49話 魔導部隊総隊長
制圧されかけている自衛隊本部に一人の老人は颯爽と現れた。
「閣下? ということはこのジジイが伝説の男なのか」
敵勢力を指揮する男は這いつくばる若い男と老人に尋ねた。
指揮をする男は『長月』と呼ばれているが本名ではない。『ジュゼルバル』の幹部になるとつけられるコードネームのようなものだ。
この組織のほとんどの人間が今の魔法ありきの世界に理不尽をつきつけられ、嫌気をさして革命を起こそうと立ち上がっている。
しかし、長月にそんな崇高な思いなどない。魔法が使えないと罵ってくる連中を片っ端から潰してきた。いつからかそれが快感に変わってきた時にはお尋ね者になっていた。
そんなところをこの組織に拾われ、あれよあれよと幹部にまで上り詰めた。
組織に入ったのは暴れる理由がもらえるからだ。ただただ戦闘を楽しみたい。モンスター相手ではなく人間を相手にするのが最も快感を得られる。
ついてくるメンバーも戦闘狂ばかりだ。今回も楽しく暴れられると思っていたが自衛隊が思いの外、手応えがなく不完全燃焼を感じている。
そんな中、自衛隊の窮地を助けに現れたのが一人の老人で伝説と呼ばれるはずが、正直強そうではない。
今までも格上と戦ってきて何度も殺されそうになったことはあるがそいつらからはビンビンとヤバさが伝わってきた。目の前の老人には感じない。
「噂なんて誇張されて伝わるってのはホントだな。お前らやっとけ、俺はしらけたわ」
手応えのない奴を相手にしてもう萎えていた。老人の相手は部下に任せる。
§
「閣下、ここはもうダメです。お逃げください」
這いつくばる男は必死に立とうとする。
「君たちは下がっていなさい」
老人に敵の銃弾がふりそそぐ。
奇跡でも見ているのか……
何百という銃弾の嵐が老人に当たることはない。
ゆっくりと敵に近づいていく、さらに激しく銃弾は飛ぶが何にごともないかのようにゆっくりと歩みを進めていく。
何をしたのか分からなかった。
気づけば相手が倒れている。その伝説を目の当たりにしている。
「くそがぁぁぁぁぁぁーーー」
ナイフを持った相手が老人に飛びかかるも、空中で命が尽きる。
命が消える度に刀が鞘にしまわれる音だけが聞こえる。
老人が腰に携えている刀を使っているのはなんとなく分かるが、高速の居合を目で追うことはできない。
残すは相手の指揮官である『長月』のみだった。
長月は斬り伏せられていく仲間をただただ、ぼーっと見ているだけで動かない。
恐れをなして動けないでいるのだと考えた。
誰でもそうだろう、先ほどまでは虫も殺せなさそうな老人にしか見えなかったのに、蓋を開ければ虫のように人を殺す。
何が恐ろしいのかというと、これだけ人を殺しているのに殺気の一つも感じない。
§
長月は散っていく仲間達を見て興奮していた。
極上の獲物だ。ただの老人ではなくまさしく生ける伝説。噂は本当だったのか。
あまりの興奮にヨダレを垂らしているのにも気づかない。
「最高だぜ、ジジイ!! 殺し合いが楽しめそうだ」
長月は一気に加速し老人に襲いかかる。
老人は微動だにしない、気づけば刀は首元にあった。
高速の居合、誰もが終わったと思っただろう。
甲高い音を鳴らすと刀は首元で止まる。
その光景を見た全員が驚きを隠せなかった。圧倒的な身体強化によって高速の居合を防いだことにもそうだが、なによりも初めて見たその刀身に驚いた。
緋色の刀はあまりにも禍々しく、あまりにも美しい。一瞬で妖刀の類だと分かる。
「ハッハ、見せる予定はなかったんですがね」
老人は笑みを溢し、刀身が消える。
そして逆側の首元に現れる、首を落とそうとするがまたも弾かれる。
再び刀身は消える。長月の体の至る所で甲高い音が鳴り続ける。
「くぅ、なかなか厄介だな。そろそろ俺のターンじゃないのかな」
長月は防ぐのに精一杯でその場から動けなくなる。
「いえいえ、あなたに手番は回りませんよ、このまま落ちなさい」
老人は笑みを溢し、その手元は速すぎて見えない。
ひたすらに切り続けられ、甲高い音が戦場に鳴り響くが、徐々にその音に変化が現れる。
長月は右の拳を宙に向かって振った。
そこに緋色の刀身が現れ、拳とぶつかると刀身はなんとも言えない嫌な音を鳴らして折れる。
「ふっ、俺がただただやられてるとでも思ったのか、パターンを分析しつつ、刀にダメージを与えていたのさ」
長月は膨大な戦闘経験から勝つための布石を打っていた。しかし、自身のダメージも軽くはなかった。刀を弾いてはいたが衝撃は体の内側に響き、骨の数本は折れていた。それでもリターンは十分に取れている。
「まさか折られるとは、私もまだまだですね」
老人は刀を折られてなお笑みを溢しながら、刀を鞘に戻す。
「いつまで余裕ぶってられるかな」
長月は右腕を振りかぶる。
老人の目が鋭く光る。今日初めて見せた殺気。
長月に対して刀でつくような動作を見せるが、その手に刀は握られていない。
しかし、長月の右腕は体を離れ宙に舞う。
「おや、これは本当に私も耄碌しましたかな、それともあなたが思いの外やり手なのか、どちらでしょうか」
鋭かった目つきは笑みに変わる。
「ジジイの皮を被った化物だな」
長月の感じた一瞬の殺気はこれまでに戦った誰よりも重く鋭く、勝てるヴィジョンを見せない。
心臓目掛けて飛んできたそれを右腕一本で防げたのは奇跡に近かった。
落ちた右腕を拾い、撤退する。その老人が追ってこなかったのも運が良かった。
「動ける方は魔法陣破壊の補助と怪我人の治療をお願いします」
ボロボロの自衛隊員達は伝説を見ていた。
中には以前、その老人を見下していたものもいたが、今となってはそんな馬鹿はいるはずもない。
全員が神のお告げを聞くように老人の指令に迅速に対応する。
一人の老人によって自衛隊本部は窮地を脱した。
老人は魔導部隊総隊長『斎藤龍一』。




