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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
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時代の変化

 片田村から伊賀に帰った藤林友保ともやすを待っていたのは野村孫大夫まごだゆうだった。嶽山城だけやまじょうの畠山義就よしひろが、友保を伴って城に来るようにと言っているという。

 


「用向きを言っていたか」

「いえ、なんようかは言っていませんでした」


 普段義就は、可能ならば事前に用向きを言ってくる。相手に準備する時間を与えれば、全体の時間が短縮できるからだ。

 それを言わないということは、内密なことか、良くないことである。


なんだと思う」

「さあ、わかりません。嶽山城は、かなり困窮こんきゅうしていると見られますので、脱出の手配か何かかもしれません」

「ふうむ。まあ、いいか。嶽山城に行くことにしよう。ところで伊賀に戻ってくるときに片田村に寄ってみたか」

「いえ、いつも通り高田、南都、木津川きづがわ辿たどって帰ってきましたが」

「そうか、では名張なばりの方から行くことにしよう。そうすれば行きがてら、片田村を見ることができる」

「大丈夫なのでしょうか」孫大夫が尋ねる。

「大丈夫だ。なんでも余所者よそものだらけの村ということで、見知らぬ者が歩いていても、だれもとがめん。わしも村の通りを抜けて来たが、誰にも誰何すいかされなかった。じろじろ見られることもなかったな」

「そうですか、ならば行きましょう。私も一度片田村を見てみたいと思っておりました」


「驚くであろう」友保がそう言って笑う。


「ところで、余所者と言えば、久しぶりに国に帰ってきたのですが、見知らぬ者が増えているようですね」

「気付いたか、わしもそれは案じている。つい最近のことだ、増えたのは」




「面白かったであろう」友保が言う。

「私も運河建設の現場で色々な物を見てきましたが、想像以上でした」

 二人は伊勢街道を矢木やぎいちに向かっている。

「ことに、銃というやつはいくさの方法を変えますな」

「そうだろう、あれに狙われたら足軽あしがるは土を掘ってもぐるしかないからな」

「そうですな」そういって孫大夫が友保の顔を見てき出す。

「なんじゃ、おかしいのか」

「いえ、申し訳ありません。まだ慣れていないもので」


 藤林友保は、外山とびの市で買った眼鏡めがねをかけていた。


「よく見えるものだ。これほどならば、もっと早くに求めておけばよかった」

「そうですか、しかし、慣れてしまうと、いざというときに眼鏡なしでいられなくなるのではないでしょうか」

「そうかもしれん」そう言って、友保が眼鏡を外し、眼鏡箱の中におさめてふところにいれた。

「おぬしも、やせ我慢せずに買っておけばよいものを。夜に文字を読むのに役に立つぞ」

「いずれ、求めてみましょう」そういって孫大夫が笑う。

「そのほうがいいぞ。色々なものが、どんどん変わっていく時代だからな」


 沿道の寺から、梅のつぼみをつけた枝が顔をのぞかせる。脇の用水路あたりにはフキノトウが無数に芽を出している。


 藤林友保が言うとおりであった。彼は五十を超える正月を迎えていた。子供の頃には一揆いっきなど、めったに起きなかったが、最近は数年おきにどこかで一揆があった。年貢を米ではなく銭で納める代銭納だいせんのうになった。

 借金、金を借りるということがどういうことか、皆よく理解していなかったので、借金から田畑などを失う者もいた。

 田畑を失ったものは、そもそも先祖伝来の田畑というものを奪うのはオカシイ、ということで徳のある政治を求めて徳政一揆をおこす。

 幕府が徳政を認めるのは、現体制を維持する、という意図があるためであるが、そんなことをしても焼け石に水のようなものだった。


 そうかと思えば、貯めた銭を土倉に預けて豊かになる者もいる。

新しい農機具を作る者がいる。連雀れんじゃく振売ふりうりという行商人が里に出てくる。番匠ばんしょう(大工)、紙漉かみすき、結桶ゆいおけ鍛冶かじなどの職人が増える。


 友保が子供の頃、伊賀では半自給自足であった。外から購入してくるものは、鉄製の農機具くらいだった。

 それが、最近では草鞋わらじですら作らなくなった。家に来る振売から買っている。

 味噌も市で買ってくるそうだ、その方が旨いという。


 年に三度、米、蕎麦、麦を作れるようになった。舶来はくらいの品が市で売られている。ひと昔前ならば、大名の目にしか触れない物だった。


 ほんとうに、あらゆるものが見るに変わっていく。しかも、それが加速しているように見える。

 昔の常識が通用しなくなる。このまま加速が続けば、どのようになってしまうのだろう。


 そろそろ、取り残され始めるのか、藤林友保はそんなことを思った。


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