26話 ダンジョン誕生
ギルドでは既に多くの冒険者が集まっていて、ギルド職員も慌ただしく動き回っている。
残念ながら親方が襲われただけではここまでにはならない、なにか災害級の問題でも起こっているということか。
そして緊急招集基準を見るとCランク以上なのに俺にも招集がかかっているのはなぜか、その疑問はすぐにギルドマスターの答えによって解決した。
「悪いが今回は緊急を要するため特別措置で君をCランクに昇格させる。人手が足りなくてな」
「なにが起こってるんですか?」
「今から説明する」
ギルドマスターは冒険者たちの前に立ち事の経緯を話し出した。
「実は、新たな上級ダンジョンが都内で3ヶ所出現した。その上、Bランク相当が二つ、Aランク相当が一つだ。ここにいるメンバーで大規模パーティを編成して調査に向かってもらいたい。ダンジョン内部調査班3チーム、周辺調査に3チーム、そしてギルド待機2チームに分け、ここに自衛隊も加わる」
ダンジョンが新たに発生することは珍しくない。しかし、上級ダンジョンとなれば話は変わる。
上級ダンジョンなんてここ数年ははっせいしていないはずだ。
俺はBランク相当の内部調査班に選ばれた。
緊急を要するため、最低限の準備だけをしてダンジョンへと出発してチーム内の自己紹介も向かいながら軽く済ませる。
前情報ではゲートをくぐると広大な湿地帯が広がっているとしか報告がなく発生するモンスターについては一切の情報がない状態だった。
ダンジョンゲート前で内部調査班と周辺調査班共同の簡易拠点を設置する。
内部調査班に与えられた仕事はダンジョン内の魔力測定をして氾濫の危険があるかどうかとモンスターの生態調査である。
周辺調査班は溢れているモンスターがいないかと外への影響がないかの確認が仕事だ。
有名な話では毒系のダンジョンならゲートの外にも毒を放出したり、火山のゲートなら周辺の温度が上昇したりとダンジョンの魔力保有量で影響力が変わったりするが未だに解明はされていない。
俺のいるパーティは自衛隊主導で動いているが、2時間ほどダンジョンを歩き回っているのに一切モンスターと遭遇をしていない。
パーティ内でも異常だと話が出て1人が報告するために来た道を戻っていくが俺たちは自衛隊員に促されさらに奥を目指す。
数人の冒険者はもう帰りたいというのが本音らしい、明らかな不満を漏らす。
緊急招集で突然呼ばれた彼らは少し調査して報告して終わりだと思っていたようだ。
「たった数時間歩いただけで疲れたんですか?」
隊長を務める碓氷は淡々と質問する。
「何もないじゃねぇかよ」
「では帰ってもらって結構ですよ」
そうは言われてもはいそうですかとは帰れない。
碓氷の報告次第でギルドでの評価が悪くなりかねないからだ。
「じゃあそうさせてもらう、行くぞ!!」
しかし、よっぽどストレスが溜まっていたのか3人の冒険者が先に抜けると行ってしまった。
俺たちはさらに奥を目指し進むが突如、碓氷が隊の歩みを止める。
「止まってください、戦闘態勢、囲まれてます」
自衛隊員は見晴らしの良い場所でそういうが、辺りには敵らしき影は見えない。
「ど、どこに敵がいるんだよ、こっちだって暇じゃねえんだ、怖いなら俺が先に行ってやるよ」
1人の男は我先にと歩いていくと途中で首が飛び地面に転がる。
「こっから先は行かれると困るんだよな」
何もなかった空間が揺れ動き数人のフードを被った人間が現れた。
手には先程別れたはずの3人の冒険者の首があり、フードの男はその首をこちらの目の前に投げ捨てる。
戦闘はこちらの有利に進んでいた。
だが突如として強大な魔力の出現に一同が驚く。
どう考えてもこの先で良くないことが起きていると分かるし、目の前のフードの奴らは時間稼ぎに徹している。
「碓氷さん達は先に行ってください」
相手の数も減り疲弊していたことも考慮して俺は自衛隊の2人にそう提案した。
2人は少し話し頷いて先へと走っていった。
武器と戯れる者のカウントを溜める。いつもと違うのは『松風』がないことだろうか。
それでも問題はない。短刀を入れ替えて、今ある武器を最大限に使う。
ほとんど決着がついたといっていい。相手はほぼ無力化できた。
「あんたやるわねぇ」
女の声がしたと思った瞬間、帯状の炎が飛んでくる。
すんでのところを『涼暮』で防ぐが、後ろを見ると残りの冒険者はやられて生きてる者でも戦闘には参加できないほどの火傷を負っている。
「さっきのも防ぐなんて本当にやるわね、あぁこれいいでしょ、『炎精霊の尾』っていうんだけどね」
女は俺が注視しているのに気づいたのか自身の周りに展開する3本の魔法について喋るが、俺が見ていたのはそこではなくて女の手にある1本のナイフだ。
「そのナイフはどこで手に入れた」
「あれ、こっちが気になるんだ、このナイフのおかげで炎の力が上がってるって気づいたのかな」
「『炎精霊のダガー』だろ、どこで手に入れたって聞いてるんだ」
「名前まで知ってるんだ、鑑定系の魔法かな、これはねある工房を襲ったときにたまたま手に入れたんだけど私と相性が良くて超ラッキーって感じ」
確かに鑑定で確認はしたが俺はそのナイフをよく知っている。親方の工房に置いてあったものだ。
距離を詰め炎剣を振り下ろすが、炎の尻尾で邪魔をされる。尻尾は攻撃用、防御用、そしてその中間でバランスを取るサポート用と全部で3本。
