212話
「……マリッセ姉さん、お見舞いに来ました」
「マリッセ、無事か!?」
「お、いらっしゃい」
ドクポリの戦いから、一夜が明けて。
ルイとトウリは近場の病院で、搬送されたマリッセと面会した。
「ルイもトウリも、怪我はなさそうね。良かった」
「ああ、俺の怪我は治った、けど。マリッセ、君は────、君は」
ベッドに寝転ぶマリッセは、とても無事といえる状態ではなかった。
全身に包帯を巻かれ、ベタベタと軟膏を塗りたくられている。
所々に痛々しく赤い染みが滲み、両足とも膝から先を失っていた。
「……ごめん」
「気にしないで」
その有様を見て、トウリもルイも言葉に詰まった。
彼女はこれから、自分の足で歩くことはできない。
しかしマリッセは二人を前に、明るく振る舞った。
「それよりルイ、やったじゃないか。ドクポリは解放されたんだろ?」
「あ、ああ」
「目標は達成。万々歳じゃないか」
それが虚勢だというのは、すぐ分かった。
まだ痛みも残っているだろうに、平気なはずがない。
だけど、その虚勢に乗らない方がマリッセも辛かろう。
「聞いたよ。トウリが私を運んでくれたんだって?」
「いえ、自分は結局……」
「爆風を食らった時は、もう死を覚悟したもんさ。ああ、こんな簡単に死んじまうんだって絶望した」
トウリもルイも、ぎこちない笑みを返すなか。
きっとまだ、全身が燃えるように痛いだろうに。
マリッセはそれを感じさせることなく、
「ありがとな。お陰でまた、生きてこのバカの顔が見れたよ」
「マリッセ姉さん……」
普段通り、快活に笑って見せた。
「────お取り込み中、失礼いたしますわぁ」
どんな言葉をかければ良いのか分からなくて、二人が黙り込んでいると。
不意にノックの音が鳴り、外から見知らぬ男の声がした。
「どなたです?」
「オースティン軍の者です。ちょっと入ってもよろしいやろか」
「……軍人が、何かご用ですか」
「ええ。ここに義勇軍のリーダー、ルイ・ノエルが来とると聞きまして」
その怪しげな声に、トウリとルイは顔を見合わせた。
友人の見舞いのさなかに、訪ねてくるなど不躾にもほどがあるが……。
「悪いんですが、急ぎの用事があるんですわ」
「どうぞお入りください、俺がルイです」
「おお、助かりますわぁ」
ルイたちが持っている銃の大半は、違法に入手したものだ。
いろいろと突かれたら、後ろ暗い部分がある。
ルイはマリッセを庇うように立つと、来訪者を部屋に引き入れた。
「どうも、初めましてルイ・ノエルさん。ご協力感謝しますぅ」
────部屋に入ってきたのは、小太りの汗臭い中年男性だった。
彼の髪は脂ぎっていて、口調も独特で、不審者と言って差し支えないほど怪しい。
そんな乱入者を見て、ルイが警戒していると。
「……ケネル中佐。見舞い中に顔を出すのは、さすがに野暮ですよ」
「そういわれても、政府にせっつかれとりましてな」
「相変わらずの仕事人間ですね、中佐は」
孤児院の後輩トウリは、その男をジトっと睨みつけた。
顔見知りのような、砕けた雰囲気で。
「ルイ兄さん、心配はいりません。彼が今回、ドクポリを攻略してくださった指揮官です」
「え、この人が?」
「ケネル・ファビアン中佐です。たまたま手が空いていて、慰安旅行に来てくださいまして」
ルイはケネル・ファビアンと呼ばれた中年男性を、改めて凝視した。
恰幅の良い体幹、鋭い目つき、抜け目のなさそうな顔。確かに『軍の上層部』っぽく見える。
