表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り上がり、もしくはエルチェの受難  作者: ながる
Esquire2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/68

第44話 じわじわと

「確認は取れてないのですが、炭鉱向こうの国境砦でも騒ぎがあったようで、現在、情報収集に全力を……」


 ガラスの向こうで別の通信士が機械から出てくる紙を眺めたり、忙しなく電鍵を叩いたりしている。緊急の時、トンとツーで文字情報をやり取りする通信は早くて便利だが、全土を賄うほど整備されているわけでもない。電線の設置されてない場所では、まだ腕木通信(テレグラフ *)で賄っている現状があった。

 整理されていない情報をある程度詰め込んで、イアサントの一行は城へと取って返した。すぐにでも動きたいところではあったけれど、全員が夜中に起こされて、今はもうだいぶ明るい。仮眠と最低限の準備を整えて、昼頃から動くことになった。


「騎士団の一部隊は先行している。足を引っ張らないように、しっかり休んで行こう」


 イアサントの命令なら、誰も逆らえない。ブノワはいち早くソファに身体を投げ出した。



 *



 予定よりは早く、列車の時刻に合わせて動き出した。それでもあちらに着くのは日が暮れてからになる。馬で行くよりは早いとはいえ、皆もどかしい気分なのは同じだった。イアサントを囲んで、集めた情報を整理する。

 ドナシアンが地図を広げた。


「北の森の砦で火事に対応していた頃、鉱山向こうの砦でも、似たような騒ぎがあったようだ。あちらは小規模な爆発が連続して、火炎瓶が投げ込まれたらしいが。大砲かと身構えて、建物の一部に損傷もあったようだが、あくまでも軍の気配はない」

「対応に右往左往しているうちに、炭鉱から緊急の通信があった。僕らと同じだね」


 炭鉱の位置を指差して、イアサントは眉を寄せる。


「反乱、だろうか」


 タイミングが良すぎる。


「よしんば、協力者が混乱に乗じて逃げ出す手助けをしたのだとしても、徒歩ではどちらの砦も遠すぎる。騒ぎを起こすタイミングとしては早すぎるな。逃げるための騒ぎではないなら、何のためだ?」


 ベルナールは腕を組んで考え込んだ。

 待遇改善。賃上げ要求。どちらも砦で騒ぎを起こす必要はない。ストライキ程度で良さそうなものだ。

 ではまったくの偶然か。


「ありえねぇ」


 ブノワが鼻で笑う。


「じわじわと数年かけて国境付近はキナ臭いんだ。同時にコトが起こったなら、炭鉱から気を逸らしたかったと考える方がしっくりくる」

「炭鉱との連絡は」


 イアサントの確認に、ドナシアンは首を振った。


「一報以降沈黙していると」

「こちらからではなく、付近に駐屯している騎士団もありますよね?」


 アランが首を傾げながら尋ねれば、ベルナールがお手上げと両手を上げる。


「これから向かうという話ばかりで、あの付近からの話が出てこない。こちらから向かったのは着いたばかりくらいだ。通信塔が無力化されている可能性もある。通信士は専門業だからな。駅付近の街に混乱はないようだが、外出禁止令が出されてるそうだ」

「へぇ。通信塔を。よほどこの土地に詳しいんだ」


 冷ややかなレフィの声に、皆一瞬沈黙する。冬に誕生日を迎えれば十七になるレフィは、もう無邪気さを装うことはしない。


「協力者が内部にいると?」


 ドナシアンの固い声にも、レフィは肩をすくめただけだった。


「協力者か、入り込んで何年も潜伏してる奴かはわからないけど、いるんじゃない? 炭鉱なんて、いくらでも」

「でも、炭鉱から外へ出るのは難しいよ。レフィ。炭鉱内部だけで事を起こすのは簡単だとしても」

「だから時間がかかってるんだよ。内部にいるやつと情報交換できるやつがいれば問題ない。石炭は線路を使って運ばれていくんだから。あるいは……今回の騒ぎも別の目的があるのかも」

「別の?」

「石炭は何に使われているのさ」


 暖炉の火に。厨房で。もちろんそれもあるが、一番消費しているのは。


「製鉄……?」

「中央から増産の打診来てなかった?」


 イアサントは眉をしかめて答えを示した。


「僕は詳しく聞いてないからわからないけど、父さんがそちらの関係者と話してはいたな。レフィ、どこで聞いたんだい?」

「中央に親戚を持つ友人がいてね。世間話で。だから、その程度だけど。必要となれば価値は上がる。先に知っていれば、私腹を肥やそうとするやつもいるかも」

「と言っても、鉱山の権利は領にある。私服と言ったって……せいぜい税を上げて取り分を増やすくらいしか」

「そうだね。国内の小悪党ならね」


 ドナシアンがむぅ、と唸った。


「隣国が、鉱山(ヤマ)ごと占拠するつもりなら」


 目の前にあるものを関税を払って買うことになる。


「ほぉん。欲深じじぃは、お隣さんか?」


 剣呑なブノワの笑顔に、レフィはちらと視線をやっただけで黙っていた。

 ただ聞いているだけのエルチェには、その推測がどの程度当たっているかはわからないが、レフィがまだ別のことを考えているということは、経験上から解ってしまった。

 面倒なことが控えていそうだなと、窓の外に目をやる。

 何が控えているのかは、さっぱりわからないのだけれど。

腕木通信テレグラフ

望遠鏡を用い、塔の上の腕木であらわす文字コードや制御コードを読み取ってバケツリレー式に情報を伝達したもの。手旗信号の巨大機械版。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※思ったよりも文字数増えて、キャラが多いので、主要キャラの人物紹介したTwitterのスレッド置いておきます。

人物紹介

Picrewで作ったイメージ画像とともに簡単な紹介をしていますので、これ誰だっけ?と、わからなくなりましたらご活用ください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