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35話 不知火vs森神

 人々の寝静まったはずの真夜中に古民家のある一室の襖がゆっくりと開けられた。

「えっ!?」

「えっ!?」


 2人は顔を見合わせて驚き、再び部屋に静寂が訪れる。

 不知火はこれから村周辺の調査に行こうと思っていたところを出鼻を挫かれる形となる。そもそもこんな夜更けに来訪者がいるとは思わなかった。

 いや、一応の警戒はしていたが訪れた男性の魔力が小さすぎて網にかからなかったと言った方が適切なのだろうか。

 これまでは強力な魔物しかいないようなダンジョンで使用していたために魔力が弱いと反応しないと知らなかった。そのため男性が突如現れたことに驚いてしまった。


 部屋を訪れたこの村の運び手である若い男も不知火と同じく驚きを隠せていなかった。

 部屋には悶絶する少年がいるはずで、それを処理しに来たのに目の前で何事もなかったかのように動いている。

 動けるのならば果物の力によってそれを求めて森へ走りはずなのにだ。


 気まずい空気が2人を包むが不知火が先に切り出す。


「どういうことか説明してもらっても」

 目線の先には右手にしっかりと握られた大きなナタ包丁があった。


「これは……」

 男はナタ包丁を振り上げて襲いかかる。

 なぜ目の前の少年に果物の力が作用していないか分からないがFランク冒険者なら殺れると考えた。


 ナタ包丁は不知火の体に当たる前にバターのように溶けていき、溶けた鉄が畳に落ちる。

「熱っ!?」

「全て話せ!!」

 不知火は男の首元を掴み、徐々に温度を上げていく。

 男に抗う術はなくそして痛みに強いわけでもない。村の秘密を全て話す。


「その森へ案内しろ」

「はっ、はい!!」


 森へ着くとそこにはすでに事切れた冒険者4人の姿があった。

「いるんだろ、出てこい」

「おやおや、どうしましたかな?」

 森の中から出てきたのは老婆だった。


「説明の必要はないぞ」

「裏切ったか、まぁ小童風情には何の期待もしてないがのう」

 豹変したように態度を変えた老婆は邪悪な笑みを浮かべ、右手を突き出すと地面から数本の巨大な木の根が飛び出して不知火を襲いかかる。


「『火花(ひばな)-菊紅光露(きくべにこうろ)』」

 不知火を覆うように現れた炎の壁は襲いくる木の根を全て灰に変え、灰は空を舞う。


「何と罰当たりなことを森神様の御身を傷つけるとは万死に値するぞ」

 老婆は怒気を含めた顔を見せ両手を空に掲げると、森中の百本以上の木々が天へと伸びて360度から降り注ぐ。

 それでも不知火は焦った様子を見せずにぼそっと呟く。

「『火花(ひばな)-昇螺旋竜菊先紅光露(のぼりらせんりゅうきくさきべにこうろ)』」

 不知火を中心に炎の竜が天へと螺旋状に広がり降り注ぐ木の槍を燃やし尽くす。

 数本が炎の竜の牙を抜けて不知火に近づくも螺旋状になった竜の体に触れて燃え尽きる。


 燃え尽きる木々を見上げる2人の心情は真逆であった。

 不知火は冷静に対処するだけで特段危険も感じていない。

 それに比べて焦りを見せる老婆は声を荒げる。

「お前たち!!」

 声に反応した村人たちが森の中から姿を現してくる。

 不知火は軽々と防いだが先の数百本の木の槍は村人たちが総出となって放った最大級の魔法だった。

 魔力も少なくなり物理的な攻撃に変えたということだろう。


 不知火は右手を上げて1メートルほどの炎の球を空へと打ち上げる。

「お返しだ、『火花(ひばな)-|昇極導菊先紅流星群(のぼりきょくどうきくさきべにりゅうせいぐん)』」


 空へと昇った炎の球は爆発してそこから無数の炎の球が流星のように森一帯に降り注ぐ。

