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24話 身体凶化

「はぁ!? マジでうざいんですけど」

 影法師の彼女、レヴィアは二本の曲刀を巧みに操りこちらに攻撃してくる。

 名前は影法師達が呼び合っていたので全員覚えた。そして彼女が不機嫌な理由は俺が攻撃を余裕を持って防ぎきっているからだろう。


 今発動している魔法は最近手に入れたばかりの新技で『身体凶化(しんたいきょうか)』という。黒紅から崩壊の魔力を受け取り、それを体に流すもので簡単に言えば身体強化に崩壊を付与した魔法だ。

 これまでは漠然と魔力を流し込まれていたのを制御して技にまで昇華させた。

 そして崩壊の属性はその名の通り攻撃した対象を脆くさせて崩すというもので闇系や呪術に分類されるらしい。

 まぁ、見た目からしても禍々しいこれがそっち系に分類されるのは当然だろう。

 残念ながら現在は黒紅を握る右腕に纏わせるのが精一杯でこれ以上は制御が難しくなってしまう。

 それでもその力は絶大で以前はボコボコにされた相手を前にしても十分勝てる。


 何度も刃を交わしていると一本曲刀が折れ、もう一本をレヴィアの手から弾き飛ばし首に黒紅を当てる。

「ありがとうございました」


「はっはー、マジでやられてるじゃん」

 アマイの声が闘技場に響く。


「マジうるさい、本気でやれば勝てるし」

 レヴィアの言葉は負け惜しみでも何でもなくほんとのことだ。元々1対1の近接戦闘は得意としていないらしく、呪術による弱体などを得意とした術師らしい。それでもあれだけ近接戦闘ができるのだから呪術も相当なんだろう。


「どうだろうな、分かんないよ」

 それにしてもこのやりとりを見ていると影法師達がモンスターだという事を忘れてしまう。

 まるで人間のようなやりとりだ。


 急にレヴィアの顔が変わり空気が重くなる。

「悪いけど仕事が入ったから抜けるわ」

 これまでも何度か仕事が入り抜ける影法師がいたが俺に付き合ってくれてる訓練はお遊びなのだろう。仕事の時に出す空気とは天地ほどの差がある。


「レヴィアはいっちまったが次は誰がやる? ファシル行けよ」


「えっ、なんで……」

 アマイに促されるのは先日は皇帝のように君臨していたファシルだ。

 実はあれは役作りみたいなものらしい。

 戦闘に関してはこの中で一番弱いと思う。もちろん本気を出していないだけなんだが。

 ファシルを軽くあしらい、その後も訓練は続いた。


 大きく深呼吸をする。さすがに入れ替わり立ち替わりで全員との戦闘を終えた俺は魔力も使い果たしヘトヘトだ。

 地面に腰をつけて休んでいると背後から急に声がかかる。


「皆月様、お疲れ様です」


「セツラさん、驚かさないでくださいよ」

 この執事のセツラさんは謎が多い。まず実力に関しては影法師達を圧倒的に凌駕していると思う。

 さっきのような気配の消し方や影法師達の接し方からそう思うのだが正直なところは分からない。

 恐らく、力量が離れすぎているせいで測れないんだと結論づけている。


「これは申し訳ありませんでした。皆月様が想定よりもはやく成長されたという事でお渡しするものがあります」

 そういうと執事が取り出したのは槍だった。


「これは槍ですか」


「青江様より預かっていたものです。皆月様が一定のラインに到達するとお渡しするように言われておりました。お受け取りください」


「親方が俺に……」


 握った瞬間に分かった。雷猿の魔石に神獣の角で作られた槍は魔力を流すと雷を放出する。


「まだまだ精進するようにとの言伝もいただいております」

 なんというか親方らしいな。

 近いうちにまた挨拶しに行かないといけない。



§



 剛力さんのパーティ『アイギス』と同行するのも最後の日、俺たちはダンジョンには潜らずにギルドの訓練所にいた。そして今、キララと対面していて戦闘が始まろうとしている。


 キララは片手盾に片手剣、俺はまずは様子見として両手に短刀を構える。

 戦闘が始まってもキララは見に徹していて攻めてこようとしないためこちらから仕掛ける。

 怒涛の攻撃は全ていなされ、要所要所で剣による適切なカウンターが飛んでくる。

 防御から攻撃への切り替えは流れるようにはやい。それは逆も然りでカウンターを躱して隙を狙おうとしてもすぐに守りの態勢に戻っている。

 普段のお転婆な性格からは想像もできないほどの硬い立ち回りだ。


 手数では責めきれないことは分かった。かと言って一撃が強力でも遅い攻撃だと身軽なキララに簡単に躱されてしまう。

 しかし、偶然にも今の俺にはちょうどいい武器がある。

 

