっという間に、文化祭当日がやってきた。こういうのは基本的に準備が楽しいとは言われているし、俺もそう思うのだが、それは祭りが終わった後だからこそ、そう思えるわけで。

 準備に追われている間はそういうことはあまり思えない。まず大変だなとか、時間がないなとか、そういうことを準備をしている間は考えているものだ。

 しかも、南帆と恵のクラスは展示だから、当日はともかくとして準備の間は普通に忙しい。それでも二人は忙しい合間を縫って、ちゃんと部室にも顔を出して遅くまで残ってくれているのだからありがたい。我がクラスはお化け屋敷をするので、当日も準備の間も普通に忙しい。しかもお化け屋敷ともなると教室を劇的に大改造しなければならない。

 まあ、俺はクラスの出し物には殆どノータッチである。そこらへんの空気はちゃんと読むつもりだ。俺がいたほうが静かに、淡々と作業は進むだろうけども、それはそれで高校の文化祭の思い出としてはあまりにも寂しい。準備期間は授業がほとんどないので、俺はその期間の間は部室に引きこもっていた。この部室には色々とサブカルチャーなものが充実しているので割と居心地はいい。

 そんなこんなでもう当日だ。

 楽しい時が過ぎるのは一瞬ともいうが、マジ一瞬だったな。何しろ準備は大変だったけど、部室でお気に入りのアニソンをヘッドホンで聴いたり、休憩のときには部室にあるテレビでアニメみたり、冷蔵庫から適当なデザートを取り出してもぐもぐ食べたり、ギャルゲーしたりと……あれ? ここ学校だよな? と一瞬、ここがどこなのか忘れていたぐらいだ。

 美紗の衣装も無事に完成しており、一度、部室で試着してみたところ、そのクオリティの高さにみんなで驚いたものだ。美羽が夜なべをして仕上げたらしい。ぐへへへへとか言ってたけど気にしない。


「ついに、文化祭当日ですね!」


 朝。

 クラスに集まるよりも早く、俺たちはこの部室に集合していた。部室の半分はもうすっかり喫茶店風になっている。先日、訪れた店のレイアウトを参考にさせてもらった。部室のもう半分は厨房、兼、物置だ。どんな物が置いてあるのかというと、あれだ。ガ○プラとかゲームとかテレビとかフィギュアーツとかそんなんだ。察しろ。


「シフトはさっき手渡した通りで問題ありませんか?」

「オーケーだよ! かなみん!」

「……問題ない」

「私たちはクラスの出し物とかで時間がとられてしまうので、心苦しいですか三人には殆ど店に出てもらうことになりますけど」

「ごめんね」

「問題ナッシング! ねー、なほっち、かいくん!」

「ああ。クラスの出し物があるんなら仕方がねーだろ。気にすんな」

「……海斗もそのクラスの所属なのに」


 おいばか悲しいこと言うな。涙が出てくるだろ。いや、別にたまーにクラスの様子を覗きに行って、みんな楽しそうにきゃっきゃうふふしていて、俺がクラスに入った瞬間にシーンとなるのを目の当たりにしたからってなんとも思ってませんよ? ほら、俺ってこういうことに慣れてるし。


「おーっす。失礼するぞー」


 いきなり部室に入ってきたのは正人と葉山だった。


「あ、僕は文化祭実行委員だからこうやって見回りにこなきゃいけないから来たんだ。昼も寄ることになるから、よろしくね」


 我が部の実情を知っている葉山が見回りに来てくれるとはありがたい。他の文化祭実行委員なら、忘却呪文をかけなければいけないところだった。俺ってば魔法省の人間じゃないけど。


