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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
589/648

周期表 (しゅうきひょう)


 洲本から飛び立った飛行艇が福良ふくら湾に近づいている。艇は、湾を囲む二本の尾根と同じくらいの高さ、高度三百メートル程まで降下していた。

 雲一つない、冬の晴天だった。


 前席に片田順が座っている。操縦席は鍛冶丸だった。

「あの低い尾根を越えれば湾だ」鍛冶丸が言った。片田が福良港を訪れるのは二度目だった。前回は鍛冶丸のスクリュー船で来た。


 飛行艇が高度百メートルの尾根を越えると、正面に福良湾につながる水道が見えた。右旋回する。

 正面に見える湾の上空に幾つもの白い飛行艇が旋回していた。練習飛行をしているのだろう。

 それらをくぐるようにして降下する。海面が近づき、着水した。


 速度が落ちると、鍛冶丸が水中のかじを操作して左旋回する。煙島の脇を抜け、彼の研究所の近くにある港に飛行艇を着けた。


「『かぞえ』の家は、あの一角の海沿いに並んだところだ。手前から三件目だ」鍛冶丸が指さして言った。

「わかった、ありがとう」片田が答える。

「俺はまっすぐ研究所に帰る。あとで研究所の方に来てくれ、相談したいことがある」そういって、操縦席と前席に防水布をかぶせて、山を目指して歩いて行った。


 片田が『かぞえ』の家を目指す。海沿いの道に並んだ、似たような数軒の家の一つだった。両側は漁師の家らしい、いたるところに魚の開きを干している。


 板戸を叩く、返事がない。


 戸を開いてみると、中はガランとしている。誰もいないようだった。後ろから声がかかる。

「『かぞえ』さんは、昼までは学校だよ、子供に勉強を教えている」隣の住人の女性らしい。

「一緒に住んでいる西洋人はどこでしょう」

「『れおなるど』さんかい。彼も学校に行っていることが多い、子供と一緒に勉強してる」

「そうですか、学校ってどこですか」

「海沿いに歩いていくと寺がある。その中だよ」


 片田が礼を言って、言われた方向に歩いて行った。




 しばらくすると家の数が増えて来た。こっちが福良の中心のようだ。街中のつじで左右を見回すと、左に瓦葺かわらぶきの門と屋根が見えた。

 あれだな、と思いそちらの方に折れる。


 門をくぐると、正面に立派な本堂ほんどう、左に庫裏くり、右に法堂ほうどうらしきものが見える。法堂の方から子供の声が聞こえる。

「あれが、学校だな」そういって、法堂をめざす。


 気付かれないように廊下から中を覗き込む。


『かぞえ』が教壇に立って授業を行っていた。黒板があるらしいが、今そこは覆われていて、大きな布に書かれた『周期表しゅうきひょう』が広がっている。

 化学の授業で習う「すい、へい、りー、べー」の、あの周期表だ。

 生徒を見ると、五歳から十歳くらいの子供達だ。小学生に周期表を教えるとは、『かぞえ』らしい。子供でも容赦ようしゃしない。


「世の中には、これだけの種類の物質があります。他の物質。たとえば石とか、草とか、動物とかも世の中にはありますが、それらはここに書かれている物質の組み合わせで、できています」

「金はどこだ」一人の男の子が言う。

「金はここよ」そういって、表の一番下の段の真ん中を手に持った棒で指す。

「あれ、金の上が銀で、その上が銅だな」

「ほんとだ。似た物が縦に並んでいるのか」


「先生、質問があるぞ」成人男性の男の声がする。見ると板の間にレオナルド・ダ・ヴィンチらしき男が胡坐あぐらをかいて座っていた。膝には三歳くらいの男の子を乗せている。


「あ、またレオ達磨だるまだ、ずるいぞ、レオ達磨ばっかり質問して」

「そうだ、そうだ」

“ほんとうに、レオ達磨と呼ばれているのか”片田が思う


「いいじゃないの、わからないことがあれば、皆も聞けばいいのよ」そういって子供達をなだめる。

「で、なにかしら、レオナルドさん」『かぞえ』が言った。

「そこの子供がいったとおり、その表は、なにかの決まりに従って並べられているのではないか。上の方の欠けている部分が気になる」


「そのとおりです。この表は、ある決まりに沿って並べられています」

「どのようにじゃ」

「まず、上の方にある物ほど軽い物です。下の方は重いものが置かれています」

「なるほど、金は重いからな」

「左右方向も左から右に行くにつれて重くなっていますが、その変化はごくわずかです。左右方向で大事なのは、縦に並んだ物どうしが似た性質をもっているということです」

「似た性質とは、どのようなことだ」レオナルドが尋ねる。


「たとえば、一番左ですが、上から水素、リチウム、ナトリウム、カリウムと並んでいます。リチウムというのはまだ見つかっていませんが、存在することはわかっています。カリウムは少し前に発見されました」

「なぜ見つかっていないのに、存在がわかるのじゃ」

「私たちは、このようなことを<『じょん』の予言>といっています。理科年表という本に書かれているのです。いままでのところ新たに発見されたもので、予言が外れたことはありません」

「不思議じゃの」

「不思議ですね」


「で、この左の列にあるもの水素、ナトリウム、カリウムは空気中でよく燃えるという性質を持っています。この子が指摘したように、金、銀、銅も似ていますね」

「周期的に似た性質の物質が現れるというのか」

「そうです」

「なぜだ」


「授業からは脱線しますが、簡単に話しましょう」



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