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第26話 侯爵令息クラウス・ベルンマイヤーの労心






 友人の公爵令息が大変なことになっていると報告を受けたクラウスは「罪深き獣達の小屋」に向かった。

 そこで、床にぐたりと倒れ込んで、八匹の獣にわふわふ体当たりされたり登られたり舐められたりしている友人を発見した。


「おい、どうしたんだ?」


 返事はない。クラウスは溜め息を吐いた。

 思えば、放課後の生徒会室でも様子がおかしかった。どうせ、今日の意気込みすぎた昼食で空回りしまくって自己嫌悪に陥っているのだろう。

 クラウスは自分の方へ寄ってきた獣を抱き上げて撫でながら、友人のエリオットに声をかけた。


「一回失敗したくらいで落ち込むなよ。婚約者相手に何もかも完璧に振る舞わなければいけない訳ではないんだから」


 そう言って足で軽く蹴ってみるが、エリオットは動かなかった。

 クラウスは首を捻った。そこまで落ち込むような大失敗をやらかしたのだろうか。


「エリオット?」

「……ジム・テオジール」

「は?」


 エリオットはむっくりと起き上がった。


「スカーレットは、ジム・テオジールが嫌いで婚約解消した訳じゃない……」


 まるで自分に言い聞かせるような調子で呟くと、エリオットは顔を上げてクラウスを見た。


「もし、スカーレットがジム・テオジールを好きだったら、俺と婚約解消した後で再度婚約って出来ると思うか?」


 クラウスが目を丸くするのを見て、エリオットは口を尖らせた。


 考えてみれば、スカーレットがジムと婚約を解消したのは、グンジャー侯爵による圧力からテオジール家を救うためだ。好色親父に目を付けられたりしなければ、あの二人は今でも婚約したままだったはずだ。


(もしも、スカーレットがジムのことを好きだったなら、ミリア嬢と二人で食事をしているのを見て傷ついたんじゃないか?)


 昼からずっと、それを思うと居たたまれない気分になる。スカーレットのためにと思ってエリオットが言い出した婚約が、スカーレットとジムの間を引き裂くことになったのではと思うと、変に息が苦しくなる。


「再度婚約は出来ないことはないだろうが……今すぐは無理だし、スカーレット嬢の気持ちをちゃんと確かめた方がいいぞ」

「ああ、そうだよな……」


 エリオットはくしゃりと髪をかき上げた。

 スカーレットがジムを想っているのならば、ちゃんとジムと結婚できるようにしてやらなければ。しかし、ジムの方はどうなのだ?

 ミリアと二人で食事していたのを思い出し、エリオットは眉間にむっと皺を寄せた。


 もしも、ジムもスカーレットを好きなのだとしたら、ジムが取り返しに来るべきだろう。

 それぐらいじゃないと認めるわけにはいかない。


「クラウス、協力して欲しいことがある」


 決意を込めてそう頼むエリオットの太股を、獣達がはぐはぐと甘噛みしていた。






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