52話 時代遅れの魔法使い
アヤメは戦場の中心にいた。魔法陣を壊すために燐と隼斗と共にやってきた。
敵は中堅あたりの実力者が20人以上はいた。
それが今ではどうだろう……
戦場に漂う悪臭はなんとも鼻につく。それは鉄の匂いであったりはたまた腐敗臭であったり。
そして匂いだけではない、見るに耐えない無残な光景を後に残すのが戦場だと思っていた。
燐様は一人で戦うから下がっておけといってから数分で戦闘は終了した。
今この場には何も残っていない。鼻につく悪臭も見るに耐えない光景も何もない。
その炎は全てを飲み込み焼き尽くすと灰すらも残さず、焼けた匂いも残っていない。
一瞬の内に10人以上が消えたのを異常と悟った相手は脱兎の如く背を向けて逃げ去ろうとしたが炎は全てを飲み込む。
20人以上の人間がまさしく跡形もなくこの世を去ったのだ。
恐ろしいのはそれを顔色一つ変えずに遂行する我らが当主だろう。
この人の前では時間をかけて練りに練られた魔法陣すらも一瞬で燃え尽きる。
§
冒険者ギルドが猛攻を受けている中、エマは地下研究所で資料や研究に必要な材料を破壊しようと手に持って振り上げたところだった。
「エマ君、何をしてるんだ?」
声をかけてきたのはこの研究室の主であるナギサだった。
「えっ、えーと、実は……」
エマはナギサにギルドマスター代理にこうすればいいんじゃないかと提案されたことを実行しようとしていたと説明した。
「相変わらず鬼だな……分かったよ、大体そんなことしなくても今から上に行こうと思ってたところだ」
「そうなんですか!? すぐにお願いします」
「それに彼らとは少なからず因縁があるからね」
エマはナギサと共に上に向かうとギルドを守っていた冒険者達は壊滅状態だった。
「光哉君、あかねちゃん、大丈夫?」
そこには冒険者の二人が倒れ込んでいた。
「くそっ、もうダメだ、敵の数が多すぎるんだ」
「これ、回復薬だから飲んで。助っ人連れてきたからもう安心だよ」
満身創痍の冒険者達は助っ人の言葉に反応してエマの隣にいる男に注目が集まる。
「えっ、一人ですか?」
冒険者の一人が呟く。
それに続いて不満の声が続々と上がってくる。
「しかも、地下に篭ってる研究バカじゃないかよ」
「戦えないだろ」
エマはそれらの声を否定して冒険者達を鼓舞する。
「ナギサさんは英雄ですよ、一人でも大丈夫なはずです……ってギルドマスター代理のリヒトさんが言ってました」
「リヒトが本当に大丈夫って言ってたのか」
「それなら大丈夫なのか?」
蔵井理人が大丈夫と言えば大抵のことはなぜか上手く収まる。リヒトに対する冒険者達からの信頼は厚い。しかし、それでも助っ人に来た男を信用できないでいた。
「でも時代遅れの魔法使いだぞ」
『時代遅れの魔法使い』、ナギサの二つ名であり、蔑称でもある。
ナギサは10年以上も前に現代魔法の基礎を構築した天才であるのは有名だが、それと共にギルドに現れたとき、その10年以上も前の魔法しか使えなかったことから『時代遅れの魔法使い』と呼ばれている。
「あー、とりあえず、あいつらを倒してもいいかな? 頑張んないと研究室を破壊されるようだからさ」
ナギサは浴びせられる罵倒もどこ吹く風で聞き流している。
ナギサが右手を前に突き出すと、その周りに水の球が数個形を作る。それは凄く小さく銃弾ほどの大きさしかない。
「ハッハ、『時代遅れの魔法使い』が出てきてどうするつもりだよ」
相手もナギサの蔑称と噂も知っている。
『魔弾』、魔力を固めて銃弾のように飛ばす魔法。それはナギサが作った魔法だ。昔ならばそれが使えるだけで戦闘に困ることはなかった。
今では小学生が使えてもなんら不思議がないほどの基礎的な魔法と言われている。
そして『魔弾』は長い年月を重ねて改良を経て属性を付与することができるようになっている。
ナギサが今、発動しているのは魔弾に水属性を付与した水弾と呼ばれる魔法。
殺傷能力は皆無で水鉄砲と呼ばれている。戦闘で使用するものはいない。
普通は水弾ではなく氷を付与して氷弾にする。
「やっぱ、遅れてるな水鉄砲でどう戦うんだよ」
相手の暴言には仲間であるはずの冒険者達も賛同するしかなく、半分諦めていた。
「君はもう少し勉強したほうがいいよ」
水弾は高速で発射されると暴言を吐いていた男に命中する。
「えっ!?」
男は両足を失ったことで上半身が地面に落ちる。
「なっ、何をした?」
別の男が焦りを見せるが、次の瞬間その男の右腕は切り落とされる。
気づけば相手で立っているのは一番強そうな男が一人だけだった。
男は襲いくる無数の水弾を避ける。
「ハンッ、少し驚いたが避けれないスピードではないな」
男は加速すると水弾を避けながらナギサに接近する。
男は殺れると確信した瞬間だった、目の前で水弾と水弾がぶつかり合う。
弾かれた水しぶきは高速で迫ってくるが壁のように隙間ないため避けようがなかった。
顔を隠すように両腕をクロスして守るが全身に衝撃と痛みが走り、その場で倒れてしまう。
「エマ君、これで文句ないよね」
「ありがとうございました」
冒険者達は何が起きてるのか分かはなかったがとりあえずは助かったと安堵の表情を漏らした。




