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36話 陰謀

 不知火燐が生きていると聞いてから数日が経った。

 冒険者ギルドはさながら戦場とかしていて、ギルド職員はフル体制で仕事に取り組んでいるにも関わらず並んだ行列は一向に進む気配がない。

 ここに並ぶ全ての冒険者が武闘会への参加申し込みを目的としている。

 ギルドには普段から多くの冒険者が訪れているがその数倍の冒険者が一斉に押し寄せてくる。そしてこの全員が申し込みしたからといって参加できるわけではない、武闘会は名声や権力、実力がなければ出られない。すなわち、ここに並ぶ冒険者はいわば抽選に来ているようなものだ。その確率は宝くじに当選するほど矮小なもの。

 しかし俺は参加できることになっている。何故かは分からないがここでもアマンバードの社長がコネを使ってくれた。

 俺がギルドに来たのは参加が確定された申し込みに来た。こういう場合は別口でも受付は可能になるが目立つために列に並んでいる。


 もちろん、これだけの冒険者が集まれば全員が全員、行儀良く並んでるだけなんてことはあり得ない。

 揉め事は当然のように起こる。

 

「おいおい、テメェみたいなのが参加してどうすんだよ、出るだけ無駄だろ」

「あぁ!? それ俺にいってんのかよ」


「おいっ!! 横から入ってきただろーが」

「どこに目つけてんだよ、最初からいたわ、ボケ!!」


 至る所でイザコザが起きているがこれらの人間は皆仲良く悶絶させられてギルドの外へと放りだされる。

 どこかで見た光景だな。ギルド名物にもなっている副ギルドマスターの悶絶コースだ。


 いつもはこれを見ると一時的には静かになるはずが今日は一味違った。

「あぁあぁ、俺の可愛い弟分をこんなにしてよ、どう責任とってくれるんだよ」

 鎧を着込んだ金髪の大柄な男が副ギルドマスターの碓氷に詰め寄る。

「何か問題でも?」

 碓氷は大柄な男を見上げ淡々と答える。


「ほう、俺様が誰かしらねぇようだな、氷鬼(ひょうき)のタカミネだぞ!!」

「もちろん存じ上げておりますよ、タカミネ様」


 タカミネの体が氷に覆われていき、元々大柄な体はさらに大きくなる。腕と足に鋭い爪を備え、尻尾が生えて、頭にはツノのようなものまで形成され全身が氷で武装される。

 まさに二つ名通りの氷の鬼。


「氷鬼のタカミネといえばBランクの実力者じゃないか!?」

「あぁ聞いたことがあるな、だが横暴な性格が災いして厄介払いされてるとも聞いたぞ」

「でも実力は本物だろ、碓氷もやばいんじゃない」

 周りの冒険者たちは列を迂回させて2人から一定の距離を保つ。


「今すぐ俺を武闘会に参加させるなら許してやってもいいぞ」

「ハァ……」

 ため息を吐きながら碓氷は首を横に振る。


 鋭い氷の爪が碓氷を襲う。碓氷はそれを躱して今までも数々の冒険者を悶絶させてきた掌底を腹部へ入れるがタカミネに効いた様子は無い。

「俺がそこらにいる冒険者と思うなよ」


 鋭いトゲが何本もついた尻尾が碓氷の体を貫いたと思ったが、碓氷の体は霧散して隣から碓氷の姿が現れる。

 現れた碓氷を氷の爪で切り裂いても再び霧散して別の場所に姿を表す。

 何度攻撃しても同じことの繰り返しのように思えたが、タカミネの動きが徐々に遅くなっていく。

 それは碓氷を攻撃すればするほど遅くなり、そして体の氷が分厚くなっていく。


 とうとう動きが止まり、自分で武装した氷ではなく碓氷の展開した魔法によって全身が氷で覆われていた。

「さぁ、どうしますか?」

 碓氷は冷酷な目をタカミネに向けて尋ねる。

「これがどうした、すぐにぶっ壊してやるよ」

 タカミネが全身に力を入れた瞬間に悲鳴を上げる。

「ぅああああああああっ」

 タカミネの左腕の氷だけが小さく圧縮されて、骨の軋む音が聞こえる。

「どうしますか?」

「悪かった、悪かった、降参だ!!」

 氷が解かれ出てきた左腕は無残にも押し潰されていた。

 タカミネは仲間を連れてギルドを去っていった。


「他に文句のいる方はいますか?」

 冒険者全員に碓氷は問いかけるが名乗り出るものは1人もいなかった。

 碓氷は元々冒険者ではないことは有名である。しかし、Bランクを圧倒するということは碓氷はAランク相当の実力はあるということでそれに挑むような命知らずか実力者はこんな列に並んではいない。



§



『ジュゼルバル』は12の幹部を筆頭にその下にも多くの部下や下部組織を抱えている巨大組織だ。

 12人に上下関係はなく、12の席につくとコードネームが与えられる。それは1から12まで順に『睦月』『如月』『弥生』『卯月』『皐月』『水無月』『文月』『葉月』『長月』『神無月』『霜月』『師走』だ。


 第八の月『葉月』を長とする組織は薄暗い会議室のような部屋で作戦会議が行われていた。


「アス、首尾はどうだ?」

 長である『葉月』は最近入った優秀な部下に全体に説明をするよう促す。

「はい、滞りなく進んでおります。先日テストした擬似ダンジョンを使うことで間違いなく、時間は稼げるかと思われます。それとちょうど計画に使えそうなBランクの冒険者がいますのでコンタクトしてみます」

「よし、この計画に失敗することは許されない。アスは潜入を続け情報を抜いてこい、期待しているぞ」

「はっ!!」

 アスと名乗る女性はその場から姿を消した。

「あの女、中々に使えますな、まさか最も必要としていた知識を持ってくるとは」

「どこの組織にもスパイの1人や2人はいるもんだ、それに結局は金が大事なのさ」

「ボス、これで他の12月を出し抜けそうですね」

 部下は高笑いをする。

「ふっ、俺は『文月』と『長月』と会う用事がある。お前たちも気を抜くなよ、作戦決行の日は近いぞ」

「今年の武闘会は楽しくなりそうですな」

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