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9話 死を運ぶ呪われた短刀

 四方から飛んでくる土魔法を戦斧で全て叩き落とす。

 こちら側が劣勢なのは明らかだった。

 副リーダーと対峙している2人は低ランクで思いの外1人が粘っているようだがそれも時間の問題だろう。

 1対1の形を余儀なくされている2人も互角か少し不利といったところで見事にこちらの苦手な相手を選んできている。


 自分も3人を相手にして、その上あまり得意ではない土系魔法使いだ。

 ウィンドアックスの風の遠距離斬撃はサブウェポンのようなもので魔法の中でも守り重視の土系魔法を突破するには威力が足りない。

 いつものように戦斧で直接かち割ればいい話なのだが3人の連携が巧妙で近づかせてくれない。

 近づこうとすると後ろからロックゴーレムが攻撃を仕掛けてきてそれに対処していると前方からも土系遠距離魔法が襲ってくる。


 ただ向こうも無理には攻めてこないので膠着状態が続いている。

 味方を待っているのだろう。ここに人数が増えるとさすがに厳しくなるが男は冷静だった。

 それは長年、命をかけてダンジョンに潜り生き残ってきた経験とまだ隠しているとっておきの技の存在があった。

 しかしそれをこの洞窟内で使うには少し憚られる。



§



「ぐふっ……」

 襲ってくる炎から体に魔力を全力で流し身体強化を発動する。

 半分に折れた槍はとうとう燃え尽きてしまった。

 魔力も尽きかけ目は虚になり、許容を超えたのか体の痛みは感じなくなってきている。


「これで終わりだ、じゃあな」

 副リーダーはそういうと炎を形成していく。


 もう終わったと確信した時だった……


 ……!?


 形成された炎は放たれることなく小さく消えていき、副リーダーは口から血を吐いている。

 後ろには燃やし尽くされたはずの皆月の姿があった。


「がはっ……ば、ばかな……なぜ……」


「炎が使えるのはお前だけじゃないといっただろ」


 炎剣が普通に使えるようになるのにはカウントが60必要になる。

 ただしそれは剣に軽く炎を纏わせて振ることができるだけでそれ以上は更なるカウントが必要になる。

 そしてカウント100で使用できるのが炎纏とくしくも副リーダーとほぼ同じ技構成になったのだがこちらの方が練度としては高かった。


 炎纏で爆発から身を守り、それに乗じて姿を隠し隙をついて背後からの攻撃を成功させた。

 隙といっても身体強化が解かれるなんてことはなく、身体強化を突破して背中から心臓を貫いたのは黒紅だった。

 

