31話 襲いくる炎の渦
「いやはや、才能とは恐ろしいですね」
「カレンは魔法操作ならあの年で既に不知火家でも1、2を争うほどじゃからな」
仮想空間を眺めながらギルドマスターと不知火家当主は言葉を交わす。
「それほどの才能があっても加護が発現しないとは分からないものですね」
「どれだけ研究しても分からないことだらけじゃ」
「そういえば、こんなところで時間を潰してていいんですか?」
「お前に言われんでもおいおい片付けるわい」
「なるほど、そんなに睨まなくても深入りはしませんよ」
二人の視線の先にはここ最近頭角を現した皆月と不知火家の若き天才カレンの姿があった。
カレンの周りには炎の球体が浮かぶ。その数は5つ。
「フレイムスフィアを5つとはカレンめ初っ端から全力じゃな」
「ほー、あれが一つでも扱いが難しいとされる補助魔法ですか」
「そうじゃ、魔法の術式を最後まで完成させずに途中で留めておいて、そして状況に応じて未完成だった術式を完成させる。そうすることで本来は発動に時間のかかる魔法でも瞬時に発動することができるというわけじゃな」
「いいんですか、魔法の解説なんてしても、フレイムスフィアは不知火家の看板魔法の一つでしょ」
「この程度のことは誰でも知ってるわい」
「動きましたよ!!」
先に仕掛けたのはカレン、一つの炎の球が一本の炎の渦へと変わり皆月へ襲いかかる。
皆月は後ろは距離をとって炎の渦を躱すと弓を引いて短刀を撃つ。
「弓とは珍しいのう、しかも撃っているのは短刀とは」
「私も話では聞いていますが見るのは初めてですね」
残っていた炎の球が炎の渦へと変わり短刀を弾く。
皆月は過去の戦闘でこれに似た相手を知っている。忘れるはずもない親方を襲った女の『|炎精霊の尾(サラマンダーテール』を使った戦闘方法に似ている。
だが、格が違う。あの時は3本でカレンは5本、さらに威力も精度も射程もこっちが上。
しかもあの女に炎剣を壊されたせいで炎耐性を上げれない。
仮に炎剣があってもカレンに近づくと無事ではすまないだろう。そう思わせるほどの熱量がカレンを中心に渦巻いている。
カレンの攻撃はさらに激しくなり3本の渦が巧みな動きで皆月を追い詰めていく。
『建未』で土の壁を作り1本防ぎ、『涼暮』で土の壁を躱して近づく2本を受け止めるが、炎の渦は大楯に当たると残り火が皆月を囲うように燃え盛る。
ジャンプして炎を飛び越えようとするとどこからか現れた4本目の炎の渦が皆月にクリーンヒットする。
時間差攻撃で防御方法を確認してからの様々な攻撃方法、そしてそれらすらも囮にして燃え盛る炎に隠していた4本目での攻撃。
たった一つの魔法のはずなのにその引き出しの多さとしたたかさは、まるで熟練冒険者を思わせる。
「ほう、あれで終わらないとは中々の根性しとるな」
「多数の武器でなんとかなってますが厳しそうですね」
皆月は空中で『鳴雷』を薙ぎ払って炎の渦にぶつけてなんとか耐えたが、それでもダメージは計り知れない。
カレンの猛攻は続き、皆月はそれらをギリギリで耐えて耐えて耐える。
「やはり逃げ回るしか能がないようですね、その程度の実力では大事な人なんて守れないでしょうに」
中々仕止めきれないことに苛立ちを見せたカレンは皆月を罵倒する。
皆月は普段なら幼い少女に罵倒されようと感じるものは少ないはずが、この言葉で不知火を見捨てたこと、親方が入院して未だに目を覚ましていない現状、家族や友人、そして光月が頭に浮かび、何かのスイッチが入る。
自然と握っていたのは『黒紅』だった。しかも、全身に身体凶化をかけて、一直線にカレンに襲いかかる。
カレンもその異常さに危機を感じて全ての炎の渦で迎撃するが、皆月は多少の被弾はお構いなく突っ込んでいき炎の渦をかい潜ってカレンの首へ黒紅を振るう。
カレンは間一髪で体をずらしたが首に結構な傷を負う。
構えて戦う意志を見せたがその直後、座り込んで奇声を上げ出した。
「今すぐ止めろ!!」
その光景を見たエンジュは声を荒げる。
ギルドマスターも異常を感じ係のものに止めるよう合図を出す。
まずはカレンが待機室へと飛ばされて、遅れて皆月も飛ばされる。
皆月は身体凶化も切れて、カレンのいる待機室へと向かうと、ギルドマスターにエンジュとギルド職員が目を開かないカレンを囲んでいる。
首元の傷はきれいに治っているが目を覚さないらしい。
「おぉ、皆月くんお疲れ様」
「あの何があったんですか?」
「皆月くんの使った『黒紅』が少し反応して眠りについただけでもうすぐ目覚めるよ」
「……!? 黒紅を知ってるんですか」
「元々は不知火家に関わりのある武器じゃからな、とはいっても返せなんて言わんよ、それはもう皆月くんのものになってるようだしの、それにしても封印を解除してるとは驚きじゃな」
「封印のことも知ってるんですか?」
この事実には驚きを隠せない。まさか謎の武器が不知火家に関わりがあるなんて……
「まぁ、機会があれば話してあげよう、カレンも起きたし今日は帰らせてもらうよ、邪魔したな」
そういうと2人はギルドから去っていった。
§
夕日の沈みゆく中、少女と老人は車で帰る途中だった。
「じいじ、怖い夢見た」
幼い少女が怖い夢を見るなんてよくあることだが、この夢がただの夢でないことはエンジュは知っていた。
「それはそうじゃろうな、あれは不知火の歴史と言ってもいいからのう」
「やっぱしそうだったんだ……」
「どんな夢だったんじゃ?」
「男の人と女の人の兄妹が殺し合う夢だった」
「帰ったら歴史の勉強じゃな」
それを聞くと真剣な表情だった少女も苦い顔を見せた。




