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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS① ある日の休日
24/165

オタク通りに行こう/前編

 とある日曜日。

 俺たち『日本文化研究部』は駅前に集合していた。というのも、いきなり加奈から部員たちがメールで呼び出されたからであって、それなりの資金を用意しておけとのこと。

 どうやら今日はどこか金がかかるところに行くらしい。一応、俺は一人暮らしだから無駄遣いとかは出来ないんだけどな。

 しかしこれも部活動の一環とあれば行かないわけにはいかない。

 俺はしぶしぶといった様子でここらにある駅……から電車で一時間半ぐらいの駅前にある『双子山』という広場にやってきた。なぜ双子山なのかというと、広場の真ん中に小さな山のような形をした……なんと呼べばよいのやら、オブジェ(?)のような物があるからだ。今日は日曜日ということもあり、多くの人がいる。

 ぶっちゃけた話、こんな電車で一時間もかけてこの辺りまで来なくてももともと俺たちの学園のある辺りの駅前でも規模としては大きいのでそこらで買い物なりは十分にできるのだが、部活動に関係するということならつまりはそういう系の話になってくるので、学園のやつらが来ないであろう場所に待ち合わせを指定したのだろう。

 というより、よくよく考えれば俺と加奈は住居が隣同士なのだからわざわざ一人で来なくてもよかったのだけれども出かける前に加奈にどうせ隣だし一緒に行くかと誘ってみた。だが、加奈の「女の子は支度に時間がかかるんです!」という声が返事として帰ってきたのでそのまま俺一人でやってきた次第だ。

 まあ、二次元美少女か幼女ならともかく、リアルBBAの長時間の支度を待ってやる義理はない。

 集合時間は十時。

 現在は十時五分。

 集合場所には俺一人。

 今回は場所的にも遠いので集合が遅くなることぐらいは織り込み済みだ。ある程度待つのは覚悟の上だがいかんせん、待ち合わせが美幼女ではなく美少女というのが気力を削がれる。

 何かすることでもないかと俺は携帯――今はスマホというのか――であるブログの画面を開いた。

 タイトルは『かなみんのろぼっと日記』。 現実では完璧お嬢様を演じきっている加奈だが、ネット上ではアイドルのような絶大な人気を誇っている、自称カリスマモデラーである。前々から思っていたことだが自分でガノタとかカリスマだとか名乗っている辺りかなり痛い子のようだ(実際にそれだけの人気があるのが複雑なところだが)。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 とりあえずブログを見てみる。意外と派手さはなく、見やすさを重視した淡い色のテンプレートの中で真っ先に目に飛び込んできたのは一番新しい記事である。

 サブタイトルは『兵士とロボット』。

 詳しいことは解らないが撃墜されて残骸と化した緑色のモノアイロボットの周りに歩兵がいる、というようなジオラマである。普段は素組みしてスミ入れしてつや消しして終了という初心者の俺でも解るぐらいに、上手い。

 どうやって作ったか、などの製作工程のまとめがつらつらと書かれていたが解らないのでパス。この途中だったジオラマ作りを再開したのが昨日の午後九時。最後に加奈ことかなみんがコメントを書いていた。


 つい徹夜して作っちゃいました!


 うぜえ。

 因みに、何んとなく更新日時が目に入ったので見てみると、ブログを更新した日付は……今日の八時だ。

「今日⁉」

 昨日の夜九時から今日の朝八時まで徹夜って根性ありすぎるだろお前!

 ……っていや待てよ。八時ってあれじゃね? 俺が加奈をそろそろ行くかと誘った時間じゃね?

 ということはつまり……。

「女の子支度ってロボ物ブログの更新かよッ!」

 返せ! 俺のこの待ち時間を返せ! 完全に自業自得じゃねーか!

 つーかそれは絶対に『女の子の支度』に入らないような気がする!

 そうこうしている内に時刻は十時二十分。そこでようやく聞きなれた声が三つ同時に聞こえてきた。

「お待たせしました」

「かいくん、はやーい!」

「……意外」

 加奈、恵、南帆の女子組である。

 加奈はオフホワイトとブラックのカットソーに黒のレースミニスカート。恵は胸元とスリーブのレースが少しセクシーなカットソーに淡いピンクのスカート。南帆は白のキャミ付きワンピースで、こうして三人が揃ってみると場がかなり華やかになった。

 周りの男子、だけでなく女子すらもこの三人に見とれている。それぐらいのステータスをもった美少女たちなのだろうが悲しいかな。どいつもこいつも幼女ステータスを持っていない。

