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2-2 襲撃

2-1より以前から大幅改変しました

 結局あの後は碌に買い物も出来ずまま街を出ることになった。と言うのもどうもこちらの人相が予想以上に広まっていたのと、先の騒ぎで住人たちが警戒したためだ。それでも市場までは浸透しきって居なかったので二人はそそくさと必要最低限の物だけを購入し街を出た。当然馬車など借りれていない。


「ま、そんなに遠くねえし一日歩けば着くだろ」

《クリティブから西……このフロンノと言う街ですか。確かに歩けない距離ではありません》


 幸い雪は晴れ、そんなに積もっていないので多少は楽になった。それでも二人の体力を温存するために交代で武器に変わり片方が歩くことにしている。ノワは刀の状態でラクードが片手に持つ地図を眺めている様だった。


「そういや結局その状態の時って俺達の眼ってどこにあんだ?」

《正確な所はわかりませんが見ようと思った方向が見れるので眼と言う概念が無いのかもしれませんね》

「便利な事で」


 直ぐ近くを川が流れる街道を歩くラクードだがそれは結構暇な物だ。時節取り留めも無い事を話しつつ二人きりの旅は続く。


「しかし暇だな。歌でも歌うか」

《貴方がですか? なんだか意外ですか因みにどんな歌を歌うんです?》

「旅の途中で歌う歌って言ったらあれだろ。牛が売られていくときのあの歌。アレ聞くと腹減るんだよなぁ」

《よりにもよってそのチョイスを選ぶ辺りに貴方の悪意を感じるのですが》

「ユーモアと言え……ん?」


 ふと背後から響いた音に振り向くと今しがた歩いてきた街道の先からこちらに走ってくる影が見えた。


《あれは馬車ですね。どうです、乗せてもらえるよう頼んでみますか?》

「いや、俺達の後ろから来るって事はクリティブからだろ? だったら聞くだけ無駄じゃねえか?」


 そもそもクリティブで全て断られたが故に歩いていたのだ。ノワの提案は中々難しいだろう。


《確かにそうですがもしかしたら、と言う事もあったので》

「どうだろな。ま、聞くだけ聞いてみるか」


 立ち止まり馬車が近づくのを待つことにする。遠目に見える馬車はかなりの速度では走っておりそれでもなお御者が鞭を叩き馬を急いていた。何か妙な雰囲気だ。それでも一応として手を上げ御者に向かって振ってみる。御者はそんなこちらをちらりと見て小さく笑った。


「……ん?」


 再び違和感。確かに御者は笑ったが、その笑顔が妙に胡散臭い気がしたのだ。それでも馬車は近づいてきておりやがてラクード達の直ぐ近くまで来て……しかし速度を緩め無い。いや、それどころか加速しそしてこちらに真っ直ぐ向かってくる。


「おいおいおい!」


 そこでラクードはようやく御者の狙いに気づいた。あの馬車は止まる気も無ければこちらを乗せる気も無い。轢くつもりだ。


《ラクード!》

「わかってる!」


 馬車の速度は凄まじいが逃げれない距離では無い。まずは進路から横へと脱しようと動こうとしたラクードだが、ふと感じた悪寒に咄嗟に背後に跳んだ。直後、先ほどまで立っていた場所に槍が突き刺さる。それは唯の槍では無く、突き刺さった途端周囲に炎を撒き散らした。魔導器だ。


「何だいきなり!」

《ラクード、馬車が!》


 撒き散らされた炎で視界は悪いが音で分かる。狂った様な馬の鳴き声と異常な速度で走る馬車の音が直ぐ近くまで迫っていた。そして数秒も経たないうちにそれは炎を突き破り二人の前に現れた。

 薬でも打たれたのだろう。馬の目は血走り狂気を帯びており口からは泡と涎を垂れ流している。それでもその強靭な脚は唸りを上げ地面を蹴りこちらに向かってくる。既に御者の姿は無く馬の背後には幌のついた荷台のみだ。

