28話 不知火燐のダンジョンサバイバル
ダンジョンで生活を始めてどれほどの時間が経ったか分からないが何とか生きてる。
死を纏った謎の少年に出会ってからすこぶる調子がいい。少年は僕の持つ魔力耐性と炎狐の加護が打ち消しあって魔法を使う邪魔をしているといっていた。それを調整してくれたらしい。
元々使えていた炎魔法の威力も精度も格段に上がり、目の前にいる炎を吐く人間サイズの赤色をした蜥蜴も丸焦げにできるというわけだ。
そしてこの蜥蜴が今日の食事になる。普通ならモンスターは大量の魔力を体に持っていて、多量の魔力は人間に毒となる。
しかし、魔力耐性も上がった今の僕なら食べても体に影響が出ない。むしろ少しの力を得ることができる。
味は美味しくはない、調味料もないので味がしないゴムを食べてるみたいだ。
飲み水は洞窟の壁に滲み出ている水を煮沸消毒して飲む。
こういうサバイバルで炎が使えるのはかなりでかいなと実感する。水魔法が使えれば飲み水も簡単に確保できたのだが、それは仕方ない。
食事も終えてやることといえば洞窟の散策だ。仮拠点を中心にマッピングをしていく。いつまでも洞窟でサバイバルを続けてるわけにもいかない、出口を探さなければ。
洞窟を歩いていると少し開けた場所がありそこでは鱗の硬そうな巨大蛇と全身紫色のカエルが対面していたので陰から観察してみることにした。
蛇に睨まれた蛙というが、このカエルはそんな大人しいカエルじゃない、巨大蛇の放つ土魔法の槍を華麗に跳ねて躱す。
さらにジャンプして空中から巨大蛇に口から吐いた毒液をかけようとするが、毒液は巨大蛇に当たる前に石になって地面に落ちた。
巨大蛇の眼光が鋭くなるとカエルの体は少しずつ石化していきいき遂には全身が石となり動かなくなった。
巨大蛇はカエルを丸呑みすると別の通路を通って去ってしまった。
あの巨大蛇にはまだまだ勝てる可能性はないだろう。それでいてボスモンスターじゃないかもしれない。あのレベルのモンスターがこのダンジョンには当たり前のようにいたら……
少しだけついてきた自信は早くも打ち砕かれる。
仮拠点に戻って今後の課題を再確認する。最終的にはこのダンジョンを抜けるのが目標だが、そのためには広い範囲を探索しなければいけない。
しかし、それは未知の脅威に遭遇する可能性が高くなるということ。
まずは巨大蛇を倒せる力をつけることに重きを置くことにする。
僕は炎魔法に加えて、炎狐の加護による継承魔法も使える。
継承魔法は一族などに伝わる固有能力の特徴を最大限活かせるように改良された魔法のことでどれだけ魔法の才能があっても固有能力がそれでなければ使えない魔法。
そしてその魔法の力は絶大だ。だからこそ不知火家も炎狐の加護を持つものが当主を務める。そこには圧倒的な差が生まれるからだ。
当時の加護が発現した頃の僕は全く使えなかったが爺ちゃんにある程度のことは習っている。
そして今なら使いこなせるはず……
§
人間サイズの蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛、気持ちが悪いほどにわらわらと壁に天井に張り付いている。
「炎魔法『フレイムランス』」
炎の渦が蜘蛛を蹴散らすが数が多い。
蜘蛛は一斉に糸を吐いてくる。
「炎魔法『フレイムランス・ツヴァイ』」
2本の炎の渦は糸を燃やしながら、両サイドの壁に張り付いている蜘蛛を燃やし尽くす。
丸こげになった蜘蛛がポロポロと地面に落ちる様は地獄だ。
いきなり通路の奥からすごいスピードで糸の塊が飛んでくる。
「炎魔法『フレイムランス・ドライ』」
3本の炎の渦は回転して絡まりながら糸とぶつかるが、糸は燃えずに押し返してくる。
「炎魔法『エクスプロージョン』、炎魔法『ファイヤウォール』」
迫りくる糸を爆発させ、炎の壁で爆風から身を守る。
人間サイズの蜘蛛でも見るのは辛いのに奥からこちらへやってくるのはその5倍程はある巨大な蜘蛛。
