13話 不知火
全身に火傷の跡がある男は洞窟で過去を思い返していた。
男の名前は不知火燐。
100年以上続く由緒正しい不知火の家に生まれた。
不知火家は代々、炎を操ることを得意としている一族で兄が2人に妹が1人いて、全員が炎を操ることができる。
父は家にも子供にも無関心で自身の魔法の向上にだけ興味があり、日夜部屋にこもって魔法研究ばかりをしている。特に1年前から拍車がかかったように研究に没頭している。
母は不知火家に嫁いできて炎魔法を得意としている。不知火家当主に嫁ぐには炎魔法に精通していることが条件である。
そうして代々炎魔法を高めている。
本来は高い炎魔法の適性持って生まれなければいけない中、燐は他の兄妹に比べるとそれが圧倒的に劣っており、兄や母から虐げられていた。
しかし、特段耐えられないものでもなかったし、そんなものだと思っていた。
それはある時から一変し、より激しいものになった。
当主になるためには炎狐の加護という固有能力に目覚める必要がある。
兄妹の中で誰も発現していなかったが、大方の予想は長男か次男だった。
それはある日突如として燐に発現してしまい、しかも一切使いこなすことができなかったのだ。
「お義父さま、燐に当主は務まりません!!」
燐の母は現当主で燐の祖父でもある炎樹に懇願をする。
「だが、そういう決まりだ、決定を覆えすことはない」
炎樹が未だに当主なのは息子である燐の父とその兄弟に加護が発現しなかったからだ。
「でも力もろくに使えないのでは不知火家を背負うことなどできません」
母と兄からの扱いは酷さを増していき、特訓と称して兄達からは何度も炎で燃やされ、母は見て見ぬ振りをしている。
ただ少ない才能なりにも炎への耐性がありさらに元々備えていた魔力耐性もあって多少の炎では傷がつくことはない。
それが余計に気に障ったのか日毎に熱は上がっていった。
燐にとっての味方は現当主の祖父と妹だけだった。
「じいじ、にぃが焼け死んじゃうよ……」
「分かったすぐに帰るから待っといておくれ」
炎樹はこの時、依頼を受けて遠出をしていたが後々これを後悔することになる。
依頼を終え急ぎで戻った頃には燐は冒険者になると残して家を出た後だった。
§
燐は冒険者になるとその才能を認められ、困惑をしていた。
不知火の家では落ちこぼれと罵り続けられていたのが嘘のようだった。
自分の居場所は冒険者だったのかと思い始めた矢先で問題は発生する。
パーティを組むことができない、原因は不知火の名だった。
不知火家と言えば誰もが知る有名な家系でその名を出すと今までは何気なくできていた会話も出来なくなり徐々に遠のいていく。
周りの冒険者からすればどこぞのお坊ちゃんとダンジョンに出て万が一、何かあれば焼き殺されると思っていた。
それほどに不知火の名は有名かつ恐れの対象でもあった。
燐はどこまでもついてくる名にほとほと嫌気がさしていた。
冒険者になったはいいもののはパーティも組めず燻っていると、即席パーティのリーダーである男から声をかけられた。
このパーティのメンバーは不知火と名乗っても誰も態度が変わることはなかった。
「初めて顔を合わせるメンバーもいるだろうから自己紹介をしよう。今回、リーダーを務めるEランク剣士の後藤拓也だ、よろしく」
「Fランク剣士の真木侑馬です。よろしくお願いします」
「Fランク剣士の斎藤一葉です。よろしくお願いします」
「Fランク魔法使いの不知火燐です。よ…よろしくお願いします」
「Gランク荷物持ちの皆月柊夏です。よろしくお願いします」
燐は皆月に興味を持っていた。
それはギルドに来た際に困っていた所を親切に助けてくれたこともあったが、何よりも最弱の荷物持ちと何年にも渡り呼ばれながらも冒険者を続けれるそのメンタルが不思議だった。
そして、不知火家で落ちこぼれと罵り続けられた自分と少し似ていると親近感を覚えていた。
ダンジョンに入り進むとスケルトンが襲ってきたが初の実践でもありもたついて魔法の発動を遅れてしまう。
目の前にスケルトンが迫ってきていて、危ないと思った所を無駄のない動きでスケルトンの関節を攻撃して動きを止めたのは皆月だった。
「大丈夫? 落ち着いて」
「ありがとうございます。『炎弾』」
動きの止まったスケルトンへ魔法を撃ち燃やして倒すことができた。
皆が言うような最弱とは違うのがすぐ分かった。
戦闘もこなせるし、なによりも今の自分の実力を理解して出来ることをこなしながらも、高みへ登るための努力を怠っていなかった。
そんな人と比べて、落ちこぼれと呼ばれ逃げ出した自分に恥ずかしさを感じている。
