あなたがくれた歌
パブロヘタラ宮殿。最下層。
「カカカカ、災人の首を奪い合う前に、先にあっちの決着がついてしまったなぁ」
高らかに笑いながら、エールドメードが言った。
「とはいえ、時間の問題だったがね」
教育神ガーガリと門下宗匠カルラは、無数の神剣ロードユイエを突き刺され、壁に磔にされている。
「それで、正帝の狙いはなんだ? 馬鹿正直にミリティア世界を攻め落とそうとしているわけではあるまい? ん?」
エールドメードはガーガリに顔を近づけ、ねっとりと舐めまわすように彼を見る。
しかし、ガーガリもカルラも口を開かない。
ニヤリ、と彼は笑う。
「喋りたくなければ好きにしたまえ。こんなこともあろうかと、口を割らせる魔法は山ほど用意してきた! さてさてさて、痛いのがいいか? それとも痛くないのがいいか?」
まるで商店で品物を吟味しているかのように、エールドメードは楽しげだ。
「どっちがいいと思う、居残り?」
「え? えーと、えーとですね……なるべく優しいやつがいいんじゃないかと……」
「な・る・ほ・どぉ。逆に優しく、か。まさか、この魔法だけは使うまいと思っていたのだがなぁ」
「ええっ!?」
驚くナーヤをよそに、エールドメードはそこに魔法陣を描いていく。
その時だった。
ガーガリとカルラの二人が光に包まれる。
膨大な魔力の光がみるみる膨張していく。
「愚かな。たとえ敗れようとも、敵に与することはあり得ない」
ガーガリが口にした瞬間、その光は一気に弾け、大爆発を巻き起こした。
パブロヘタラ宮殿がガタガタと揺れ、最下層の壁や床、天井がボロボロと崩れ落ちる。
寸前で、それを察知していたエールドメードはナーヤを抱え、爆心地から後退し、逃れていた。
「……根源爆発……ですか……?」
「そう見えるがね。奴らの根源は影も形も残っていない」
エールドメードは魔眼を光らせる。
ガーガリとカルラは跡形もなく消え去っていた。
「…………」
熾死王は無言まま、頭を捻る。
「あの、とりあえず、ミリティア世界の状況を確認してみるとか、どうでしょうか?」
「いい考えだ。聞いてみたまえ」
「は、はい」
ナーヤはすぐさま、<思念通信>の魔法を使った。
◇
転生世界ミリティア。ミッドヘイズ近郊。
エミリアたち勇者学院の誘導により、多くの魔族たちが街の外に避難していた。
『エミリア先生、聞こえますか? ミリティア世界の状況はどうでしょう?』
ナーヤからの<思念通信>が届く。
「ミッドヘイズの住人たちは外に避難させました。でも、もっと遠くに離れた方がいいかもしれません」
『<淵>ができそうかね?』
エールドメードが問う。
「はい……いえ、恐らく、あれはもう……」
エミリアが空に視線を向ける。
雪が降っていた。血のように赤い雪だ。それは吸い込まれるように、ミッドヘイズに落ちていく。
最も多く、赤い雪が降り積もっているのは、魔王城デルゾゲードである。
「<淵>はできているんだと思い――」
途中まで言いかけて、彼女は言葉を止めた。
「エミリアッ!!」
切羽詰まったように声を上げたのはハイネだ。
「雪が……」
呆然と空を見上げながら、レドリアーノが呟く。
デルゾゲードに向かって降り注いでいた雪が、ミッドヘイズの外にまで降ってきたのだ。
「結界を張ってくださいっ!!」
エミリアの合図で、勇者学院の生徒たちは<聖域>を使い、聖なる光の防壁を構築する。
赤い雪がそこに落ちると、瞬く間に防壁が溶けて、代わり雪の体積が増した。
「もっと強くっ!」
「クソっ! なんなんだよっ、これはっ……!!」
エミリアたちは心を合わせ、全ての魔力で結界を維持する。