 フッ。良い美貌だ。感動的だな。だが無意味だ。

「お前らおせーよ。よくも俺の人生の二十分を無駄にしやがったな。二十分もあれば幼女アニメの大半は見れるじゃねーか」

「相変わらず台詞が一々変態がかってますね」

 ほっとけ。

「それで、今日は何をしに行くんだ。俺はここらにはあんまり来たことがないから何があるのとかが全く分からんぞ」

「言ったじゃないですか。今日は部活動だと」

「察しが悪いぞー、かいくんっ!」

「……鈍い。イ○ベイターのくせに」

 散々な言われようである。

 つーか俺はイノ○イターじゃないからな。ただの人間風情だ。

「ではとりあえず、ついてきてください」

「?」

 言われるがまま、俺はきゃいきゃいと楽しそうにお喋りする女子三人の後についていくこととなった。俺としては早く家に帰って今季の幼女アニメを見たいのだが、どうやらそれも後回しになりそうだ。

 最初から目的地が決まっているので目の前の三人組は迷わず目的地に向かって歩を進めてゆき、その後を俺はついていくこと約十分。センタープラザ西館三階と呼ばれるところについた俺の目に飛び込んできたのは、目の前に広がるアニメグッズ関連ショップがずらりと立ち並び、同士オタクたちがその通りを歩いてゆく光景だった。

「おおっ!」

 な、なんだこの天国は! こんな場所があったなんて知らなかったぞおい!

 感激する俺の隣では加奈がドヤ顔でその豊満な胸をはっていた。本当にこいつは、俺の理想のスタイルの真逆を行くやつだな。やっぱり女の子はつるぺたのまな板でなくては。

「ここは通称、『オタク通り』と呼ばれているエリアですよ。一階から三階までほぼ全てアニメ関連のショップや書店、フィギュア専門店、模型屋、カードショップで構成されています」

「こんなところにこんな物があったのか……知らなかったな」

「おおっ! かいくんが驚きのあまり、敵にア○ダーワールドの中でドラゴンを破壊されて魔法が使えなくなって土壇場の大ピンチに陥っている時に王道覚醒復活を遂げて最終フォームに変身した時みたいな顔をしているよ!」

「どんな顔だそれは」

 うん。確かにカッコよかったけどな。あの最終フォーム。

「というわけでさっそく突撃だー! ヒー、スイ、フー、ドン、ボー、ジャバ、ビュー、ドゴーン!」

 どこぞのベルトのような掛け声と共にダッシュで近場の店内へと突撃を仕掛ける恵。面倒なことになったな。

 まあ、ともかく。

 俺としてもこういった場所にはワクワクせざるを得ないので早足で恵の後を追う。中に入ってみると意外と女子も多い。まあ、ここ最近はオタク女子だの腐女子だのが一気に表舞台に出てきたこともあるのだろう。そもそも加奈たちからしてそうだしな。

「さっ、行きましょう。海斗くん」

 ぐいっと加奈に腕をとられて半ば引きずられる形で店内に誘導される。そうすると必然的に腕をやわらかーい感触が包み込む。しかもサイズは大きい。

「おい加奈、あんまり引っ張るな。駄肉が当たる」

「だにく……?」

 そこでようやく気付いたのか加奈は俺の腕が当たっている自分の体のとある部位を見つめて、しゅぼっと顔を真っ赤にしたかと思うと、腕をいきなり振り払った。

「だ、駄肉ってなんですか駄肉って!」

「は? どこからどう見ても駄肉だろ」

「し、失敬な! こ、これでも、お、おおきいほう、なんですよっ! それを駄肉とはなんですか!」

「胸が大きい? はっ。これだから地球種は」

「いや、あなたも地球種ですよね?」

「イ○ルカント様も仰っていただろう? 胸が大きいのは女子としての退化。幼女としての心を持たぬBBAへの回帰だ」

「回帰どころかこれでも進化してるんですけど」

「悲しいぜ俺は。お前の幼少期はさぞかし可愛い幼女だったろうに、今はそんな情けない姿になっちまったなんてよ」

「何だか逆に新鮮ですよ。そんなことを言われるのは」

「そんな駄肉(※胸です)なんかつけてしまって……。ぺったんこ派な俺からすればお前は敵だ」

「わー。胸が大きいことでこんなにも言われたのは初めてですよ。しかも男の子から」

 はぁ、とまるで諦めたかのようなため息をついた加奈に再度、腕を引っ張られて店内を徘徊する。

「海斗くん、見てくださいこれ! ロボパイの新装版ですよ。近所の書店やメイトからは発売日に姿を消していて見つからなかったので助かりました」

「お前、新装版以前の物も持ってるだろ」

「わかってないですね。こういうのは揃えたくなるものなんですよ。それに新しくなった表紙だけでも買う価値アリですし、新規書下ろしだってあるんですよ! それだけで買いたくなるじゃないですか!」

