51話 二つの顔
英雄、カリスマ、天才、今までに幾度となく話は聞いてきたし、そう呼ばれる人間と会ったこともある。
よく忘れられがちだが、彼らは生まれながらに得た能力だけでそうなったわけではない。全員が全員、血反吐を吐くような努力や苦難を乗り越えている。
彼らは純粋に尊敬するべき対象であり僕とは真逆の人間と言っていい。
何故か周りの人間は僕をそれらの類に入れようとするが、本当にただの勘違いなのだ。
生まれながらの才能もないし、努力もできない。ただ彼らを見て憧れを抱くモブの一人だ。
僕には二つの顔がある。両方ともやる気もなかったのに周りに勧められ、断り切れずにやってるだけに過ぎない。
一つは蔵井理人としてギルドマスター代理を務めている。
もう一つが九龍白として、九龍の幹部を務めている。
掛け持ちしてることを知っているのは少なくない。
最初は隠さなきゃいけないと思っていたが、いつの間にかバレていて諦めた。
なんというか、どちらも重すぎる。責任が半端ではない。
これまで問題なくやれてきたのは部下が優秀で適当に頼めば万事解決してしまう。
しかし、今回はお前が動けと念を押されているからいつもの手は使えない。
戦闘になるのは必至だが、僕は戦闘能力が皆無といっても過言ではない。
唯一の持ち味は器用なことと、ちょっとだけ知識が豊富なこと。
「エマ、そっちの様子はどう? 大丈夫?」
「なんとか耐えてますが、かなり厳しいです。できればリヒトさんに来て欲しいんですが、今から九龍の仕事ですよね」
「そうなんだよね、いざとなればナギサさんの研究室荒らして相手のせいにすればなんとかなるでしょ」
「分かりました。リヒトさん気をつけてくださいね」
「あぁ、分かってるよ」
くそー、やっぱダメか、できればそれとなくギルドから援軍出してもらおうと思ったんだけどな。
「ハク様、そろそろ出陣の時間です」
九龍家に仕える部下の一人が急かしてくる。戦闘能力はすごい高いが今回は動くなと言われているため助けてはくれない。
一緒に行っても見物するだけだろうな。
§
魔法陣の元へ向かうといかにも強そうな3人が護衛についてるようだ。
部下もついてきてるが遠くでこちらを観察している。
どうしてこの一大事なのに助けてくれないんだろうか。
遠くで観察していた部隊の中でも似たような声は上がっていた。
「ユキさん、見てるだけでいいんですか?」
最近入ったばかりの一人の男が隊長の女性に尋ねた。
「今回は動くなと命令されている。ハク様の邪魔をするなとな」
「私はハク様の戦いぶりを見たことがないのですが本当に大丈夫なんですか? 噂では戦えないと聞きますが」
「それはハク様本人が流してる噂だろうな、よくご自身で僕は戦えないから頼むと指示を出してくるからな」
「ではなおさらじゃないですか。あの3人、なかなかの手練れですよ」
「戦えないと言って、本当に戦えない奴がいるわけないだろ。なぜそのような噂を流すかの真意は分からないが実際は全く違う」
魔法陣の護衛をしている3人の男の前に現れたのは弱そうな男。
「えーっと、どうも九龍白です。できれば降参して欲しいんですけど……」
「兄者、九龍なんて大物が出てくるなんて聞いてねぇぞ」
「まぁまて、本物と決まったわけじゃない」
「殺るか」
雇われた傭兵の三兄弟はそれぞれが鎖鎌をくるくると回転させ始め、ハクを囲った。
3人は同時に鎖鎌を投げる。それらは不規則に動いてハクを襲う。避けたとしても三兄弟はそれをキャッチしてすぐさま投げる。
鎖鎌は交錯し誰も見当がつかないような動きを見せている。
しかし、ハクはそれら全てを躱す。
三兄弟らこの技を習得するためにとてつもないほどの修練を積んできた。
少しでも失敗すれば自らに鎖鎌が当たることになる。
「なかなか、やるな、スピードアップだ!!」
鎖鎌はさらに速度を上げて交錯する。
ハクは迫りくる鎖鎌をキャッチしてそれぞれに投げ返す。
「ばっ、ばかなっ!? こ、この技を防ぐでもなく躱すでもなく、投げ返すだと、どうやって……」
「そういわれてもなぁ……」
ハクはこの技を知っていた。というよりもこれはアマンバードで新開発されていた武器の能力の一種で不規則に鎖鎌が動いてるように見えるが実はパターンが決まっている。
そのパターンを掴むために何日か徹夜で練習したのは秘密だ。
三兄弟はそのパターンを体で覚えたみたいだから才能が凄いんだろうな。
「もっとスピードを上げるぞ!!」
「でも兄者、これ以上早くすると……」
目で追えないほどの速度をもつ鎖鎌だが、手元から投げられたタイミングとパターンを考えれば見えなくても大体どこにあるかは把握できる。
ハクは再び鎖鎌をキャッチして投げ返す。
「……!?」
3人はハクが間に入ったことによりタイミングを誤りキャッチに失敗し、鎖鎌は心臓に突き刺さって倒れた。
§
「バッ、化け物ですね、あのレベルの相手に自分の力を一切見せずに相手の武器で倒してしまうとは……」
「だからいっただろ、我々如きで計り知れるお方ではないんだよ、いくぞ」
遠くで見ていた部隊はその力の一端を見て驚嘆していたが、ハクが手を振って読んでいるのですぐさま向かい魔法陣の破壊に移った。