だがそんなの関係ない、こいつはここで殺す。
ひたすらに斬りかかる。
「お前はここで殺す」
「そんなに怒ってるってことはもしかして知り合いだった? あいつなら最後まで無駄な抵抗してたよ。それと、そんなチャチな炎が効くとで思ってんの!?」
尻尾が炎剣に絡みつくとそのまま締め上げられ、炎剣が砕け折れる。
炎精霊のせいであたりの温度はかなり上昇していて炎剣のなくなった俺は一気に熱でやられるはずだが熱さなど感じない。
感じるのは純粋な殺意のみ。
黒紅を取り出す。武器と戯れる者が切れているこの状態で全身に『身体凶化』をかけるとどうなるかは分からないが出し惜しみをして勝てる相手ではない。
「コロ……ス」
§
「碓氷隊長いいんですか、冒険者の人達置いてきて」
「あそこに残っていたのはそこそこ戦える人達だったし、何とかなるでしょ。時間を稼いでくれたらこっちをとっとと終わらせて援護に行けるし」
碓氷ともう1人は強大な魔力の元へ急いでいた。
「うわーーー、やばそうなのがいますよ」
禍々しい魔力に全身が赤黒く羽が生えている。見た目からして完全に悪魔がそこにはいた。
「待っていたぞ、魔導隊のエリート共」
自衛隊の中でも優れた魔法を扱えるエリート部隊、それが魔導隊だ。
「碓氷さん、あの男って元自衛隊の人じゃないですか?」
「そのようだね」
「エリート様に知ってもらっているとは光栄だよ、素晴らしいだろこの魔力、私の長年の研究によって召喚に成功した悪魔だ。お前達は自分たちよりも優れた私に恐れをなしてこの研究に否定的で挙げ句の果ては魔導隊の選考から落選させるなどという愚行を行った。こいつはそんなお前達に罰を与える存在だ」
「何か勘違いしてるみたいだが、単純にお前の力不足で落選しただけだ」
「何をバカなっ!? ならばこの力をとくと見るがいい」
悪魔が右腕を振るえば岩が砕ける。足を振り下ろせば地面が割れる。
碓氷はそれらの攻撃を避け、ナイフで斬りつけるが体が硬く、切り傷程度しか切れない。
「見たか、この攻撃力に防御力、勝てるわけがないだろう」
もう1人の男は自称研究員の隣に立ち戦闘を遠巻きに見ていた。
隣に立たれたことに今気づいたのか自称研究員が驚く。
「わっ、わたしから先に倒そうというのか、だが私の心臓は既にあの悪魔とリンクしている。あの悪魔を倒さない限り私は不死身だぞ」
「それってあの悪魔が死んだらあんたも死ぬってことでしょ」
「そんなの不可能に決まってる。見ればわかるだろあの攻撃力に防御力、さらには回復能力まであるのだぞ」
自称研究員の言う通り、切り傷程度の傷はすぐに修復されている。
「アホですねあんた、そんなんだから落ちるんですよ。大体ですよ攻撃力ったって、岩を砕いて、地面を割るなんてそこらの冒険者なら誰でもできますよ、防御力に関してはあの人が遊んでるだけですよ。ほら、徐々に悪魔の動きが遅くなってるでしょ」
「バッ、バカなそんな……」
自称研究員は両膝から崩れ落ちる。
目の前の現実が受け入れられないのか悪魔は完全に動きを止めていた。
「それと言っておきますが、あんなの悪魔じゃないですよ、そこら辺にいるモンスターが擬態した姿でしょ」
完全に動きを止めた悪魔を背に碓氷も自称研究員の元へやってくる。
自称研究員は完全に頭がおかしくなり、独り言を呟いていた。
「連れて行くぞ、それと遊んでたわけじゃない生捕りにするために凍らせただけですから」
「げっ、聞こえてたんですか、冗談ですよ」
男が空間に魔法陣を描き魔力を流すと空間に割れ目ができ、そこへ自称研究員を投げ入れた。
「向こうへ急いで戻りますよ、不穏な魔力が流れている」
2人がその場を後にすると空間が元に戻っていく。
§
くそっ予想外だ、こんなバケモンがいるなんて、自衛隊さえどうにかすれば冒険者は有象無象じゃなかったのかよ。
目の前には全身が黒に染まる男が迫る。
『炎精霊の尾』はおもちゃのように簡単に斬られ、さらに斬られた箇所から崩壊していく。
だが狙いはある、近づいてきた男へ全力の攻撃、圧縮した炎を男目掛けて放つ。
圧縮された炎は熱光線となり大地を焦がす。男は跡形もなく消えていた。
やった!! 安堵したのも束の間、右腕に痛みが走り、倒れてしまう。
見上げるとそこには男がこちらを見下ろしている。上半身を起こし残る片手で何とか落ちた片手への元へ這っていく。
男がゆっくりと近づいてきたところを落ちた片手から回収した『炎精霊のダガー』で心臓目掛けて突き刺そうとするも簡単に防がれダガーが砕け散る。
「おっ、お願いします、命だけは……」
無情にも男の持つナイフは振り下ろされる。
漆黒の刃は心臓を避けた場所に浅く刺さる。
彼女は崩壊の魔力によって体を内部から壊されていく、地獄の苦しみを味わい、手足をバタつかせもがきくしむ。
数秒すると動かなくなった。
頭の中がドス黒い何かによってモヤがかかったように思考を遮る。
あるのは純粋な殺意のみ。
仇である女を殺しても敵を全員殺してもそれが治ることはない。
頭の中にある言葉がひたすらに繰り返し流される。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………コロ…セ。
生き残っていた冒険者へ近づいていく。
冒険者からは強い恐怖を感じるが歩みは止まらない……




