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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS③ なんちゃってDQNとゲーマー少女
55/165

ifストーリー 南帆ルート①

 俺は今日も、いつものようにゲームをしていると窓が開いた気配を感じ取る。夜風と共に小さな女の子の体がもそもそと入ってくる。

「おい、ちゃんと窓閉めろよ」

「……わかってる」

 楠木南帆は窓をしっかりと閉めると、無事に俺の部屋へと潜入を果たした。南帆はいつも通り、Tシャツに短パンというスタイルで、俺の背中に抱きついてくる。ここが、いつものこいつの特等席である。

 南帆は、かなり可愛い。学校でも指折りの美少女だ。小柄な体に銀髪のショートヘア。無表情クールビューティというのが俺の友人の評価である。いや、そのまんまじゃん。

(それにしても……)

 こいつは毎日のように俺の部屋にやってくる。それはもうこいつが引っ越してからのことなのでツッコむ気にもなれないが、しかし、慣れない。慣れろという方が無理だ。

 南帆はいつもこの時間帯にやってくる。夜の十時ぐらいだ。だが、その時間帯ともなると南帆は既にお風呂を済ませている。お風呂上りでそのままこっちに来られて、こうも後ろから抱きつかれればシャンプーの良い香りがしたりして非常に危険だ。更に言わせてもらうと女の子特有の良い香りだけでなく、同じく女の子特有の柔らかい体の感触や胸の感触が背中に当たり続けるのはやはり、男子高校生にとっては……こう、色々と危険だ。

「……どうしたの?」

 本人が無自覚なのだから始末に負えない。言ってもやめないし、俺が出来るのは耐えることだけだ。

「いや、なんでもないよ」

「……それより海斗、今のところ戻った方が良い。アイテムを一つ取り逃してる」

「はいはい」

 こうして夜は、いつも通り更けていく。


 ☆


 次の日。

 俺は南帆と共に学校へと向かった。南帆には姉が一人と妹が二人いる。お姉さんの方は生徒会の業務の関係で先に家を出ることが多いし、妹さんの方は中学生の子が一人と小学生の子が一人いる。だが、俺を警戒してなかなか小学生の子とは合わせてくれない。それも関係しているのかあの二人は家をやや早く出る。悲しい。俺だって小学生ともっと触れ合いたい。いや、YESロリータ! NOタッチのルールを破らない範囲でスキンシップしたいな!

「…………」

 南帆が無言で足を蹴ってきた。痛い。

「……またうちの妹のこと考えてた」

「そりゃロリっ娘のことを考えるにきまっているだろ。常識じゃねーか」

「……常識じゃない」

「?」

 こういう時の南帆はいつも機嫌が悪くなる。昔からだ。むすっと頬を膨らませて明らかに不機嫌になる。南帆はいつも無表情だと周囲から言われているが、俺からすればあまりそんなこともない。たまに表情を変える時があるし。

「……今日の放課後は暇?」

「暇だけど……まーたゲーセンか」

 俺が南帆の放課後の予定を言い当てる。すると南帆はこくり、と小さく頷いた。

 嗚呼、今日もまたゲーセンが悲鳴で染まるのか。

 学校に着くと、友人である正人に出迎えられる。

「おう、番犬。今日も健気だねぇ。ご主人様に尽くし過ぎだろ」

「お前、そろそろその番犬って呼び方止めないとマジで殴るぞ」

「オーケー。だからまずはその拳を下ろしてもらおうか」

 学校内で俺がどんな呼ばれ方をしているのか、俺自身は嫌というほど耳にしている(本人たちは聞こえていないと思っているのだろうが、全部聞こえているぞオラ)。それがさっきの正人の言う<番犬>である。意味はそのまんま、南帆の番犬。南帆に寄ってくるチャラ男を蹴散らしていたらいつの間にかそんなあだ名を頂戴してしまった。

 いるか。そんなもん。

「……海斗」

「ん。どうした」

 因みに、教室でも俺と南帆は席が隣同士である(ついでに言えば俺の前の席は正人)。

「……今日もごくろうさま」

 なでなで。

 と、俺が席に座ったのをいいことに立ったままの南帆はその小さくて暖かい手を俺の頭の上においてなでなでしてくる。こんなことするから番犬って言われるんだよ……。

 だが俺としてはガクッと項垂れるしか出来ないのだった。


「いや、実際にお前を羨ましがってるやつは多いと思うぜ」

 四時間目の授業も終わった直後。後ろを振り返りながら正人は言った。

「何が」

「だって番犬とかいうあだ名をもらうだけであんな可愛い子とずっと一緒にいることが出来るんだぜ? その上、家も隣だろ? 爆発しろよもう」

「するかよ。第一、あいつとはただ家が隣同士ってだけでだな」

「あー、はいはい。それ、マジで南帆ちゃんを狙ってるやつからすれば死刑もんだぞ。マジで」

「なに、南帆を狙ってるやつとかいるのか」

 俺の疑問に正人はやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。

「当たり前だろ。お前が怖くて近づけないだけだって」

「俺が怖いからっていう理由で南帆に近づけないようなやつに南帆はやらん」

「お前は娘を嫁にやる親父か」

 正人の言葉に俺はどこかしっくりくるような――こないような、妙な感覚がした。それを考えていたせいか、俺の動きが一瞬、静止する。そんな俺を見た正人が声をかけてくれていることに気づくのに数秒を要した。