 森の木々は燃えて村人のほとんどが戦闘不能に陥る。


 老婆を筆頭に倒れた村人たちは這いつくばり祈る。

「森神様お助けを、森神様お助けを……」

 願いが通じたのか地面が大きく揺れ、村人は歓喜の声を上げる。

「おぉ、森神様が動かれた。あの愚かな罪人に罰をお与えください」


 地面から先ほどまでの木々とは比べ物にならないほどの魔力を感じる樹木が村人全員に巻きついていくと、村人は干からびていく。


「そんな……どうして……もり……がみ……さ……」

 100人以上が死んで、さらに強大な魔力を持った化け物が奥から近づいてきているというこの緊迫し状況で後ろで樹木から逃げまわってる男のせいで妙に気が抜ける。

 炎の流星群を気にせずに放ったのに何故か無事なんだよな。

「あぁ、鬱陶しい」

 男の足に絡みついている樹木を燃やす。

「ありがとうございます」

「後ろに下がっておけ」

 今は前から近づいてくる森神とやらを何とかしないといけない。

 その姿はあまりにも巨大で樹木が何本も編まれた体はまさに巨人。

 神は神でもその禍々しい魔力は邪神だな。


 森神の一撃目はただの掌底だが、重みが違う。炎の壁はガラスのように割られそのまま数十メートル飛ばされる。

 さらに踏みつけが襲いくる。

 避けたが踏みつけられた大地は大きく割れる。


 森神の体は生半可な火力では表面を焦がすだけで全力で放った炎の竜は右腕を燃やし喰いちぎったがすぐに再生された。

 どこかに核が存在するはずなんだが頭部、心臓、それらしいところを破壊しても何事もないように再生する。

 魔力も尽きかけてきた。逃げることも考慮したいが逃げれる気がしない。


「地面です。巨人の下の地面に何かいるはずです!!」

 急な男からの助言だけなら信じるに値しないが、森神の右腕での鉄槌が男に向かう。

 目を閉じてびびる男の服を引っ張って助ける。


「おい!! 真下にいんだな」

「はい、多分ですけど……」

 他に手はないし森神の反応からもそれしかないか。


 森神の足元に潜り込み最大火力の一撃を地面に向けて放つ。

 地面は抉れ大地が割れ、熱風と煙に砂埃が辺りに広がる。

 煙と砂埃が収まると森神は崩れるように灰になっていく。

 割れた地面には焦げた普通サイズのモグラの姿があった。

 これが森神の正体なのか。


 モグラは少し動き2人を見ると、動かなくなり例の果物へと姿を変えた。

 しかし、あれは外側の皮はオレンジ色で中の果実が赤かったが、これは外側の皮が真っ赤に染まっている。皮がひとりでに剥かれるように地面に落ちて消えると、中の果実は半透明に輝き神々しさを放つ。


 頭の中にモグラの思いと断片的な過去が流れ込んでくる。

 そして最後にありがとうという言葉を残していった。

 果実は運び手だった男に食べさせることにした。それがモグラの意思でもあった。


 とりあえず、一段落ついた。

「おい、街まで道案内をしてくれ」

「はい!! 任せてください、街に戻ったらギルドに僕のやってきたことを報告しようと思います」

「えっ、なんで?」

「なんでって、人殺しに加担してきたんですよ」

「そうかな、大体、依頼を受けてきた冒険者は自己防衛が基本でしょ、やられる方が悪いよ、というかどうでもいいから早く行こう、もう疲れた」

「じゃあ兄貴についていくことにします!!」

「どういう思考回路してたらそんな結論に辿り着くんだよ、そもそもあんたの方が年上だろ」

「いやいや、兄貴と呼ばせてください。僕の名前は霧隠隼斗(きりがくれはやと)といいますんでよろしくお願いします」

「名前だけは立派だな」

「兄貴のお名前は」

「はいはい」


 二人は街へ戻った。

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