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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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銃の清掃

 素手の格闘術の次は、ナイフを使った短剣術だった。立膝たてひざを立てて、軍曹の掛け声に合わせる。

「防御、攻撃、防御、攻撃。攻撃するときには、腕をおもいっきり延ばすんだ。周りを見てみろ、砂でも小石でも、攻撃に利用できるならば、なんでも使うんだ」


 短剣術が終わると、銃剣術というものが始まる。先ほどの短剣を木銃もくじゅうの先に取り付けて、短いやりのようにして使う。短いといっても、小銃が一.二メートル、銃剣の刃が、さらに四十センチメートル程もあるので、全体の長さは一.六メートルにもなる。

 現在の米軍歩兵が携帯するM16自動小銃は、ほぼ一メートル、これに装着するM9MPBS銃剣の刃長が二十センチである。

藤次郎達の銃剣の方が四十センチも長い。

 MPBSはマルチ・パーパス・バヨネット・システムの省略形で、日本語では『多用途銃剣』という。一九八四年に米軍が制式採用した。

 ナイフ以外の用途にも使えるということで、多用途といっている。まず、さやと組み合わせて、ワイヤーカッターとして使える。鉄条網てつじょうもうの切断などに使用する。刃は片刃で、みねの側は簡易なのこぎりになっている。これでアルミなどの軽金属ならば削ることが出来るという。そんな場面が戦場にあるかどうか、わからないが、爪磨きくらいにはなるだろう。

剣のつばのところが栓抜きにもなる。世界中、どこの戦場にもコカ・コーラを持ち込む軍隊だ。

また、鞘の一部はマイナスドライバーとヤスリとして使える。鞘にはピストルの弾倉だんそうが入るパウチも付いている。


 話が逸れた。


 格闘術と短剣術は、とりあえず課程をこなした程度だったが、この銃剣術はかなり本気で訓練させられた。

 戦闘最前線での勝負は、相手の塹壕ざんごうなり拠点に歩兵が突入して、『最後の一突き』を決められるか、どうかだった。


かまつつ直突ちょくとつ、構え、脱突だっとつ、構え、後転、構え、長突ちょうとつ……」

 他にも、下突かとつ、体当たり刺突しとつ、足がらみ、斬撃ざんげき、縦打撃、横打撃、直打撃、防刺ぼうし防左側撃ぼうさそくげき防左弾倉攻撃ぼうさだんそうこうげき……、とキリがない。

 もちろん、いちいち説明などできない。銃剣に鞘を付けたままの、一対一の模擬対戦も行われた。


 当然だが、これだけ技があると、ボケ防止体操が再現される。覚えの悪い新兵には居残り訓練がまっていた。藤次郎は、幸い、そのようなことにはならなかった。

 居残り、をまぬがれても夜には座学ざがくがある。軍隊には固有の言葉がたくさんあり、それを覚えるだけでも一苦労だ。

 

 藤次郎は、節用集せつようしゅうなどで漢字を学んでいた。漢字が読めれば、軍隊用語を覚える要領がある。上の銃剣術用語を見ても、漢字の意味が解れば、だいたい想像できるだろう。


 彼は三年制の兵学校に進学するつもりだった。入隊時に、その意向を伝えている。なので、同僚の新兵より余計に学ばなければならない。

 数えで十七歳になっていた。満年齢なら十六歳だ。兵学校と彼らが言っているのは戦前の日本陸軍幼年ようねん学校に相当する。

 十三歳から十六歳くらいの少年が対象だった。しかし、飛び級がある。一年かそこらで、卒業してやろう。藤次郎はそう思っていた。


 やっと、銃を使った射撃の訓練になった。いままで横目で見ていただけだったが。まとに当たる、当たらない、と結果がはっきりわかるので、面白いに違いない。新兵はみな、そう思っていた。


「すべて、まっすぐ、正しい向きにするんだ。そうでなければ当たらない」軍曹が言う。


 最初は伏射ふくしゃだった。これが一番正しい姿勢をとりやすい。各自、弾を一発ずつ渡される。


「銃はまっすぐに立てろ、照星フロント・サイト照門リア・サイトもまっすぐだ、傾けるな。銃床じゅうしょうも肩にまっすぐあてる。頭は照門のまっすぐ後ろに置く。そして、指で引鉄トリガーを引くときも、後ろにまっすぐ引く、撃ってみろ」


 いくつもの銃声が鳴る。


「よし、全員発射したな」

「ハイ」と答える。

「では遊底ボルトを開放せよ」遊底が後ろに開かれ、ピンという音がして、薬莢がはじき出される。

「伍長が確認するので、遊底をこちらに向けよ」


 伍長が、銃の中に銃弾が残っていないことを確認する。


薬莢やっきょうを拾って、あそこの箱にいれろ」


「よし、最後に、弾が当たったかどうか確認する。各自、次の兵の為に新しいまとを持ち、的まで躍進やくしんする。自分が撃った的は持って帰ってこい。では躍進、始め!」


 ここで『躍進』とは、軍隊用語である。敵陣地に向かって突撃することを陸軍では『躍進』と呼んだ。ここでは、射手と的との間は五十メートルだった。




「二人とも、的の端の方に、当たることは、当たったよな」吉野の権太が藤次郎に言った。

「まぁな。初めてで当たった」

「しかし、銃を撃つときは気持ちいいが、あとでこんなことをやらなきゃならんとは、知らなかった」


 二人は銃の清掃をしていた。発砲後、銃を清掃しないと腐食ふしょくが始まる。


 まず、銃から削杖さくじょうと遊底を外す。削杖とは銃身内部を清掃するための細い棒で、銃身の下に、平行にとりつけられている。


金盥かなだらいにぬるま湯が入っている。銃床という木製の部分を下にして、盥の中に銃を立て、銃口に向けて手桶ておけで湯を掛ける。そのあと、削杖に小さい布を巻きつけて銃口に差し込み、内部の燃えカスや鉛屑なまりくずを、こすり落とす。

 たった一発撃っただけなのに、盥の湯が黒くなる。

 ぬるま湯を替えて、もう黒くならないことを確認した。次いで熱湯をかける。これは水分を早く乾燥させるためだ。


 次いで大きな布を持ち、銃油じゅうゆを少しらす。銃身の表面が乾燥していることを確認して、銃油を塗る。これは、多くても少なくてもいけない。多すぎると弾薬に浸み込み、発射不良を起こす。少なすぎると、わびが浮く。

 銃身の中も布と削杖を使って塗油する、遊底にも油を塗る。




 三か月程、そのようにして、新兵訓練をこなした。そして、春。藤次郎が兵学校に進学することが決まる。


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― 新着の感想 ―
銃剣術重視は……主人公が帝国陸軍だから と、戦国時代なのもありそう
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