34話 不知火生還!?
「ハハハハハハーーー、やっとだ、やっと抜け出したぞ!!」
どこかも分からぬダンジョンゲートから出てきた不知火燐は木々に囲まれた深い森で歓喜の声を上げていた。
長い長い道のりだった、巨大蜘蛛との戦闘で落盤した場所から上の階層が開け、探索に探索を重ね広大なダンジョンで出会うモンスターを倒しては食料にするという過酷なサバイバル生活送っていた。
何度死にそうになったか分からない。ヤバすぎるモンスターが面白いように湧いて出てきて、あの巨大蜘蛛が親かと思っていたらまさかのさらにでかい超巨大蜘蛛が現れてあの巨大蜘蛛サイズがワラワラと出てきたときはそれだけで失神しそうになった。
生き物のように壁や天井が蠢く部屋やダンジョンの中のオアシス、巨大な泉を見つけたときはどれほど嬉しかったか、そしてすぐその後に超巨大なスライムだと知ったときはどれほどショックを受けたか、しまいには竜種まで出てくる始末でとにかく大変だった。
入ったときとは引きこもりのオーラが見てとれるほどのもじもじとした性格だったのが別人のように変わってしまっていた。さらに性格だけではない見た目も明らかに変わっていて真っ黒な降りた髪の毛はオールバックで赤みがかった黒色、視力も良くなって眼鏡は外し、ひょろひょろだった体も全身が引き締まり魔法使いとは思えないほどの筋肉。
何よりも大きく変わったのは能力値だった。身体能力は大幅に上がり、使える魔法の種類、制度、威力、全てが別格に上がっている。
ダンジョンから生還した不知火燐はまさに生まれ変わったといっても過言ではなかった。
まずは適当に探索してここがどこかを知らないとな。
「世界に揺らめく精霊よ、我が炎を以てその形を現せ」
不知火がそう呟くと空中に小さな炎の塊が現れて、それはネズミの形になり、走り去っていく。これが1匹ではない、数十匹以上が四方八方に散り散りになっていき、それらの影はすぐに見えなくなっていった。
ダンジョンでもよく使っていた魔法だが、自身でも詳しくは知らない。ダンジョンでなんとなくこういう魔法があればいいなと思い創作した魔法だからだ。名前もまだついていない。
効果は散り散りになったネズミ達の意識を断片的に感じ取ることができる。
そこまで正確なことは分からないがそれでもかなり重宝する魔法だ。
ある方向に走っていたネズミ達から人里らしき情報が入ってくる。
他は有益な情報はなかったため、魔法を解く。全てのネズミが霧散して跡形もなく消える。
情報の入った方角へ向かい進んでいくと、確かに人里は確認できたがその周りが特殊な魔法で守られているのが分かる。
魔法の元になっているのは異形な木々の数々、どう考えてもただの村には見えない。
なぜなら木々の下に無数の骨の山が確認できるからだ、モンスターには人間を養分に育つ植物がいると聞くが恐らくはその一種だろう。
燃やし尽してもいいがまずは村人に話を聞いたほうがいいだろう。
木々を燃やせば村もただでは済まないはずだ、もし生きている人間がいるなら助けるべきか。
村を訪れると想定外に生き残ってる人間がいる。しかも100人ほどが普通に生活をしている。
見た感じでは自給自足で生活をしているようだな。
話を聞こうとすると向こうから桑を持った初老の男性が近づいてきた。
「若いのがこんなとこにどうしたんだい」
「少し迷ってしまいましてね、ここがどこなのか知りたいんですが」
「それは大変だ、見たところ冒険者のようだが、この近くへは依頼できたのかい」
「まぁ、そんなとこですね」
「そうか、雨も降ってきたな、村長を紹介するよこっちだ」
桑を持った男は村長である腰の曲がった老婆を紹介すると足早に去っていった。
「こんな田舎まで大変だったろう、今日は雨も降ってきたし私の家に泊まっていきなさい。ちょうど他の冒険者の方も来てるんだよ」
老婆に案内された家は大きな古民家で村へ訪れた人間を招待するのが村長の仕事らしい。
老婆の孫だという若い男が街との架け橋になっているようで依頼を出したのもこの男みたいだ。
どこか自信なさげでビクビクとしている。
まるで昔の自分を見ているようだ。
老婆の歓待はまさに至れり尽くせりでこの近くの依頼を受けたという冒険者4人と食事をともにすることになった
「よぉ、こんな辺境の地で迷子とは災難だったな、ソロできてるのかい?」
「そうですね、ソロです」
「俺らは向こうにあるダンジョンゲートの調査に来たんだ、明日一で向かうからよかったら一緒にどうだ?」
男のいう方角のゲートはさっき俺が出てきたとこじゃないのか、ネズミ達で探索をしたときもあそこ以外にゲートはなかったはずだ。
「いえ、やめときますよ、ゲートに入るほどの実力はないので」
