54話 光月
黒騎士が地面に突き刺さる剣を天に掲げると黒騎士の周りの地面から影が飛び出て形を作る。
現れたのは跪く5体のモンスター。カブトの装飾やマントはないが黒騎士に瓜二つの鎧を纏い、剣を持っている。
黒騎士が剣をこちらに向けると5体のモンスターは同時に襲ってくる。
先ほどのモンスター達よりも練度の高い連携に個々の力も高い。黒騎士はこちらの戦闘を観察しているようだがその力は計り知れない。
攻撃の一つ一つが死をもたらす中、全神経が攻撃に反応する。感覚が何倍も上がり体感時間が伸びているような、それでいて恐怖心は一切感じず、冷静に攻撃を防ぎ、躱す。
黒紅から魔力が流れ込んできて、全身を禍々しい魔力が包み込む。
外から見ればモンスター同士が戦闘してるように見えるかもしれない。
迫りくる剣撃は俺の命を奪うことはできていないが、徐々に傷は増えていく。
それでも俺は集中力が増していく。傷が増えているのは相手も同じだった。
崩壊の魔力は毒のように広がっていく。相手には効き目が薄いようだがそれはじっくりと確実に蝕んでいる。
負ける気がしなかった、このままいけば最後に立っているのは俺だろう。
それを黒騎士も察したのかもしれない。5体の攻撃に手一杯だった俺へ6本目の剣が上空から振り下ろされる。
これを防ぐことはなんとか可能だろうがそれをすれば5本の剣は俺の命を奪うだろう。
伸びきった時間の中、考えても答えは出ない。
できるとすれば相打ち覚悟で少しでも数を減らすことだ。
上空から迫る剣を防ぐことは諦めて5体のモンスターの内一体へ全力の一撃を首元へ叩き込む。
モンスターの首は落ちるが俺は何故かまだ立っている。
上空からの剣も体を貫こうとする5本の剣も俺の体に触れる前に何かに阻まれ止まっていた。
後方を見ると光月さんが魔法を展開していて、光月さんのおかげで命は助かったようだった。
黒騎士は高くジャンプすると空中に黒剣が生成されていく。黒騎士の目線は光月さんを向いていた。
「止めろ!!」
その声虚しく、生成された3本の黒剣は光月さん向けて放たれる。
光月さんは俺を守ったように障壁を展開する、1本目を防ぎ、続く2本目で障壁にヒビが入る。
3本目は障壁を破り光月さんの胸を貫き、光月さんは衝撃で吹き飛ばされ横たわる。
何かぎ切れる音が聞こえた。もはやこの感情がどういう感情かなのか分からない。
気づいた時には一つ目の頭に続いて4つの頭が宙に飛んでいた。
そして、着地した黒騎士の背後に周り黒紅を振るう。
黒騎士は反転して握っていた剣で防ぎ、再び空中に黒剣を生成すると左手でそれを握り振るってくる。
距離を取るが、幾本もの黒剣が飛んでくる。全て弾くと目の前に黒騎士が迫る。
黒騎士の剣は空を切り、背後から斬りつけるがこちらの攻撃も空を切った。
ここにきて、身体能力が上がり続ける。
武器と戯れる者はとっくに切れていた。とめどなく流れ込んでくる黒の魔力は自身の体に力を与える。最早それをコントロールすることはできないし、する気もない。
剣を振るたびに骨が軋み、筋肉が切れる。
痛みは感じるがそれで止まることはありえない。
黒騎士が距離を取って黒剣を放ってくるが、黒紅で弾くまでもなく素手の左手でそれらを弾き飛ばす。
踏み込んだ地面が陥没するほどの力を両足にこめて一気に加速する。
無数に飛んでくる黒剣を最低限だけ避けて近づく。
それらは身体中を裂き、血飛沫が飛ぶが減速することはない。
黒紅を振るうが取れたのは黒騎士の右腕のみ、しかし、崩壊の力が黒騎士を襲い、黒騎士はそれを押さえ込むように左腕を断面にあてて魔力を流し込む。
押さえ込むことに必死な黒騎士の背後から首元を狙う。
狙っていたように左腕に生成した黒剣を反転して薙ぎ払ってくる。
この攻撃が黒騎士の全力の一撃であり、カウンターを狙っていたことには気づいていた。
このままいけば相打ちは必至だろうが、それでも構わなかった。
むしろ、それを望んでいた。
ドス黒い感情と共にある声が頭に流れ込んでくる。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………コロ…セ。
黒騎士の左腕が地面に落ちる。
俺は暖かい魔力に包まれて、再び助けられた。
「光月さん……!?」
両膝と片手を突きながら魔法を展開していた。
「皆…月さん……ダメ…ですよ……ディナーの約束……あるでしょ……」
生きていた? その瞬間に頭を覆い尽くす黒い霧が晴れた。
黒騎士は体を崩壊させながら、黒剣を放とうと生成している。
頭の中の霧が晴れたのはいいが全身を激痛が襲い、体が動かない。
黒剣は再び光月目掛けて放たれた。




