42話 大炎上
「バカが、消し済みになりやがったぜ」
長男の笑い声が響き渡る。
しかし、朱音と魔法師は苦い顔を見せる。
「あっ兄貴、あれっ見ろよ」
「無傷だとっ!? ジジイ、何かしやがったな」
兄弟2人は自分たちの祖父である炎樹を睨みつける。
「ここまで馬鹿だなんて気付かなかったよ」
燐は肩のホコリを払うような仕草を見せる。
「てめぇごとき落ちこぼれが図に乗るなよ、フレイムランス!!」
長男の放った炎の槍は魔法師達の攻撃に比べるとあまりにも弱々しく非力に思える。
燐の前にある炎の壁で燃え尽きた。
「兄さん……哀れだね」
燐がそう呟くと魔力が高まっていく。
「灰原っ」
「はっ!!」
朱音の声と共に魔法師達は防壁を展開、執事の灰原は2人の兄弟の前に立つ。
「『火花-昇竜菊先紅竜星群』」
燐から天へと放たれた巨大な竜は空高くで爆発を起こし、そこから分かれた炎の竜は燐が敵と認識するものを襲う。
魔法師は全滅、灰原は兄弟2人を守ったが魔力の大半を防御に使ってなお右腕に大きな火傷を負った。
守られた兄弟2人と朱音だけが無傷でその場に立ち、それ以外は地に伏している。
「なっ、なんだよこれ」
「どうなってるんだ」
兄弟2人は目の前の現実に脳が追いつかない。
いや兄弟だけではなく、それを目にしていた多くの人間が信じられないといった表情を見せる。
その力はもう炎樹を超えていた。
「『火花-昇竜菊先紅光露』」
呆然とする2人に巨大な竜の顎が迫る。
「焔業風」
朱音が漆黒の鉄扇を仰ぐと黒い炎の風が竜の顎とぶつかり爆発し、兄弟は吹き飛ばされるが大した怪我はない。
その後も炎の竜と黒い炎は幾度となくぶつかり合う。
朱音は限界ギリギリで立っているのもやっと、それに対して燐は汗一つかいていない。
「フレイムランス!!」
母に加勢するべく全力で放った魔法は一瞬で消し炭に変わる。
「下がっていなさい。あなた達が敵う相手じゃないわ。見ていなさい、これが選ばれた者の力とその他大勢の差よ」
誰が見ても力の差は歴然だが朱音は立ち向かう。まるで力こそ絶対であるといわんばかりに自らを糧にして。
とうとう膝をついた朱音を見下ろす燐は手をかざすが、1人の男が朱音の前に立つ。
「父さん!? 何しにきた?」
「もういいだろ、お前が当主で文句はない。朱音も満足したろ、お前達もだ」
燼は兄弟と朱音を睨みつける。
「もういいかどうかは俺が決める」
「では俺が止めよう」
「父さんが!?」
燐は父が戦っているところを見たことがない。そもそも顔を出すこと自体が珍しいのだから当然といえば当然だった。
「もしも、簡単に勝てると思っているならそれは傲り以外のなにものでもない。そんな息子に教えてやろう」
掌サイズの炎の球が辺り一帯に無数に出現する。
「いまさら父親ぶるつもりか」
燐の手から炎の竜が放たれる。
燼に近づく炎の竜の体に周りにあった炎の球から小さなフレイムランスが真っ直ぐに飛ぶ。
それは他の不知火の使う炎の渦のようなフレイムランスと比べてレーザーのようだった。
様々な角度から放たれたレーザーのようなフレイムランスは炎の竜の体を貫き、炎の竜は燼にたどり着く前に消え去る。
「……!?」
燐はその消え方に驚きを隠せない。
「どうした、ただの魔法にはやられないとでも思っていたのか。それが傲りだ」
「何をした?」
「スキルとは世界の理から外れ、新たな概念を作り出す。特に炎狐の加護はスキルの中でも強力だ。だが弱点がないわけじゃない、俺は誰よりも研究したよ」
炎の球から放たれた光線が燐を襲う。
「『火花-菊紅光露』」
炎の壁が光線から身を守る。一撃目は。
ニ撃目が寸分違わず一撃目と同じ箇所へ撃ち込まれ、三撃目で炎の壁は破られ燐の体を何箇所も貫いた。
「『万華鏡彩色光露』か、そこだろ」
貫かれたはずの燐の体は炎に変わり、全く別の場所に撃たれた光線の先に燐が現れる。
光線は危なく燐の頬をかすめ、傷口から血が伝う。
「くっ……」
「正直、大した者だ。あれだけの広域殲滅魔法から繊細な幻影魔法まで使いこなす。まさに英雄だな」
燼は余裕の表情を見せる。
「これならどうだ!! 『フレイムランス・フュンフ』」
ほぼノーモーションで放たれた五本の渦が燼を襲う。
散らばっていた炎の球のうち5つの球が燼の前で規則的に並ぶ。
4つの球は各頂点からお互いを結び四角の壁を作る。最後の1球がその四角の中心にはまり、頂点に線を伸ばし、炎の壁が現れた。
これらの作業は一瞬で完了され、襲いくる炎の渦を力強く受け止める。
「全く……降参だ。お前がこんな手を使うとは思わなかった」
燼は正面から来る5本の炎の渦を完璧に受け止めたが突如降参を宣言した。
その背後では男が刃を突きつけていた。




