第15話 子爵令息ジム・テオジールの懇願
「どうしてなのよっ!!」
外まで聞こえる大声でミリアが怒鳴っている。馬車から降りたエリオット達は目を見合わせ、男爵家の敷地に走り込んだ。
玄関を叩こうとして、その寸前に向こう側から扉を開けられる。勢いよく走り出てきたミリアとぶつかって、エリオットはその体を抱き留めた。
「何事だ?」
「フレイン様っ……皆様も、どうしてここにっ」
「ミリア!待ってくれ、落ち着いて話をっ」
家の中から、青年がミリアを追いかけてきた。玄関前に並ぶ王太子以下生徒会役員に気づき、青年―――ジム・テオジールが面食らう。
「お、王太子殿下?何故?」
わたわたと戸惑うジムを、ミリアが振り返って睨みつけた。
「落ち着ける訳ないでしょう!どうして止めてくれなかったのよっ!?」
「と、止めたに決まっているだろう!でも、スカーレットの意志が固くて……」
ジムは悔しそうに顔を歪めた。ミリアは彼を無視して走り出ようとする。
「待て。何が起きているんだ?」
「放して!まだ間に合うわ!お姉様を止めなくちゃ!」
止めようとしたエリオットの手を振り払って、ミリアは駆け出していった。
「いったい、何があったのだ?」
アレンが取り残されたジムに尋ねた。
王太子の質問にジムは顔を青くしてうなだれた。
その時、家の奥から憔悴した様子の女性が現れた。疲れた顔をしているが、どことなく面立ちがミリアに似ている。男爵の後妻となったミリアの母親であろう。
「ジムくん、この方達は……」
「王太子殿下と、その婚約者様と、側近の方々です……」
女性は目をいっぱいに見開いた後で、慌てて平伏した。
「王太子殿下とは知らず、ご無礼を……」
「夫人、顔を上げてくれ。それよりも、いったい何があったのだ?」
アレンが尋ねるが、ミリアの母親は顔を上げないまま肩を震わせた。
「……私と、スカーレットの婚約が解消になったのです」
力ない声で、ジムがそう言った。そして、ジムは男爵夫人に向かって頭を下げた。
「本当に、申し訳ない。スカーレットを守れず……」
「いいえ……ジムくんも、テオジール家の皆様も、スカーレットのためによくやってくれたわ。私が何も出来ないばかりに……」
エリオットは家の中に踏み込み、二人の前に立った。
「スカーレット嬢に、何があったのだ?」
嫌な予感に、エリオットの胸がじくじくと痛んだ。
ジムと男爵夫人は目を見合わせ、逡巡するように俯いた。
だが、しばしの後、ジムは何かを決意したように顔を上げ、エリオット達に向き合った。
「無礼を承知で、お願い申しあげます。―――スカーレットを、助けてください」