あそこに戻るなんてまっぴらごめんだ。
「そうだったな、Fランクだったか、すまないすまない」
豪華な食事も終え、さらには村の特産だという果物までいただいてしまった。
冒険者達との会話は思いの外盛り上がり夜も更けていく。
「そろそろ部屋に戻りますね」
「あぁ、この村で待っててくれれば明日帰ってきてから一緒に街に戻ろう」
部屋に戻り準備を進める。この村の周辺の木々について……
§
雨が降り止まない……
喧騒とした都会の街並みから1時間ほどでその雰囲気は大きく変わる。深い霧に包まれたそこは冒険者の間で密かに知られるお宝スポットになっている。そんな噂がどこから広がったのか定かではない。森に囲まれる形で作られた村は来るものは拒まずに無料で歓待してくれるらしい。
村の近くにあるダンジョンゲートのモンスターは弱い割に落とす素材が高値がつくという噂だ。
村の人からすれば歓待をするだけで安全が買えるなら安いものということだ。
僕たちは噂を聞きつけて男3人、女2人で村を訪れていた。
冒険者成り立ての僕はその近くの出身ということで道案内を半ば強引に報酬を出すからと頼まれた。
まぁ、報酬が出るだけ今までのいじめに比べればマシなのかもしれない。
噂通りに見慣れない木々を抜けると村はあった。しかも無料で宿泊させてくれた上に食事までいただいている。
古風な雰囲気を醸し出した和室で食事を案内されたが無料とは思えないほど豪華な山の幸の数々に全員が至福の時間を過ごしていた。
襖がゆっくりと開くと着物を着た老婆が膝をついて恭しく一礼をする。高級旅館の仲居のような丁寧な所作を見せてくれるがお金も払ってないのにと申し訳ない気持ちで胸が痛い。
「食事は口に合いましたでしょうか?」
「いやー、最高っすわ!!」
「ねーー、来てよかったって感じ」
この老婆はこの村の村長で宿泊させてくれる上に、豪華な食事まで用意してくれたというのに4人からは敬意など微塵も感じない。それでも老婆は気にした様子もなく話を続ける。
「お口直しに果物を準備いたしました。よろしければお召し上がりくださいませ」
老婆が机に置いた果物はみかんに似ているがこの果肉は真っ赤に染まっている。
「初めて見ました、なんで果物ですか?」
「この村の特産でして名前などはないんですよ」
恐る恐る口にしたそれは十分に冷えていて果汁が口いっぱいに広がる。独特な癖も感じたが十分に美味しい果物だった。
夜も更け、衝撃的な発言を耳にすることになる。
「悪いな分かってくれよ」
「かわいそーー」
嘲笑的に下品な笑い声が部屋に響く。
僕はキャンピングカーで一夜を過ごすことになった。
異変が起きたのは眠りについて少し経ったころ、急激な喉の渇きを覚える。
頭に浮かぶのはあの果物のことだ。
雨の中、果物を求めて車を飛び出し森へ向かう。あの見慣れない木が実をつけると何となく察しはついていた。
暗闇を駆けて実を探していると何かにつまずき転んでしまう。
じっくりと目を凝らすと……
骨!?
あたりを見回すと何百本とある木の下のそれぞれに骨が見える。
背中を冷たい汗が流れ呼吸も荒く、自分の心臓の音がうるさいくらいに鼓動を打つ。
それでも抗えない力が働いているのか、森の奥へと歩みを進める。
これも予感していたことだが、目の前には他の木と比べると背の低い4本の木がある。その前にはさっきまで動いていたはずの4人の死体があった。
背後から物音がして振り向くと村長である老婆が立っていた。
僕は1人で街へ帰る。
そして噂を流して、冒険者を集う。
冒険者が村を訪れればあの果物が食べれる。
それから噂を流しはじめて2年ほど経ったがあの力から抜け出すことは未だできていない。
今回も4人の冒険者を村へ導いた。
少し違うのは迷ったといって村を訪れた少年がいるということ。
普通であればこの村は木々の結界によって見つかることはないはずなのに少年はきた。
しかし村長はむしろ喜ぶ。
予定通りに冒険者の4人は部屋を飛び出し森へ向かった。この後のことは言うまでもない。
しかし、いくら待てどもあの少年が出てくる気配がない。
時々いるのだが、あの果物は高純度な魔力が宿っていてそれがこの抑えきれない衝動に変わる。
だが高純度な魔力は弱い人間にとっては毒になる。あの木々は強い人間を欲している。
その基準は果物を食べても動けること。
一定以上の力を持つか、僕のような弱い人間でも木々との相性がよければ動けるし村人達のように活かされる。
そしてそれぞれが役割を与えられ僕は運び手の1人になった。
部屋から出てこないと言うことはそういうことなんだろう。Fランクの冒険者と言っていたし今頃は悶絶していることだろう。
可哀想だがそう言う人間は処分するしかない。