 一歩下がり回転しながらその武器を取り出しなぎ払うとキララの盾とぶつかり火花のように電気が飛び散る。

 雷槍『鳴雷(なるかみ)』なら攻撃速度は遅くないし、一撃も軽すぎない。

 槍を振り回し、突きを数発からの薙ぎ払いを放つもいなされて躱されるがキララの表情からは焦りを感じる。

 さらにバリエーションを増やして攻撃を続ける。

 突きに薙ぎ払い、振り下ろした槍が躱されても地面に跳ねさせ下から突き上げる。

 これらの槍術はアマイから盗んだ。


 キララは苦悶の表情を浮かべる。その理由は槍を振るうたびに空中を走る雷の存在だろう。これに当たると多少ではあるがダメージになる。

 1発なら気にするほどでもないが蓄積していくダメージはキララの動きを徐々に重くしていく。


 そしてその時はやってくる、こちらの突きに対して防御が遅れた。

 だが槍はキララの体に当たる前に半透明の結界によって阻まれた。

 さすがの硬さを誇ってはいるがそれはすぐに消え、二度目の攻撃は何にも邪魔をされることなく彼女のお世辞にもふくよかとは言えない胸を貫いた。

 一定以上のダメージを受けたと認識されたキララは仮想世界から強制離脱となる。


 仮想訓練とはいえ感触は残るのでなんとも後味が悪いものだ。

 仮想世界からキララとパーティの待つ控室へ向かうと本人はケロっとした様子で気にもとめていないようだ。


「いやーーー、全くついていけなかったな、完敗だよ」

 キララは強情にふるまうがその表情からは悔しさを噛み殺しているのが伝わってくる。


「運が良かっただけですよ、あの槍最近手に入れたばかりなので……」


「ふーん、まっ、少年もこれで気分良くデートに行けるな!!」


「デート? だれと?」

 剛力さんが怪訝な顔でこちらを睨みつけてくる。


「いや……プライベートなことなので、ちょっと……」


「プライベートなことなのにキララはなぜ知っているのかな?」


「そうですよ、どうして知ってるんですか?」

 剛力がキララにジリジリと近づいていくとキララは簡単に口を割った。


「ユカちゃんと……ギルドでも噂になってるし」


「なるほど、なるほど、シュウカ君、仮想世界に入りなさい」


「えっ、今日はこれで終わりじゃ……」


「その予定だったけど、せっかくだし俺の本気も見てもらおうかなと思ってね……」

 なんだろう、幻覚だろうか剛力さんの背後に修羅が見えて血の涙を流してるように見える。


 強引に仮想世界に入れられ、剛力さんとの戦闘が始ろうとしている。

 大楯使いの剛力さんとは以前も仮想世界かで戦闘したことがあるけど、あの時とは別人と思っていいだろう。

 あの時は手加減に手加減をしていてくれたが今、目の前に立つのは怒り狂っているバーサーカだ。


 まず装備が違う、特徴である大楯はパーティ名の由来にもなっているアイギスの大楯、白銀に輝く表面に雲の装飾が施されている。

 そして鎧も同じように白銀に雲の装飾が施されているアイギスの鎧。

 全ての能力を聞いたわけではないが浄化系の能力と魔力耐性が飛躍的に上がることは聞いている。


 浄化系の能力は闇系や呪術系を治す能力で黒紅の崩壊はあてにできないかもしれない。

 魔力耐性は高ければ高いだけ魔法が効きにくくなる。生半可な魔法は無意味ということだ。

 前回は炎剣で体力を削ったが今回は使えないだろう。

 もちろん物理的な面でも相当に防御力は上がっているはず。

 これらに加えて名前の通りの身体強化の一種である剛力と結界もある。


 戦闘が始まった。武器と戯れる者を発動、まずは距離をとって『松風』でカウントをためる。


「……!? ッう」


「油断かね、シュウカ君」


 開始と同時に剛力さんの突進により数メートル吹き飛ばされた。

 油断していた……

 追撃がくる、甲高い音が鳴り響く。二撃目は『涼暮』で防ぐことができた。


 開始早々、痛手を負ってしまった。だが幸運なことにヒビ程度でおさまっている。痛みだけならまだ動ける。

 身体強化様々だな、以前のしょぼい身体強化じゃ全身の骨を粉々に砕かれて一撃で死んでたな。


 奇襲をかけた剛力さんは守りの態勢に入っている。少しのイレギュラーはあったが当初の予定どおり『松風』でカウントをためていく。


