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15話 急展開

「ハァ……どうしてこんなことになったんだ」


「皆月柊夏、覚悟しろよ、お前の命運も今日までだ!!」


 開けた平地で大楯を担いだ男と対面し、武器と戯れる者を発動させると、アイテムバックから翡翠弓『松風』と短刀を同時に取り出してほぼノーモーションで男へと撃ち放つ。


 男は何事もなかったかのように大楯で短刀を弾いた。


「この程度で俺の鉄壁の盾は破れないぞ」


 男の言った通り、その防御を抜くことはなかなかに厳しかった。

 どれだけ撃っても傷一つつかない。

 ただ、男はパーティの盾役で動きが遅く一方的に遠距離から攻撃をして簡単にカウントを貯めることができた。


 大きく息を吸い込み、魔力を弓へ込めて渾身の一撃を撃ち放つ。

「『風刃』!!」


 雷猿をも一撃で屠った最大威力の攻撃。

 風の矢は盾にぶつかると男は足に力を入れて踏ん張る。

 徐々に風の矢は威力を弱めていき消えてしまう。

 それは風刃が完全に防がれたことを意味していた。


 それを見て攻め方を考えていると、急に男のスピードが上がり迫ってくる。

 

 男が近づいてきて大楯をなぎ払うようにぶつけてくるのを腕でガードするが吹き飛ばされる。


『松風』は地面に落ちる。

 体を起こすが左腕が折れたのか動かない。

 男がさらに追撃してくるのを炎剣の炎で壁を作り時間を稼ぐ。


 男の動きがまたゆっくりに戻る。

 一時的にスピードをブーストする魔法だと推測を立てた。


 炎剣の炎を男の辺りにばら撒く。

 雷猿の時にも使った戦法だがここは平地で周りに木々もそれほどなくあの時ほど炎は燃え上がらない。

 しかし、男の動きは遅く確実に熱で体力を奪っていく。


「卑怯だぞ!! 男なら正々堂々とかかってこい!!」

 男が叫んでいるが挑発に乗るつもりはない。

 最も効果的な手段を確実に冷静に遂行するだけだ。

 

 耐えかねた男が再びブーストをかけ突進してくる。

 だが先程は初見でさらに、大技を使った後の隙があった。ただの突進はまさしく飛んで火に入る夏の虫だ。


 炎剣を地面に突き刺し炎を吹き上げる。

 攻撃ではなく目眩しに使った。


 炎が止んだ後に男はこちらがいなくなっているのに気づくが、それではもう遅い。

 黒紅を握り男の首を切り落とす。


 首が地面に落ちたと同時に首も体も消える。


 これはこの空間の仕様である。死ぬほどのダメージを受けると空間から転移させられ、空間内での傷は全てなかったものになる。

 もちろん先の男は死んでいないということだ。


 空間から出ると男が待っていた。


「まさか本気ではなかったとはいえ負けるとはな」

 男の言ってることは負け惜しみでも何でもなく事実だ。

 男の名前は剛力(ごうりき)、Bランクの冒険者であり、Bランクパーティのリーダーでもある。

 剛力の使っていた大楯のランクは高いものではなかったし、使用した魔法もスピードをブーストする魔法一つだけで、明らかに手を抜いていたのが分かる。

 いや、手を抜いていたというよりはEランクの俺相手にBランクが本気を出すわけにもいかずこのようなハンデをつけたのだろう。


「これで絡んでこないでくださいね」


 そもそもの事の発端は光月さんだった。

 光月さんが何かをしたというわけではない。この剛力という男はギルド内でも屈指の光月ファンの一人で、俺と光月さんが食事をしたのを知って光月さんの前で俺をボコボコにして格好悪いところを見せようとしたらしい。