「おーい。どうした、番犬」

「……だから番犬じゃねぇって」

 うーむ、なんだったんだろう今の感覚は。俺としても南帆の保護者のつもりなのだが……。

 と、そんなことを考えているとくいくいと南帆が俺の服の袖を引っ張ってくる。

「どうした」

「……お昼。一緒に食べよ」

「お前、たまには友達と食えよ。クラスで孤立しても知らんぞ」

「……加奈たちが海斗と一緒に食べて来いって」

 それに、と南帆が言葉を付け加える。

「……海斗がいてくれるから、孤立しない」

 はいはい、そうですか。

 俺はため息をつくと同時に、席を立つ。俺の昼食はいつも南帆が作ってくれるので、こいつの手中にある。言うことをきかなければ昼食にはありつけないし、どちらにせよ俺はこいつの言うことをいく以外に選択肢など存在しないのだ。

「じゃあ、行ってくるわ」

 渋々席を立って前をトコトコと歩く南帆についていく俺を、正人が苦笑しながら見守る。

「おーう、爆発してこいよー」

 するか。


 放課後になると、俺は自分が番犬であることを否定できない。南帆のゲーマーとしての腕は一級品(俺視点だと)である。ゲーセンでアーケードゲームをすると1コインで何時間も遊び続けることが出来る。だがたまにありもしない因縁をつけられて絡んでくるやつがいるので、それをぶっ潰すのが俺の役目である。

 ……やべえ。割とマジで番犬というのが否定できない。

 俺の目の前で南帆はただひたすらに、黙々とコンボを叩き出している。今、何連勝したっけ。二十を超えたあたりでもうどうでもよくなってきたな。また表示されるだろうし見てみるか。

 ゲーセンを堪能(主に南帆が)した後はそのまま家に帰る。

 こうした日々を積み重ねていくことになろうとは、一年前ともなると想像できなかった。俺と南帆は、幼稚園の頃に会っていたらしい。そして小学校に上がる前に南帆が一度、転校して一年前にまた戻ってきた。

 そしてそこからなんとなく一緒にいる内に番犬だのなんだの有難味のないあだ名を頂戴してしまったのだ。

(懐かしいなぁ……もう一年か)


 ―一年前―


 俺は何というか、あまりゲームに詳しい方じゃない。たまにゲーセンにいって、好きな作品のアーケードゲームを適当に何プレイかして、それで満足するような、比較的ライト層といえるだろう。だが、そんな俺にも今、目の前で繰り広げられている光景はとにかく凄いということだけは理解できた。

「うわっ、すげぇ……」

「いったいどんな指してるんだよ」

 誰かからそんな声が漏れる。俺も同じような感想を抱いていた。しかも、驚くべきことにそのわけの分からん動きとコンボを叩き込んでいるキャラクターをカチャカチャと動かしているのはとてつもない美少女なのだ。銀色のショートヘアが、コンボを叩き込むたびに微かに揺れる。

 どうやら見る限りかなりのゲーマーで、それで尚且つ美少女なのは珍しい。希少種である。その後も次々と連勝を重ねて、五十連勝した辺りで挑戦者が誰もいなくなったのでそのままアーケードモードをすべてやりきって、その美少女は席を立った。

 彼女がゲーセンから出ていく際の一瞬。視線が合う。思わず、俺もその子をじっと見てしまった。時間にして2、3秒。体感からするとそれよりも、もっと長い間この子と視線を合わせていた気がする。

 それだけなら、「ああ、凄かったなあの子」ぐらいで終わっていただろう。だが、この話はそれだけでは終わらなかった。

 次の日。

 俺は友人の篠原正人と共に朝の通学路を通っていた。この土日の間に隣の家に誰かが引っ越してきたとか、昨日のゲーセンに物凄く強いゲーマー美少女を見かけたとか、そんなことを俺は正人に話しながら学校へと向かっていた。

 朝もいつも通り席について、いつも通りHRが始まった。だが、ここからはいつも通りじゃなかった。

 担任が転校生を紹介すると言った途端、分かりやすいぐらいにクラスの空気がざわついた。転校生というのはなかなかに珍しい。それも自分のクラスに来るパターンともなると尚更だ。

 しかも。

「……楠木南帆です。よろしくお願いします」

 昨日ゲーセンで見たあのゲーマー美少女だったのだ。誰の眼から見ても、この南帆という子は可愛い。クラスの男子共がざわつきだして、女子からすらもキャーかわいいみたいな声が漏れる。

