44話 波乱の幕開け
その炎は全てを燃やす業火の炎。
不知火炎樹がそう恐れられ、不知火は魔導十家となった。
それは彼の豪胆な性格も深く関係していて、不知火炎樹が暴れると辺り一面が焼け野原になると言われるほどに力を抑えることが得意ではなかった。
灰原に成り立ての頃に一度だけその暴れっぷりを見たことがある。
その日から不知火家に仕えることは誉なのだと悟った。人とかけ離れたその力に魅了された。
その息子である不知火燼は加護に恵まれはしなかったものの、その才能は並外れていて炎樹の力任せの剛の炎に比べると真逆の炎だった。
炎を圧縮して弱点を正確につく。静の炎は静かに相手を焼く。その技量だけで加護持ちの炎樹に匹敵する力を持っていた。
目の前の才能なしと見捨てられた三男の燐はどうだろうか。
圧倒的な広域殲滅魔法は炎樹以上に広範囲であり威力も桁違い。
かと思えば、緻密な炎の扱いは燼以上かもしれない。
灰原でまず覚えるのは炎の防ぎ方だ。主人に焼き殺されないようになるためだ。
そこで教わった対炎の防壁はまるで機能していないかのように消し炭へと変わる。
いくら加護があるとはいえあり得ない光景だった。
迫りくる竜のアギトを前に死を予感する。これが選ばれた人間なのかと悟る。
そして、誤った噂を流したやつを恨んでやる。これのどこを見れば落ちこぼれなんて思うんだろうか、不知火の歴史でもここまでの力は初代以来かもしれない。そう思わせるほどの圧倒的な力。
諦めて目を閉じるが何も感じない。恐る恐る目を開けると竜の牙は寸前で止まっていた。
あぁ、助かったと思うと同時にこの方に一生の忠誠を捧げると改めて決意させられた。
「あにきー、やりすぎじゃないですか」
「結構、加減はしたんだけどな」
加減したというのは嘘ではないだろう。あれだけの力を出して汗一つかいていないのだから。
§
「さぁ、4日間に渡って行われた予選も終了して16人の選手が勝ち上がりました。ちなみに井口さんの注目する選手がいればお願いします」
「やはり双槍の上渕選手ですかね、安定した実力を見せつけての予選突破を見せてくれましたからね」
「なるほど、ありがとうございます。そろそろ16人の選手が入ってきてトーナメントのくじを引きます」
くじを引くためだけに用意されたそこは仮想空間ではなく、少し開けた会場で中にはギルドマスター、副ギルドマスターはもちろんのこと各機関でもそれなりに上の立場の人間が集まり、護衛に囲まれている。
そしてそこへ16人の選手が入場してくる。その映像は各地で流れ、画面の前にいる人間を激しく興奮させた。
1人づつくじを引くたびに歓声が湧き上がる。
皆月の順番が回ってきてくじを引こうとしたときにそれは起こった。
空気中に魔力が満ちていく。異変に気づいた冒険者達は警戒態勢をしく。
特に何かの攻撃が来る気配はない。
§
街でも異変は起きる。映像が途切れ、各地で爆発があって多くの悲鳴が響き渡る。
年に一度のお祭り騒ぎで警戒にあたっていた街の警備隊は次々と起こる異変への対処で追われていた。
まずは映像が途切れたことへのクレーム対処。続いて爆発によるパニック。さらに極めつけは……
「どうなっているんだ、すぐに確認をとれ!!」
「はい、分かりました」
今年一年目の新米警備隊員は警備隊長より指示を受け冒険者ギルドへ確認に来ていた。
ギルド職員は詰めかける人々の対応に忙しなく追われている。
まさにパニック状態だった。
「映像なんて後回しでいい、各地での爆発の原因を探れ」
「いや、会場には要人が何人いると思ってるんだ何かあったのかもしれない」
「街でパニックが起きて、犯罪者どもも暴れてるぞ」
聞いてるだけで逃げたくなるような問題が次から次へと降りかかってくる。
ギルドの扉が大きな音を立てて開かれ1人の男が叫ぶ。
他の人間も叫んでいて普通ならかき消されるとこだがその内容に全員が一瞬口を閉ざした。
「郊外にモンスターが溢れて街へ向かってきてる。氾濫が起きてるぞ!!」
「バカな、この時期は徹底的にモンスターを狩っているはずだ。氾濫なんて起きるわけがない」
多くの冒険者が武闘会に集中するこの時期は武闘会前にモンスターがいつもよりも多く狩られる。そうでなくても調整などで冒険者がダンジョンに同時期に潜るためモンスターの数は極端に減り氾濫などあり得ないはずだった。
氾濫の事実を伝えにきた男さらに衝撃的な内容を口にする。
「しかも、魔力濃度的にAランク以上の可能性が高い」
ギルドを一瞬の静寂が包むが、ギルド職員はすぐに行動に移す。
「ギルドマスターに連絡は取れないのか?」
「それが会場が謎の建物に囲まれていて通信できません」
「一体どういうことだ、何が起こってるんだ」
そこにはもとの会場の姿はなく大きな壁に囲まれた四角の建物のようなものがあった。




