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21話 影法師

 豪華絢爛な家具の数々、その内の一つだけでも一生かかっても手が届かないような値段がするだろう。

 二度とくることはないだろうと思っていたアマンバードカンパニー本社社長室に再び訪れていた。

「よく来てくれた、皆月くん、青江さんから話は聞いてるよ」


 今回は親方は来ていない。まだまだ修行をしたいと相談したところアマンバードカンパニーの天鳥社長を紹介してもらいここに訪れた。

「よろしくお願いします」


「早速だけど、とあるパーティに同行してもらおうと思ってね。君には勉強になると思うよ、セツラ案内を頼む」

 社長が何もない壁の方へ向かって名前を呼ぶと、何もなかったはずの場所に男の影がうっすらと見え始め姿を現した。

 社長の隣に立つリーナが社長秘書なら姿を現した男性は執事の風貌をしている。年齢は30代前後といったところか、執事は恭しく社長へ一礼をすると応対室へ案内をしてくれた。


 応対室には見知った女性とガラの悪いスーツの男が座っていた。

「皆月さん!? 覚えてますか?」

 彼女は、斎藤さんはゴブリンリーダーを討伐に行ったときのパーティメンバーで共に死ぬ寸前を経験したのだから忘れるはずがない。


「久しぶりですね、お元気そうで……」

 髪が少し伸びただろうか、以前も凛々しく優雅ではあったがさらに女性らしさが増している。

 まぁ、そんなことよりもこちらを睨みつけくるスーツの男2人が気になる。


「トラ、リュウも皆月さんに挨拶をしてください」


「お嬢の護衛を務めている、青井竜二(あおいりゅうじ)

「同じく護衛の白木小太郎(しらきこたろう)


 お嬢!? 名前も見た目もどう考えてもあっち系な方にしか見えない。

 それに斎藤さんはずいぶんと明るくなったというか、初めて会った時と比べると変わった気がする。


「お知り合いとは話が早いですね。今回の目的は斎藤様と皆月様の実力向上を主として行動いたします。そしてできれば人数は少ないほうがよろしいので斎藤様と皆月様以外の方はご遠慮頂きたいのですが……」


「ハァ、ダンジョンにお嬢を1人で向かわせるなんてできるわけねぇだろ」

 青井が声を荒げ室内の空気がピリつく。


「リュウ、やめなさい」


「お嬢、しかしですね……」


「分かりました、青井様がそこまでおっしゃられるのならダンジョンに入っていただいて結構です」


「当たり前だ!!」



§



 執事に案内された先にはゲートがあった。

 ここはアマンバードの敷地内である。本来、ダンジョンはギルドが管理するのが普通だが許可があれば企業が管理することもある。

 企業からすればダンジョンは無限の資源を生み出す金の成る木だからだ。

 しかし、それには高い水準での安全性を示さなければいけない。ダンジョンの危険度に対して企業がそれを上回る戦力を有するかである。

 大手企業ともなれば傭兵や冒険者を囲ったりして国家規模の戦力を持つ場合もある。

 このご時世、国家の力は衰退していて企業やギルドの方が権力的に上に立つこともある。


 ゲートをくぐると、闘技場へ続く入場口へ転移した。

「これは……」

「ここは凄いですね……」

「お嬢、お気をつけください、何があるか分かりません」


 闘技場へ進み執事以外の全員が驚愕した。圧倒的なスケール、闘技場は円形になっており、その周りに並ぶ観客席は4階まであり、一体どれほどの観客が収容できるのか想像もできない。


「よく来たな、剣闘士諸君、今日も楽しい余興を期待しているぞ」


 観客席の中で一区画だけ区切られ、最も眺めのいいそこは皇帝席。

 1人の男がイスに深く腰掛け、周りに数人のお付きが控えている。

 皇帝席から俺たちを見下ろし声がかけられるがその声はそれほど張っていないのに心まで響く、まさに王の一声と言った感じか。


 執事は王の声に気にせずに説明を始めた。

「お二方の修練になぜこのダンジョンを選ばれたのかですが、ひとえに特殊だからでしょう。見ても分かる通りここは闘技場です。そしてあれはここのボスモンスターで戦闘を見るのが好きなのです。つまり今からやっていただくのはモンスターとの試合です」


 逆側の入場口から5つの影が現れる。全員が影のようなものを身に纏い、顔は確認できない。実態を持った影法師が動いているかのようだ。もちろんモンスターなのだから顔があるかは分からないが。

 その内の一体が闘技場の中央へ進む。


「そこのスーツにサングラスの男よ前に出よ」

 皇帝は青井を指名した。

 4人が困惑気味に執事の顔を確認すると執事は一礼して手で闘技場の中央を指す。

 誰もがこんなダンジョンがあるとは思わなかっただろう。先日、モンスターの中には害にならないモンスターがいるとは聞いたし実際にこの目でみたが、まさか普通に喋って修行に付き合ってもらえるなんて……


 青井と戦闘を始めたのは魔法使いのようで炎魔法を使って攻撃をしている。その魔法はこれまで見た誰よりも強力で正確であった。

 一方の青井は片手に銃、もう片方にナイフを持って挑んでいるが、銃弾が影法師に届くことはなく、すべて炎の前で灰塵に帰す、もちろんそんな炎の前に近づけるわけもなく防戦一方になっている。