「加奈さん、例のあれはちゃんと準備ができましたよ。時間になったら届けますね」

「ありがとうございます。篠原くん」

「いやいや。夏休みはけっこう助かりましたからね。んじゃあ、用件は伝えたんで、俺たちはこれで」

「うん。こっちもチェックは終わったしね。異常なしっと」


 そう言い残して、二人は部室から去っていった。きっとこのあとにも他の出し物の見回りがあるのだろう。

 だが俺は、加奈たちが何を企んでいるのかということが気になった。質問しても答えてはくれないのだろうけども。

 そのあと、役割分担を確認した。

 俺は休憩以外は基本的にずっと厨房でメニューを量産する。加奈と渚姉妹はクラスの出し物にも参加しつつ、部室ではウェイトレスと調理を分担して担当。恵と南帆も同様。


「売り上げの一部は部費にまわすことが出来るそうですから、頑張りましょう」


 そうだ。売り上げの一部は部費にまわすことが出来るようになっている。

 部費が増えるということは好きなものが買えるということであり、俺たちみたいな趣味を持つ者たちにとってそれは大変助かる話である。

 だが、この時の俺は、自分の考えが甘かったのだろう。BBAとはいえ、加奈たちの容姿は割と可愛いわけで、それに釣られたバカ共がよってくるからまあ、それなりに繁盛するのだろうと。

 だが現実には……。


 ☆


「かいくん、注文入ったよ! サンドイッチだって! あとメロンソーダ!」

「……海斗、こっちはオムライス二つ」

「海斗くん、こっちにもオムライスをお願いします」


 それなりに繁盛、どころじゃなかった。

 もはや文化祭一日目にして修羅場だった。

 殺人的な忙しさだった。

 学園の美少女五人が集まる喫茶店だもんね! そりゃあ大繁盛しますよね! 長蛇の列ですよちくしょう!

 しかも、接客すら追い付かない状況だから厨房は殆ど俺一人だ。今のところはバイオコンピュータの強制冷却を続行させてフル稼働させているからなんとかなっているものの、体のあらゆる場所が悲鳴をあげている。だけどもってくれ! あと少……しじゃなくてまだ初日だったふざけんな。


「こんなもん、目では追えても体の反射が追い付けるか! 俺一人でまわせるわけねーだろ!」

「あ、今入ってきた家族連れに可愛らしい幼女が!」

「加奈ァァァ! さっさと注文とってこい! 幼女には全品サービスしろ! 他の注文も全部たったいま片付けた! 俺は今から全神経を集中させる!」

「ろりこんのちからってすげー!」


 恵が驚いているが今更だな。ロリコンという名の紳士は人類が進化した存在。純粋種のイ○ベイターのような存在なのだ。


「俺はな、恵。俺が作ったこの料理を食べて喜んでくれる幼女ひとがいるなら、それだけで俺も笑顔になれるんだ」

「なんでだろうね。普通に良いこと言っているのにかいくんが言うとどうも変態発言にしかきこえないのは」

「そう。幼女おきゃくさまの笑顔があれば、俺はそれだけで笑顔になれる! ……フヒッ」

「憲兵さん、こっちです」


 その後、続々と入り込んでくる客をなんとか捌きつつ、延々とくる注文に苦しみ、たまにくる幼女からの注文に心をときめかせ(お子様ランチを作っておいてよかった)、なんとか午前の修羅場を乗り切った。途中で加奈と渚姉妹がクラスの出し物の方に顔を出しに行かなくなってしまったために、修羅場は地獄と化していたのにもかかわらず乗り切ったのは、我ながら凄いことだと思う。まあ、幼女の笑顔さえあれば俺はいくらでもエネルギー補給できるんですけどね!

 とりあえず午前は乗り切った。店の方は昼の二時から三時までは休業状態にした。一時間の休憩を入れないと流石に死ぬ。


「うぅ~……疲れたよぉ~……」

「……地獄を見た」


 メイド服姿の恵と南帆もぐったりとして店のテーブルに突っ伏すようにダウンしている。もう夏も終わって涼しくなってきたというのに汗をかいている。肩がまるみえになっているタイプのメイド服にしていてよかったな。涼しそうで。


