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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
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鉛電池

 最初は、効率のいい磁石だ。


良い磁石があれば、発電機、電動モーターなどの効率が良くなる。

 まず鉄の錆びたものを集めてきて、すり鉢で粉末にする。これに亜鉛粉末を混ぜて仮焼きする。焼いたものを再度粉末にして小さな鉄球を入れた筒のなかで回転させ、非常に微細な粉末にする。この過程は水車を用いて数日かけて行う。

 微細粉末になった原料を糊で固めて整形し、再度焼成する。温度は千二百度程度だ。


 『磁石の原料』が焼きあがったところで、別の準備をする。


 大きな鉄板を二枚製造する。一つの鉄板を台の上に置き、その上に荏胡麻油を浸した和紙を一面に広げる。和紙の上にもう一枚の鉄板を載せ、二枚の鉄板が接触していないことを確認する。

 二枚の鉄板それぞれにろうに荏胡麻油を混ぜて柔らかくした物で被覆ひふくした銅線二本ずつを繋げる。


 銅線の向こう側には鉄芯を巻いたコイルを上向きに置く。コイルの銅線は、一度巻いてしまえば固定されているので、こちらの被覆にはうるしを使った。

 上下二枚の鉄板から伸びた銅線の下側の鉄板の方だけをコイルの端につなげる。


 もう二対の銅線は、手前側の片田の立っている方に伸ばしておく。


 神岡の鉱山師が置いていった硫黄の塊を整形して球を作る。球に木製の棒を差し、ハンドルをとりつけ、硫黄球が回転できるようにする。

 硫黄球には銅で出来たブラシが接触するようにした。銅ブラシの根本に下の鉄板から伸ばした銅線を繋ぐ。

 ウサギの毛皮を取り出してくる。この毛皮に上の鉄板から伸びた銅線を繋ぐ。

 念のため、両方の手に手袋をはめた。


「さて、やってみようか」


 そういって、手袋をつけた左手にウサギの毛皮をもち、硫黄玉にあてる。そのままで、右手でハンドルを回しはじめる。

 数回硫黄玉を回したところで停止し、コイルの所に行き上鉄板から伸びた銅線をコイルの反対側の端子に触れる。小さな火花が飛んだ。


「いけそうだな」


 硫黄玉のところに戻り、再度玉を回転させる。今度は数十回以上回した。

 回しているうちに、ウサギの毛皮にはプラスの、硫黄玉側にはマイナスの静電気が発生する。

 冬に金属製のドアなどに触れるとバチッという音がして痛い、あれが静電気だ。


 二枚の鉄板は、コンデンサというもので、一時的に電気をためておくことが出来る。

 片田が硫黄玉を回転させると、毛皮と硫黄に静電気が発生し、回せば回すほど電気が鉄板にたまっていく。

上の鉄板にはプラスの電気、下の鉄板にはマイナスの電気がたまり、鉄板のなかで、両者の電気は互いを引き寄せあい、コンデンサの中に電気が溜まる。

 反対の電気どうしが引き合う力のことをクーロン力と言う。


「もうよかろうか」鉄板には相当の電気が溜まっているはずだった。片田が直接触れば危険な程溜まっているに違いない。

 片田がコイルの所に行き、鉄芯の頭のところに『磁石の原料』を置く。

 そして銅線を持ち、コイルの端子に触れさせる。

 バチッという音が二つした。

 一つは、端子のところの火花とともに、もう一つは鉄芯の上の『磁石の原料』からだった。


 片田が『磁石の原料』をもち上げようとすると、鉄芯にくっついてはがれようとしない。磁化が成功したようだ。


 このような磁石をフェライト磁石という。


日本人の発明だ。カセットテープの磁気テープ、ハードディスクの記録面、コピー機、スピーカーなど、あらゆるところに使われている。

 なお、現在は亜鉛ではなく、バリウムやストロンチウムなど、もっと高性能がだせるものが使われているが、片田の時代には亜鉛が使われていた。


 良い磁石が出来たので、効率のいい発電が出来るようになった。つぎは鉛電池だ。


鉛電池とは、充電できる電池である。自動車のバッテリーが鉛電池だ。


鉛電池の正極(+)は二酸化鉛、負極(-)は金属鉛、両電極は希硫酸(電解液)の中に漬かっている。これで、両極の間に約二ボルトの起電力がうまれる。硫酸と金属鉛は、方鉛鉱炉で作ることができる。あとは二酸化鉛だった。


片田が鉛電池を作ろうとしている最終的な目的は短波無線機を作る事だった。


電気工学は習得していなかったが、二極真空管による整流、三極真空管による増幅、バリコンによる同調、ゲルマニウムダイオードによる検波の原理くらいは知っていた。当面は電球などを作っていけば、やがて真空管製造の技術が育つかもしれない。



技術的な問題について、やれば出来る、とわかっているということは心強いものだ。

他にも、電池があれば、電気信管の起爆装置など、いろいろな用途に使える。


製鉛炉を作り終えた頃、神岡鉱山から第一便の鉱石が届く。


 金属鉛と硫酸の作り方は、すでに述べた。

最後の二酸化鉛を作るには、第一炉から取り出した黄色い酸化鉛の粉末を使う。酸化鉛を米酢(酢酸)に入れると溶けて酢酸鉛になる。片田がちょっとめてみる。

 甘酸っぱい。酢酸鉛が出来たようだ。


 酢酸鉛溶液にさらし粉(次亜塩素酸カルシウム)をいれると不溶性の二酸化鉛が沈殿する。これで鉛電池の材料が揃った。


 次亜塩素酸カルシウムとは、消毒のためプールに投げ入れていた錠剤のことだ。まず、石灰岩を焼いてつくった生石灰に水を加え、消石灰(水酸化カルシウム)を作る。消石灰に、塩素ガスを通してやることにより次亜塩素酸カルシウムができる。

 塩素ガスは、水車にとりつけた発電機で食塩水を電気分解することによりできる。

 発電機は、銅線に漆を塗ったコイル、鉄芯、フェライト磁石を組み合わせて作った。


 食塩水の電気分解により、塩素ガスと水酸化ナトリウムができる。水酸化ナトリウムは製紙に使える。木材を粉砕したチップをアルカリである水酸化ナトリウムで煮沸してやると、木材繊維を固く結びつけているリグニンが溶けて、繊維のみのソーダパルプが出来る。


 四角いガラス箱の中に希硫酸を入れ、蓋をする。蓋の少し離れたところに開けた穴から金属鉛と二酸化鉛の棒を差し、両者に細い銅線を結ぶ。

 二つの銅線を一瞬こすってやる。バチッという音がして青白い火花が散る。


 電池が出来た。


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