彼女たちがいる場所を除いて、雪はあっという間に降り積もり、辺り一帯は赤い雪原と化した。
「……この赤い雪は魔力を吸い取るようですね……外の世界にあるという銀水に似た性質なのでしょうか……?」
そうレドリアーノが言った。
「ちょっと待ってよ……魔力を吸い取るって、この雪……」
ハイネが結界の外に視線を飛ばす。
彼の目が届く範囲は、全て赤い雪が降り続けている。
「ディードリッヒ様、レノ様。聞こえますか?」
エミリアが<思念通信>で呼びかける。
「デルゾゲードに<淵>が構築され、ミッドヘイズ周辺に危険な赤い雪が降っています。この雪は、更に
遠くまで降る可能性があります」
『そいつは、ちょいと遅かったな』
返ってきたのはアガハの剣帝ディードリッヒの言葉だ。
『今しがた地底にも降り始めた』
「地底のどこですか?」
『どこもかしこもだ』
「どこもかしこもって……」
『アハルトヘルンにも降り始めたよ。外も……アゼシオンも同じ。一面が赤い雪に覆われてる』
レノからの<思念通信>だ。
『ナフタが様子を見に行ったが、ディルヘイドもミッドヘイズだけじゃなくて、大陸全土に赤い雪が降ってるそうだ。地底は街に結界を張ってこらえちゃいるが、早いとこ手を打たねえと、こいつぁ時間の問題だぜ』
エミリアはミッドヘイズに視線を向けた。
デルゾゲードが赤い氷に覆われ、それがみるみる天に昇っているのが見えた。
恐らく<絶渦>が完成しつつあるのだろう。
その余波にミリティア全土が、飲み込まれようとしているのだ。
「エールドメード先生っ!」
『そう慌てるな。敵の<深魔>は半分押さえた。あとは残り半分だ――』
◇
転生世界ミリティア領海。
呪いの歌が鳴り響いていた。
その不気味な音階が具現化するように、呪歌は不定形なドクロとなり、魔王列車に次々と着弾していく。
ファンユニオンも<狂愛域>の歌で、呪歌を相殺しているものの、完全に押されていた。
ファンユニオンが八人で歌ってなお、呪歌王ボイズの魔力と声量は圧倒的で、それはそのまま呪歌の弾幕の厚さにつながっている。
「砲塔室被弾っ! 歯車砲撃てませんっ!!」
「射出室大破っ! 結界室被弾っ!」
「機関室被弾っ! だめっ! これ以上はもう走れないっ!」
魔王列車の各車両から次々と被害の報告が上がる。
「みんな、脱出してっ!! 魔弾世界の戦艦のところにっ! そこまで行けば安全だからっ!」
魔王列車の上部から、エレンがそう指示する。
しかし、魔王学院の生徒たちは誰も魔王列車から外に出てくる気配はない。
「みんな……!?」
「……馬鹿言うなって……」
そう白服の一人が言った。
「あいつを倒さなきゃ、<深魔>を手に入れなきゃ、俺たちの世界がなくなるんだろ」
「魔王列車が動かなくても、私たちの体はまだ動く!」
魔眼室から黒服の生徒が言った。
「ここで逃げて、いったいなんのために魔王学院に入ったんだっ! 俺たちは未来の魔皇だぜっ!」
「あの侵略者どもに、ミリティア世界の魔王に手を出すことがどういうことか、教えてやるよっ!!」
「徹底的にぶっ潰して、服従させてやろうじゃねえかっ!!」
自らを奮い立たせるようにそう声を上げて、彼らは自らの胸に手を伸ばす。
生徒たちがつかんだのは影珠である。
いざというときのために界間転移をするためのものだ。深層世界と戦うにはまだ力不足の彼らにとって、それは生命線といっても過言ではない。
その影珠の魔力を彼らは使った。
「「「<背反影体>・<創造建築>!!!」」」
魔王列車を素体に使い、それが別の姿へと創り直されていく。魔王城だ。その城には手足が生え、そして黒い影を纏う。
