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七歩目


 願望世界ラーヴァシュネイク。


 その大地の上で、深淵世界すら揺るがさんほどの魔力が二か所から立ち上っている。


 一つは燃え盛る炎のような魔力。


 一つは影のように黒き魔力である。


 第一魔王アムルと俺は、互いの深淵を覗くようにしながら、睨み合っている。


 奴は強い。下手をすれば、大魔王ジニアを超える。俺がこれまで戦ってきた者の中で、間違いなく最強だろう。


 お互いが本気ならば、決着までそう長くはない。


 一瞬でも隙を見せれば、その瞬間に相手を滅ぼすだけの力を、互いに持っているのだ。

「終わりだな」


 ぽつり、とアムルは言った。


「あの姉妹神も、他の配下の後を追う。お前以外は全滅だ、ノア」


 アイシャを助けに行こうとすれば、その隙をアムルに突かれるだろう。


「よいのか?」


 俺は問うた。


「慣れぬ戦い方では俺には勝てぬぞ」


 転生世界ミリティアを銀滅魔法で狙ったのも、<絶渦>を構築しようとしたのも、アイシャのことも、俺に憎悪を抱かせようとしているのだろう。


 そうなれば、<心火の魔眼>を有するアムルを滅ぼすことはできなくなるからだ。


「それを本気で信じているなら、お前は滅する」


 暗い瞳のまま、アムルは言う。


「お前が知るアムルはもうこの海にはいない。あの日、<絶渦>の憎悪に染まった俺は、あの子と同じ、悪意の怪物――壊滅の暴君だ」


 その言葉を合図に、俺とアムルは同時に地面を蹴った。


 手加減はできぬ。


 ゆえに――


「<黒七芒星(デムド・イヴ)>」


 黒七芒星を纏わせ、魔法の力を底上げする深化魔法。


 そして――


「<涅槃七歩征服ギリエリアム・ナヴィエム>」


 深化魔法の重ねがけにより、この身は遥か深淵に到達する。


 圧倒的な滅びの匂いが漂い、ラーヴァシュネイクの星々さえも、黒き灰に変わり始める。


 泰然と、一歩目を刻む。


「<二律影踏(ダグダラ)>」


 アムルの影を踏みつける。 


 禍々しき魔力が渦を巻き、凝縮された滅びの力が一気に解放された。<淵>さえも、踏み滅ぼすその衝撃が、アムルの根源に叩きつけられた。


 しかし、奴は前進を止めない。


 体が紅蓮の炎に包まれ、根源が紅蓮に染まっている。<心火の魔眼>により、吸収した夥しい憎悪が彼の根源を強固に守っているのだ。


 二歩目――


「「<極獄界滅灰燼魔砲エギル・グローネ・アングドロア>」」


 奇しくも放ったのは同じ魔法。


涅槃七歩征服ギリエリアム・ナヴィエム>によって、深化した<極獄界滅灰燼魔砲エギル・グローネ・アングドロア>と、<心火の魔眼>により憎悪の炎に包まれた<極獄界滅灰燼魔砲エギル・グローネ・アングドロア>。