その後も何度か助けられながらもモンスターを倒して先へ進み皆月がダンジョンの異変を訴えてはいたがパーティはさらに進み、討伐依頼のターゲットであるゴブリンリーダーを追い詰め依頼達成も目の前だと思われていた。
しかしそれは罠でパーティは複数のゴブリンに囲まれて窮地に追い込まれていた。
リーダーである後藤の撤退の声が聞こえるがそこで僕は腰を抜かしてしまった。
皆月は最後まで助けようとしていたが、他のメンバーに手を引かれ去っていった。
燐は他のメンバーが逃げ去った後、ゴブリン達に囲まれて殺されそうになる。
声も出ないほどの極度の恐怖の中、心拍数は上がり体温も上昇していく、
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、うぁぁぁぁぁ!!」
それは突如起こった。燐の魔力は暴走して燐を中心に爆発し、辺り一面が火の海に変わる。
多くのゴブリンは焼け焦げている。
ただ、燐自分も重度の火傷を負った上に離れた距離にいたゴブリンは残っていた。
爆発で壁が崩れなぜかダンジョンゲートが姿を表していた。燃え盛る炎の中、燐は這いつくばってそこを目指しゲートをくぐる。
燐もゲートが難易度の高いダンジョンに飛ばされることは知っていたがとどまっていてもゴブリンに殺されると苦渋の決断をしたのだ。
幸か不幸かゲートはさらなる崩落により閉じてゴブリン達がゲートを越えて燐を襲ってくることはなくなった。
しかしそれは燐が全く知らないダンジョンに孤立して別の出口を探さなければ生きて帰れないことを意味していた。
燐はパーティへの恨みは一切なかった。あるとすれば腰を抜かした弱虫な自分を恨むだけだ。
皆はどうなっただろうと思いつつも、窮地は脱したと、気が緩み意識が飛んでいった。
そして目を覚まして今の状態に至っている。
体を少しでも動かすと気を失いそうになるほどの痛みが全身を駆け巡る。
モンスターが来たら何もできずに殺されてしまう。そもそも、全快の状態であっても上級ダンジョンのモンスターには瞬殺されるだけだ。
魔力濃度の高さからも生息するモンスターが強力なことは分かっている。
弱ければこの魔力濃度は毒となり生きていられないからだ。
それは人間でも同じであるが燐が生き残っていれるのは固有能力である魔力耐性によるもので、それは魔法などに対する耐性だけでなくこういった魔力濃度の高い場所であっても耐性により毒になっていなかったからである。
§
あぁ、やってきた……
全身の痛みもあったし、死にたくても死ねなかったので、むしろ良かったかもしれない。
奥の方からゆっくりと近づいできている。姿はまだ見えないが、圧倒的な魔力には感動すら覚える。
近づいてきた存在はこちらを見て止まっている。膨大なドス黒い魔力で姿がよく見えなかったが、まるで深淵に繋がっているかのような深い深い闇の魔力。
魔力の奔流がこちらまで漂ってきている。
その存在はまさかの言葉を発した……
「生きてるの?」
そう発すると辺りに漂っていた魔力が中心へと収束していき、見えなかった姿をが確認できた。
外見は小学生か中学生くらいの若い男の子だが、明らかに異常な魔力量。
「死んでるのかと思ったけど、生きてるんだね」
「うっ、うぅ……あぁ……」
燐は火傷のせいでうまく喋ることができない。
「君、面白いことになってるね。家系魔術を持ってるけど、全然使いこなせてないでしょ」
家系魔術? 炎の加護のことか? 鑑定魔法をつかっているのかと初めての単語に困惑する。
「見つけたのも何かの縁だし面白いから、助けてあげるよ」
少年は自身の人差し指を軽く切り、燐の口に血を一滴垂らした。
すると、体の痛みが引いていき、火傷もかなりマシになった。
「何者なんですか?」
多少は喋れるようになった燐は少年に尋ねた。
「ただの人間だよ、用事があってこっちにきてたけど、君は運が良かったね」
「……」
ただの人間な訳がない、こんな魔力は見たことがない。下手なことを言って刺激すると簡単に殺されてしまう、そんな空気を感じ取っていた。
「助けたついでに君の魔力をいじって、家系魔術を使えるようにしといたから。自分の家系を恨んでたでしょう、君が持つ魔力耐性がそれに反応して家系魔術を邪魔してたから調整しといたよ。じゃあ後は頑張ってね」
そう言って、男の子は闇に溶けていった。
何者かは分からなかったが、とりあえず助かったと燐は安堵した。
死んだほうがマシだとは思っていたがいざ死が歩いてくるとそんな考えはなくなっていた。
むしろ人生感が一変し生に対して執着を感じるようになった気すらしていた。それほどの死のオーラをあの少年からは感じていた。
そしてダンジョンから生きて脱出することを目指すことを決意する