 避けきれない。そう判断するが否やラクードは刀状態のノワを抜き、ノワもまたそれに呼応する様に刃を光らせた。


「常夏撲滅――」

《ほんとにそれ何ですか!? ってああもう今はいいです!》


 投げやり気味なノワの叫びと共に刀を振るう。刃は正確に馬を捕らえその体を切り飛ばした。馬には悪いとは思うが仕方あるまい。

 更に振るわれた刃から放たれた魔導の冷気は凝結し、巨大な氷の刃となって後ろの荷台と幌を切り裂く。斜めに真っ二つに断たれた馬車はバランスを失いながらラクードの左右を通り過ぎて行きやがては大きな音を立てて地面に転がり崩れた。


「悪いな」

《申し訳ありませんでした》


 斬られた際に飛ばされた馬へ向けて小さく謝るとラクードはその鋭い眼を周囲に巡らせ声を上げた。


「で、だ。お前らは何の用だ? 随分と派手な喧嘩の売りかたじゃねえか」


 その声に応えた訳では無いだろうが、街道の脇、木々の合間から武装した男女が静かに現れた。だれもが見た目は普通の旅人の様な姿で、ありコートやマントを羽織っているがその手に持つのは地図でもコンパスでも無く、剣や槍の魔導器。そして銃器だ。

 彼らは何も語らず静かに武器を構えると一斉に襲い掛かってきた。


「問答無用ねえ、いいぜ、わかり易い!」


 獰猛な笑みを浮かべラクードがそれに応戦する。首から下げたアクセサリ型の魔導器を握りしめ身体強化を発動した。

まず最初に襲い掛かってきたのは剣を持った男。若干荒いながらも慣れた様子で振り下ろされた刃を刀で打ち払い、よろけた所に腹に蹴りを撃ちこむ。何かを砕く感触を感じ、男は嗚咽を上げて倒れ込んだ。


「死ねぇっ!」

「お前がな」


 続いて仕掛けてきたのは槍を持った女だ。その槍は先程投擲されてきたものと同じ。どうやら大量生産品らしい。その穂先に炎を灯して突きこんでくる槍を体を逸らして回避。同時に懐から投げナイフを取り出すと女に向けて投げつけた。咄嗟に女が背後に跳びつつそのナイフを打ち払う。だが、


「《散れ》」


その言葉をキーにナイフが突如爆発した。


「ぁぁ!?」


 爆発の衝撃で槍を取り落した女に詰め寄るとその顔面に拳を撃ちこむ。鼻を潰され血を撒き散らしながら女が倒れた。そんな女には目もくれず刀を手放すとそのまま左腕を思いっきり振るう。鎖で繋がれた刃が遠心力で振るわれ近づこうとしていた男の腹を薄く切り裂いた。男が怯みたたらを踏んだ所に懐から取り出した拳銃を連射。両肩両足を撃ち抜かれた男が悲鳴を上げて倒れた。


「ほいっと」


 最後に鎖を引き寄せ再び刀をキャッチすると周囲を見渡す。あっという間に3人を戦闘不能にしたラクードに驚いたのか一定距離を保ったまま近づいてこない様だ。


「なんだ終わりか? じゃあ全員そこで並べ。勿論正座で。とりあえず何故喧嘩を売って来たのかを正直に話した後に有り金を全部提出な。そうしたらパンツ一丁で池に放り込むだけで勘弁してやる」

《まるでこちらが盗賊が山賊の様なのですが……。というかこの時期にそれやったら死ぬのでは?》

「ははは、何を言ってんだ。別に生かして返すとは一言も言って無いぞ? 俺達に喧嘩を売り何の罪も無い馬が一匹死んだんだ。殺す覚悟で来た様だし生きるか死ぬかの瀬戸際で末代まで語られる恥を味わってもらうしかねえだろ?」


 笑顔で話すラクードに引いたのか絶句したのかは分からないがノワはそれ以上何も言わなかった。それは取り囲んでいる者達も同じようで冷や汗を流しながらジリジリと後退していく。

