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43話 当主交代

 不知火家本邸の一室、長机を囲む形で家族が勢揃いしていた。

 父と母と長男、次男が同じ列に座っている。反対側に燐と妹と祖父、それに1人の男が座る。

 お互いの後ろに執事の灰原が控える。2人の灰原は親子でそれぞれが炎樹と燼に仕えている。


「えっと……兄貴、僕ってここにいていいんですか? よければ外にいますよ、てかっ外にいさせてください」

 燐に耳打ちする男は霧隠隼斗、燐と燼の戦闘の際に燼の背後から刃を突きつけて勝負の決め手を使った男だ。

 隼斗は獰猛な猛獣の入っている折の中に閉じ込められているような恐怖を感じていた。

 何故ならここは魔導十家の中でも一族の歴史の長い不知火家総本山である。

 

「大丈夫だ、そこに座って自己紹介でもしてろ」

「ハハハ、霧隠隼斗です……」

 観念して諦め半分で雑に自己紹介を行う。


「背後に近づかれる気配を一切感じなかったよ、凄いな」

 燼は刃を突きつけられたことなど微塵も感じさせないように喋りかける。

 それは隼斗の恐怖感をより一層引き立てる。つい数十分前まで殺し合いをしていた相手と平然と席を並べる一家に一般の感覚は通用しないと知る。


「で、父さん、みんなを集めて何をするんだ?」

「正式な公表は後日やるとして、とりあえず当主交代をここで行う。それをもって両者の争いを終了し、新当主に尽くすことを宣言する」

「それはここまでのことを水に流せということですか?」

「そうだ、不知火の歴史とはそんなもんだ。何か問題でもあるか」

「いいや、特にないよ」

「灰原の次代は使えるのか?」

 燼は後ろにいた灰原に尋ねる。灰原家は代々、不知火の家に忠誠を尽くすための教育を子に施しそれは脈々と受け継がれている。


「娘ではありますが、その力は仕えるに十分かと思います」

「では今日より燐の元につけろ」

「はっ、そのように手配を致します」

 そういうと灰原は部屋を出た。

「燐、死なせるなよ」

 燼はこの日最も真剣な顔で燐に忠告をする。

 灰原は代々執事として仕えてはいるがそれは奴隷のような存在とは違う。むしろ守るべき存在になり、これは当主の責任でもある。古くからの不知火と灰原による盟約である。



§



 孤児として拾われ、不知火家に仕えるために灰原の娘として教育を受け、修練に励んできた。灰原の長たる父に認められるまでは不知火に近づくことは一切禁じられている。

 灰原は何人もの孤児を引き受けて教育を施す。その中でも魔法の才能がある者がお付きになれる。

 そして私が選ばれた。


 噂で聞く限りの不知火家は落ち目と言われていた。当主の炎樹様を継ぐ人間が現れなかったからだ。父は炎樹様の息子の燼様に仕えているが燼様が当主になることはない。

 その子供4人にも加護は現れず二世代に渡って当主がいないとなれば魔導十家から外される可能性も大いにあると考えられていた。

 家の外でも中でもそんな噂が流れる中、仕える者達は冗談まじりではあるが転職先を考えようかという話すら出るほどであった。


 長男、次男の才能は一般的、いや、むしろかなり優秀な方だが不知火でその程度は許されない。

 三男は才能がないと見捨てられていた。

 末娘が最も才能豊かで加護も顕現すると期待されてはいたが顕現することはなく、まさかの才能のない三男に加護は顕現する。

 そしてそれは喜ばれることではなかった。全く使いこなせず宝の持ち腐れもいいところだと、不知火家に関わる者は落ち込んだ。

 加護を受けた者が当主になる決まりだと準備されていたが三男は逃げ出して行方不明になる。

 そして、突如戻ってきて正式な発表ではないが当主の引き継ぎが行われた。

 私は今、不知火家本邸に控えている。これから新当主の燐様にお目通りする予定になっている。


 燐様の待つ部屋へ父に誘導され、扉が開けられる。父は部屋には入らずに燼様の元へ戻っていった。

 部屋には2人の男性がいたが、どちらからも魔力をほとんど感じない。


「どうぞ座ってください」

「失礼します」

「初めまして不知火燐です。こっちは霧隠隼斗。これからよろしく」

「灰原悠です。よろしくお願い致します」

 噂では根暗と聞いていたが随分と印象が違う。


……静寂が続く。何かを試されているのだろうか。


「兄貴、何か質問とかないんですか?」

 横に座る男が耳打ちをしている。


「えー、ないよ、女の人だなんて聞いてなかったよ」

 どうやら私が女性ということで困惑されている様子だ。


「女ではありますが灰原で鍛えられましたので、足を引っ張ることはないかと思います。よろしければ力を見ていただいた方が分かりやすいかと」

「それはいい考えですね、喋るよりも楽かもしれない」


 外に出て驚いたが辺り一面が焼け野原になっている。派閥争いがあるとは聞いていたがここまでやるものなのか。さすがは長年にわたって不知火を支えてきた炎樹様ということか。


「じゃあ、隼斗やってみれば」

「えっ、僕ですか!? 嫌ですよ不知火の人間と正面切ってやるなんて、それに今日は大仕事を終えたばかりなんですよ」

「はぁ、じゃあ俺がやろうかな」

「……!? 燐様が直々に手合わせをしていただけるんですか?」

 これはまずい、ほとんど魔力を持たない相手ではどう加減をすればいいのか分からない。

 もし怪我でもさせたら大事だ。


「まぁ、軽くね、軽く」

「しかし、そんなお手を煩わせるようなことは」

「まぁ、軽くだからさ」

 ダメだ、やる気になっている。ならば極力手加減をして相手をするしかない。

 幸いなことに灰原の技は護衛に使うものが多いので攻撃を受けるだけで終われるかもしれない。

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