 深層世界を十並べても、余さず灰に帰す終末の火同士の激突に、膨大な量の黒き灰がラーヴァシュネイクに溢れかえった。


 その余波はこの身を焼き、そしてアムルの体を焼く。


 されど、両者は止まることはない。


 三歩目――


「<深源死殺(ベブズド)>」


 漆黒を纏ったその指先を突き出すと同時に、アムルはその紅蓮の右腕を突き出した。


 激突した指先は激しい火花を散らせ、互いの手指を切り裂いた。


 血を流しながらも、奴は怯まず、紅蓮の右腕を堅く握りしめる。憎悪をそこに込めるかのように、紅蓮の炎が拳に集う。


 四歩目――


「<背反影体(ダヴエル)>」


「<紅蓮滅掌(ガデス)>」


 俺の指先が影を纏い、紅蓮の拳と激突する。


 渦巻く炎が影を燃やさんとばかりに牙を剥くが、その指先は炎の中心を鋭く穿つ。


 炎が俺の手を焼き、奴の拳が切り裂かれた。


 五歩目――


「<|深掌魔灰燼紫滅雷火電界ラヴィアズ・ギルグ・ガヴェリィズド>」


「<双魔紅蓮滅掌極炎砲ディオマ・ゼオン・ガデイオス>」


 俺の右手から放たれたのは滅びの暴雷、それに対し、奴は紅蓮の両手を組み、魔法陣を描く。


 そこから、二つの炎が光線の如く、一直線に滅びの暴雷を撃ち抜いた。


 紫の雷が荒れ狂い、アムルが纏う憎悪の炎を削る。


 双頭の炎は俺の右肩を容易く貫通していた。


 形勢は未だ、五分と五分。


涅槃七歩征服ギリエリアム・ナヴィエム>を使ってなお、奴を凌駕することはできぬ。憎悪の炎が際限なく燃え盛り、その魔力をどこまでも深く、深淵に至らしめているのだ。


 六歩目――


 先手をとったのは、アムルの方だ。


「<極獄界滅壊陣魔砲エギルズ・グロア・アウヴスハーデ>」


 至近距離にて、七重螺旋の終末の火が魔法陣を描く。


 眼前に突き出された奴の右手に七重螺旋の魔法陣が絡みつき、そこから終極の黒炎が撃ち放たれた。


 俺はそれを片手でわしづかみにする。


「<黒七芒星掌握魔手(デムドイヴ・レイオン)>」


 夕闇に染まった掌が滅びの黒炎を握りしめ、凝縮し、その魔力が桁違いに膨れ上がる。


 当たり所が悪ければ、この深淵世界とて消滅しそうなほど激しく燃え盛る黒き炎を、俺は第一魔王アムルにそのまま投げ返した。


 アムルは即座に両手を突き出した。


「<双極獄界滅壊陣魔砲エギルズ・グロア・アウヴスハーデ>」


 右手と左手から、滅びの深層大魔法を二発同時に撃ち放つ。銀水聖海の魔王とて、他に真似できる者は二人といないであろう離れ業だった。


 黒七芒星を纏った黒炎、双つの黒炎がせめぎ合い、深層世界の物という物が無数の黒灰に変わっていく。


 押されているのはアムルだ。


黒七芒星掌握魔手(デムドイヴ・レイオン)>にて投げ返した黒炎を相殺しきれず、その足は大地に跡をつけながら、後ろへ押しやられていく。


 それでも、彼はこの程度では終わらぬ。


 ゆえに、俺は――七歩目を踏んだ。


「<黒八芒星(デムド・アーガ)――」


 歩けば世界を無に帰すその一歩が、<黒八芒星(デムド・アーガ)>により深化する。


 瞬間、銀水聖海中の滅びという滅びの力が、ここに押し寄せてくる。浅きは深きに流れゆくのがこの海の理。<深魔(アギド)>と同じく、深淵に至ったのだ。


 その七歩目はまさに滅びの極地、銀水聖海中のあらゆる滅びがその一歩に凝縮され、


「――二律影踏(ダグダラ)>」


 第一魔王アムルの根源に叩きつけられた。


 彼が纏う憎悪の炎が、一気に消し飛んでいく。


<絶渦>から吸い取った途方もない悪意と憎悪、それら全てがアムルの力であり、彼を不滅の怪物たらしめている。


 だが、その憎悪もその悪意も、一切が問答無用で滅び去る。ただただただ、全ての理が理不尽に消滅していくのだ。


「これを――」


 アムルは僅かに口の端を持ち上げ、その瞳を憎悪に燃やした。


「――待っていた」


 奴はその紅蓮の右手を自らの胸に突き刺し、そして根源を握った。


 彼が描いた魔法陣は、二律僭主が得意としたもの。


「<黒七芒星掌握魔手(デムドイヴ・レイオン)>」


 夕闇に染まった掌が、滅びの深淵を更に増幅させ、投げ返す――


 否。彼がつかんだ滅びの塊は暴走している。


 いかに第一魔王アムルといえども、深淵の更に先には手が届かぬ。制御できぬのだ。


 ゆえに、その滅びの力はどこまで膨れ上がる。


<絶渦>どころの災厄では済まぬ。滅びの深淵が暴走すれば、この銀水聖海自体が滅び去るだろう。


 銀泡の一つとて残さずに。


 憎悪に染まったアムルの魔眼は、これまで以上に暗く、そして燃え盛っている。


「ムルガ……待たせたな。俺が……お父さんがぶっ壊してやる……お前を傷つけたこの海の住人を……悪い奴ら全員、やっつけてやる……!!」


 滅びの深淵が膨れ上がり、影がラーヴァシュネイクを――銀水聖海の全てを覆いつくした。


 そして――


 その影はガラスが割れるように砕け散った。


 アムルは目を丸くした。


 ラーヴァシュネイクは健在だ。<絶渦>も残っている。銀水聖海は滅んでいない。なに一つ、滅びてはいなかった。


「俺の力を利用して、自分諸共、この海を滅ぼす、か。だが、足りぬ」


 アムルの視線が俺をとらえる。


 俺の右手と左肩の一部には影ができており、そこから黒き灰が立ち上っている。


 発動中の<黒八芒星二律影踏デムド・アーガ・ダグダラ>を無理やり抑え込んだ。滅びがこちらに逆流し、根源に激しく損傷を負っているのだ。


 ゆえに体の維持が難しく、崩壊しかかっている。


「もっと憎悪を燃やせ、アムル。お前の魂を焼け焦がす、その憎しみの炎を、この俺が滅ぼしつくしてやる」



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― 新着の感想 ―
魔王様流石にヴォルディゴートの血が強すぎると思います!これで本気(限界)じゃないってどうなってんのw つか、この根源にずっと耐えて滅びないグラハムもおかしいな。
自分の根源を消し飛ばそうとする深淵の破滅を、さらに深化させて全宇宙を暴虐破壊する爆弾にするとか…。 考えつくだけでバカだし、実行するのはもっとバカ。 そして、そんな決着は許さないと力ずくで止めるの…
最終的に、世界が兆単位で滅ぼされそう。
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