 だがそんな中から女が一人歩み出た。色あせ、どこか煤けた黒髪に目つきが鋭い女だ。服装は周りと同じ旅装束だがその手に持つのは剣や槍でなく銃である。


「とんでもないのにちょっかいかけちまったようだね」

「お前がリーダーか? 自己申告は高ポイントだ。特典として靴下は有りにしてやる」

《正直あなたがどこまで本気か分からないのですが……》


 冷や汗を流す女と引き気味のノワ。正直こちらとしてもそこまでするのは面倒なので適当に言ってるだけなのだがどうも周りが半分位信じている気がする。まあその分話が進みそうだな、と思いそのまま続けることにした。


「で、結局何なんだお前ら」

「それは……」


 状況の不利を感じていたのだろう。どうにかして逃げる算段を付けようとしているのが分かったのでこちらもゆっくりと近づいていく。後ずさる女と近づくラクード。女が何かの合図の為か震えながらも手を動かそうとするが、ラクードの眼光がそれを逃がさずゆっくりと腰を落して直ぐにでも飛び出す準備を整えていく。そしていよいよ限界に来た女が動き出そうとし、ラクードもまた飛び出そうとした時だった。


「少々、よろしいでしょうか」

「あん?」


 突然の声に振り向くといつの間にかすぐ近くに一人の男が立っていた。歳は60代程だろうか? 白に染まった頭髪は綺麗に揃えた七三分け。上品な黒のスーツに身を包み、ただ立っているだけなのにどこか気品や礼儀正しさを感じさせる男だ。


「なんだ……知り合いか?」

《いえ……?》


 その佇まいからノワの関係者かと思ったがどうやら違うらしい。ではと女たちの方を見るが連中も訝しげに眉を顰めている。あの様子だと知り合いには見えない。そんなこちらの様子を見ていた男は、ははは、と小さく笑うと小さく頭を下げた。


「驚かせてしまい申し訳ありません。ですがこちらも少々事情がございまして」


 頭を上げるとどこか恍惚とした表情で顔を赤らめ、


「担当直入に言いますと、貴方達が欲しいのです」

「出会って数分でホモ宣言とは恐れ入る……っ!」


 いかん。こいつは危ない方面の人間だ。

 全身に伝わる悪寒に従い、刀を男へと突きつけた。一方男は動じることなく穏やかな表情をしているが、それが余計に気持ちが悪い。


「あいにくジジイとロマンスする程奇特な趣味は持ってねえんだが」

「何か勘違いされている様ですがまあ良いでしょう。何を言われても予定に狂いは有りませんので」

「何――」


 を言っている、と言おうとした瞬間だった。男の姿が掻き消えそしてすぐ横、刀を持つ左腕の傍へと現れた。そしてその手にはどこから出したのか鋼鉄の手甲がはめられておりそれが鈍く光っている。


「では頂戴いたします」

「ちぃぃっ!」


 男の腕が刀を持つ左腕を握りつぶさんと伸ばされた所、ラクードは咄嗟に反対側へ跳んで難を逃れた。


「おや? 意外にすばしっこいですね」


 男は意外そうに、そしてどこか楽しそうに笑っている。そんな笑顔に苛立ちを覚える。


「おいノワ、またお前への客らしいぞ。愛されてんなぁ」

《なんでこんなのばっかり……》


 刀の状態ではあるがノワが頭を抱えているのがよくわかる。正直同感だ。なんでこう、面倒事ばかり降りかかってくるのだろうか。


「もしかしてお前ってトラブル体質?」

《どう考えてもそれは貴方でしょう……っ! っ、来ます!》


 ノワの警告。それはこちらも気づいていた。再度迫ってきた男の拳を刀の腹で受け止める。見た目に反して重いその一撃に驚き、後ずさってしまった所に更なる追撃が来た。


「行きますよ」

「舐めんなっ!」


 たんっ、と地を蹴り放たれた回し蹴りを背後に跳んで躱す。お返しとばかりに刃を横に振るうが男は身を低く、地を這う様に接近してそれを躱すと、下から打ち上げる様に拳を繰り出してきた。咄嗟に上半身を逸らしつつ片足を擦る様にして後退、そして踏みしめる。その足を軸に体を強引に回しその場で回転しつつ再度刀を振るう。その一撃は男の手甲により弾かれたが、回転の力の乗ったその一撃は重く、男の突進の勢いを消しその動きが一瞬止まった。