 『松風』で何本撃ってもびくともしない、炎剣の炎で囲んでも、『鳴雷』の電撃でも一切動じずにその場から動かない、ダメージもない、そしてこちらを観察している。


 動き出して徐々にこちらへ近づいてくるが警戒は緩めない。身軽ではないとはいえ一瞬の突進力は先程の一撃でよく分かっている。


 注意深く剛力さんの一挙手一投足を見逃さないように注視しているとあることに気づく。

 大楯の後ろに隠れているが手に力が入っている。


「しまった!?」

 いつの間にか結界で囲われている。もちろん棘は内側に向いているな。


『建未』を力一杯にしたから振り上げる。

 結界は砕け散った。使用者からの距離が離れればそれだけ強度は低くなる。

 ゆっくりと近づいてきてたのは有効範囲に近づくためか、油断も隙もないな。


 カウントは最大まで溜まっている。最近の俺の成長に伴って武器と戯れる者も成長している。

 カウントが溜まりやすくなったため比較的時間に余裕を残している。


 小手先で通用しないなら、多少のリスクは負ってでも今の俺の最大火力で挑むしかない。

 大体、相手は格上なんだ、リスクなくして勝利が得られるわけがない。


『黒紅』を握る。普段は制御して右腕のみの開放だがこれは10%程度と言っていい。それでも相当な負担が体にはかかる。

 今からやるのは全開だ。

 セツラさんにはやるなと言われているが武器と戯れる者のカウント最大ならギリギリ耐えれるはず。

 そもそもダメージがあったとしても仮想世界のダメージは一瞬で元に戻る。


「やっと本気でくるか、そうこなくてはな!!」

 剛力さんは剛力を発動させ身構える。


『黒紅』から魔力が流れ込んでくる、右腕から腰を巻くように何周かすると、左腕と両足へ伸びていく。

 そして、心臓に流れ込み、最後に頭を包み込むように全身が黒い魔力で覆われる。


「行きます!!」



§



 軽く地面を蹴るだけで数メートル飛び上がり、そのまま剛力へと黒紅をぶつける。

 大楯で防いだが地面が陥没してその攻撃の重さが分かる。


 さらに攻撃速度も上がり、右から左、左から右、上から下、下から上と斬撃が乱舞する。

 速すぎる動きで黒い軌道だけが残る。


 さらに加速していくと体すらも黒い軌道しか見えなくなる。

 剛力は360度の広範囲を結界で守っているが、目に見えて結界が削れていく。

 そして何よりも剛力の目に皆月の姿はなく黒い影だけが自分の周りを高速で移動している。

 結界を棘のついた形態に変化させる余裕すらなく、剛力が必死にやっているのは結界の修復と浄化だった。

 削れた結界を元の形に戻すだけでは黒い魔力で崩壊してしまう。

 それを浄化しなければいけなかった。そして、一瞬でも結界に穴ができると自分の首が飛ぶと確信できるほどの圧力を感じていた。


 剛力はひたすらに耐える、数十分は耐えたはずなのに目の前の脅威が止まる気配がない。

 このとき実際に経過していた時間は1分に満たないほどだったが、それだけ途方もない作業を剛力は行っていた。


 並の冒険者ならまず、結界の展開をするだけでも2、3秒持てばいい方だろう。

 事実、上級ダンジョンでも遅れを取らないキララですらそれだけしか保たない。


 剛力は全身から大量に汗を流し、痙攣する部位を必死に抑えなんとか耐えていた。

 既に意識は半分飛んでいて長年の冒険者としての経験が死から身を守るために体を動かしていた。

 結界を展開して既に5分は経過しようとしている。しかもここに修復と浄化も同時に行なっている。剛力の感覚では戦闘が始まって4、5時間は経っていた。

 普通は誰かが途中で止めてもおかしくないが、皆月の黒い残像のせいで誰もが結界の中の様子を確認できなかったし、結界が展開されているのだからこんな状態になっているなんて思う人間はいなかった。


 そしてついに均衡が崩れる。まず、浄化ができなくなった。結界は修復しても脆く崩れていき、そこへさらなる攻撃が加わり加速度的に結界が壊れていく。


 皆月の動きが止まる。

 武器と戯れる者が切れたのだ。


 そのまま糸の切れた人形のように倒れた皆月とほぼ同時に剛力も意識を完全になくし、2人は控室へと強制転移させられた。

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