表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
256/648

南洋社(なんようしゃ)

 年が明けて長禄三年(西暦一四五九年)になる。一月に『ふう』は応神おうじん天皇陵の運河建設現場に戻ってくる。

 さかいでは、昨年から安宅丸あたかまるが竜骨船の一号船を試作している。


 この年の春はひでりになった。


 『ふう』と石之垣いしのがき太夫だゆうは、応神天皇陵周囲の回せるだけの田に水を引いた。水が回らぬ田にいたもみは芽のまま枯れた。


 今年の米は収穫できないかもしれない。残った籾を改めて蒔き、残った田には蕎麦そばの実や雑穀を撒いた。

 しかし、旱は初夏まで続く。


梅雨つゆの頃に、『ふう』が子を宿やどして、片田村に帰る。


 かろうじて育った稲を、秋の嵐が襲う。みやこでは賀茂川かもがわあふれた。

 長禄三年は、不作の年となった。




 明けて長禄四年の春も旱となった。場所にもよるが、長禄元年、三年、四年と四年間の間に三度の不作の年になることになった。

 米が不足していた。細川勝元のわんにも麦が混ざるようになっていた。


「のう、『うさぎや』。堺の阿麻和利アマワリは、何と言っていた」

 阿麻和利は、堺の琉球商人である。


「はい。彼らは鋳鉄ちゅうてつとならば、米を交換しても良い、と言ってきました」

「鉄か」

「はい、彼らの島では鉄が取れません。彼らにとって鉄で出来た農具や武器は貴重品です」


『うさぎや』と呼ばれたのは、みやこの酒屋、野洲やす弾正忠だんじょうのちゅうだった。『うさぎや』は彼の店の屋号だった。

 酒屋から始めて身代しんだいを築き、今は土倉や貿易にもかかわっている。勝元の遣明船の実務もになってきた。


 彼らは、片田が米と干しシイタケを交換したように、琉球から米を輸入しようとしていた。今都では米が不足しており、輸入すれば高額で売れるであろう、そういう目論見もくろみだった。


「ただ、それでもあまり乗り気ではないようです。彼らにとっては鉄より干しシイタケのほうが、高価な上に軽くて、利益になるそうです」

「ならば、いかがいたすか」

「商人達と交渉するよりも、直接船主と交渉した方がよいでしょう」

「船主は商人達ではないのか」

「商人が持つ船もありますが、多くは琉球本土に住む王族や、その家臣の持ち船です。従って琉球商人よりも良い条件を出せば船ごと借り上げることができるかもしれません」


「相当な費用がかかりそうであるな」

「はい、なのでみやこ尼崎あまがさき兵庫ひょうごさかいの土倉酒屋が集まって出資し、今流行りの会社を興すというのは、いかがでしょう」


 弾正忠が挙げた港は、いずれも細川勝元支配下の港であった。


「よかろう。その件、進めてくれ」




 琉球の支配層の立場からすると、干しシイタケで琉球商人が利益を上げることは、もちろん好ましいことである。しかし、鉄が大量に入ってくれば、農具をはじめとして様々なことに利用でき、国全体が富むことになる。

 この話はまとまり、山城、摂津、和泉の土倉・酒屋が出資して琉球と継続的に貿易する会社が成立した。名前を『南洋社なんようしゃ』と言う。野洲弾正忠が代表者になる。


 細川勝元と大友教弘のりひろ正弘まさひろ親子は、大陸との間の勘合貿易かんごうぼうえきにおける主導権をめぐり対立していた。


 博多、山口に拠点を置く大友氏は、瀬戸内海の西側の入口を押さえ、朝鮮半島との貿易にも有利であった。

 一方細川氏は、瀬戸内の東、摂津せっつ和泉いずみの港を押さえている。これらは消費地である京都・大和への入口だ。


 南洋社が設立されたことにより、細川氏は琉球貿易という新たなカードを持つことになる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまで全部読みましたが片田が過去に行った話が現代までつながってるようなのでこの世界のWW2までの日本の歩みも興味深くあります。 片田衆という形で驚異的な科学集団が過去いたようですし戦国時代…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