41話 炎上
不知火家本邸の庭園は燃え盛っていた。結界によって家が炎に浸食されることはないがそれでも大災害の如く炎は天高くまで伸びて大量の黒煙が空を覆う。
ギルドに警察や自衛隊にもその報告が上がるがどの組織も見て見ぬふりを決め込んでいる。
市民に被害が及ばないと知っているのと原因も分かっているからだ。
不知火家の当主争いが起きる、多少のことには目をつぶれと各機関に通達があった。
魔導十家の一つがそういうなら手出しはできない。それだけ力があるということだ。
燃え盛る炎は不知火家当主の炎樹と10人以上の炎の魔法使いによる衝突で起きている。といっても炎樹はまだ手を出していない。ただ防いでいるだけ。
「朱音さん、これから実の息子が帰ってくるというのにこの出迎えはちと大仰すぎるじゃろ」
「お義父さま、あれはただの出来損ないです。力がなければ価値がない」
炎樹は出来るだけ血を流さずに済ませようとしている、今はこんな事態になっているが思い出すのは古い記憶。
§
「お義父さま、今日は燼さんを連れて少し実家へ戻ってきますね」
「いつも済まんな、あんなバカ息子だがよろしく頼むよ」
「父さん、うるさいよ」
炎樹と朱音は部屋に入ってきた燼の姿を見て驚いた。
肌は青白く、ひょろっとした体型に猫背に眼鏡、髪はボサボサ、服もしわくちゃで遭難でもしていたのかというツッコミを入れたくなる格好だった。
「お前というやつは……」
「燼さん、何日こもってましたか?」
「今日って何日? 時間感覚がないや」
「お義父さま、出発が少し延びそうです」
「朱音さん、本当にすまん……どうしてなんだ、お前の母さんも俺も家にいる時間の方が短かったというのに」
「子供の頃、父さん達にひきつれ回されたせいで家の素晴らしさを知ったよ」
3人の笑い声が屋敷に響く。
これが笑い合った最後の日だった。
その日、向こうの実家へ赴いた息子夫婦を襲った悲惨な事件。
朱音さんの親は2人の目の前で惨殺された。
2人の力は当時でも相当なはずだったのにも関わらずその相手に敵わず自分たちを守るのが精一杯だった。
2人は自分たちの無力さを痛感していた。しかし、まだそこまでではなかった。
事件からすぐ後に子供が生まれたからだ。元々、その報告に顔を見せに行っていた。
続けて起こった不幸な事件。次はこちらの実家が襲撃を受け、そして子供を失った。
再び目の前で愛する家族を失った2人は力を追い求めるようになる。
息子は研究に拍車がかかり、ほとんど顔を見せなくなった。
朱音は生まれてくる息子に英才教育を受けさせた。
そんな背景を知っているからこそ炎樹はここまで強く言うことができなかった。
反乱分子を排除すべきだという当主に忠誠を誓う炎樹の仲間にも手を出させないようにしていた。
そしてこの戦場でも遠くから見ることを命じている。
しかし、孫を排除しようとするその姿勢は最早、看過できるものでない。
炎樹は決心をして魔力を高める。
それは相手にも伝わり緊張感が高まっていく。
「みんな、ただいま」
常人なら恐れをなすほどの魔力の高まりの中、平然と戦場に現れた少年に過去の影はほとんどなく、よく知るはずの全員が一瞬誰か分からないほどだった。
「燐か!?」
まずは炎樹が声をかける。
「爺ちゃん、久しぶりだね、ちょっと老けた? ここは俺に任せてくれないかな」
戦場のど真ん中で自分へ照準の合わせられた魔法を前にしても冗談を言う燐を見て炎樹は後ろは下がった。
「本当に生きてるとは思わなかったが、わざわざ殺されにくるとは」
「兄貴、力のない奴は総じてバカって相場が決まってるだろ」
2人の兄弟は燐を見下してあざけ笑う。
「母さん、あいつは俺にやらせてくれよ、体に分らせてやらないとな」
長男は攻撃をしようと構える。
「ダメよ、灰原全力でやりなさい」
「仰せのままに」
執事の灰原は配置された魔法師に合図を出すと、強大な魔法の数々が一斉に燐目掛けて放たれた。
§
「見て見て、灰原さん、りん兄だよ!!」
炎樹に命じられた通りに遠くから戦場を眺める一段の中にはカレンの姿があった。
「そのようですが、随分とお変わりになられたようですな」
「そうだよ、スーパーカッコ良くなってるよ」
「外見だけでなく内側も相当に変わってますな」
魔法師達が一斉に燐に魔法を放つ。
「あぁ、りん兄大丈夫かな?」
「炎樹様も側にいますし、それに今の燐様ならあの程度ではどうにもならないでしょう、心配することはありませんよ」
「そうかな、でも……」
「ご覧ください、傷一つないようですよ」
その姿を見てカレンは満面の笑みを見せる。
不知火家に仕える魔法師達は表に出ることはほとんどない。よって、あまり知られてはいないが一人一人がBランク以上の冒険者に匹敵する。中にはAランク級もいる。
それらの全力の攻撃を一斉に受けても燐の体には傷一つない。