 副リーダーは膝から崩れ落ちると目から力が抜けていき糸の切れた人形のようにうつ伏せに倒れ事きれた。


「光哉、無事か?」


「はい、大丈夫です……皆月さんは?」


「まぁ、なんとかね」


 とはいったものの、皆月はもう戦闘できる状態ではなかった。

 武器と戯れる者はきれて、さらに武器の性能を十分に発揮できるようになっても魔力は必要だ。炎纏の発動でなけなしの魔力も底を尽きていた。


 その光景は隣で戦闘していた者たちの目にも映っていた。


「……!? まさか勝ってしまうとは、しかし助けにはこれそうもないな、やるか」

 リーダーの男は戦斧を高々と掲げると、戦斧が唸りを上げて風を吸い込む。


「まずい、あれをやるつもりか!?」


 味方である2人は慌てた様子でそれぞれが皆月と光哉の元に駆け寄り抱えて、リーダーから距離をとり防御魔法の展開を始める。

 相対していた全員が異様な唸りを上げる戦斧に目を奪われていたが、危険を察知したのか防御魔法を展開する。


 戦斧は唸りを止め突然の静寂が洞窟を包んだ。


「吐き出せ、『暴風の咆哮(ルド・トゥファン)』」


 少しの静寂を経て戦斧を中心に風は吹き荒れ、あまりの突風に巨大な獣が吠えているような重低音が鳴り響く。

 360度全方位に風の斬撃を何倍にもしたものが降り注ぐ。

 壁も天井も崩れ落盤していく様はまさに天災そのものだった。


 風が止むと戦斧を持った男の周りは落盤によってそれまでとは全く違う光景が広がっていた。

 辛うじて吹き荒れる風と崩れる岩から身を防いだのは敵では1人だけでそれ以外は風に切り裂かれるか岩に押しつぶされているのが確認できる。


 残った1人も既にボロボロで立つのもやっとなのか近づいても反撃の意思は見られない。

 戦斧を地面に置き、腹部を8割程度の力で殴ると男は簡単に気を失った。


 岩の崩れる音が聞こえる方を向くと味方の4人の生存が確認できた。


「もー、もう少し加減はできないんですか?」

 皆月を守っていた男は憎まれ口を叩くがそこにはリーダーへの強い信頼が見られる。


「悪いが加減は苦手でな」


「しっかし相変わらず凄いですね」


 その戦斧はSランク魔術のレプリカを刻まれており、こういった高ランク魔術のレプリカが刻まれた武器をレプリカナンバーという。

 扱いが非常に難しい反面、レプリカといえどその力は絶大だ。

 これらの武器の価値は一つで数百万から数千万は下らない

 ちなみにオリジナルの魔術は天候をも支配するといわれている。


「いやぁ、まだまだだな」


「これでも満足じゃないんですか?」

 1人の男は呆れ、やれやれという表情でもう1人の男と目を合わせるが、その男も呆れ果てている。


「お前たちはオリジナルを見たことがないからだ。あれの前ではこんなのそよ風のようなものだ」

 リーダーの男は遠くを見つめながら過去を思い出す。

 それは自分では到底叶わないであろう巨大なモンスターを軽々と細切れにする女性の姿だ。


 過去に浸っていたい気持ちを切り替えてリーダーとして指示を出す。


「化け物じゃないですか」


「まぁ住む世界が違うということだ、それよりもそろそろ出るぞ」


 3人が軽快な会話を続ける中、皆月は脳内で流れるアナウンスのせいでほとんどの会話を聞いていなかった。


ーー人間に死を与えたことにより『黒紅』の封印が解放されました。

 ステータスが上昇しました。

『崩壊』の属性が付与されました。



§



 町の片隅にポツンと佇む工房、知らなければこんなところにSランクの鍛治師がいるなんて思いもしないだろう。

 外観とは打って変わって中は整理整頓されて掃除が行き届いている。

 そんな工房の一室で強面のおっさんとお茶をしているが慣れ親しんだもので緊張などはなく。


 世間話のように先日、事件に巻き込まれたことを話す。

 あの後ギルドで聞いて分かったことだが、奴らはブラックリストにも載っている元冒険者を中心とした一味の下っ端のようでこれまでは裏稼業とはいいながらもそこまで過激な行動には出ていなかったらしいが今回の一件で危険度が上げられすぐにでも裏の仲間たちも捕らえられるだろうということらしい。


 しかし今日来たのはこんなことを話すためではない、黒紅の封印解除の報告に来たのだ。


「まさか人を殺すことが解除の方法とはな……気をつけろよ、封印ってのは大抵が武器の本質を封じるものだ」


 解除方法が人を殺すということはこの武器の本質は人殺しの武器だという可能性がある。

 武器なんだから人殺しも珍しくはないと思われるかもしれないが、封印までされていたことを考えるとかなりの人数を殺した上に相当な恨み辛みを受けていると考えられる。

 簡単に言うと使用者の心まで狂わせる呪いの武器だ。


「大丈夫ですよ、『武器と戯れる者』がありますから」


「それでもだ、Sランクの武器を甘く見るな」


 親方は珍しく強い口調で注意を促す。

 もちろんこの武器の危険性は分かっている。能力や武器の確認をする際に炎剣がノーリスクで使用できるカウント60で黒紅を使った時だった、頭に強い殺意が押し寄せてきたのだ。

 封印されている状態ですらそんななのだから今がどれだけ危険かは身に染みて感じている。


「分かりました」


「まぁなんだ、今日はお前に渡すものがあるんだ、美鈴持ってこい」


 隣で話を聞いていた鈴は終始緊張している様子で奥へと小走りで行ってしまった。


 戻ってきた鈴は目の前で止まり頬を赤らめながら手に待っていたモノに被さる布を取り差し出してくる。


 それは翡翠に輝く弓だった。

 通常の弓よりも二回り程の大きさを持っていて何というか、吸い込まれるような不思議な魅力を感じる。


「こっ、これ、私が作った初めての作品だから……」


「あっ、ありがとう」


 鈴が照れているせいでこちらまでも恥ずかしくなってくる。


「壊したら殺すから」


「き、気をつけるよ……」


「坊主、今度空いてるか?」


 気まずい雰囲気が流れる中、切り裂くように親方の声が入る。

 正直、助かった。


「大丈夫ですよ、空けときます」


 結局、親方に理由を聞いても教えてくれることはなかった。

 今度の楽しみにしておこうと思う。

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