「「「<掌握魔手>」」」
影の魔王城が呪歌のドクロをむんずとつかむ。夕闇に光るその手が、呪歌を増幅し、そして呪歌王ボイズに投げ返した。
「は! なんだそりゃ!」
跳ね返ってきた呪歌に対して、ボイズはギイィィィィンと金切り声を放ち、相殺する。
「<覇弾炎魔熾重砲>」
影の魔王城が砲門を開き、蒼き恒星を乱れ撃つ。
「ちっ!」
ボイズはその間を縫うように回避し、更に呪歌を放った。
呪いのドクロが次々と魔王城に着弾し、影の装甲が弾け飛ぶ。中の本体は無傷だが、纏った影の総量は減っている。
「その影をぜんぶ削れば、終わりみたいだな」
「それはさせない」
呪歌王ボイズの背後にアルカナが現れる。
神雪剣ロコロノトを彼の背中に突き刺す。しかし、呪歌のドクロがそれを阻み、雪の剣はバキンと折れた。
「どうやってだ?」
言いながら、彼が呪歌のドクロに手を伸ばす。
すると、それは槍の形に変化し、アルカナを串刺しにした。
「カナっち!!」
「返してやるよ」
アルカナを串刺しにしたまま、ボイズはドクロの槍をファンユニオンめがけて投擲した。
「エレンッ!」
「うんっ!」
エレンたちは<狂愛域>を使い、粘性を帯びた泥のような光を放つ。
それは防壁となり、ドクロの槍を相殺。更にアルカナの体を受け止めた。
「削り切ってやるよ。<呪歌惨劇砲>」
ボイズは大きく口を開く。
金切り声のような呪歌が一段と大きく響いたかと思えば、彼の口の前に不気味なドクロが出現する。
ドクロの口がボイズと同じく大きく開き、そこから巨大な音の塊が放たれた。
巨大な魔王城に、それよりも更に巨大な音の塊が降り注ぐ。
魔王城に宿る力の源、その纏っている影を全てここで奪おうというのだろう。
「甘いんだよぉぉっ!!!」
黒服の一人が声を張り上げた。
魔王城は真っ向から<呪歌惨劇砲>に突っ込んだ。
巨大な音の塊と衝突し、魔王城に亀裂が入った。纏っている影さえも、防壁にはならないか、ボロボロと崩れ落ちていく。
いや、違う。
魔王城は、影を纏っていないのだ。
魔法障壁無しに<呪歌惨劇砲>を直撃し、みるみる魔王城は崩壊する。
右腕が落ち、右足、左足が吹き飛び、頭部が消滅した。生徒たちがいる中心部分の壁さえも崩壊していき、どでかい穴が空く。
だが、届いた。
<呪歌惨劇砲>に突っ込んだ魔王城はその音の塊にかろうじて耐え、唯一残った左手で呪歌王ボイズをわしづかみにした。
長期戦では勝ち目がないと踏んだ魔王学院の生徒たちは、この一瞬に全てを懸けたのだ。
温存した影を左手一つに集中し、そこに魔法陣を描く。
「「「く・た・ば・れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
終末の火が黒く燃える。
「「「<極獄界滅灰燼魔砲>!!!」」」
生徒たちの絶叫とともに、滅びの魔法が魔王城の左手から放たれた。
瞬く間にその場は黒く炎上し、魔法を放った魔王城の手さえも、黒き灰に変わった。
この至近距離で食らったのであれば、深層世界の元首とて致命傷は避けられぬ。
「……なんだ、これ……?」
「……頭が……!」
<極獄界滅灰燼魔砲>の直撃を受け、ボイズは黒き灰に変わった。にもかかわらず、呪歌はより強く、大きく響き始めたのだ。
魔王学院の生徒たちが、皆一斉に苦悶の声を上げ、その場にうずくまる。
「この呪歌……あの灰からじゃない……遠くから聞こえてきてないか……?」
「……どうなってんだ……?」
どこから呪歌が響いているのかさえわからず、彼らはみるみる蝕まれていく。
「教えてやろうか?」
黒い灰から、ボイズの声が響く。