近くで見ると圧巻だな。
蜘蛛が魔法を展開し始める、魔法陣から見て炎魔法だな。
そんな気はしてた、糸が燃えないのは単純に硬度が以上に高いか、炎耐性があるかだが、フレイムランスとぶつかった感触で炎耐性だと思っていた。
蜘蛛の使う炎魔法もフレイムランスと似たような炎の渦でそれがぶつかり合う。
威力は互角といったところ、さっきの糸攻撃は溜めが必要なんだろう。そうでなければフレイムランス3本でも止まらない攻撃はキツすぎる。
炎の撃ち合いは続くが気づくと周りに見えづらい細い糸が張られている。
全てが一斉に燃え始めてあたりの熱が上昇していくと、蜘蛛が新たな魔法陣を使う。
最悪の魔法だ、風魔法。
燃え盛る炎に空気が送り込まれ大爆発を起こした。
僕が炎使いで魔力耐性がなければ黒こげになってるところだ、というか風魔法がなくても、上昇した熱で肺が焼き切れてる。
炎よりも落盤の方が危なかったな。こんな狭いとこで爆発を起こして何を考えてるんだ。
瓦礫から体を出すと、蜘蛛は糸の塊を撃ってきた、しかもさっきまでよりもでかくて速い。
やるか、これまでの戦闘では炎狐の加護を使ってはいない。
使わなかった理由は本当に使えるのか分からなかったから。
教わりはしたが実践で使ったことはない。
じゃあどうして今やってみようと思ったか、それ以外に手はないし、やれる気がするから。
炎狐の加護を発動する。今まで使っていた魔力とは別物の魔力が体を巡っていく。
「『火花-昇竜菊先紅光露』」
体から一気に魔力が抜けていくと同時に右手から放たれた炎の竜はもの凄い熱量を帯び、いとも簡単に糸の塊を焼き尽くすと、そのまま巨大蜘蛛へ噛みつき足数本を残して一瞬で灰へとかえた。
あぁ、炎狐の加護を使えたことや、勝利した喜びよりも危険の方が優っている。
魔力が尽きかけ意識が朦朧とする。
巨大蜘蛛の足を拾って、フラフラになりながらもなんとか拠点まで戻ってくることができた。
意識を戻すとまだ命はあった。いつもは火の結界を張って眠りにつくがそんな余裕もなく意識を失っていた。手元には巨大蜘蛛の足。
失った魔力を回復するためにも食べなければいい感じに火も入ってる。
うん、苦い。毒の味がする。使ってなかったけど毒があるんだろうな、蜘蛛だし。
魔力耐性のおかげで多少の毒なら平気だが、この毒はなかなかに強力だ。
しばらくの間、目眩と腹痛、頭痛に耐えていると毒の耐性が上がったのか、マシになった。
その後もモンスターを倒して食べて倒して食べてを繰り返し、ある程度は炎狐の加護も使えるようになってきた。
そろそろだなと思っていたところに奴はやってきた。巨大蛇だ。
巨大蛇は頭を上げ威嚇と同時に土の槍を5本撃ってくる。
「いきなりの挨拶だな、炎魔法『フレイムランス・フュンフ』
5本の炎の渦で迎撃して一気に反撃に出る。
「『火花-昇竜菊先紅光露』」
炎の竜は巨大蛇に噛みつき、燃え盛る。
だが、硬い鱗に阻まれて牙が内部まで到達していない、焼いたのは表面だけのようだ。
巨大蛇の眼光が鋭くなり嫌な気配を察知。
「『火花-菊紅光露』」
薄い炎の壁ができるとそれは端から石化していくがその部分が燃えて石化が広がることはない。
防御技の一つだ。
巨大蛇は刃の様な尻尾の先をこちらへ振り回してくる。
数回は避けたが速く重い攻撃で壁際に追い詰められる。
そして尻尾は振り下ろされた。
菊紅光露で防ぐが衝撃で飛ばされて壁に押しつけられ、炎の壁が割れる。
「カハッ!! うぅ……」
膝から落ちて崩れた僕を巨大蛇は石化させ、大きな口を開けた。
石化した体にヒビが入り、右腕を突き出して渾身の一撃をたたみ込む。
「『火花-昇竜菊先紅光露』」
炎の竜は大きく口を開いた巨大蛇の体内に入り、体の内側から燃やし尽くした。
巨大蛇が絶命したのだろう、石化も完全に解けた。
後はいつものように巨大蛇を食すだけだ。
うん、味がしない。あるのは微か生臭さだけ。
調味料が恋しい……




