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30話 不知火家当主

 いつものようにギルドへ向かうと妙に騒がしい。


「どうしてよっ、今すぐ出しなさい!!」

 ギルドの受付嬢に強くあたっているのは真っ赤な長髪をなびかせる、幼い少女だった。

 そして違和感を感じるのが受付嬢が困っていること、普段ならもっと冷静に対応するのに……

 少女ということを考えてもかなり焦っているように思える。

 もう一つの違和感は他の冒険者が口を挟まないことだ。これだけの騒ぎを起こしている少女を傍観だけなんて普通にありえない。


 様子を見るため中へ入ろうとすると、人混みは割れて俺を中心へと誘い込む。

 そして全員の視線が俺に集中している。

 少女はこちらをじっと見て近づいてくる。


「あなたが皆月柊夏?」

 まさかだが、どうやら少女が探していたのは俺だったようだ。


「えぇ、そうですがなにかようですか」

 空気が張り詰めている。周りにいるものも静観を決め込んでいる。

 どこぞのお嬢様ということか。それならギルドと冒険者の対応も納得がいく。


「『最弱の荷物持ち』なんて聞いていたけど随分と様子が違うようですね、そこのあなたもう少し開けた場所はあるかしら」

 受付嬢は頷き、俺と少女を修練場へと案内をする。

 この修練場は仮想空間とは違い怪我をすることもあれば死ぬことだってある。

 仮想空間が使用中で順番待ちのときや、命をかけた訓練をする時に使われる。

 問題はなぜ少女が開けた場所を指定したかだ。


 少女の魔力が上がっていくと、少女の周りに炎の球体が3つ現れ宙に浮かぶ。

 そのうちの一つの炎の揺らめきが大きくなる。

 

「皆月さん、逃げてください!!」

 受付嬢の声が響き、同時にそこから炎の渦が放たれこちらへ迫る。


 危険を察知しその場から移動する。

 炎の渦は一直線に通り過ぎて地面を焦がした跡を残す。

 下手をすれば死んでいてもおかしくない威力の攻撃。


 3つの炎の球体全てが大きく揺らめく。

 これほどの傍若無人な行動を咎める者がいないのは相当な権力があるのだろう。

 だからといってみすみす殺されるつもりもない、戦闘態勢へ入ろうとした時、急に燃え盛る炎が現れて俺を守るように壁を作る。

 横を見ると巨漢の老人が立っていた。


「これこれ、佳煉(かれん)、何をやっとるんじゃ」


「じいじ、なんで邪魔するのさ、1発ぶっ飛ばさないと気が済まないもん!!」


「だから皆月くんは何も悪くないと何度もいっとるじゃろ」


「でもさ……」


「そこのお嬢さん、申し訳ないが場所を変えてくれんかの」


「はっ、はい!! すぐにご用意します」

 老人は受付嬢に優しく喋ると受付嬢は緊張した様子で対応する。


 場所を変え、ギルドの一室で先ほど俺を攻撃してきた少女とその攻撃から守ってくれた老人と机を挟み対面していた。


「うちの孫が迷惑をかけて大変申し訳ない」

 開口一番に老人は頭を下げた。


炎樹(えんじゅ)様、皆月さんも混乱しているのでまずは紹介からがいいかと……」


「おお、そうじゃな、ワシは不知火家当主の不知火炎樹、こっちは孫の佳煉じゃ、佳煉挨拶をしなさい」


「不知火佳煉です、よろしく」

 少女はムスっとした表情で自己紹介を済ませた。


 権力があるとは思っていたがまさかここまでの大物だったとは、不知火家といえば圧倒的な魔法技術を有し権力を持つと言われる魔導十家の一つだ。

 そこの当主ともなればその権力は絶大なものだろう。

 そしてこの人たちは……


「皆月柊夏です、よろしくお願いします」

 思うところもあるが思考を途中で止めて挨拶を返すが考えていた話題は相手から振られた。

 それもそのはずか、俺のような小物に用があるとすればそれ以外に考えられない。


「ワシらの名前を聞いて察しはついたと思うが不知火燐はワシの孫で佳煉の兄じゃ」


「あの……その件は本当に申し訳ありませんでした」


「勘違いしないでほしいが、それに関して責めに来た訳じゃないんじゃ、そもそも冒険者になったのは燐でその責任は本人にある。それを他者のせいにするのはお門違いというもんじゃろ」


 エンジュの話を聞きながらもカレンはこちらを睨みつけてきている。

 カレンからすれば俺を恨むのも当然だろう、兄の燐を見捨てたことには変わりない。


「じいじ、やっぱこいつぶっ飛ばす!!」


「だから、皆月くんのせいじゃないとあれほどいったろうに、皆月くん、すまない。カレンの気持ちも分かってやってはくれんかのう。いくら生きていたとはいえそれだけ心配してたということなんじゃ」


 ハッ!? 生きてた?


「生きてたってどういうことですか?」

 一瞬、相手が権力者ということも忘れ席を立ってしまったが、すぐに冷静さを取り戻しイスへ座る。

 だが心の中ではぜんぜん整理できてない。


「実はダンジョンの中で生きてるのが確認できた。これは不知火家の固有能力に関することなので詳しくは言えないが生きてるのは確実じゃ」


 まさか生きてるなんて……


「今はどこに?」


「まだダンジョンの中じゃな、詳しくは分からないが皆月くんに近々顔を見せるといっておったわ、今日はそれを伝えにきたんじゃ……それと皆月くんがよければじゃがカレンと立ち会ってほしい」


「勝負しろ、皆月柊夏!!」

 少女は席を立って指をこちらへ向けて宣戦布告してくるが、兄が生きてるならどうして戦う必要があるのだろうか、正直、不知火が生きていることに驚いて頭が回ってない。

 隣に座る受付嬢は顔面蒼白で首を振って断るなと伝えてくる。


「分かりました、仮想空間でいいならお受けします」


「おぉ、それはありがたい。もちろんこれまでの無礼の数々の分も含めて後で対価は支払う。それと全力で頼むよ、カレンはまだ幼いとはいえ不知火家だからのう。外聞は気にしないでほしい」


 先程の一撃からも少女だからと油断できる相手ではないのは分かっている。


「すぐに仮想空間の準備をいたしますね」

 受付嬢が扉を開こうとすると先に扉は開かれて、ギルドマスターが入って来た。


「その必要はない、もう準備はしてある。いつでも使ってもらって構わない」


「マスター、今までどこに行ってたんですか!!」

 受付嬢は涙目で訴える。


「悪い悪い、ちょっと忙しくてな、それにしても爺さん、いきなり押しかけられと困るなぁ、くるときは事前に連絡をくれないと」


「連絡なら入れたじゃろうが」


「くる直前じゃあ何も準備できないだろ、あんたは自分の影響力をもうちっと考えてくれよ」


「じいじにおじ様、はやくして下さい」


 どうやらギルドマスターと不知火家は面識があり、割と近い関係らしいことが分かった。


「あぁ、すまなかった。すぐに行こう、それとおじ様じゃなくてお兄様って呼んでくれな」


「嫌です!! おじ様はおじ様です」


 ギルドマスターの手配で速やかに仮想空間へ通され少女カレンと相対する。

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