47話 九龍
魔導十家とは優れた魔法技術をもって、その他を導くために作られた制度である。
選ばれれば途方もないほどの権力を手に入れることが可能となる。
その代わり選ばれるには並大抵の功績では選ばれることはなく、個人単位で選出されることは不可能だ。
このうち企業が選ばれているのはわずかに3つ。魔法技術を使った画期的な運送業で大成功を収めた企業に魔法を使った医療体系で功績を挙げた病院、そして襲いくる脅威を跳ね除けるための武器を提供しているアマンバードカンパニーだけである。
では残りの7つは何なのか。実は始まりの日以前にも魔法とは呼ばれないまでもそれに近い技術はあり、モンスターに近いもの達も存在した。
それらは忍術であったり陰陽術、妖怪という単語で歴史に名を残しているがれっきとした魔法技術とモンスターであった。
すなわち太古よりその技術は継承され洗練されて伝わってきているため、世間一般に魔法やモンスターが広まった、始まりの日からたかだか20年程度の他の存在が追いつくなど到底敵わない夢だった。
魔導十家は各地に散らばってはいるが東京に5つも集中している。
3つの大企業は都市ということもあって当然だろう。そして不知火家も東京に本家を置いている。
もう一つ魔導十家の中でも相当な力を持つ一族が東京には存在していた。
普段よっぽどでもなければ表舞台には出てこないその一族は今回の大規模テロ攻撃を受けついにその重たい腰を上げようとしていた。
魔導十家『九龍』に一族全てを仕切る者は存在しない。
例えば不知火なら当主を頭として動く。他の魔導十家もそうだ。3つの企業も当主ではないが社長がその役目を担う。一族の中で当主が最も権力のある立場になるわけだが、九龍は違う。
9人の頭がいて多数決で一族の舵取りが行われている。もちろん一人一人が他の当主と同等の力を持ち、配下がいる。簡単に言えば9つの一族の集合体が九龍というわけだ。
力が強いのも当然だろう。他の家に比べれば単純に9倍なのだから。
さらに九龍の配下として九鬼一族も控えている。九龍と同じく9人の頭が存在している。
§
「では今回の一件は防御に徹するということで決まりだな」
「それで問題ないだろう、他が勝手にやってくれるだろうからな」
「では任せたぞ」
会議が終わると8人の姿は消える。魔法を使用した投影が切られたのだ。
部屋に一人残るのは実体である九龍白だった。
その表情は疲労に満ちていた。老獪な面々を相手しての会議が精神をすり減らしていたのだ。
30手前のハクはつい最近頭の一つになったばかりのニュービーで他は若くても60を超えている。
満場一致で今回のテロ攻撃を防ぐことが決まったがその仕事は自分に投げられていた。
九龍は各地にいて東京にいるのが自分なのだ。まぁ、どのみち自分の生まれ育った街を何もせずにみすみす破壊させるわけにはいかない。
秘書の一人を部屋に呼び、現状を確認する。
入ってきた女性は淡々と説明をする。さすがの九龍の情報網といったところかこの混乱の中にあっても相当細かい情報まで揃っている。
特に気をつけなければいけないのは東京の5箇所に設置された魔法陣だろうと判断する。
それぞれの魔法陣が連動して超大規模魔法が発動されると思うがその被害は計り知れない。
しかし気づいているのは自分だけではない、気づいてるものが近場に向かって阻止しようとしている。
くしくも近場の1ヶ所の魔法陣を破壊するのが今回の仕事か。
正直、戦闘は得意ではない。そもそも継ぐ気なんてなかったのに半ば強引に九龍白を継がされた。
苗字も名前も自分のものじゃなかった。頭になるものだけがこの名前を継ぐのだ。
部下の者に丸投げでも良いし、九鬼一族の手を借りるのもいいが、今回は大仕事だ。
自分でやるしかない、それとなく圧力もかけられている。
全然聞いた話と違うじゃないかという思いが沸沸と湧き上がってくる。
それぞれの頭が平等で全て多数決で決められるはずなのに、蓋を開ければ平等なんて程遠い。
多数決の形だけは取っているがあんな圧力をかけられれば誰だって思い通りに動くだろう。
大体こんな時にテロなんて起こすなよ、武闘会を楽しく見てたのにさ。
それにアマンバードの新作も出るかもって噂されてたのに、発売延期になったらどうするんだよ。
ハァ、大きなため息をついてハクは家を出た。