「一時間しかない休憩を無駄にするな……ちゃんと休んで午後に備えろよ……」


 かくいう俺も休むどころかただただ、ぐでっとだらしなくテーブルに突っ伏している。幼分ようぶんがたりない……。はやく幼分を補給しなければ。

 それにしてもお腹がすいたな。何か食べよう。


「かいくん、おなかへったよぉ~」

「……おなかすいた」


 どうやら二人もそうらしい。朝食を食べてきちんとエネルギー補給をしてきたものの、さっきの修羅場によってそのエネルギーを全部もっていかれたらしい。


「食べるものなら外にいくらでもあるだろ。買ってこいよ。俺は適当に何か作ってそれ食べるから」

「えー! 私もそれ食べたーい」

「……私も」

「お前ら……せっかくの高校の文化祭なんだから模擬店で何か買ってこいよ。思い出つくれ思い出」

「だって、かいくんのつくってくれるお料理の方が美味しいもん」

「……悔しいけど」

「そもそも、それをいうならかいくんだって思い出つくりなよー」

「全国ネットでこのツラと俺を怯える全校生徒を晒せってか。そりゃ楽しい思い出だ。一生忘れないだろうよ」


 それに中学時代のやつらが何らかの拍子に見るかもしれないし。それを考えると胃が痛くなる。まあ、また何かあれば闇討ちすればいいか。ストレス解消にもなるし。あいつらを暴力で叩きのめすことに関しては別に悪いとも思わないんだよなー。

 だが、恵たちが食べたい食べたいとうるさいので、ついに折れた俺は仕方がないので適当に何か作ってやることにした。ついでだしな。

 再び厨房に入った俺は何かあまった材料(午前の分と午後の分にわけてある)をあさりつつ、恵に問いかける。


「そういえば恵、富音さんはどうしたんだ? あの人なら朝一で来そうだけど」


 あとうちの姉ちゃんとか。徹さんは……まあ、監禁されてるだろうし。


「ああ、そのことね。ママなら昨日の朝一の飛行機でアメリカまで送り飛ばしといた」

「へー。そうなんだ。大変だったな……じゃねぇ――――――――!」


 危ねぇ! 今、軽くサラッと流しかけるところだった! 徹さんや姉ちゃんで慣れてるからか……。いや、それにしてもこいつ、親をアメリカまで送り飛ばしておいて、しれっとした顔で普通に文化祭の準備をしていたのか。


「え? ちょっと待って。どうして送り飛ばしてるの? なんでさも当然のように言っちゃってるの?」

「いや、だってここのところママってば息を荒くして『ハァハァ。文化祭はちゃんと恵のメイド服姿をこのデジカメと脳にしっかりと刻み込むからねハァハァ』とか言い出したし、挙句の果てに夜這いをしかけてきたから、ついアメリカに住んでるおじーちゃんとおばーちゃんのところまで送り飛ばしちゃった。てへっ♪」

「うーん。あの人はもう本格的に駄目かもしれないな」


 何となくつけた厨房のテレビのニュースでは「はい、ではここでなぜかアメリカNYにいらっしゃる牧原富音さんのお話をきいてみましょう」とか言っていた。気にしないでおこう。うん。気にしない。

 俺は右手でノートパソコンを起動させ、左手でフライパンを振りつつ、更に右手で淀みない操作で艦これをつけて、左手でちゃっちゃかちゃっちゃかと昼食を作る。


「……海斗も本格的にだめかもしれない」

「やだなぁ南帆。利き手じゃない方で第六駆逐隊に指令を出すなんてマネ、俺にできるわけないじゃないか」

「フライパンを握っている手が利き手じゃない!?」

「うっし! 五人目のぜかましちゃんキタ! 五人目もレベル99にするか。戦艦レシピはっと……ちっ。また那珂ちゃんかよ。解体だな。かーんかーん」

「……駆逐艦運だけが異常に高い!?」

「まったく、駆逐艦は最高だな。それにしても提督が自らの身を盾にして艦娘を守るシステムはいつになったら実装されるんだ?」

「かいくん、それだと提督が死んじゃうでしょ」

「ろりっこの盾になって死ぬなら本望だ。俺も真司さんみたいな、仮面ラ○ダー龍騎のような、幼女を庇って死ねる大人になりたい」

「……どうしてだろう。海斗がいうと、どうしてもまともな意味にとれない」

「むしろ狂気すら感じるよね」


 失敬な。

 と、BBA二人がやれやれだぜとでも言いたそうな顔で俺のことを見ていたその時。不意に、鍵をかけている教室のドアからノック音がきこえてきた。加奈たち、ではない。あいつらならば連絡を入れてくるはずだ。怪訝な顔をする恵と南帆。俺はとりあえず厨房にいたので、そのまま隠れる。万が一、他の生徒だった場合、俺がこの教室にいると色々な意味で騒ぎになる。

