50話 天鳥の能力
作戦通りにことは進んでいる。ユーリの奇襲は運悪く避けられたが護衛のいない天鳥などすぐに片がつくだろう。
自らの主人でもある葉月に命じられた任務を遂行させる。
もう一人のスパイとして潜入していたユーリと天鳥の首を狙う。二人は目配せをしてユーリはナイフで男は拳で襲いかかる。
……!?
またも攻撃が避けられたことに二人は首を傾げる。情報では天鳥に戦闘能力はなく、その全てを自らの使役する護衛に任せているのにも関わらず攻撃が当たらない。
先の一撃をたまたま避けただけならまだ分かるが、今の攻撃は二人で連携しての攻撃でそこらの冒険者なら簡単に首を落とせている。
多少の戦闘の心得はあるということだと判断し、二人は修正する。
これまでも情報通りでないことなど多数あったし、それらを超えてこの場に立っている。
ユーリは一段階上げて攻撃をする。それは柔軟性を活かした鞭のような攻撃でナイフを持った腕が不規則に体を狙う。
首を一撃で狙うなど楽はせずに痛めつけてからじっくりと命を狙うことにした。
天鳥は不規則に動くナイフを持った腕を手で弾き距離を取る。
距離を取ったところへ男の右足での上段蹴りを振り抜くがこれも躱されそのまま左足での後ろ回し蹴り、これも当たらない。
さらにその蹴りの反動で地面に手をつき、コマのように回転して蹴りを重ねるが全てが当たらない。
天鳥はさらに距離を取った。その顔に焦りはなく、汗一つかいていない。
「もしかしてだけど、たったの二人でどうにかなるとでも思ったのかい?」
天鳥は二人を見下した目つきで淡々と喋る。
「馬鹿な、情報では戦闘は全て使役している護衛に任せてるはずだぞ」
男も天鳥の達人にも近い動きに違和感を感じていた。
「そうだ、それに使役系はその能力の大半を使役先に持っていかれるために本体は弱いはずだぞ」
ユーリも男に続ける。
ユーリの言う通り、使役系の能力を持っているものはその力のほとんどを使役しているモンスターに渡すため、本体は弱いと言うのが使役系の弱点でもある。
そのため使役するモンスターは常に近くに置いておかなければいけない。
「君はそっちの喋り方の方が合ってるね、まぁ君とは短い期間とは言え一緒に仕事をした仲だから教えておいてあげよう。君が言ってるのは通常の使役能力の話だろ、僕は特別なのさ、それをお見せしよう」
二人の頬を汗が伝う。天鳥は異常だった。まず裏切られたのにも関わらず平然とし、さらには戦場にあっても余裕を見せて演説を続ける。
「舐めるなっ!!」
ユーリはナイフを投げる。
天鳥が飛んでくるナイフに手をかざすと、ナイフは空中で止まる。
そして手を握るとナイフがひしゃげていく。
「これは、話で聞いていたヤバい秘書の能力か!?」
男が驚きを見せると、いつの間にか体に鎖が巻きついて離さない。
そしてユーリの足にも鎖が迫るがそれをジャンプで避けるも体が空中で止まり、異常な力で握られているかのような圧力。
「そこらの使役系能力者は与えるだけだ。僕は与えることもできるし搾取もできる。どう言うことが分かるか? 部下の能力を全て使えると言うことだよ」
二人の心が折れる音が聞こえた。そして、表情は曇り青ざめていく。
鎖を外そうと全力を出していた男からも力が抜ける。
鎖の先には刃がついている。刃は男に向けられていた。
「待って……」
刃が男の心臓を貫く。
ユーリは体の関節を外して鎖を解き、背中を見せて必死に逃げる。
一定の距離をとって天鳥の姿が見えなくなっても走り続ける。
逃げ切れたかと少し安堵した時、鎖が体を締め付ける。
その鎖は逃げてきた方角からではなく、前方から現れた。
角から足音が聞こえる。そのプレッシャーは今までに感じたことがないほどに圧倒的だった。
恐怖で体が震える。
姿を現したのは天鳥ではなかった。
「まさか、本日二体目の贄をいただけるとは」
執事は悪魔のような笑みを見せたところでユーリは絶命し、全身の血が鎖に吸われていく。
ミイラのように干からびた体は吹かれる風で粉々になり散っていく。
「セツラ、ご苦労だったな。これも頼んでいいか」
「お任せください」
天鳥の足元には巨大な魔法陣が描かれていた。