「ケネル・ファビアン中佐って、あの……?」
「ええ、ルイ兄さんのご想像の通りです」
しかもケネル・ファビアンといえば、ジェンさんが言っていた「イリス連隊の片翼」だ。
オースティン軍の精鋭で、最高幹部といって差し支えない大戦期の英雄。
トウリのいう「懇意にしている部隊」とは、ケネル部隊のことだったのである。
「たまたまというか、脅迫というか。ほぼ命令でしたでしょうに」
「はい? ケネル中佐はご自身の意志で、慰安旅行を企画した。……ですよね?」
「あーはい。その通りです。ホンマ、かなわんなぁ」
そんな思わぬビッグネームの出現に驚いていると。
そのケネル中佐にトウリは、釘を刺すような物言いをしていた。
まるで、トウリの方が立場が上のような振る舞いである。
「ルイ・ノエル。アンタにちょっと、生い立ちなど詳しい聞き取りをさせてもらいまっせ」
「生い立ち、ですか」
「アンタが軍の関係者じゃないこと。義勇軍を立ち上げた理由が、賊に妻を拉致されたっちゅうこと。ここが、外交上でキモになる情報らしいんですわ」
ケネル中佐はそう言うと、ポリポリと頭を掻きながら話をつづけた。
聞けば今回のドクポリ解放戦で、軍事行動を起こしたのが政府関係者だと協定上まずいらしい。
なのでルイが市民で、自発的に蜂起したという裏付けが必要なのだそうだ。
「ドクポリは外交上、微妙な場所でしてねぇ。奥さんを取り戻すためにも、協力してくれませんやろか」
「……分かりました。それが、必要なら」
「おお、ありがとうございますぅ! ほな、急ぎで調書用意しますな」
ルイは本当に、ただ立ち上がっただけの市民だ。調べられて後ろ暗いことはない。
そういう事情なら、協力するべきだろう。
「マリッセ、ごめん。ちょっと行ってくる」
「あいよ。面倒かもしれないけど、頑張りな」
本当はマリッセの傍にいたかったが、今はトウリに任せよう。
そう考えたルイは、見舞いを切り上げ、ケネル中佐についていくことにした。
……のだが。
「で、イリス様はどないしますの? 必要なら、ウィンに戻る足は用意しますが」
「……はい?」
ケネル中佐は続けざま、トウリに対して『イリス様』と呼び掛けた。
マリッセもルイも目が点になり、思わず彼女を二度見した。
「はて? イリスとは何のことでしょうか」
「イリス様、おトボケはもう良いでしょ。バレバレですて」
イリスという名前は、ルイでも知っている有名人だ。
大戦の英雄、塹壕のエース、アルノマと抱擁した女軍人。
「自分はトウリ・ロウです。その、イリスなんちゃらなんて知りません」
「あのですなぁ……」
その名で呼ばれても、トウリは知らないふりをしていた。
だがそれは何度も見た、彼女が白々しくトボケている時の顔だった。
「自分はもう、その名を捨てました。二度と、名乗ることはないでしょう」
「あの。この件にカタがついたら、外交部に復帰するつもりとちゃいますの?」
「いえ。自分はもう、ずっとトウリ・ロウです」
信じられないが、トウリの態度からはそうとしか考えられない。
イリス連隊の片翼ケネル中佐に協力を要請できる、小柄な女性軍人。
まさか本当に、彼女は────
「平和の象徴イリス・ヴァロウがいなくなれば、外交部は大混乱ですやろ」
「大丈夫ですよ。優秀な後輩がたくさんいますので」
孤児院の後輩『トウリ・ノエル』は、大戦末期のエースで。
参謀長官でもあった、イリス・ヴァロウその人なのか?