 ドアが開き、中に人が入ってきた気配が伺える。俺はもうオムライスを三つ完成させていたので、それにラップをかけて身をひそめる。暖かいままで食べたいもんな。うん。

 中に入ってきたのは、正人と……。


「……お姉ちゃん」


 むすっとした顔で南帆が自分の姉、楠木南美くすのきなみの顔を見る。

 南美先輩は俺たちの一つ上の生徒会役員である。正人は、南美先輩と一緒に、誰かをこの中に入るように促す。

 二人が連れてきた人物は、なんというか、少し怪しい人だった。帽子を目深に被り、風邪でもひいているのかマスクをつけてる。何というか、俺にはちょっと「正体を隠したい」ような人に見えた。勘だけど。


「おー、悪いな海斗。休憩中に」

「いや、別にいいけど、どうしたんだ。今は見ての通り、休憩中だから店はやってないぞ」

「それは分かってるんだけどさ、いや、ほんと悪い。ちょっとわけアリで」

「ならそのワケをさっさと話せ。俺とお前の仲だろうが。遠慮すんな。どんなわけでも受け止めてやるよ」


 ☆


「……!」

「どうしました? 美紗」

「この気配……。今、海斗くんと正人くんが私的に美味しい雰囲気に……ううん。なんでもないよ、お姉ちゃん」


 ☆


「……!」

「どうしたぁー、葉山」

「この気配……。今、海斗くんと正人くんが僕的に美味しい雰囲気に……いえ。なんでもありません、先輩」


 ☆


 ……なんだろう。今、寒気が。


「……なあ、この部屋、冷房とかはかかってないよな?」

「そんなことない、はずなんだけどな」


 正人が怪訝な表情をしていた。どうやらあいつも同じような寒気を感じたらしい。窓から冷たい風でも入り込んできたか。


「……正人。本題に入って」


 南美先輩の様子から察するに、どうやらスケジュール的にはそれなりにおしているらしい。

 なら、さっさと済ませるか。


「そうですね、先輩。えーっと、この学園祭で毎年、ステージに有名人を読んだりしているのは知ってるな?」

「え!? もしかして、正人くんと先輩が連れてきたその子、今人気爆発中の中学生トップアイドルの、雨宮小春ちゃん!? おおっぴらに外を歩くとステージに出る前から騒がれちゃうから、うちにきてこっそり文化祭で出してる食べ物を食べてもらうとしてるんだね! 仕事が忙しくて母校の文化祭にも参加できなかった小春ちゃんのために! やったぁ! サインください!」

「理解はやすぎぃ! しかもピンポイントすぎるわ! 予知能力者か!」


 相変わらず恵さん、マジパネェッス。正人も思わずツッコミを入れてしまっている。隣の南帆を見てみると、驚いたように目を見開いている。確かにこの前、BBA共が家に泊まった時にみんなで雨宮小春の番組を見たな。俺でも知っている、サブカルチャーを前面に押し出している上にその知識もにわかオタク芸人を軽く凌駕していることでも有名だ。この前の生放送でにわか知識でファン気取りしていた芸人をその圧倒的な知識で完膚なきまでに叩きのめしていた。見ていてかわいそうだった。芸人が。今は確か、中学三年生で来年から高校生だっけ。どこでそんな知識を身に着けた。マジで。