「銀水聖海中からだよ。他者を呪う想いを集める<淵>、<呪歌の響淵>。それが俺だ」
呪いの歌が響く度、黒き灰に変わったボイズの体が少しずつ復元していく。銀水聖海中から集まる呪いが、彼の魔力となっているのだろう。
「……<背理の六花>を使う……」
自らに回復魔法をかけながら、アルカナが言う。胸に空いた大きな穴は、しかし一向に治る気配がなく、血はどくどくと溢れ続けている。
「でも、<背理の六花>は、主神にしかきかないんじゃ……?」
シアが言った。
「彼が<淵>の力を使ったとき、主神の力を感じた。たぶん、呪歌世界の主神がなんらかの権能で、<呪歌の響淵>を人に、呪歌王ボイズに変えているのだろう」
アルカナはそう推測する。
「今なら、彼の力を削ぐことができる。あとは、みんなに託したい」
「……<淵>を……あたしたちが……?」
ノノが戸惑ったように言った。
「あの<淵>は、呪いの歌だから。みんなの歌が必ず勝つ。わたしはそう信じてる」
アルカナは、まっすぐファンユニオンの少女たちを見つめる。
血は、まだ止まらない。
エレンは一瞬、その傷口に視線を落とす。
「じゃあさ」
エレンは言った。
「帰ったらみんなで美味しいもの食べにいこうよっ」
普段と変わらない様子で、彼女は笑みを覗かせる。
「賛成っ!」
と、シェリアがすぐに同意する。
「ミリティア世界を救っちゃった記念!」
「祝勝パーティだねっ!」
「やった!」
「ご馳走出るかな?」
「出る出る、なんでも出るよっ! 世界救っちゃってるから!」
口々にファンユニオンの少女たちが言う。
「じゃ、なに食べよっか?」
「そんなの決まってるじゃん」
「一番おいしいやつ!」
声を揃えて彼女たちは言った。
「「「キノコグラタン!」」」
お互いの顔を見て、アルカナとファンユニオンの少女たちは穏やかな笑みを見せる。
「わたしは友達ができた。ありがとう」
そう口にして、アルカナはまっすぐ呪歌王ボイズのもとへ飛んでいく。
呪いの歌が鳴り響く、<呪歌の響淵>の真っ只中へ。
「――月は昇らず、太陽は沈み、神なき国を春が照らす」
燃え盛る氷の大輪が、銀水聖海に鮮やかに咲いた。
「<|背理の六花>リヴァイヘルオルタ」
秩序に反し、それは主神の権能に背理する力。
リヴァイヘルオルタが展開されると、呪いの歌にノイズが走り、途切れ途切れとなった。
上半身まで再生されたボイズの体も、再び崩れ始める。しかし、焦る素振りも見せず、彼は平然とアルカナを見た。
「無駄だ」
「わたしはそうは思わない」
「違うな。世界を救っても、無駄だと言ってるんだ」
ボイズは言う。
呪いまみれの、不気味な声で。
「世界を救って英雄になったら、どうなると思う? その英雄様を呪ってやろうって連中がうじゃうじゃわいてきやがる」
「そうだろうか?」
「事実だ。俺たちを救いやがって、恩着せがましいってなぁ。みんな、英雄様の足を引っ張ってやりたくて仕方ない。この海はそういう風にできてやがんだ」
「それは心が荒んでいるからだろう」
「呪いを押しつけあってるんだ。呪われれば、呪い返す。だがな、呪い返したところで、こびりついた呪いは消えやしない。呪いの総量はどんどん増える一方だ。てめえが世界を救うってことは、俺らが滅びるってことだ。俺らは滅びるが、呪いは残る。巡り巡って、てめえがいつかは呪われる」
確信めいた口調でボイズは言う。
「てめえが呪いと無縁の顔してられるのは、これまで他者に呪いを押しつけてきたからだ」
無表情のまま、アルカナはボイズを見返す。
<背理の六花>に亀裂が入り、花弁の一つが崩れ落ちた。