「何て言って辞めはりますの」
「実は、不幸なことに。エイリス軍の介入を示す証拠写真に、うっかり自分が写りこんでしまいまして」
「……あー。いや、その、あれですかぁ」
「政府の人間が、この戦いに参加してたらまずいじゃないですか」
おかしいとは思っていた。ただの衛生兵が、参謀業務や歩兵訓練など出来るわけがない。
思い返せばルイは、敵の小隊に囲まれていたはず。
あの状況から助け出されたということは、トウリがあの小隊を撃破したということ。
「イリス様、さては仕事辞めたくてわざと写りこんだでしょ」
「さーて、何のことでしょうか?」
ルイは知らぬうちに、エースを味方にしていたのだ。
どうりで彼女は、優秀な筈だった。
「はー、まったく。どうして、こんな可愛げがなくなってしもうたんや、イリス様は」
「可愛げがないって、何ですか」
「報告書の犠牲者数を見て、真っ青になっていたイリス様はどこにいったんです。こんな腹黒くなってしもうて……」
「腹黒くなんてなっていません! その、確かにちょっと外交部に染まったかもしれませんが」
そんな大戦の英雄はケネルに煽られると、頬を膨らませて怒った。
その様子は孤児院の時に見てきたままの、トウリ・ノエルそのものだった。
「自分は、官僚に戻るつもりはないです。もう十分に、国に尽くしたでしょう」
「まぁ、イリス様ほど国に尽くされた方はおられんでしょうな」
「そろそろ、お暇をいただきたいのです」
そんな彼女が、本当にイリス・ヴァロウ?
血塗れになって、笑顔で塹壕を走り回ったという突撃狂?
「そろそろ自分も、役目を終えていいでしょう?」
「イリス様……」
ルイがその疑問を口にする前に。
トウリは優しい、慈母のような顔で、
「ずっと、待たせてしまっている子がいますので」
そう、表情をほころばせた。
「犠牲となった七名の命は、平和の礎となりました」
賊との戦いから、一週間ほど経って。
ルイたち解放戦線メンバーは、ドクポリ近郊の墓地を訪れていた。
「ドクポリに平和が戻ったのは、彼らの命の結晶です」
「……」
「では、黙祷」
今回の戦いで犠牲になった七名を埋葬し、弔うためだ。
トウリやジェンはもちろん、マリッセも車椅子を借りて葬儀に参列した。
「せめて、来世は幸せな一生を過ごしてくれよ」
「さようなら、勇敢な戦友たち」
兵士たちは口々に、墓標の前で別れの言葉を述べた。
もちろん、墓から言葉が返ってくることはない。
「これで、全員別れを済ませました」
「そっか。じゃあ帰るか」
葬儀とは、死んだ人間のためだけの儀式ではない。
生きている人間が、前に進むために執り行うものだ。
死んだ戦友に会いに来ることができる、というのは救いなのである。
「……すみません。すこし私用を済ませて来ても良いですか」
ルイが仲間たちの葬儀を終えて、帰り支度を整えていると。
「私用?」
「ええ、大事な私用です」
トウリはそう言って、ルイに手を振った。
彼女は神妙な面持ちで、遠くの区画を見つめていた。
「俺も用事があるのう。ここでお別れじゃ」
「ジェンさんもですか。……そうでしょうね」
「ルイたちは、先に戻っといてくれ」
帰ろうとしないのは、トウリだけではない。
老兵ジェンもまた、意味深な顔でこの場に残った。
「……いや。危ないし、俺もついて行くよ」
「ルイが残るなら、私も付き合うわ」
「ありがとうございます」
二人は歴戦の兵士とは言え、今は銃を持ってない。
まだドクポリ付近で、老人と女性だけになるのは危険だろう。
そう考えたルイとマリッセは、二人について行くことにした。
「用があるのは、ここです」
「……懐かしいな、ここに来るのはいつ以来かのう」
四人はそのまま並んで歩き、古い墓地区画に移動した。
そこは世界大戦中に亡くなった兵士たちが埋葬されている、戦没者用墓地区画だった。
「トウリ。ここって……」
「俺の用は、あっちにあります。ちと別れますか、イリス様」
「了解しました」
普通の戦没者墓地には、多くの元兵士が戦友を訪ねやってくる。
しかしこのドクポリ共同墓地は、賊のせいで墓参りにくる人は少なかった。