「……うん。まあ、気持ちはわかる」

 そういうのに弱いんだよな。こいつ。

 俺もだけど。

「ふふふ。あっ、そうだ。こうしてはいられません。ラノベ版ロボパイの最新刊も買っておかなければなりませんね。さあ行きましょう、海斗くん」

 言うや否や、加奈は一人でラノベコーナーまで飛んで行ってしまった。俺は置いてけぼりである。

 どれだけテンションが上がっているんだこいつは。まあ、俺ぐらいになるとたかだかアニメショップに来たぐらいではしゃがないけどな。せいぜい、大量の幼女アニメグッズや例えシリーズもので途中の巻であっても幼女が表紙であるラノベを片っ端からカゴにぶち込むだけだ。フヒヒヒヒヒ。ニヤニヤが止まらねえ。

「かいくん、いくら物理的に口をあけた指輪で強化フォームに変身してスター錦○さんのヒラヒラみたいな攻撃判定持ちの装飾で敵の雑魚を一掃して必殺技の銃撃で敵を撃破したぐらいテンションが上がってるからってそうしているとはたから見たら不審者にしか見えないよ?」

「人を不審者呼ばわりする前にお前のそのややこしい言い回しを何とかできないのかお前は⁉」

 伝わる人が限られすぎるわこいつの台詞は。

「……それで? お前は何も買わないのかよ」

「そりゃ勿論、買うよ?」

 という恵は次の瞬間に「と、いうわけで」と付け足して俺の腕をとる。そのまま無理やり胸にまで引き寄せると俺の腕を抱えたまま移動を始めた。

「かいくんにもつきあってもらおー!」

「はぁ⁉」

 そのまま引っ張ってこられたのは、グッズ系のコーナーだ。その中から目的のものを見つけ出してロックオンした恵がいつの間にか手にしていた店内用のカゴにグッズをぶちこんでいく。

「食玩が大量にあるよっ! いやぁ、向こうのメイトに行っても欲しい種類がなかったからね! 助かったぁ」

 何が助かったのだろうかということはあえて言うまい。

「なんかアレだよね。一度こういうのに手を出すと『変身アイテムだけでも揃えてみるか』って思ってその次は『ベルト買っちゃおうかな……』、『よーし、ベルト買うぞー』ってなるんだよねぇ」

「お、おう……」

 実際、俺もそのクチである。結局、最初はアイテムだけと決めていたのに実際に放送を見て欲しくなってきて最終的に変身ベルトを買ってしまった。後悔はしてない。

 そもそもああいうのは放送が終わると馬鹿みたいに高くなるからな。今のうちに買っておいても損ではない、のかもしれない。

「はふぅ。後はBlu-rayのコーナーに……」

「あれ? つーかこれって、俺がついていく意味あるのか?」

「もーっ。かいくんは乙女心がわかってないよー」

「そんなもんは理解わからんでも問題はない。俺は幼女心がわかればそれでいいんだ」

「相変わらずの変態さんだね。っていうか、こうやって友達と一緒にぶらぶらと店内を歩いて回るのが楽しいんだよ?」

「約二名、既に独自行動しているけどな」

 とはいえ、恵のいうことも分らんでもない。実際に今、俺はこうやって友達と一緒にアニメショップの中を回れて、それだけで十分に楽しい。……後は隣を歩くのが幼女だったらチョーイイし、サイコー! なんだけどな。

「……ま、まあ、それはそれで好都合っていうかなんというか……」

「なんで好都合なんだよ。後で回収するのがめんどくせーだろ。どうせなら四人で一緒に回ったほうが楽だし楽しいだろ」

「うーん。そうなんだけどそうじゃないっていうか……フクザツだねぇ」

「……じゃあ今度は私と来てもらう」

 と、いきなり俺と恵の間に現れたのは南帆だ。そして恵と同じようにぐいっと腕を引っ張られて……、

 ――――ハッ! こ、これはっ!

 その時、俺に衝撃が走る!

 こ、これは! 腕に南帆の胸とも言えないようなぺったんこの胸が当たっている……だと……!?