 小柄な体に銀髪の髪。そして何よりも俺が目を引いたのは、徹底的なまでの無表情。クールビューティとはこういう子のことを指すのだろうと思った。

 席は、ちょうど俺の隣しか空いていなかったので(あえて空けていたともいう)南帆はその席を指定された。南帆はトコトコと淀みなく歩き、俺の隣の席へと座った。

 俺は、見た目はDQNに見えるように偽装しているし、行動もまあ……高校生活に入ってからは絡んでくるDQN相手にやんちゃしてきた(それ以外のやつに手は出していない。マジで)。それ故に学校内では他の生徒には基本的に怯えられているし、だからこそ、俺の隣の席に座る南帆を他の生徒はご冥福を祈るような目で見ているのだ。

(何か悪いことしたな……)

 ぶっちゃけた話、俺は正人いがいにはまともな友達がいない。だからこそ、この南帆っていう子にもちゃんと友達が出来て欲しいものだ。

 出来るだけ、南帆とは関わらないようにしよう。

 俺はそう決めて、とりあえず寝たふり作戦を決行することにした。

 放課後。

 その日はまっすぐ家に帰った。すると家には姉ちゃんがいて、いつもと同じようにとびっきりの笑顔で俺を出迎えてくれた。

「あ、かいちゃんっ! おかえりー!」

「ただいま、姉ちゃん。旅行はどうだった?」

「楽しかったよ~。でもでも、私としてはかいちゃんとのスキンシップがとれなかったから寂しかったよぅ~」

 そういうと、姉ちゃんはリビングでテレビを見ている俺の背後に抱きついてくる。その豊満な胸がむぎゅむぎゅもにゅもにゅと無遠慮に押し付けられる。もう慣れた。慣れたのだが、それでもたまにドキドキすることがある。これでもこっちは健全な男子高校生なのだ。いくら俺がひんにゅー派だとはいってもこれはやばい。

「あ、そうそう。私が旅行に行っている間にお隣さんが引っ越してきたんだっけね」

 我が家は父さんがローンを組んで立てたマイホームに住んでいる。その隣に新しい住人が引っ越してきたのだ。そこの夫婦が挨拶に来ていたらしいけど、顔を合わせずじまいだ。

「懐かしいよね~。何年ぶりかなぁ」

「え?」

 今の話の流れでなにが懐かしいのか、俺にはまったく分からない。姉ちゃんはそんな俺の反応を、意外とでも言うかのようにきょとんと首を傾げた。

「ほら、かいちゃんって幼稚園ぐらいの時に一緒の組だったじゃない。南帆ちゃんと」

 懐かしいなぁ、南帆ちゃん元気にしてるかなぁ、と姉ちゃんは言うが、俺はまったく思い出せない。おかしいな。あんなに可愛い子ならちゃんと覚えていそうなもんだけど。

「あはは、あの頃の南帆ちゃん、恥ずかしがり屋さんで、出来るだけ地味ぃ~にしてたからねぇ。結局、南帆ちゃんとこの家族は引っ越して、またここに戻ってきたみたいだけどね。今度はお隣さんかぁ。帰ってくるときに見かけたけど、見違えるくらいに綺麗になってたよ。かいちゃんが分からなくても無理はないかなぁ」

「幼稚園時代なんて思い出せないんだけど……」

 普通はそうだろう。ぼやっとしか思い出せない。

「あの頃のかいちゃんも可愛かったなぁ。うふふ」

 ぽわぽわと昔のことを思い出すモードへと移った姉ちゃんは話しかけてもこれは無駄だと思い、俺は二階の自分の部屋へと戻ることにした。

 それにしても、俺とあの楠木南帆が知り合いだったとは。意外な接点だな……。

 自分の部屋の扉を開ける。

「……お帰り」

「ああ。ただいま」

 部屋に入っていた南帆に返事をすると、俺は荷物を置いてお気に入りの紳士向けアニメを視聴しようとBDのパッケージを手に取り……、

「じゃねーよ!」

「……?」

 俺の部屋でかってにゲームをしている南帆がちょこん、と可愛らしく首を傾げる。その可愛さに危うく、疑問なんかどうでもよくなりそうだけどそうはいかない。

「まてまてまて。お前、いったいどこから入ってきた」

「窓から」

 南帆はゲームをいったんとめて、指を窓の方にさす。確かに、窓が開いていた。隣の家とはほぼ密着しているような状態なので、窓から窓へとやってくることも可能だろう。


 ……とまあ、俺と南帆の出会い(再会ともいう)はこんな感じで。

 南帆はちょくちょく、いや、毎日のように俺の部屋に来るようになったのだ。

 俺はなし崩し的にそれを受け入れることになってしまって、こうして一年が過ぎ去ってしまった、というわけだ。

 そもそも、どうして俺が南帆にちょっかいを出そうとするチャラ男を叩きのめしてきたのかというと、南帆はどこか抜けているというか、フラフラふわふわしたようなやつで……まあ、簡単に言えば俺からするとかなり危なっかしい。それから、家では色々と世話を焼くようになったのだが、その余波ともいうべきものが南帆にすり寄ってくる輩を叩きのめす行動に移してしまったのかもしれない。

 何様のつもりだ俺は。



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