 苦笑しつつ、雨宮小春がその変装を解いた。ぱさっ、とロングヘアが躍り出る。よく間近で見てみると、南帆ぐらいの小柄な体だ。そして確かに、そこにいたのは紛れもないトップアイドルの顔だった。雨宮小春はきょろきょろと珍しそうに部室の中へと視線を走らせ、その視線で恵をとらえ、次に南帆をとらえる。


「……?」


 その一瞬。雨宮小春はぴくっ、と体がほんの僅かに一瞬、竦んだ。南帆を見る目が……どこか、怯えていたような、そんな気がする。そんな、微妙な一瞬をごまかそうとしたのか、雨宮小春はにこっと微笑む。


「……………………」


 だが、南帆はじーっと、雨宮小春を観察するようにただただ見つめていた。

 やがて、南帆は何かの結論を出したかのように、ポツリと呟いた。


「……『ついんて~る』さん?」


 ギクゥッ! と、雨宮小春がいかにも図星だとでもいうような反応を見せる。『ついんて~る』。それは確か、『スコップ大革命』の被害者。そうだ。コミケのゲーム大会の決勝戦で、南帆に完膚なきまでに叩きのめされた人だ。


「な、なななななななななななななななななんのことですかにゃああ!?」


 しょっぱなからキャラ崩壊してるぞおい。どうやらあの決勝戦は、かなりのトラウマだったらしい。

 うん。そりゃあね。大会も二連覇して、順調に決勝戦まで進んで、三連覇に王手をかけたと思ったら、相手がお面をかけた小柄な女の子で、更に最弱の機体で挑まれたのに、あれだけの大観衆の中、一ダメージも与えられずに叩きのめされたんだもんな。

 俺たちはしばらくの間、キャラ崩壊する雨宮小春ことついんて~るが落ち着くのを待つはめになった。


「いやぁ。まさかこはるちゃんもこはるちゃんで、なほっちのことを一目見てわかるとは思わなかったよ。あの時のなほっちって、お面つけて顔を隠してたでしょ?」

「あの日、偶然ですけど、南帆さんがお面をとったところを見てしまったんです。それで、一目見て南帆さんだと。それに、ゲーマー同士は惹かれあうんですよ」

「なるほど最後だけわからん」


 落ち着いた雨宮小春ことついんて~るは、恵の言うとおり、文化祭で出されているご飯を食べに来たらしい。


「私、中学の文化祭も三年間、参加出来ませんでしたから……無理を言って、頼んだんです」

「それなら正人とかが適当に何か買ってくればよかったんじゃねぇのか」

「ま、そうなんだけどな。俺としては、是非ともここのメニューを食べてもらいたかったんだよ。それに、文化祭のお店の中で食べるのも、文化祭の雰囲気を味わえていい思い出になるだろ?」

「まあ、別にいいけどさ……ちょうど、適当に昼飯にするためにオムライスを作ったところだし」


 言うと、俺は厨房からラップをかけてあるオムライスと、メロンソーダをとってきた。三つだ。


「こんなもんでよかったら、どうぞ」

「えっと……黒野さんは食べないんですか? これは黒野さんたちの分じゃ……」

「かいくん、私の食べる?」

「いーよ俺は別に。遠慮せず食べてくれ。『ついんて~る』さんも」

「……できれば雨宮でお願いします」

「いいから、さっさと食べろ。時間がないんだろ」

「で、ですけど……」


 午前の修羅場を目撃しているからだろうか。昼飯抜きになりそうな俺を見て遠慮している。まあ、一時間休憩ももうすぐで終わりそうだしな。だけど、ここでさっさと食べてもらわないと正人たちに迷惑がかかる。

 仕方がないので俺はスプーンでオムライスをすくうと、無理やり雨宮小春の口の中へと押し込んだ。


「むぐっ!?」

「さっさと食え。プロならちゃんと仕事はやるもんだって姉ちゃんが言ってたぞ」


 もぐもぐとオムライスを咀嚼する雨宮小春。少し恥ずかしそうにしていたものの、すぐ後に「……あ、美味しい」と言って、観念したようにオムライスを食べ勧めてくれた。

 俺はこれでよしと思ったのだが、何故か恵と南帆からの視線が痛かった。

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