「おや?」

「くたばれ変態ジジイ!」


 今度はこちらが踏み込む。そして左腕の刀――では無く、身体強化を加えた蹴りを男の中心へと叩き込んだ。


「むっ!?」


 と、奇妙な声を漏らしつつ、蹴り飛ばされた男が数メートル跳び、地面を跳ね、そして転がっていく。


《容赦ありませんね》

「喧嘩売って来たんだから当然だろ」


 軽口を叩きつつも警戒は緩めない。一番最初のあの男の動きが一瞬とはいえ見失う程だったのだ。油断は出来ない。そしてその懸念は正しかった。


「これはこれは、少々キツイですなあ」


 とてもそうは思えない程軽い口調で笑いつつ、男は何事も無かったかのように立ち上がったのだ。一体どんな耐久力だ、とラクードが眉を顰めた。


「頑丈なジジイだな」

「いえいえ。これでも最近腰痛が酷いのですよ」


 ははは、笑いながら埃を早くその様子にはまるでダメージが見え無い。自然と警戒心が増していく。


「どういう理屈だ……」

「単純ですよ、貴方がまだまだ幼いだけです」

「……どうやら頭だけじゃなくて眼もボケてんだな。こんな所で通り魔的徘徊してると孫が泣くぜ?」

「生憎と独身でして」

「つまり女にも見向きされない程昔からボケてたんだな。お前に一言言ってやる。やーい負け犬―」

《貴方ってこういう時とても生き生きしてますよね……》


 呆れた様なノワの声をあえて無視する。一方男は相変わらず笑みを浮かべているだけで反応らしい反応は無い。


「面白い子ですね。若さゆえかわざと尖ろうともがく姿は中々見ていて滑稽ですよ?」

「ボケの次は説教か? 生憎聞いてやるほど暇じゃねえんだが」

「そうですねえ。時間も押してますし終わらせましょうか」


 あくまで穏やかな笑みは崩さず男が笑う。次の瞬間だった。

 ずだんっ、という轟音。反応できたのはそれだけだった。気が付いた時にはラクードは血を撒き散らし高く宙に舞っていた。


《ラクードっ!?》


 ノワの叫び声が聞こえる。そして肩からわき腹にかけて感じる、燃え上がる様な痛みと力が抜けていく感覚。そしてその眼下では男が笑顔でこちらを見上げていた。


「なっ……!?」

「少々本気でいきますよ?」


 男の手甲。それがキラリと光り、そしてそこから伸びた光がまるで鞭の様にしなった。魔導器だ。


「《乱慟鞭》」


 それが魔導器の名前なのか、それとも技名なのかは分からない。

 だが気が付いた時にはラクードは上下左右から迫る光の鞭によって滅多打ちにされていた。


「がはっ……!?」


 肺から空気が漏れる。痛みで体中が悲鳴を上げる。血が舞い、思考が赤く染まっていく。幾多にも繰り出されるそれは落下していくラクードを何度も打ち上げては打ち落とし、そしてまた打ち上げる。まるで嵐の中に放り込まれた木の葉の様に、ラクードは宙を打ちまわる。


《しっかりして下さい! 今止めます!》


 ノワの声が聞こえると同時、周囲に青い光が舞った。ひやりとした感触。視界が青白く染まっていき、パキパキと空気が凍りついていく音が聞こえる。ノワがラクードの周囲を氷で覆ったのだ。だが、


「ほう、面白いですね」


 男が軽くそう呟いた直後、その氷の膜を光の鞭が襲う。元々一瞬でくみ上げたものであるためにそれは直ぐに砕けていってしまった。だが数秒でも時間は稼げた。


「こっの野郎ぉ!」


 刀を手放し懐から投げナイフを取り出す。先ほどの物もこれも、ラズバードを出るときにセシルから貰った鞄に入っていた物だ。威力は低いが安価で比較的他方で流通している起爆型投げナイフの魔導器。それらを全て投げつける。


「《散れっ》!」

「むっ!?」


 男へ投擲された投げナイフ達が小さく爆発した。一瞬の隙をついたその反撃に男は目を見開くが、何らかの魔導器で防御したのか爆発は男に傷をつける事無くその髪を爆風で薙いだだけだった。だがそれでいい。


