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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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力 (ちから)

「質量mの物体が時刻と共に移動していくとき、その移動の程度を速度と呼ぶことにしました。同様に速度が変化していく程度を加速度と呼ぶことにもしました」『かぞえ』が言う。

「ああ、そうだ」と、レオナルド・ダ・ヴィンチ。


「物体の加速度がaだけ変化するとき、変化する原因を『力』と呼び、このように定義します。これが『力を定義する式』です」


F = ma


「つまり、この式は、『力とは、物体に加速度を与えるものである』と言っているのよ」

「それは、わしも思いついた。どこかに書いておいたはずだ、確かこんな感じだった。


“感性を持たぬ物はすべて自分自身の力で運動することがないであろう。なので物が運動する場合には不均等ふきんとうな力によって動かされるであろう”

 -パリ手稿 A. 22 v. フランス学士院図書館所蔵


だったかな」彼が『感性を持たぬ物』といっているのは『物体』のことであり、『感性を持つ』生物と対比させて表現している。

「それをご存じなのであれば、この式については、これ以上説明する必要はありません」


「では、この式の左右を逆転して、このように書きます」


ma = F


「これを『運動方程式ほうていしき』と呼びます」

「おんなじ式ではないか、なにが違うのじゃ」

「同じではないのです。これは因果いんがの式なのです。右辺が原因で、左辺が結果です」

「『因果の式』とはなんじゃ」

「これは数学の等号ではないのです、両者は等しい物ではありません」

「わからん」

「プログラミング言語FOCALの等号のようなもの、とでもいいましょうか」

「A = 2 + 3 なら、二と三を足したものを変数Aに代入せよ、のあれか」

「そうです、それに似ています」


 プログラミング言語における 『=』 、つまり『代入』には、かねて賛否両論がある。

BASIC、FORTRANからPythonに至るまでの系列では、代入に『=』を使用する。

 それに対して、これは等号の間違った使用方法だとして、別の記号を使用する言語も昔からある。

 例えば、ALGOL、Pascal、Smalltalkは『:=』を使用する。R言語は『<-』を使う。代入ではないが、Prologでは『AならばB』の『ならば』にあたるネック演算子に『:-』を使うなどという例もある。


例えば机の上に文鎮ぶんちんを置くものとします」

「うむ」

「文鎮は重いですから、下に向かって落ちようとする力、重力を受けます」

「しかし、机があるので動けない」

「そうです、そういう力を抗力こうりょくといいます。抗力が弱ければ、例えば文鎮を紙で折った四角形のようなものに載せれば、紙はあらがえないので、四角形がつぶれます」

「そのとおりだ」

「重力をF1、抗力をF2と書くと、先ほどの式は、このようになります」


ma = F1 + F2


「力が均等しているから、動かないというわけだな。まさに『不均等な力による運動』じゃ」

「そうです。右辺にはいくらでも力の項を並べられます。そしてそれらの力を合成した結果の力だけが残り、左辺の質量mの物体に加速度aを与える、と考えるのが運動方程式です」


「なるほど、わしは文章で書いたが、数式で書くと、一目瞭然いちもくりょうぜんじゃな」

「例えば飛行機であれば、そもそも物体ですから重力Fgが下向きにかかります。次いでプロペラを回すと空気を後ろに押し出し、前方への推進力Ffが発生します。前に進むと翼と空気の間に揚力ようりょくFliftが発生すると同時に、空気の中を突き進むのですから、空気の抵抗力Frが加わります。こんな感じです」


ma = Fg + Ff + Flift + Fr


「これらの力は、すべてベクトルだな。ですべての力を合わせた結果として、上向きの力が正の値になって飛行機が飛ぶ」

「もちろんです。加速度aもベクトルです」




「では、このことを応用して、一つ問題を解いてみましょう」そういって『かぞえ』が応用問題を出題する。

 斜面上を四角い物体が滑り落ちるモデルだった。斜面をどれだけの角度にすれば、滑り落ち始めるのか、そんな問題だ。静止摩擦まさつ係数μは与えられていた。

「まず、この問題で、どのような力が現れるのか、すべて数え上げ、それを合成しましょう」


 レオナルドが、うんうんうなりながら考える。

「重力は、まあ、わかる。それと、斜面にあっても、抗力は発生するだろう」


「そうそう、抗力の向きは、どっちかしらね、で、四角い物体は、何度になったら動き出すのかしら」『かぞえ』が笑う。


「わからんぞ、どうだ、こうか」

『かぞえ』がしばらく見守る。お茶でもいれてこようか、そう言って土間に引っ込む。


 帰って来ても、まだレオナルドは頭を抱えていた。


「Usa la Forza, Leonardo. 動き出す寸前までは、静止摩擦力が発生するんじゃないの、斜面と並行で上の向きに」レオナルドに教わった簡単なトスカーナ方言で言ってみた。


「そうか、そういうことか。この三つの力が釣り合っているが、角度が急になるにしたがって、重力の斜面方向の成分が、静止摩擦力より大きくなる。わかったぞ!」

 そういって、目にもとまらぬ速さで鉛筆を動かし、問題を解いた。


「これで、どうじゃ」レオナルドが得意そうに答案を『かぞえ』に見せた。


「正解よ、レオナルド」『かぞえ』がそういって微笑み、続けた。

「Ricòrdati, la Forza sarà teco. Sempre.」


Usa で始まる最初のトスカナ語の文は、英語に翻訳すると「Use the Force, Leonardo. レオナルド、フォースを使うのよ」になる。

次の Ricòrdatiは、同様に「Remember, the Force will be with you. Always. フォースの共にあらんことを」となる。

 どこかの映画で聞いたことがあるようなセリフだ。


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― 新着の感想 ―
航空機に働く4つの力を分かりやすく表した図 https://www.reddit.com/r/aviation/comments/6nzqvc/the_four_forces_of_flight/
最近のエピは目が滑る。
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