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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
578/648

海峡 (エストレイト)

「百隻というが、どうやってそれだけ集めるんだ。漕ぎ手や兵士、百隻ならば二万人から三万人が必要になるぞ」ドゥアルテ・デ・メネセス宮廷侍従長が尋ねる。

「わが国だけでは難しい。それは認める。スペインを引き入れましょう」ヴァスコ・ダ・ガマが言う。

「スペインだと、何でだ」マヌエル王が言った。

「コロンボという男のことを覚えていらっしゃいますか」ヴァスコが尋ねる。

「コロンボとは、大洋の西を旅した男じゃな。インドに到達したと主張している。そういえば、その後、話を聞かんな」クリストファー・コロンブスのことだ。

「なんらかの敵に遭い、足止めをされているという報告があります」ドゥアルテ侍従長が言った。

「なんらかの敵とは、なんだ」

「良くはわかりませんが、舷側に三段の砲列を持った敵、という噂を聞いております」


「それです。おそらくカタダ商店の艦隊でしょう」ヴァスコが同意する。

「そういうことか。彼らは大洋の西にもいるというのか」

「コロンボの噂を聞かない、ということはスペインも困っているのだろうと思います。こちらから持ち掛ければ、乗ってくるかもしれません」

「なるほどな。彼らが乗って来たとして、どうする」


「先ほどジェルバ島の話が出ました」ヴァスコが続ける。

「うむ、それで」

「ジェルバ島に行く商船の護衛は中型艦一隻のみだと言っておりました」ヴァスコがそういってジョアン・デ・メネセスを見る。タンジールの総督だ。


「そのとおりだ。軍艦と見られるのは、いつも一隻だけ随伴ずいはんしている」と、ジョアン。

「それを襲うのか」これは、マヌエル王。

「そうです、相手が一隻だけならば、二十から三十隻もあれば十分でしょう」

「手始めとしては、ちょうどよいかもしれんな」

「それならば、スペインと当方が用意できるだろう」侍従長が同意した。


「で、どのように戦うつもりだ」マヌエル王がヴァスコに尋ねる。


「会戦場所は海峡エストレイトがいいでしょう。我が方の船をタンジェとセウタに、スペインがもし参加するとしたら、これはジブラルタルに配置しておき、海峡の周囲の高地に見張り台を置きます」ヴァスコはジブラルタル海峡で戦うことを提案した。

「なるほど」

「彼らの船は黒煙を吐きながら航行しますので、遠くからもよく見えます」

「港に船を隠しておいて、見張り台から狼煙のろしを上げさせるということか」

「はい、海峡の幅はもっとも狭いところで八海里程(十五キロメートル程)ですので、多少風向きが悪くとも、ガレー船ならば、彼らの船団を囲むことができるでしょう。接舷戦アボルダジェンになってしまえば、人数の多い方が有利です。


「ガレーはどれくらいの速度で航行できるのじゃ」王が尋ねる。

「まったく無風だったとして、巡行ならば、二から三ノット、これは数時間続けられます。戦闘速度は四から五ノットで、一から二時間移動できます。敵艦への突入時などの最大戦速は六から七ノットまで出せます。これが出せるのはせいぜい三十分程度になります」


「それならば、よほど風が不都合でなければ、相手を取り囲めそうであるな」王が言った。

「さようでございます。そしてカタダの商船を拿捕だほすれば、少なくとも、なぜ彼らの船が風上に進む秘密が手に入るでしょう。さらに軍艦も拿捕した場合には、舷側砲の秘密も入手できます」


「よしわかった。では侍従長、さっそくスペインに打診する準備をしてくれ」

「承知いたしました、陛下」

「スペインの意向にもよるが、わしのほうはそのガレー船二十隻の予算を出そう。スペインが乗ってこない場合には三十隻まで承認する」


 インド洋の時もそうであったが、彼らは友好的に交易しようとか、技術交流しようという発想がまるでわかないのであろう。

 奪うか、奪われるか、である。


「ジョアン・デ・メネセス殿、向こうに戻られたら、カタダ船の監視を行っていただきたい」ヴァスコが言った。

「そうだな、彼らの航海にはなにか規則性があるかもしれん。来航の予測に役立つだろう」タンジール総督が答えた。




 ムギも満足に育たない寒冷な地帯に、ヨーロッパ人は中世を通じて閉じ込められていた。当時のムギ一粒を播いて得られる収量は三粒から多くても八粒くらいだといわれている。

 絶望的とも言える少なさだ。


 穀物以外には、オリーブやブドウなどの果樹栽培、羊の放牧、漁業が主な産業だった。


 ただ、大西洋という大洋マル・オセアノに面していたため、堅牢けんろうな船を作る技術を持った。

 それが、飛躍につながったのである。




 ジブラルタル海峡はヨーロッパとアフリカを隔てている。現在、イベリア半島側はスペインで、アフリカ側はモロッコだ。

 モロッコ側の海峡近くは、当時はポルトガルが支配していた。のちにポルトガルがスペインと同君連合になった時にスペイン支配下となっている。十七世紀にポルトガルが再独立するが、そのとき、この部分はスペインから返還されず、現在もスペイン領のままだ。

 もっとも領地はかなり狭くなっていて、セウタ港のあるアルミナ半島の部分と、飛び地のメリリャ、アフリカ沿岸のチャファリナス諸島などだけだ。タンジールは、現在ではモロッコの領土になっている。


 一方のイベリア半島側だが、この先端のジブラルタルはイギリス領である。十八世紀初めの『スペイン継承戦争』のあとで結ばれた『ユトレヒト条約』でイギリスのものとなり、イギリスは現代まで、この要衝ようしょうを返そうとはしていない。

 スペインは返還を求めているので、両国の間の領土問題となっている。


 取ったり、取られたりである。


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― 新着の感想 ―
片田商店がイギリスと大人な付き合いしてるだけならともかく ユダヤ系の繋がりや商人の横のつながりを持ってる点が影響してきそうだ。 動員する船や船員の数が多ければ多いほど情報は洩れるし電信を実用化してる片…
ポルトガルとスペイン。まあ、情報管理(防諜)出来るかどうかが問題なんですが……さて?
これにイングランドがどのように絡むのかも楽しみですね
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