 最後は炎が青井を包んでいきそこで試合は止められた。

 炎が消えると倒れている青井の姿が見え、斎藤さんは焦りを表し近寄ると青井は起き上がった。


「ふんっ、つまらん、次はそっちの残ったスーツ出ろ」

 次に指名が入ったのは白木だった。影法師も入れ替わる。

 帰ってきた青井は思いの外元気で白木の試合を観戦する。


 白木も青井と同じくナイフに銃で相手の影法師は無手の使い手だった。

 連射される銃弾をすべて躱し、高速で近づき攻撃を繰り出す。

 白木はスピードについていけず終始、影法師が圧倒して白木の敗北となった。


 次に指名が入ったのは斎藤さんだった。相手の影法師は胸の膨らみや腰のくびれから性別があるなら女性だろう。

 斎藤さんがレイピアによる突き主体の攻撃を行うのに対して影法師は二本の曲刀を駆使して巧みに攻撃を行う。

 その様は舞踊を思わせるように華麗な動きだった。

 2人は本当に対照的で直線的でほとんど初動が見えない突きを繰り出す斎藤さん。

 影法師は常にゆったりと動きながら突きを躱し攻撃を行う。

 攻撃は分かりやすいはずなのに何故かダメージを負うのは斎藤さんだった。

 影法師の攻撃は削り切るという感じで徐々に斎藤さんに傷が増えていき肩で息をする。

 そして試合が止められた。

 傍から見ても影法師の圧勝だろう。影法師は一切の傷を負うことなく斎藤さんをボロボロにしている。


 続くは俺の番だ。出てきた影法師は自らの影から短刀を二本作り出し握った。

 そして俺に対して手でかかってこいとジェスチャーを出す。



§



「お嬢、申し訳ないですがあの小僧、何年も冒険者をしてあの程度なんですよね、修練しても無駄だと思いますが」


「私も直接見たわけではないけど、ギルドではかなり戦えるって噂だよ」


「そんなのカケラも感じないですがね」


「青井さんは少し相手の実力を測る訓練をしたほうがいいかもしれないですね」

 執事は不敵に笑みを溢し呟く。


「何だと、さっきのが俺の実力だと思ってそんな口を聞いてるなら……」


「リュウ、大人しく試合を見てろ」

 白木が青井へ目配せして試合に注目するよう促す。



§



 立ち振る舞いと魔力の質で影法師が格上なのはすぐに分かった。

 武器と戯れる者を発動させて松風で短刀を3発連射する。

 影法師は両手の短刀で軽々と弾くと一気に加速して距離を詰めてくる。

 走りながら短刀をこちらへ投げジャンプすると影から大剣が生成されてそのまま振り下ろしてくる。


 重い一撃を涼暮で受け止める。

 お互いに大剣と大楯から手を離し影法師は影から短刀を作り、俺は収納していた短刀を取り出しぶつけ合う。

 少し打ち合いを続けると、すぐに武器をスイッチする、影から槍が作られ正確な突きが襲ってくるのを炎剣の炎の壁で距離を作る。


 影法師は槍を回転させながら一息をつく。

 修練の意味が分かった。まるでお手本のような武器の入れ替えと扱い。


 松風で短刀を撃ち影法師は槍で弾くがその隙に俺は高くジャンプをして戦斧『建未』を振り下ろす。

 大剣と戦斧で少し違うが影法師の動きを真似た攻撃だ。


 一撃は避けられるが戦斧は地面を割り、そこから土の刺が影法師を襲う。

 戦斧での直接攻撃と土魔法の2段攻撃でほんの少しだけ傷をつけることができたか。

 影に覆われた体では傷の度合いは分からないが感覚的には当たったと思う。

 ただしもう使えはしないだろう。戦斧は他の武器に比べて圧倒的に練度が低い。


 影法師は傷を受けてから一段階ギアが上がったように攻撃の速度が上がる。

 至近距離での短刀の打ち合いの途中で槍に変わり、大剣、そして短刀と目まぐるしく攻撃の種類が変わる。

 さらにはそこに蹴りや殴りも混ざり、腹部を蹴られあばらは折れたか、体も至る所に切り傷、なんとか致命傷はないものの何度も顔を殴られて意識は朦朧としている。


 耐えきれなくなり後ろへ一歩後退したときだった、影法師は居合の構えを見せる。

 しかし手には何も握られていない。


 ただ、純粋な殺意を感じ周りの景色がスローに変わって命の危機にあるのは感じ取ることができた。

 何故かは分からないが黒紅以外を選択すると死ぬ気がした。

 というかほぼ無意識に黒紅でその攻撃から身を守った。

 影法師が居合抜きを見せるといつの間にか手には刀が握られていて、その斬撃は後ろの観客席を大きく斬り落とした。

 俺の体は黒紅によって斬撃から難を逃れていた。

 影法師は俺が一撃を防いだことに驚いたようだ。少し動きが止まった。


 久しぶりに黒紅を握った。親方から危険だと警告されていたのもあるし、自分自身でも危険を感じていた。

 特に封印が外れてからはより強力な負の感情が流れてきていた。


 しかし、どうだろうか。久しぶりに握った黒紅の感覚は悪くなかった。

 黒紅から流れ込んでくる魔力は心地が良く、体に馴染んでいる。

 影法師へ一気に距離を詰めて黒紅を振る。

 防いだ刀は真っ二つに折れ、影法師はさらに驚きを見せた。

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