 お、おちつけ俺。確かに胸はぺったんこだ。一瞬ドキッとしてしまったのも認めよう。だってまな板だもん。

 しかし、こいつは……南帆は幼女ではない。体型こそあの三人の中で一番、幼女に近いがそれでもまだまだだ。落ち着け。こいつは幼女じゃない。落ち着け。落ち着くんだ。

 こんな時は素数を……いや、幼女キャラの数を数えるんだ。

 幼女キャラは基本的に一作品に一人ぐらいしかいない孤高のキャラ(例外は沢山あるけど)。俺に勇気を与えてくれる……。

「フッ、フフッ。フフフフフフ……」

「……何で気持ち悪く笑ってるの?」

「気にするな」

「……普通は気にする」

「可愛いよ、可愛いよ。ハァハァ。やっぱり金髪幼女は最高だよぉ……」

「……おまわりさん、こいつです」

 そんなやり取りをかわしながらやってきたのはTCGが置いてあるコーナーである。ああ、こいつゲームと名のつくものは何でもできるんだっけか。

「それで、何でTCGコーナー? 何か欲しいカードでもあるのか?」

「……何となく」

「ほぅ。で、どれを買うんだよ」

「……海斗が選んで」

「俺か?」

 ぶっちゃけて言えば、俺もこの手のTCGには現在進行形で手を出している。というのも、俺の好きな幼女アニメ作品があるTCGに参戦するとのことで幼女キャラデッキを構築しているのだ。デッキは幼女キャラオンリー。当然ながら戦績はお察し……どころか一緒にカードをプレイする相手がいないのでデッキを作っては家で一人でカードをまわす日々である。

 別に悲しくはない。もう慣れた。……いやでもやっぱり悲しいし虚しい。

「じゃあ、俺がやってるこのTCGのパックでいいか?」

「…………(コクリ)」

 無言で頷く南帆。相変わらず無口ではないが言葉数が少ないというかあんまり喋らないというか。

「って、お前このTCGもやってたのか?」

「……少なくともこの店にラインナップされているカードゲームは全てやっている」

「…………マジで?」

 すげー。カードゲームってガチでやろうと思ったらかなり金がかかるんだよな。

「勝負の相手とかはどうしてるんだ?」

「……休日、ゲーセンを荒らした帰りに軽く近くのカードショップに殴りこみに行く」

 ああ、カードショップでも荒らしやってるんだな。

「……今度、一緒にこのカードで遊ぶ?」

「え、マジで?」

「…………(コクリ)」

 頷く南帆。その後に「二人きりで」と意味深な言葉をつけるが、まあカードゲームは基本的に二人でするもんだしな。当然だろう。

 やった嬉しい。これで夜な夜な一人で幼女キャラのイラストが描かれたカードを見てにやにやしてデッキを一人で回して頭の中でプレイする一人カードゲームをしなくてすむぜ!(虚しい)

「……約束」

「おう。約束だ」

 南帆が差し出してきた小指に俺の小指を絡ませていわゆる「指切り」する。

「……指切りげんまん。嘘ついたら…………」

 ははは。子供のころはやったなぁ。嘘ついたら針千本のーますってやつ。まあ、現実にはそんなこと無理に決まっているので破ったところで何もなかっ……、


「……海斗の部屋の幼女アニメキャラグッズを全て燃~やす。指切った」


「命にかえても約束は守ろう。マジで」


 ☆


 ショップから出てきた俺ははぁ、と満足げなため息をついた。楽しかった。たまにはこんな休日も……悪くはないのかもな。幼女と一緒じゃないことが残念なんだけど。

「何をそんな満足げなため息をついてるんですか?」

 再び腕に覚えのある感触。俺の右腕を加奈がしっかりと捕まえていた。次いで、

「そーだよかいくんっ! まだまだこれからだよっ!」

 今度は左腕に恵が抱きついてくる。相変わらずこの二人は駄肉が多い。少しはあの南帆のつるぺたなぺったんこを見習ってほしい。

「…………(げしっ)」

「痛ぁっ!」

 不意を突かれたのか向こう脛をいきなり南帆に蹴り飛ばされた。誰もが知っているこの弁慶の泣き所。めちゃくちゃ痛い。

「ちょっ、急に何するんだよ!?」

「……むかついたから」

 こ、こいつ。Xラ○ンダーだとでも言うのか!?

 しかしそうこうしている間にいつの間にか南帆が背後から抱きついてきた。

 ……いや、これは、この三人の行動は抱きつきなどというような生ぬるい行動ではない。間違いなく、俺をこのまま捕縛して逃げられないようにして……始末するつもりなのだろう。

 お姉ちゃんが言っていた。

 女の子が抱きついてきた時。

 それは相手を処分する時だと。

「さあ、次に行きますよ海斗くん」

「まだまだ帰らせないからねっ!」

「……まだお昼。今日はこれから」

「おいばかやめろ! 俺をどうする気だBBA共! 殺すのか⁉ 俺を殺す気かぁ⁉ せめて最後に幼女の姿を見せてからにしてくれええええええええええええええ!」




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