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第51話 男爵令嬢スカーレット・バークスの旅路






 バークス男爵領は王都から比較的近い場所にある。

 早朝に馬車で王都を出れば、昼を過ぎたくらいに領地に入る。


「あのぅ、エリオット様……」


 王都を出てから何度目か、スカーレットはエリオットに尋ねた。


「本当に、私の父に会うのですか?私の父は、噂でご存じでしょうが、世捨て人のようなもので……まともな会話にはならないと思うのですが」


 スカーレットでさえ、最後に父に会ったのは母が亡くなった葬式の際なのだ。葬式の後、父はさっさと領地へ帰り、母のいなくなった屋敷でわずかな使用人と共に取り残され、ジムとその両親が訪ねてきてくれるぐらいだった孤独な日々をスカーレットはよく覚えている。

 その後、ある日突然ミリアを連れた義母が執事に連れられてやってきて、それからは少し賑やかになったけれど。


 エリオットは婚約者として挨拶を、と言うが、はっきり言って父は自分が誰と婚約しようが婚約を解消しようがいっそ誰かの妾にされようが、いっさい興味がないのだとスカーレットは思う。

 スカーレットがジムと婚約解消してエリオットと婚約したのに、何も言ってこないのが証拠だ。

 子爵家の次男であるジムが婿入りしてバークス男爵家を継ぐはずだった。エリオットは公爵家の嫡男であるからバークス男爵家を継ぐことは出来ない。それなのに、何も言ってこないのだ。実の娘のみならず、男爵位にすら興味がないのだろう。


「会話にならなかったとしても、聞いてもらわなければならないことがある。スカーレット、君にも聞いてもらいたい」


 エリオットは揺るがなかった。


「でも、今頃ミリアが心配しているかも……」

「大丈夫。王都を出る前に男爵家とアレンに手紙を残してきたし、学園には欠席届も提出している」


 エリオットは勝手にスカーレットの届けまで出した癖に何故か自慢げにふんふんと胸を張った。

 早朝に突然家にやってきた婚約者に馬車に詰め込まれて拉致されたスカーレットであるが、エリオットがやたらと意気揚々としているのでついついここまで連れてこられてしまった。

 しかし、父に会うと言われるとどうしても抵抗を感じる。あの父と会ってエリオットがどう思うか不安だし、そもそも父がちゃんと面会に応じるかも疑わしいのだ。


 父と最後に交わした会話をスカーレットは覚えている。会話、というよろり、スカーレットが一方的に言い放っただけであるが。


 あの言葉を、父は覚えているだろうか。そう考えながら、スカーレットは馬車の外の景色を眺めた。

 馬車はやがてバークス男爵領へ入り、スカーレットを母が生きていた頃に数度しか訪れたことのないカントリーハウスへと運んでいった。






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