「剛力さん、これ以上皆月さんに迷惑をかけないでくださいね」

 光月さんは笑顔を見せるが目が笑っておらず剛力とその後ろにいた光月ファンに圧力を放っている。

 よくよく考えると光月さんもBランク相当の実力は持っているわけで、怒らせると怖いと再認識する。


「悪かったな、迷惑料と言っちゃなんだがこれを受け取ってくれ」

 光月さんに怒られた剛力はションボリとした様子で先程使っていた大楯とは違う大楯を手渡してくる。


「いや、これはさすがに受け取れないですよ」

 その大楯が高ランクなのは一目見て分かった。


「皆月さん、いいじゃないですか。こう言ってるんですから貰えるものは貰っときましょう」

 光月さんの笑顔が悪魔の笑みに見えてきた。


「ありがとうございます」

 剛力も渡す気満々のようだし、大楯は扱ったことはなかったが貰ってしまおう。


「くぅぅ、ゆかたん……」

 剛力は去り際に寂しそうな目を光月さんへ向けるがそれを一蹴する。


「次その呼び方したら受付しませんから」

 光月さんは再び目の笑ってない笑顔を剛力と後ろの光月ファンに向ける。

 ……恐ろしい。


 剛力たちは足早にどこかへ消えていった。


「全く、ほっといて欲しいですよね」


「そうですね……」


「皆月さん、どうしたんですか?」

 笑顔でじっとこちらを見つめてくるその目からは圧力を感じた。


「いえ、なんでもないです」



§



 皆月はとある中級ダンジョンでボスと相対していた。


 3メートルは優に超えるその巨体は棍棒を振り下ろしてくる。

 しかもただの振り下ろしではない、オーガという膂力に優れた種族の渾身の一撃。


 普通は受け止めるなんて考えずに避けるだろう。

 しかし皆月は敢えて受け止めることを選択する。


 棍棒は皆月の構える大楯とぶつかると鈍い音を鳴らす。その威力は皆月の足元の陥没した地面を見れば分かるだろう。

 オーガは続けてなぎ払いを見せるがこれも大楯で防ぐ。


 大楯『涼暮(すずくれ)』の能力である空間固定は発動すると大楯と使用者をその場に固定して衝撃を受け止める。

 即ち吹き飛ばされることはない。

 ただし、衝撃が消えるわけではないので強大すぎる攻撃を受けるともろにダメージを受けてしまうため、使用者には高い身体能力が必要となる。


 オーガの一撃を受け止められる身体能力は翡翠弓『松風』と『武器契約』をしたことによる大幅なステータスアップで獲得していた。


 さらに『武器収納』という低ランクの武器を収納できる能力も手に入れた。これは短刀を10本まで収納できる。


 守ってばかりでは勝つことはできない。

 棍棒での一撃を躱して、『松風』を取り出して短刀を放つ。

 武器契約したことによりその威力はさらに上がっていて、オーガに十分なダメージを与える。


 オーガは危険を感じ取ったのか攻撃の手は減って防御主体になっている。

 それでも『松風』の攻撃は守りきれずにオーガは徐々にダメージを負っていく。


 観念したのか防御は捨てて両手で棍棒を握り大きく振りかぶる。

 こちらも『風刃』を放つ。

 風刃はオーガの胸を貫き風穴が空くがそれでも攻撃は止まらない。


 オーガの生命力は凄まじいと聞いていたが実際に体験してみると違うなと実感する。

 殺したと思っても攻撃をしてくるのだから油断できない。

『風刃』をさらに2発オーガの両腕に放つ。

 両腕は宙を待ってオーガの体から離れていく。


 オーガは前のめりで倒れ、宙を待っていた両腕と棍棒も地面に落ちる。


『風刃』も3発までなら連射できるようになっている。

 本当はまだ試したいことがあったが絶命してしまったのなら仕方がない。

 風刃の威力と連射を試せただけでよしとするか。

 今なら雷猿が出てきても問題なく倒せるだろう。


 それを確信して、以前救援依頼でいった転移型ダンジョンへ足を運ぶことを決める。

 あのダンジョンのボスにはまだ出会っていないため、戦ってみたいと思っていた。


 ギルドで転移型ダンジョンへの入場許可をもらおうと思ったのだが断られてしまった。

 理由はランクが低いためソロでの入場はできないということだ。


 受付の女性と話をしていると急に横から声をかけられた。

 声をかけてきた男性はボサボサの頭にだらしない服装、眼鏡の内から無気力な目でこちらをジッと見ている。


「君が色々と噂のある冒険者か、一度見てみたいと思っていたんだ。まぁ、僕が興味あるのはその低ステータスではあり得ないほどの功績だとか……おそらく能力によるものだと思うんだけど興味深いなぁ」


「えっと……誰ですか?」


「気にしないでおくれ、話は聞いていたよ。もし鑑定させてくれるなら僕が許可を出してあげる。というかランクの昇格をしてあげるよ」


「ナギサさん、何を勝手なことを言ってるんですか!?」


「大丈夫だって、ジンには僕から伝えておくから」


「私は知りませんからね」


 受付嬢とこの胡散臭い男の会話から察するにこの男はギルド職員でしかもランクを昇格させる権限があると、しかも男の呼び捨てにしているジンは恐らくギルドマスターである、冴木仁(さえきじん)のことだろう。


「で、どうだろうか?」

 胡散臭さは満載だが一応ギルド職員のようだし信用はしていいのかな? ランクが昇格するならそれに越したことはない。

 能力に関しても一度ギルドで鑑定を受けているしギルド職員に隠す必要はない。


「分かりました。お願いします」


 男の無気力な眼は変わっていないはずなのに急に圧力がかかってくる。

 これは鑑定されているのか!?


「なるほど、なるほど。これは興味深い、そういうことなのか、それなら低ステータスなのも納得がいく、ふぅ満足だ」

 男は不気味に笑いながら一人興奮している。

 受付嬢は男の奇行に諦めているようだ。

 男はそのまま何も言わずに奥へ帰ろうとするのを受付嬢が引き止める。


「ちょっと、ナギサさん、結果はどうだったんですか?」


「あぁ、忘れてたよ、いいんじゃない昇格で転移型ダンジョンにソロ入場も許可してあげてよ、じゃっ後はよろしく」


「もうっ、後始末は全部こっちがやるのに、適当なことを!!」

 女性は口をこぼす。


「あのっ……」


「昇格についてはまた後日お話があると思います。転移型ダンジョンへのソロ入場は許可しますのでいつでも行っていただいて結構です」


 なにか凄いスピードで話が進んでいって、昇格は本当かどうか分からないが、とりあえず転移型ダンジョンへ潜ることはできることになった。

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