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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
582/648

試射 (ためしうち)

巡洋艦『衣笠きぬがさ』が『りびあ丸』から離れて東に向かう。正面には二十隻のガレー船が横一線に並び、こちらに向かってきている。

風は西風なので、ガレー船は櫂漕かいそうしている。


 村上雅房まさふさが『衣笠』を最も接近しているガレーに寄せ、前方五百メートル程のところで機関を停止させた。あとは惰性だせいで進む。

 クレーンが通常魚雷を上甲板から釣り上げる。


 船首に立ったサイラスと甲板長が魚雷の舵機だきを操作する。大丈夫だ、舵は動いている、と魚雷を見る水夫が言った。


「魚雷降ろせ」甲板長が命令する。魚雷は着水すると、水の抵抗で自然にかぎが外れ、艦尾の方に移動する。『衣笠』の総舵手がわずかに『取舵とりかじ』を打つ。


「サイラス、当たらなくてもいいからな。この一発目は舵の感触をつかむために撃つんだ」甲板長が言った。

「わかったよ」

「よし、じゃあ、発射だ」


 サイラスが舵と発射ボタン兼用のダイヤルを押す。シュッという音がして魚雷が走り始めた。

「わずかに左右に振ってみろ。感触をつかむんだ」甲板長が繰り返した。サイラスがダイヤルをわずかに左右に回す。


「けっこう急に曲がるね」サイラスがそういって、無線操縦用の箱を舷側に押し付けた。

「いけそうか」甲板長が尋ねる。


「わからない。こっちの魚雷は、船に当てさえすれば爆発するんだろ。でもせん魚雷の方は勢いよくぶつけないと、もりが刺さらないと思うんだ」

「そりゃあ、そうだろうな。勢いが必要だろう」


「もうすぐだ」そういって、サイラスが緊張する。そして、二百メートル先のガレー船に、ドンッと魚雷が当たる。水柱が上がった。


「サイラス、やったじゃないか」甲板長がうれしそうに言った。甲板長が艦尾楼の方に振り向いて手を挙げた。これで、いける、という合図だ。


『衣笠』が『りびあ丸』の方に旋回する。


「実際に撃ってみた感じだと、魚雷が真正面に進んでいる時が一番操作しやすいと思う」サイラスが言う。

「そりゃあそうだろうな。斜めだと、前後の間隔がわからない」

「なので、こうしたらいいんじゃないかと思う」


「ん、どうやりたいんだ」甲板長が尋ねる。

「まず、『衣笠』を『りびあ丸』の正面に向けて欲しいんだ」

「それはできるだろう、いまそっちにむかっているからな」

「そして、この魚雷は三百メートル走れるってことだから、『りびあ丸』から二百メートルくらいのところで、発射しよう」

「それで」

「魚雷が三十ノット、『衣笠』が十五ノットだから、魚雷が『りびあ丸』に接近したときには百メートルの距離だ。それならば確実に当てられると思う」

「当たったのを確認したら、『衣笠』は旋回してもいいんだな。巡洋艦が停止するまでには時間がかかる」

「それは、構わない」


「よし、じゃあ、艦長と航海長の所に行こう。それでいけるかどうか相談するんだ」




 この時代の錨索びょうさくは麻や亜麻あまの繊維で作られた太いつなだ。なので、海水に入れた時、十分から二十分程の短い時間は水に浮く。

しかし、それを舷側まで持ち上げるのが困難だった。一度海中に入れてしまえば、海水を含んで極めて重くなる。

 彼らが魚雷を検討しているのは、このことによる。

『衣笠』から伸ばした錨索を『りびあ丸』の舷側まで持ち上げるのは、難しい作業だった。しかし、銛魚雷ならば、水面すれすれのところに銛が打たれるので、錨索を結びやすい。


『衣笠』と『りびあ丸』が接弦すれば、乾いた錨索を甲板から甲板に移せるだろう。

その方法も考えられる。しかし、海峡とはいえ、波のある外洋で、しかも周囲からガレー船が殺到してきている時に接弦し、もし二隻のどちらかが破損したら、目も当てられない。


「その方法で、だいたい良いだろう。だが『衣笠』は、舵を入れてから効き始めるまで、数秒かかる。二百メートルは、魚雷で十三秒だ。なので、魚雷が中間点に達した所で舵を入れた方がいいだろう」航海長が言った。

「その方がいいだろうな。魚雷が命中するまでは、ほとんど旋回を始めないから、外すことはないだろう」艦長の村上雅房が添えた。




 そして、彼らの計画通りに、銛魚雷が命中する。『衣笠』が反転して艦尾を『りびあ丸』に寄せた。

 錨索が降ろされ、銛に設けられた輪に通される。もっとも近いガレー船は二千メートルまで接近していた。


「機関長、最大戦闘速度。砲術長、両舷全砲発射準備。敵艦隊の前で威嚇射撃を行う」村上雅房が命令を発した。

 ポルトガルのガレー船隊の前で、『衣笠』が前進を始める。そして両舷砲が同時発砲する。


『衣笠』の両側にそれぞれ、十六、あわせて三十二の水柱が立つ。


『りびあ丸』を曳航えいこうしている『衣笠』は八ノット(時速約十四.八キロメートル)の低速しか出せなかった。


 これは、当時のガレー船が風下に向けて帆走した場合の最大速度とほぼ同じだ。

 短時間ならば、さらに櫂を使うことでガレー船のほうが速いかもしれない。




 片田商店艦が包囲網を突破しようという意思を見せたことにより、ガレー船隊が櫂漕かいそうを停止して、風下に向かって旋回を始める。あわただしく帆が展開される。多数の櫂が、海水を滴らせながら跳ね上げられて、外舷がいげんに固定された。


『衣笠』がガレー船の戦列に入り、一隻のガレー船に斜めから接触する。両艦の舷側が悲鳴をあげた。


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― 新着の感想 ―
あぁ入らないですね。なのでニッコリマークを押したらそっちは入りました。
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