そのせいで、荒れ果ててしまっていたのだ。
「やっと、会いに来ることができましたね」
トウリはその中で、寂れた墓石の前に花を添えた。
────その墓標には、ロドリー・ロウ軍曹と刻まれていた。
「ごめんね、ロドリー君」
「……」
「もっと早く、お参りに来たかったのですけど。意地悪な人たちに、邪魔されていたので」
彼女は墓の前で、数分ほど黙祷を続けた。
トウリにしては珍しく、吐息も肩も震わせて。
平原に吹く穏やかな風が、肩まで伸びた髪を揺らしていた。
「トウリ。……その墓って」
「自分の夫です」
「そう、か」
「勇敢で、優しくて、頼りになる人でした」
振り向いた彼女の瞳には、かすかに哀愁が浮かんでいた。
トウリはずっと、夫の墓参りがしたかった。
ドクポリの賊が片付いて、ようやくその念願が叶ったのである。
「ルイ兄さん、時間を取ってすみません。どうしても、お参りしておきたくて」
「気にしないでくれ。……お前に助けられたことの方が多いんだ」
かつての戦友の墓参りと言われたら、反対する理由はない。
ルイも、トウリにならって黙とうをささげた。
「これで心残りが、一つなくなりました」
トウリはそう言い、にっこりと笑った。
……とても綺麗な笑顔だと、ルイは感じた。
「用事は済んだか」
「いえ。あと何人か、挨拶しておきたい戦友が」
「そうか」
トウリはそう言い、すぐ隣の墓を見て。
そこにも、ロドリー軍曹とお揃いの花を供えた。
「そっちの墓は?」
「ああ、こっちは遊びというか」
「遊び……?」
「せっかく作られちゃったので、彼とお揃いにしておこうかと」
遊びという言葉に違和感を感じ、ルイはその墓標を覗き見た。
そこに彫られた名前は、なんと。
「トウリ・ロウ衛生准尉?」
「自分の墓です。行方不明になった際、死んだと思われたんですよ」
「縁起悪いな、壊さないのか?」
「それが、彼の隣にいられる気がして悪い気分ではないのですよ」
まさかの、トウリ本人の墓であった。
聞けば北部決戦の際、一時的に軍から離脱したことがあり、その際に墓を作られてしまったのだとか。
「自分が死んだら、この墓に入る予定です」
「は、はあ」
「少しの間待っていてくださいね、ロドリー君」
そう言ってトウリは、熱心に自分の墓の前で祈った。
ルイは、どう反応すればいいのかわからなかった。
「次はアレンさんという方です。もうちょっとだけ、お付き合いください」
「ああ」
彼女はそう言って、自分の墓の前から立ち去った。
……二つ並んだ墓標に、蒲公英の花が添えられていた。
「これで、もうやり残したことはありません」
「そっか」
トウリはその後、いくつかの墓を回っていった。
ジェンと合流するころには、空が赤く染まりつつあった。
「遅くまでありがとうございました」
「いや、どうせやることもなかったんだ」
「……これで、人形ちゃんともお別れだし」
戦友の葬儀を済ませ、墓参りを終えた。
これで、トウリとルイたちの関係もおしまいである。
「ルイ兄さんたちは、これからどうするんです?」
「伝を頼って、仕事を探してみるさ。マリッセの面倒も見なきゃならんしな」
「悪いなルイ、世話になるよ!」
マリッセの面倒は、ルイが見ることにした。妻が戻ってくるのを、彼女と二人暮らしで待つのだという。
妻が無事に戻ってきたとして、修羅場にならないかトウリは心配した。
「トウリはどうするんだ? 政府には戻らないんだろう?」
「ええ。自分はサバト経済特区に戻るつもりです」
「サバト経済特区?」
「自分を待っている、家族がいる場所です」
トウリはこれから、市民に戻って暮らすそうだ。
サバトとの国境近くにある経済特区に、彼女の家族がいるらしい。
「にしても、サバト人の村かぁ」
「兄さんは、サバト人がお嫌いですか」
「エイリス人よりかは、好きだぞ」
「それは上々」
実はルイはトウリに、近くに住んでくれないかと頼むつもりだった。
男として、義兄として。ルイは、足を失ったマリッセの面倒を見てやらねばならない。
政府と強力なコネを持ち、癒者でもある彼女が近くに住んでくれると助かるのだ。