「しぶといですね」


 男は光の鞭を再度叩き付けるべく繰りだす。対し、ラクードは鎖を引き刀を回収すると落下の勢いを乗せて全力で振り下ろした。鞭とぶつかりそして斬りさく。切り裂かれた光の鞭が魔力光を散らしながら消えていくのと同時、ラクードが地面へ着地する。そしてすぐさまその刃を切り上げるようにして振るうが再度手甲に阻まれた。


「君も大概頑丈ですねっ」

「健康優良児なのが取り柄なんでなっ! テメエこそ余裕ぶってんじゃねえ……!」


 男が余裕の笑みを浮かべ叫ぶが、それに構わずラクードは右腕を振るった。

 ひゅん、と黒い鞭の様な何かが放たれ男の首に巻きつく。


「鎖……!?」

「っらああああ!」


 それは先程の投げナイフの爆発の際に密かに取り出していた物。ラクードは鎖を握った右腕を全力で引っ張った。バランスを崩した男が前のめりになる中、ラクードは鎖から手を離さず飛び上がり、前のめりになった男の顔へ膝を叩きこんだ。


「がっ!?」


 鈍い感触。何らかの防御魔導器が発動したのか顔を潰す事は出来なかったが、隙は出来た。その隙に鎖から手を離すと刀を斬りあげるようにして振るった。その刃は男の体を斜めに切り裂くはずだったが、寸前の所で背後に退かれその服を斬るに留まった。

そして男が再度腕を振るうと放たれた光の鞭がラクードに叩き付けられ弾き飛ばされてしまった。


「く、そっ! 浅いか。どうなってやがるあのジジイ……!」

《それよりラクード! この出血は危険です!》


 忌々しげに見つめる先では男が何事も無かったかのように姿勢を正している。全く持って忌々しい……!

 自分の体を見れば服はあちこちが破れ既に血みどろだ。全身が痛みで悲鳴を上げているし、血を流し過ぎたのか意識も朦朧として来ている。これはまずい。ああ、かなり不味い。


《……引きますよ、ラクード》

「何?」


 そんなラクードにノワが声をかける。その声は硬く有無を言わさぬ様子だ。


《あの男は只者ではありません。体勢を立て直すべきです》

「…………わかった」


 悔しいが正論だ。明らかにあの男は強い。そしてその力も底が知れない。故にノワの言う事は正しいのだ。


「いえいえ、逃がす訳にはいきません」


 こちらの会話を聞いていたのだろう。相変わらずの穏やかな顔で男が笑う。


「言ったでしょう、貴方達が欲しいと」

「知った事かよクソジジイ……っ!」


 痛む体に鞭を打ち、背後へと跳ぶ。同時に男が繰り出した光の鞭を刃で払い叫ぶ。


「ノワっ!」


 地面に着地すると同時に刀を地面へ突き刺した。するとラクードの合図に反応したノワによって周囲の水分がかき集められそして魔導の冷気によって急速に冷却。巨大な壁が築きあがる。それが完成するが否や刀を引き抜き即座にラクードは後退した。


「これは面白いっ!」


 男が楽しそうに笑い、そして光の鞭を大きく振りかぶった。破壊する気だ。


《ラクード!》

「っ、悪い!」

「《乱慟鞭》!」


 光の鞭がまるで捻じれる様に一つになっていき、そしてそれが氷の壁に叩き付けられる。轟音と共に壁は崩壊し周囲に氷欠片が飛び散っていく。その破片が霧の様に舞い、一瞬視界が遮られた隙にラクードは漆黒の大剣に。そしてノワは人間に戻ると、今度はその大剣を地面へと突き刺した。


《ブレイク!》


 ラクードの叫び声。そして漆黒の大剣から放たれた力が大地を砕き、濁流となって男へと襲い掛かった。

 

「なんとっ!?」


 驚愕に声を上げる男の声を背後に、ノワは川へと飛び込んだ。


「…………逃げられましたか」


 ようやく砕けた大地の濁流が収まった時には二人の姿は男の前から消え去っていた。


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