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第28話 公爵令嬢エリザベート・ビルフォードの不運






 男同士の話があるから今日の朝は生徒会室に来るな、と言われた。

 なんだそりゃ。と思いつつ、エリザベートはわかりましたと答えておいた。どうせ、何かろくでもない話でもしているのだろう。

 いつもと同じ時間に登校してきたエリザベートは、時間を潰すために一人で中庭を歩いていた。

 もうすぐ月に一度のアレンとの茶会がある。婚約者としての義務とはいえ、月に一度の憂鬱な時間だ。

 エリザベートは細い溜め息を吐いた。

 茶会の雰囲気が悪いのは、自分の態度が原因だとわかっている。もっと自然に振る舞い、素直に笑うことが出来ればいいのだが。

 そう考えながら植え込みの横を通り過ぎようとした時、地面に横たわる人影に気づいてエリザベートはぎょっとして足を止めた。


「な、何をなさっているの……?」


 芝生に悠々と寝そべってエリザベートを見上げている令嬢、ミリア・バークスはエリザベートの質問にも臆することなく答えた。


「ビルフォード様には大変なご迷惑をおかけしてしまったので、やはり直接謝罪させていただこうと思いまして」

「そう……その謝罪は受け取ります。それで、何故地面に横たわっているのかしら?」

「ふっ、私の長年の研究成果です。クールビューティー系の美人はこの角度から見上げるのが一番美しく見えるのです!冷たい目で見下ろしていただのくが醍醐味です!」

「そう……」


 堂々と主張するミリアに何を言えばいいかわからず、エリザベートはそっとその場を離れようとした。


「お待ちください。何か悩んでいるご様子。私でよければお力になります!」

「結構です!」


 思わず全力で拒絶してしまった。だって、ミリアが味方についたら何をしでかすかわからない。エリザベートではスカーレットのように見事なタックルでミリアを止めることは出来ない。

 それにそもそも、他人に相談したところでエリザベートの問題は決して解決しない。


(どうして、わたくしは、普通の令嬢のように生まれてこれなかったのかしら……?)


 他の令嬢達のように、茶会を心から楽しめたなら、アレンの気分を害することもなかったのに。

 そう思って、エリザベートは唇を噛みしめた。



 ミリアは歩み去るエリザベートの背中を見送って、「ふむ」と唸った。

 巷の噂では、王太子と婚約者は不仲ということになっている。確かに、アレンとエリザベートの間には甘い雰囲気は一切ない。

 けれど、ミリアがエリザベートを人質に取った時、アレンは焦っていたし憤ってもいた。エリザベートも己れの身よりもアレンの立場を慮っていた。

 二人が想い合っていない訳ではない気がする。

 もしかして、ただ素直になれないだけなのではなかろうか。

 だとすれば、誰かが少し手を貸すだけで、お互いを想い合っていることに気づき仲睦まじい婚約者同士になれるのではないか。


 それは確かに真実ではあったのだが、それを思いついてしまったのが他の誰でもなくミリア・バークスであったことがエリザベートにとっては運の尽きであった。






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