「だったらマリッセ姉さんと一緒に、サバト経済特区へ来ませんか」
そう考えていた矢先、ルイはそんな提案を受けた。
サバト経済特区へ、トウリと移住する。
ルイは一瞬、どうしようかと考え込んだが、
「住居や仕事の世話もしますよ。知人の営む診療所がありまして、マリッセ姉さんも働けるかと」
「へぇ、悪くない話じゃない? 人形ちゃんがいいなら、お願いしたいわ」
「そうだな。トウリが良ければ是非」
ルイとマリッセは、トウリの話に乗ることにした。
ケネル中佐は、ドクポリは外交上とても微妙な場所だと言っていた。
この付近に残るよりは、安全に暮らせるだろう。
「俺もついて行っていいですかい、イリス様」
「ジェンさんも?」
「俺も行く当てはないんです。……かつて殺しあったサバト人が、どんな風に暮らしてるのか気になりましてね」
そんなトウリの提案に、古参兵のジェンも乗っかった。
ジェンは死に場所を探していたのに、生き延びてしまって困っていたのだ。
「長旅をするなら、人数は多い方が安全だ。イリス様には劣りますが、俺だってそこそこ戦えますぜ」
「何がそこそこ、ですか。自分の突撃についてこれるなら、かなり精鋭でしょうに」
「こう見えて、三十年ほど前線で生き延びてますからねぇ!」
サバト経済特区は、まだまだ人手不足の僻地。
移住者が多いのに、越したことはないだろう。
「それとも、人数が多すぎますかい?」
「まぁ、何とかしてみますよ。こう見えて、蓄えはありますので」
「そりゃあ、イリス・ヴァロウ様ともなれば大金持ちでしょうな」
トウリは二つ返事で、ジェンの申し出を受け入れた。
実際、彼女の貯蓄で一人の面倒を見るくらい簡単だっただろう。
「そうなると、大所帯になりますね。いっそ、馬車を借りましょうか」
「そうだな。マリッセもいるし、その方が助かる」
「では探してみましょう」
────こうして、ルイたちの戦いは終わった。
このドクポリ解放戦が、トウリ・ロウが参戦した最後の戦いになった。
平和な時代が訪れてなお、戦争の狂気が遺した置き土産。
その後始末をつけただけの、小競り合いのような戦闘。
彼女の人生の中では、取るに足らない小規模な戦闘である。
だけど、どんな規模の戦いであっても、戦争は地獄だった。
戦わなければよかった。二度と兵士なんかやるもんか。
ドクポリ解放戦線の生き残りは、みんな口をそろえてそう言った。
「トウリ。お前は、あんな戦いをずっと生き延びてきたんだな」
「ええ、まあ」
ルイも、二度と銃を手に取りたくないと思った。
一瞬の油断で、大事な義妹が黒焦げになることを理解した。
「なあイリス様。……イリス様は世界大戦で、どんな経験をしてきたんです」
「経験、ですか?」
「ええ。ほら、サバト経済特区に到着するまで、何日もかかるじゃろ」
だから、語り継いでいかないといけない。
銃を手に命を奪い合う行為が、どれほど過酷なものなのかを。
「よければ、聞かせてくれませんかね。武勇伝ってやつを」
「私も聞きたいな。あの人形ちゃんが、どうしてイリス様になっちゃったのか」
「……別に、誇らしい話ではないのですがね」
話を振られたトウリは、やや困惑した顔になった。
この三人が期待するような華々しい武勇伝にはならないからだ。
しかし、
「つまらない話で良ければ、お話ししますよ」
「おお! ぜひとも聞かせてくれ」
戦争について、語り継ぐこと。
それもまた平和の維持に必要なことだと、トウリは理解していた。
「では、手前味噌ながら。自分がノエル孤児院を出て、従軍した時からお話をさせていただきます」
「いいぞー」
そして、のんびりと移動する、馬車の中。
トウリはまるで『人形劇』のように、芝居がかった口調で語りを始めた。
「────突然ですが、皆さま。貴方はFPSと呼ばれるゲームジャンルをご存じでしょうか」
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
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