「命がけで世界を救ってなんになる? あとに残るのは呪いまみれの世界だ。結局のところ、物が残っただけで、なに一つ救われちゃいない。英雄様にはわからないか?」
花弁がまた一つ、崩れ落ちる。
胸に空いたアルカナの傷もまた、癒えるどころか、広がっていた。先の攻撃ですでに、彼女は根源に傷を負っているのだ。
「……わたしにも、呪いはある……」
アルカナの手には影珠がある。
それを使えば、傷を癒すことも、ミリティア世界に帰還することもできるだろう。
しかし――
「お兄ちゃんがくれた優しさが、いつもこの胸にある。わたしは返さなければいけない。返さずにはいらないのだろう。どこかで、救いを待っている、誰かに。それがわたしの呪い」
彼女は影珠の魔力を解放する。
その影が<背理の六花>を覆い、崩れ落ちた花弁を治癒していく。
「わたしは世界を救うことはできない。どこかで助けを待っている誰かを救うだけ。そうして、優しさは少しずつ増えていく。いつか、いつの日かそれが、この海を優しさで満たすのだろう」
<背理の六花>リヴァイヘルオルタが再び鮮やかに咲き誇る。燃える氷の花が無数に舞い、呪歌王ボイズを包囲した。
彼の体は崩れていき、同時にアルカナの体にも亀裂が走った。
傷ついた根源で、限界以上に権能を行使した結果だろう。
それでも、彼女は<背理の六花>に魔力を注ぎ込んでいく。
「馬鹿の見る夢だ。そんなことができるなら、この海はここまで呪いにまみれていない! 俺が、呪歌王ボイズこそが、その証明だ!!」
「夢を見なければ、叶えられないだろう。わたしは、救いの手を迷ったりはしない」
アルカナの顔に亀裂入る。
あたかもガラスが砕け散るように、彼女の体は飛散した。それは燃える氷の花となり、呪歌王ボイズを照らす。
そうして、彼の体もまた砕け散るように消え去った。
あとに残ったのは、銀水海中から集まってくる呪歌の調べ。
<呪歌の響淵>だ。
そこにめがけて、エレンたち、ファンユニオンの少女が飛んできた。
皆、目に涙を浮かべながら、その手に持った影珠の魔力を一斉に解放した。
「エレン、これ以上近づくと危ないよっ!」
「だめだよっ! 中心まで行かないと、そうじゃないと届けられない! カナっちが命がけで作ってくれたチャンスだからっ! 絶対に無駄にできないっ!」
はっと息を呑み、エレン以外も覚悟を決めた顔で<淵>の中心へ突っ込んでいく。
反響する不気味な呪歌が、彼女たちの体を蝕んでいく。
身を裂かれ、精神を害され、根源さえも引き裂かれながらも、ファンユニオンの少女たちはそこに到達した。
すっと息を吸う音が響く。
歌が聞こえた。
呪いの歌が響く真っ只中で、なにより優しい、彼女たちの歌が。
――なにもなかったあたしに――
――あなたは一つ、誇りをくれた――
――この歌で戦おう、絶望の刃に引き裂かれるその瞬間まで――
――欲しいものはたくさんあったけれど――
――本当に必要だったのは一つだけ――
――絶望の底に沈んでも――
――誇りを胸に歌い続けよう――
――永遠のあなたに――
――感謝の言葉がいつも届くように――
――最期の後まで歌い続けよう――
――永遠のあなたが――
――いつか一人にならないように――
――――あなたがくれたこの歌を――――
八つの命が消えゆく中、響き渡ったその歌は、<呪歌の響淵>を優しく包み込んでいく。
そうして、不気味な呪いの歌は静かに消えていった。
そこに残っていた根源が消滅する瞬間、影珠が力を発揮して、そこに影の魔法陣を描き出した。
アルカナもファンユニオンの少女たちも、呪歌王ボイズも、全てが消え去った。
残ったのは一つ。
その歌だけが、銀水聖海に優しく響き渡っていた。




