空の星
<願望の星淵>。
そこは赤い星々が渦を巻く海。白い流星が螺旋の軌跡を描いていた。
希輝星デュエルニーガだ。
「このっ!!」
サーシャが<終滅の神眼>を光らせる。
視界にある全てを黒陽で灼き尽くす、破壊神の権能。されど、デュエルニーガはそれをものともしない。
視線ですら追いきれないのだ。白き流星と化した彼女は、縦横無尽に<願望の星淵>を飛び回り、サーシャに的を絞らせない。
「後ろ」
サーシャの視界をくぐり抜け、デュエルニーガは流星の如く、背後から突っ込んでくる。
それが見えていたミーシャは、サーシャの後ろを守る。
瞬きを二つ。
一度目でその魔眼が白銀に染まり、二度目で瞳は<創造の月>となる。
「氷の世界」
<源創の神眼>が、目の前にガラスの球体を創造する。
デュエルニーガはその中に吸い込まれていき、ミーシャとサーシャもまた内側に入った。
そこは雪が振り続ける、氷に覆われた世界。<願望の星淵>はデュエルニーガの領域であり、彼女の力は十二分に発揮される。
同じく、この氷の世界は創造神ミリティアの神域だ。創造の力がなにより強く働き、デュエルニーガも思うようには戦えぬ。
「終末の雪」
ミーシャが<源創の神眼>を光らせる。
氷の世界がそれに応じるように、雪が巨大な壁となり、天高くそびえ立った。デュエルニーガの左右から、雪崩の如く、その巨大な雪の壁が押し寄せる。
彼女は魔法陣を描いた。
「<混沌赤流星>」
混沌に満ちた赤い流星が、押し寄せる雪の壁に向かって撃ち放たれる。
それは雪の壁の中心に穴を空け、氷の世界そのものを穿った。
ガラスが砕けるように、世界は砕けた。ミーシャが創造した神域は、いとも容易く破壊されたのだ。のみならず、<混沌赤流星>はミーシャの眼前に迫っていた。
「<|黒火輪壊獄炎殲滅砲>!!」
破滅の太陽が無数に分割され、黒き火輪となって、<混沌赤流星>に次々と着弾する。
赤き混沌の流星が黒く炎上し、そして爆発した。
「く……」
サーシャとミーシャは全身に傷を負い、血を流している。
<黒火輪壊獄炎殲滅砲>でも、相殺しきれなかったのだ。もしも、直撃だったならば、耐えきれなかっただろう。
「ラーヴァシュネイクは深淵世界」
流星の如く飛び回っていたデュエルニーガが、ようやく静止し、二人を見下ろす。
「ここに集まる混沌も、私の操る星の一つ」
深淵世界の主神なのだ。彼女を倒すには、少なくとも混沌を凌駕する力がいる。
そのことは二人ともわかっているだろう。
「気分はどう?」
デュエルニーガはそう問いかけた。
「……なんの話よ?」
「あなたたちの仲間が命を捨てて、転生世界に<絶渦>が構築されるのを防いだ。けれど、結末は同じ。サーシャ、ミーシャ、あなたたちはここで滅び、私がもう一度<絶渦>を作る」
冷たい瞳で、悲しい顔で、彼女は言うのだ。
「命をかけても叶わない願いがある。いいえ、命をかけたぐらいでは願いは叶わないのがこの海では普通のこと。それはどれだけ手を伸ばしても、届かない空の星のように。今度はあなたたちがそれを知るとき」
手を伸ばし、デュエルニーガは魔法陣を描く。
そこから、<混沌赤流星>が撃ち放たれた。
「普通がなにかなんて知らないけど」
サーシャは言った。
「ただ平和に生きていたいって願いすら叶わないなら、そんな世界はぶち壊してやるわっ!!」
サーシャは影珠を掲げ、その魔力を解放する。
彼女の瞳に<理滅の魔眼>が現れると、影珠から伸びた影が剣の形となる。
理滅剣ヴェヌズドノアだ。
落ちてきた赤い流星と、その闇色の長剣が衝突する。
混沌に満ちたその流星は、しかし理滅剣に完全に阻まれていた。
「ミーシャ」
「ん」
ミーシャとサーシャは互いの手を握る。
半円の魔法陣が重ね合わさり、一つに交わる。
「「<分離融合転生>」」
光を放った二人の影が、一つとなって、その権能が融合する。
現れた長い髪の少女アイシャは、理滅剣ヴェヌズドノアを手に取った。
瞬間、<混沌赤流星>が反転し、デュエルニーガに直撃した。
「混沌だからって、そっちの味方と思ったかしら?」
アイシャは上方へ飛び上がり、デュエルニーガとの位置関係が逆転する。
「<破壊神降臨>」
「<創造神顕現>」
<絶渦>の只中に、闇の日輪と白銀の月が輝いた。
<創造の月>が重なって、<破滅の太陽>は欠けていく。
赤い星々が渦巻くその場を、深い闇が覆いつくす。
それは<破滅の太陽>の皆既日蝕。破壊神と創造神の力を融合させ、更に理滅剣によって混沌の理さえも滅ぼしている。
「星に手が届かないなら、撃ち落としてあげるわよっ!!!」
皆既日蝕の中心で、少女の影が指を伸ばす。
「<微笑みは世界を照らして>ッッッ!!!」
終滅の光が、デュエルニーガに照射される。
かつて、ミリティア世界を滅ぼさんとしたその力が、ミーシャとサーシャの手に戻り、二人の成長を経て、限りなく深淵に近づいている。
想いが集う深淵世界の<淵>さえも、吹き飛ばさんとするほどに。
「空に輝く混沌と、落ちゆく涙の流れ星」
デュエルニーガは<希輝の神眼>を終滅の光に向けた。
「<|星のかけらを手の平に包んで《ラ・アース・レオネイアス》>」
星の瞳が真白に輝き、同じ形の小さな星が目の前に出現した。
デュエルニーガはその手を伸ばし、真白の星を優しくつかんだ。
瞬間、彼女に向かって放たれた終滅の光が消え去り、アイシャの胸が星型に抉られた。
「……あ……」
「……う………」
なにが起きたのかわからないといった瞳で、アイシャは目の前にやってきた少女を見つめた。
「これが現実。奇跡を生きてきたあなたたちに、ようやく訪れた」
デュエルニーガは、動けないアイシャの胸の穴に手を差し入れ、その根源をつかんだ。
「空の星は撃ち落とせない」
混沌の力が溢れかえった。




