19話 神獣(猫)のしがない一日
我の名前はリィン、今非常に気分が悪い。
主の部屋で気分良く日向ぼっこをしていたというのにあの犬っころがボール拾いに夢中になって暴れ回るせいで主が我のために立ててくれたタワーを倒すなんて許せない。
大人しく我の制裁を受けていればいいのにあろうことか反撃してきてその上、この純白な体に傷をつけるなど全く。
あんな犬っころと同じ神獣扱いされてるなんて我慢できないのう。
主には傷ついた体など見せたくありませんから、日向ぼっこも合わせて魔力を浴びにいきましょう。
丁度いいスポットがあるんですよ。
……? おかしいのう、以前はもう少し心地の良い場所だったのに妙に人間臭い。
まぁ、いいわここでのんびりしよう。
「あ、あの、神獣様でいらっしゃいますか?」
「あら、あなた達喋れるのね、そうですけど邪魔をしないでくれますか」
「ワシはこの群れの長ですじゃ、なんとかお助けを頂けませんでしょうか」
「神獣である私にタダで働けと仰るのですか」
「猫狂いの花穂を捧げますじゃ」
「ほう、考えてもやらんではないな」
「おさーーー、大変ですにゃ、人間が猫狂いの花穂をもって、仲間が懐柔させられてますにゃ」
「急に大声を出しては神獣様に失礼じゃろ、それにその語尾をなんとかせよとあれほどいっておるのに……神獣様、若い者が失礼をいたしました」
ほう、あの人間が持っているのが猫狂いのの花穂とやらか。
「ふん、人間、私が主以外に喉を鳴らすとで思っているのか、甘く見られたものだな」
しまった、手を振り払った拍子に人間に傷を負わせてしまった。
主には極力、人間を傷つけるなと言われているのに。
なんだこの人間は傷つけた代償として変な液体を私に飲ませようというのか、まぁいいじゃろう、神獣である私に毒物の類は効かんぞ……むっ、これは傷の治りが多少早くなっておるの。
そうか、信者であったか、古くから我を崇める存在は少なくないからのう。
何か褒美でも与えた方がいいかのう。
むっ、何も求めずにどこかへ行ってしまうとは中々に見どころのある奴じゃ。
奴への褒美は後で考えるとするか。
「して、長とやら話を聞こう」
「にゃーん、ゴロゴロ、ゴロゴロ……はっ、ワシは一体……」
「ふむ、猫狂いの花穂の力は本物のようじゃの、長よ困りごとはなんじゃ」
「え、えぇ、それがですにゃ、森で悪鬼が暴れておりましてですにゃ、これの退治をお願いしたいですにゃ」
「うむ、その程度で猫狂いの花穂を貰えるなら引き受けてやろう。それにしても長よ……」
「はっ、なんですにゃ」
「語尾がおかしいぞ」
「……」
§
「ふむ、悪鬼共めここまで節操がないとはの」
洞窟には喰い散らかされた哀れな存在が横たわっておる。
「神獣様、なんとかお願いしますにゃ」
「長よ何度も言わんでも、こんなものまで見せられては放っておくこともできん、すぐに悪鬼に制裁を与えてやろう」
「おさーーー、どうやら先の人間が悪鬼と戦闘をしているようですにゃ」
「だからお主は急に大声を出すのと語尾をのんとかしろといっておるにゃ」
「……長も一緒にゃ」
「……」
「お主らいいから行くぞ」
「はいですにゃ」
あれが人間と悪鬼の戦いか、我が信者ながら中々に頑張ってるようじゃが些か数に違いがあり過ぎるな。
「神獣様、実は合わせたいものがおりますじゃにゃ」
「ほう分かった、そなたの合わせたいという者のとこまで案内せよ」
「すでに連れてきてますじゃにゃ」
「ふむ、それにしても長よどちらかにはできぬか、聞き取りづらいぞ」
「……」
§
「神獣様、お、お初にお目にかかります、大熊です」
「ふむ、そなたらも被害者と聞いておる、悪鬼のことは我に任せておれ」
「あっ、ありがとうございます。お礼といっては何ですが、森の恵みを捧げさせて頂きます」
「まぁ、そこらへんは良きに計らうがいい」
「それとですね、こんなこと言うのは甚だ筋違いというものかもしれませんが……」
「なんじゃ」
「あの人間は我らを見逃して助けてくれました。できればあの人間も助けて頂きたいのです」
「そんなことか、あの人間は我の信者故、助けようと思っておる」
「左様でしたか、ありがとうございます」
「おさーーー、人間が悪鬼の親玉を倒したみたいですにゃ」
「長よすぐに向かうぞ」
「はっ、仰せのままに……にゃ」
惜しいのうもう少しで耐えれおったのに、猫狂いの花穂とは末恐ろしいものよ。
ふむ、どうやらあの人間は悪鬼の親玉を倒せたはいいが、力を使い果たしたようだのう。
「よし、行くぞお前たち、悪鬼に制裁を」
「にゃーーーー」
「がぁーーーー」
やはり悪鬼とはこの程度であったか、まぁこの人間が相当な数を減らしていたのも捨ておけんか。
「大熊とやらこの人間をそなたらの隠れ家へ連れて行ってやることは可能か」
「もちろんでございます。この人間は恩人でございますゆえ」
§
「ここの森の恵みとやらは中々にいい味をしておるのう」
「左様ですじゃにゃ」
「ありがとうございます」
「おさーーー、人間がここに近づいてきてるにゃ」
この気配は、奴か……
「よいよい、我の知り合いだ。ここまで案内してやってくれ」
「やぁ、リーン、やはり君がいたら大事ないと思っていたよ」
「人間風情が我を利用しおったということか」
「そんな怖い顔するなよ、君の主にはリーンの活躍を報告しておくから、褒めてもらえるぞー」
「むっ、では速やかに我が主に報告することで今回の件はなしとしておこう」
「我と長は先に戻るゆえ、大熊よこの男の手伝いを頼む。気に入らなければ首引きちぎって内臓引きずり出してもよい」
「怖いことをいうなよ、そうだ君の主にプレゼントを渡しておくから」
§
「長よ、約束通り猫狂いの花穂はいただいていく」
「今回はお力頂きありがとうございましたにゃ」
思いの外、長い外出になってしまったな早く帰らねば。
なんだ、まだ主は帰ってきておらなかったか。
全くこの犬っころはいつまでぐだぐだと寝ておるのか。
ハッ、主の気配。
「犬っころそこをどけ、我が主をお迎えするのじゃ」
「邪魔するなよ、君が遊びに行ってる間もお留守番してたのは僕だぞ」
「むっ、一日中寝とっただけじゃろ」
「ただいまー、2人共お留守番ありがとう。お土産もあるからね。ははっ、相変わらず仲がいいなぁ、あれ、猫じゃらしなんてあったっけ、おいでリーンナギサから君にってまたたびも大量に貰ったんだよね、大活躍だったみたいじゃないか」
「にゃーーーーーーー」
「レンもおいで、君も大活躍だったみたいで貰い物があるよ」
「くぅーーーーーーん」
そこには神獣の貫禄などなくお腹を見せて尻尾を振る犬と喉を鳴らす猫のいつもの姿があった。




